「ニョロニョロのひみつ」はトーベ・ヤンソンの短編集『ムーミン谷の仲間たち』に収録されている短編。
ムーミンパパがニョロニョロたちと海を航海する物語。
このお話が収録されている本
この記事でわかること
- ムーミン短編「ニョロニョロのひみつ」のあらすじとみどころ
「ニョロニョロのひみつ」とは?
「ニョロニョロのひみつ」(原題"Hatifnattarnas hemlighet")は、トーベ・ヤンソンが1962年に発表した短編集『ムーミン谷の仲間たち』(原題"Det osynliga barnet")に収録されている短編。
『ムーミン谷の仲間たち』は、1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうち第7作目。
日本では1968年、山室静訳で講談社より刊行された。
参考:「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」図録、Wikipedia
『ムーミン谷の仲間たち』についてもっと詳しく
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エピソード一覧
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- ぞっとする話:赤ちゃんの弟のおもりに飽きたあにきホムサは、恐ろしいものが登場するお話を作り出す。感想記事はこちら。
- この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ:フィリフヨンカは大きな嵐の予感に恐怖心をつのらせていく。感想記事はこちら。
- 世界でいちばんさいごの竜:ムーミントロールはとても珍しい竜の生き残りを見つけ、可愛がるが、竜はそっけない。感想記事はこちら。
- しずかなのがすきなヘムレンさん:ヘムレンさんは年金で静かに暮らすことを望んでいるが、職場の遊園地が流されてしまう。感想記事はこちら。
- 目に見えない子:心が傷つき姿の見えなくなったニンニは、おしゃまさんに連れられてムーミン一家とともに暮らしはじめる。感想記事はこちら。
- ニョロニョロのひみつ:ムーミンパパは、家族をおいて一人ニョロニョロとともに航海の旅に出る。(この記事)
- スニフとセドリックのこと:大切なセドリックをあげてしまい、落胆するスニフに、スナフキンはあるお話を聞かせる。感想記事はこちら。
- もみの木:クリスマス前に冬眠から起こされたムーミン一家は、はじめてのクリスマスの準備をする。感想記事はこちら。
「ニョロニョロのひみつ」内容紹介
一言あらすじ
自由な暮らしに憧れたムーミンパパは、ある日ニョロニョロとともに航海の旅に出る。
ニョロニョロの不可解な生活を目の当たりにし、ムーミンパパが悟ったこととは・・・
登場人物
- ニョロニョロ:小さい白いお化け。身体に電気を帯びている。
- ムーミンパパ:ニョロニョロとともに航海の旅に出る。
「ニョロニョロのひみつ」感想
『ムーミン谷の仲間たち』全体の感想は次の記事に書いているよ。
『ムーミン谷の仲間たち』本の感想。シリーズ唯一の個性豊かな短編集
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ここからは、「ニョロニョロのひみつ」についての感想。
「ニョロニョロのひみつ」ポイント
ニョロニョロへのあこがれ
ムーミンに登場するキャラクターの中でも謎に満ちた生きもの、ニョロニョロ。白くて履き古した長くつしたに似ていて、何も言わず、時々手をひらひらさせたり、おじぎをしたりするだけのニョロニョロたちのことをおおっぴらに語るのは、ムーミン谷ではあまり上品なこととされていないんです。 pic.twitter.com/lAwo6QrSmJ
— ムーミン公式 (@moomin_jp) September 16, 2020
お話では、ムーミンパパがふらっと旅に出る。
ムーミンパパがどこへ向かうのか、だれと一緒なのか、いつ帰ってくるのか、ムーミンママにさえもわからない。
人間の世界で考えたら、家族をおいて蒸発するなんて、無責任なお父さんってことになると思う。
だけど、ムーミン一家では、どこへいくのも自由で、心配したり責めることはない。
ゆううつなムーミンパパ
実は、#ムーミンパパ が家出したことがあるのを知っていますか?
