2018年6月に出版された最新の『赤毛のアン』は、安野光雅のイラストが優しくて、宝物にしたくなるようなハードカバー。
今回は、この朝日出版社刊の『赤毛のアン』を図書館で借りて読んでみたので、レビューするよ。
この記事で紹介する本
この記事でわかること
- 「少年少女世界文学全集」(学研)について
- 岸田衿子の翻訳・安野光雅イラストの特徴
- 関連本紹介
岸田衿子訳・安野光雅絵の『赤毛のアン』
今回レビューする『赤毛のアン』は、2018年6月に朝日出版社より出版されたもの。
1969年出版の『少年少女世界文学全集 9』(学研)に収録された、岸田衿子翻訳『赤毛のアン』に、安野光雅の挿絵をつけて製作されたハードカバー。
『赤毛のアン』(原題”Anne of GreenGables")は1908年、にカナダの女流作家、ルーシーモード・モンゴメリにより出版された。
日本では、村岡花子の翻訳により、三笠書房より1952年、のちに新潮文庫より1954年に出版。
ルーシー・モード・モンゴメリの著作の中で最も有名な1冊でもあり、実写映画化やアニメ化、舞台化もされている。
モンゴメリ紹介
小説『赤毛のアン』あらすじと感想。大人にこそおすすめの純文学
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岸田衿子(訳)
詩人、童話作家、翻訳家。
1929年東京都生まれ。
東京芸術大学油絵科卒業。画家を志すも肺病を患い詩人になる。
岸田自身は大人向けの文章を書くことはほとんどなかったものの、20代から一貫して幼児向けの絵本、またその翻訳や詩作等を中心とした活動を行った。
テレビアニメ『世界名作劇場』(フジテレビ)で放映された『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『あらいぐまラスカル』『赤毛のアン』の4作品の主題歌の作詞を手掛けた。
2011年82歳で死去。
出典:Wikipedia
代表作(翻訳)
安野光雅(絵)
画家、装丁家、絵本作家。
1926年、島根県生まれ。
終戦後、約10年間三鷹市の小学校で教師を務めるかたわら、玉川学園出版部で本の装幀、イラストなどを手がけた。
35歳のとき教師を辞して絵描きとして自立。
1968年、42歳の時に刊行された最初の絵本『ふしぎなえ』(福音館書店)で絵本作家としてのデビューを果たす。
その後次第に世界的評価が高まり、絵本は世界各国で翻訳された。
1988年紫綬褒章、2008年菊池寛賞など受賞。
2001年、島根県津和野町に「安野光雅美術館」開館。
2017年、京都府京丹後市、和久傳の森に「森の中の家 安野光雅館」開館。
出典:Wikipedia
代表作(絵本)
『少年少女世界文学全集』について
岸田衿子翻訳の『赤毛のアン』は、1969年、学研より出版の『少年少女世界文学全集 9』に初めて収録されたよ。
『少年少女世界文学全集』は、全24巻のハードカバーの児童文学全集。1968年から1969年にかけて初版が出版された。
24巻に収録されているラインナップは、今でもみんなが知ってる名作ばかり。
収録されているタイトルは以下の通り。
第1巻 「ロビンソン・クルーソー」「宝島」
第2巻 「名探偵シャーロック=ホームズ」「黄金虫・黒ねこ」
第3巻 「宇宙戦争」「海底二万里」
第4巻 「トム=ソーヤーの冒険」「パール街の少年たち」
第5巻 「ビーチャと学校友だち」「町からきた少女」「信号」
第6巻 「飛ぶ教室」「クオレ」「信号」
第7巻 「アルプスの少女」「最後の授業」