ムーミンたちには何も言わずに、ある日突然 #ニョロニョロ と旅に出てしまったんです。事情を知らないムーミンママはびっくりしてとまどいましたが、さすがはママ、結局いつも帰ってくるからと心配しないで待っていることにしました。 pic.twitter.com/v5gJoUau2n— ムーミン公式 (@moomin_jp) October 8, 2019
『ムーミンパパの思い出』を読めばわかるんだけど、ムーミンパパは、根っからの冒険好き。
大人になって落ち着いたいまでも、たまにむくむくと冒険心が立ち上がるんだよね。
ときどき海でニョロニョロを見かけては、その危険で自由な生活にあこがれを抱く。
ある夕方、ムーミンパパはぬるま湯のような生活をしていることが嫌になり、家をとびだす。
なぞめいたニョロニョロ
何も考えずに浜辺を歩いていると、たまたま三人のニョロニョロがのったボートに出くわす。
ムーミンパパはあいさつをしたり、話しかけてみるけれど、ニョロニョロは無反応。
ムーミンパパは、そんなニョロニョロたちを「神秘的で謎めいている」と感じ、自分も乗せてもらうことにする。
そしてはるかかなたの水平線の先には冒険が待っている、と、期待に胸をふくらませるんだ。
理解できないニョロニョロ
航海が進むにつれて、ムーミンパパは、心が期待や不安で大きくゆれうごいていることに気づく。
ムーミンパパのドラマ
ここまで読むとわかるけど、ニョロニョロは、なんにも言わないし、表情もない。
そんなニョロニョロに、ムーミンパパが勝手に意味をつけているだけなんだよね。
「やつらはあんな手つきをして、ぼくの心の中を読んでいるんだろうか。もちろん、はらをたててるにちがいない・・・」
引用元:『ムーミン谷の仲間たち』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年
相手がなにを考えているかわからないって、予想以上に怖いもの。
考えることをやめようと思っても、考えはとまらない。
そんなちっぽけなパパの心をニョロニョロに読まれたら、きっと見下されるはずだ・・・
どんどんオリジナルのストーリーを心で作りあげていく様子が、客観的に見るとよくわかる。
いらだちとあきらめ
やがてボートは小さな島にたどり着き、ニョロニョロたちは無言でおりていく。
ムーミンパパはニョロニョロの行動の意味がわからないので、仲間はずれにされてる気持ちになるんだよね。
なにを話しかけても答えないニョロニョロに、ムーミンパパはいらだちをつのらせ、とうとう怒りを爆発させる。
それでもおしだまっているニョロニョロに、ムーミンパパは、だんだんと話しかけることをあきらめていく。
心の中はだんだん静かになり、不安や後悔の気持ちも薄れていくんだよね。
「ぼくはニョロニョロににてきたんじゃないかな」
引用元:『ムーミン谷の仲間たち』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年
ニョロニョロを理解したり仲間になろうとすることに疲れ、そのまま受け入れたムーミンパパ。
そのあきらめで、逆にニョロニョロに似た質が出てきたんだね。
目の前の相手はただいるだけなのにね。
意味がなかったと悟る
いよいよ本当にニョロニョロの仲間になりそうなムーミンパパだったけど、ある日突然目をさますんだよね。
そのきっかけは、激しい夕立。
無数のニョロニョロがひとつの島に集まって夕立を浴び、叫んだり歌ったりするのを、ムーミンパパは初めて聞くんだ。
ニョロニョロにとって夕立の雷は生命の源であり、それだけをもとめてさまよっていることがわかったんだよね。
ニョロニョロのことがはっきりわかると同時に、ムーミンパパは自分がどんな思い違いをしていたかもはっきりさとり、すぐに家に帰る決断をする。
本当の自分を思い出したとき、ムーミンパパは家にいながらにして、どれだけ自由で幸福でいられるかもわかった。
それは、冒険心を失うということではない。
まわりのだれかと比べて目指すことをやめたとき、すでにそうであったと気づいただけなんだよね。
夢追い人の性格は変わらないのね・・・。
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まとめ
ムーミン短編「ニョロニョロのひみつ」まとめ。
一つのものにいろんな意味づけをして信じたり疑ったりする姿を客観的に見ることができるお話。
収録されている本
ムーミンの記事
- 「ムーミン」原作シリーズ本・絵本・アニメなど18シリーズまとめ!
- 『小さなトロールと大きな洪水』本の感想。ムーミンシリーズ幻の第一作
- 『ムーミン谷の彗星』本の感想。地球の危機に不気味さを感じる異色作
- 『たのしいムーミン一家』本の感想。ムーミンの人気を決定づけた名作
- 小説『ムーミンパパの思い出』感想。若き日のパパの冒険と心の成長。
- 『ムーミン谷の夏まつり』本の感想。仲間たちが夏至の劇でひとつに!
- 『ムーミン谷の冬』本の感想。ひとり冬眠からさめたムーミントロール
- 『ムーミン谷の仲間たち』本の感想。シリーズ唯一の個性豊かな短編集
- 小説『ムーミンパパ海へいく』感想。灯台守になるパパと家族の気持ち
- 小説『ムーミン谷の十一月』感想。一家不在のムーミン屋敷を描く最終作
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- 短編「ニョロニョロのひみつ」感想。『ムーミン谷の仲間たち』より
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