第8巻 「あしながおじさん」「にんじん」
第9巻 「赤毛のアン」「めぐりあい」「ジュールおじさん」
第10巻 「秘密の花園」「めぐりあい」「ワンダー・ブック」
第11巻 「モンテ・クリスト伯」「マテオ・ファルコーネ」
第12巻 「トムじいやの小屋」「クリスマス・カロル」
第13巻 「真夏の夜の夢」「ハムレット」
第14巻 「ギリシア神話」「北欧神話」
第15巻 「絵のない絵本」「星のひとみ」「バルテルの冒険」「スイレン」「こわいことをおぼえるために旅にでた男の話」「ブレーメンの楽師たち」「白雪ひめ」「小人の鼻」「金のさかな」「二ひきのカエル」「もえる心」「ことり」「め牛」「めくらの馬」「カキ」「百まいのドレス」
第16巻 「宝のひょうたんの秘密」「石の花」「二本のカエデ」
第17巻 「メアリー・ポピンズ」「砂の妖精」
第18巻 「ガリバー旅行記」「ドリトル先生航海記」
第19巻 「赤い小馬」「名犬ラッシー」
第20巻 「シートン動物記」「ファーブル昆虫記」
第21巻 「ジャングル・ブック」「白いきば」
第22巻 「坊ちゃん」「耳なし芳一の話」「清兵衛とひょうたん」「山椒大夫」「西班牙犬の家」「杜子春」「ふさのぶどう」「入れ札」「ハポンスの手品」「兄弟」「春をつげる鳥」「屋根の上のサワン」「走れメロス」
第23巻 「二十四の瞳」「貝の日」「注文の多い料理店」「セロひきのゴーシュ」「港についた黒んぼ」「ごんぎつね」「おばけの世界」「五ひきのやもり」
第24巻 「古事記」「竹取物語」「今昔物語」
著者や翻訳者、装丁などは、「古本 海ねこ」公式サイトで見ることができました。
「古本 海ねこ」公式サイト 学研少年少女世界文学全集のページはこちら。
現在は絶版なんだけど、『赤毛のアン』が収録されている第9巻は、図書館に蔵書があったので借りてみた。
文章そのものは、今年出版された朝日出版社のものと同じ。
翻訳を担当した岸田衿子本人による前書きとあとがきが添えられているのがポイント。
当時編集委員だった増村王子による「読書のてびき」も添えられていて、小中学生が、どういうところに注目して読んだらいいかも伝えられている。
また、小松久子によるカラーイラストが贅沢に使われていて、アボンリーの美しい自然が表現されている。
岸田衿子訳・安野光雅絵の『赤毛のアン』を読んだ感想
物語のあらすじや内容そのものについての感想は、新潮文庫版『赤毛のアン』レビュー記事に書いています。
『赤毛のアン』あらすじと感想
小説『赤毛のアン』あらすじと感想。大人にこそおすすめの純文学
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ここからは、朝日出版社刊『赤毛のアン』について書いていくよ。
岸田衿子訳『赤毛のアン』ポイント
装丁の美しさ
手に取ってみた瞬間、ずっしりと重たい。
表紙のカバーは、少しざらざらした触感に、安野光雅の描くアンがこっちを見ている。
開いてみると、中の紙は真っ白で上質な紙。
文字の大きさは大きめで、総ルビで、子どもでも読みやすそう。
ただ、子どもには重いので、持ち歩きというより、家で大切に保管する愛読書にぴったり。
岸田衿子の翻訳
難易度
岸田衿子は、詩人で童話作家だったこともあり、翻訳はとても易しく、子どもでも理解しやすい。
ちょっと下の訳文を読んでみてほしい。
アンとダイアナが誓いを立てる場面、今作の岸田訳はこうだ。
「ねえ、ダイアナ。」ついに、アンは、手を組み合わせて、ささやくようにいった。
「あのうーあのう、あなた、わたしのことすきになれそう?よき友になってくれる?」
ダイアナはわらった。ダイアナは、いつも、なにかしゃべるまえにわらうのだった。
「ええ、なれそうよ。」
出典:モンゴメリ『赤毛のアン』岸田衿子訳、朝日出版社、2018年
これが、村岡花子訳だとこうなっている。
「おお、ダイアナ」やっとのことでアンは、手を組み合わせ、ささやくような声で言った。
「あのう、あのう、ねえ、あんた、あたしをすこしばかり好きになれると思って?あたしの腹心の友となってくれて?」
ダイアナは笑いだした。ダイアナはいつも何か言う前に笑うのだった。
「ええ、なれると思うわ」ダイアナはありのままに答えた。
出典:モンゴメリ『赤毛のアン』村岡花子訳、新潮文庫、2008年
岸田訳がやさしく感じるのは、漢字が少ないだけではない。
村岡訳では「腹心の友」としているところが、岸田訳では「よき友」と訳されていて、引っかかるところがなく読み進めやすいのがわかる。
他にも、村岡訳では「輝く湖水」としているところが、岸田訳では「きらめく湖」としている。
ただし、朝日出版社のサイトでは、「小学1年生から読める」とあるけど、それは読みがなが全部にふっているという点だけで、実際には小学校低学年には難しい。
「孤児」とか「悲壮」とか、意味が分からない言葉もたくさん出てくる。
だけど、小学校中学年からは、十分チャレンジできる内容。
もちろん大人にもおすすめ。
試し読みは、朝日出版社の公式サイトからできる。
省略されている部分
とても分厚くしっかりした本なので、完訳(原作をすべて訳している)かなぁと思ったら、省略されている部分があった。
第37章「死のおとずれ」で、マシュウの死の悲しみをアンとマリラが分かち合う場面では、マリラのセリフが大幅にカットされているんだ。
新潮文庫版村岡訳(2008年刊行完訳版)では9行あるセリフ部分が、岸田訳ではたったの2行。
マリラがずっと隠していたアンへの愛情をあふれださせる重要な場面だけに、ちょっと物足りない感じもする。
安野光雅のイラスト
『文藝春秋』(9月号)の夏休み特別企画【孫と読みたい一冊】に「全世界で必読の書」と『赤毛のアン』が紹介されました。 pic.twitter.com/KYy0iu7qXU
— 朝日出版社 第五編集部 (@asahipress_5hen) 2018年8月14日
安野光雅といえば、誰でも知ってるのが絵本だと思う。
実はももちん、「赤毛のアン」「安野光雅」と聞いた瞬間、とうとう赤毛のアンの絵本が出たか!と思ったよ。
朝日出版社の公式サイトにも、「新しい翻訳絵本」とあったから。
てっきり安野光雅の絵がメインなんだと思ってた。
実際手に取ってみたら、れっきとしたハードカバーの児童文学。
でも、開いてみると、想像以上にイラストの数が多かった。平均して5ページに1枚はイラストな感じ。
とっても有名な安野光雅の絵本群とはテイストが違い、絵の具がはみ出てる感じや、点であらわされた人の表情が素朴な感じ。
安野光雅は、あとがきで岸田衿子の翻訳を「衿子さんという筆力が、この本にすべて集まっているようにおもい、「他のアン」はみんな消えてしまったといってもいいすぎではない」と絶賛している。
イラストのサンプルは恵文社一乗寺店のサイトで見ることができる。
脚注・解説
朝日出版社の『赤毛のアン』は、モンゴメリやプリンスエドワード島に関する解説は一切ない。
たまに出てくる難しい言葉の説明もないし、引用句の出典元も書かれていない。
純粋に物語そのものを楽しむための本。
感想おさらい
岸田衿子・安野光雅の関連トピック
アニメ『赤毛のアン』主題歌の作詞を担当!
出典:赤毛のアン第1話「マシュウ・カスバート驚く」日本アニメーション公式サイト
今作で翻訳を担当した岸田衿子は、自ら創作をする詩人であり、童話作家でもあった。
1979年にフジテレビ系列の「世界名作劇場」で放映されたアニメ『赤毛のアン』の主題歌の作詞を担当したのも、岸田衿子なんだ。
オープニングテーマ『きこえるかしら』他、エンディングテーマ『さめない夢』や挿入歌まで、すべて岸田衿子が作詞を担当している。
翻訳を担当したのが1969年ごろなので、アンの世界観をよく理解したうえで作詞にかかわっていたんだね。
岸田衿子は、世界名作劇場の『アルプスの少女ハイジ』や『あらいぐまラスカル』の主題歌の作詞も担当しているよ。
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『ソナチネの木』岸田衿子と安野光雅のタッグ
今作『赤毛のアン』(朝日出版社刊)で、タッグを組んだ岸田衿子と安野光雅。
岸田衿子は2011年に亡くなっているので、岸田衿子の『赤毛のアン』に、岸田と旧知の間柄であった安野光雅がイラストをつけ、本になったのが今回の『赤毛のアン』。
二人がタッグを組んだのは今作が初めてではない。
1981年に青土社より出版された、岸田衿子の詩集『ソナチネの木』では、安野光雅が絵を担当しているんだ。
デザインも凝っていて、まるで安野光雅の絵の世界の中に、岸田衿子の詩が迷い込んだ感じ。
言葉は易しいのに、表現の仕方に独特の輝きを感じる。
朝日出版社刊・安野光雅絵の児童書
朝日出版社からは、今回紹介した『赤毛のアン』以外にも、安野光雅が絵を手がけた児童文学が刊行されている。
『メアリ・ポピンズ』
2019年1月に刊行されたのは、岸田衿子の翻訳に安野光雅が絵をつけたハードカバーの『メアリ・ポピンズ』。
岸田衿子翻訳の『メアリ・ポピンズ』は、1966年に河出書房(現:河出書房新社)より刊行された『少年少女世界の文学〈8〉』に初めて掲載された。
訳文は流れるような軽やかさが魅力でふりがなも少ないので、児童文学というより、大人の愛蔵版、といった感じ。
温かみのある安野光雅のカラーイラストもふんだんに盛り込まれていて、贅沢な仕上がり。
収められているお話は、岩波少年文庫『風にのってきたメアリー・ポピンズ』の「踊る牝牛」「鳥のおばさん」をのぞく10編。
『メリー・ポピンズ』原作シリーズ本・絵本・映画15作品まとめ!
『メリー・ポピンズ』の映画、見たことある? ももちんは大人になってから昔の映画を見たんだけど、いまいちノリきれなかった・・・ だけど、原作の物語を読んだら、メリー・ポピンズがめっちゃ好きになったよ。 ...
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『小さな家のローラ』
安野光雅さんの「小さな家のローラ」と「赤毛のアン」を並べてニヤニヤしています。手に取ったが最後、自分のものにしたくなる本なので是非本屋さんで開いてみてくださいね! pic.twitter.com/7QNTclnXd4
— 映画『赤毛のアン』公式 (@anne_movie_jp) 2018年8月3日
2017年に刊行されたのは、安野光雅が翻訳・絵を手がけた『小さな家のローラ』。
ももちんも大好きな海外ドラマ『大草原の小さな家』の原作となるローラ・インガルス・ワイルダーの小説。
巻頭には安野光雅の手書きによる「ローラの家」の間取りや、物語の登場人物などが載っていて、豪華。
イラストもふんだんに差し込まれている。
『大きな森の小さな家』は、いろんな出版社から児童文庫や絵本で刊行されているけど、朝日出版社刊の『小さな家のローラ』は、大人が愛蔵版として持っておきたい1冊。
ふりがながほとんどないので、小学校高学年以上向け。
『小さな家のローラ』安野光雅さんインタビュー/絵本ナビ公式サイト
『あしながおじさん』
【安野光雅 原画初公開】安野光雅先生による美しい絵とともに名作を堪能できるシリーズ「あしながおじさん」「メリーポピンズ」原画をこっそりチラ見せ。明日発売のMOE8月号は巻頭大特集。https://t.co/FpGlloPOHs 明後日はEテレNHK 『又吉直樹のヘウレーカ!』出演。 https://t.co/VO0NJU6v3l pic.twitter.com/MmAbc9Edce
— 朝日出版社 第五編集部 (@asahipress_5hen) July 2, 2018
2018年に刊行されたのは、アメリカの女流作家ジーン・ウェブスターの名作『あしながおじさん』(原題”Daddy-Long-Legs”)。
翻訳を手掛けたのは「完全版 ピーナッツ全集」の翻訳でも話題の谷川俊太郎。
それぞれ超有名な二人がタッグを組んでできたのは、あたたかで読みやすい訳文におしゃれなカラーイラストの新しい『あしながおじさん』。
総ルビなので子どもでも読みすすめやすい。
まとめ
朝日出版社刊『赤毛のアン』みどころまとめ。
安野光雅のイラストが優しくて、宝物にしたくなるようなハードカバーだよ。
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