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小説『アンの愛情』感想。アンとギルバートが恋人に!友人ルビーの死

2018年4月7日

モンゴメリ『アンの愛情』村岡花子訳、(新潮文庫、2008年)

赤毛のアンシリーズ3作目、『アンの愛情』のあらすじと見どころをご紹介します。

アンとギルバートがついに恋人になったり、ルビー・ギリスの死や、ダイアナの結婚など、『赤毛のアン』から続く友情にも変化が現れます。

ももちん

今回は、新潮文庫刊の村岡花子翻訳『アンの愛情』をもとに、内容とみどころをお伝えするよ。

この記事で紹介する本

この記事でわかること

  • 小説『アンの愛情』の内容とみどころ
  • 各出版社の『アンの愛情』

小説『アンの愛情』とは?

『アンの愛情』(原題”Anne of the Island”)は、アン・シリーズ3作目として、カナダの女流作家ルーシー・モード・モンゴメリにより、1915年に出版された。

日本では1955年、『第三赤毛のアン』と題して、村岡花子の翻訳により、三笠書房より出版された。

翌1956年、『アンの愛情』と改題され、新潮文庫より出版された。

原題の「Island(島)」というのは、カナダのプリンス・エドワード島である。

この島で生まれ育ったルーシー・モード・モンゴメリは、1908年に初版を出した”Anne of Green Gables”(邦訳書名『赤毛のアン』)によって一躍有名になった。

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主な登場人物

アン・シャーリー・・・シリーズの主人公。細身で色白、灰色の目をしている。『赤毛のアン』時よりコンプレックスだった赤毛は、現在は褐色に近くなっている。

ギルバート・ブライス・・・アヴォンリーでの小学校以来の友人。『赤毛のアン』以降、良き友人、ライバルとして振舞っていたが、変わらずアンの事を愛し続けている。

ダイアナ・バーリー・・・アンの最初にして最大の友人。黒髪でふくよかな体格で、裕福な家の娘。今作でフレッド・ライトと結婚する。

ルビー・ギリス・・・金髪で、アヴォンリーでのアンの友人。不治の病に侵されており、若くして亡くなってしまう。

プリシラ・グラント・・・アンのクイーン学院時代の同級生。アンと共にレドモンド大学に入学。入学時よりアンのルームメイトとなる。

ステラ・メイナード・・・アンのクイーン学院時代の同級生。2年次に編入してきて、「パティの家」で、アン、プリシラ、フィリパのルームメイトとなる。

チャーリー・スローン・・『赤毛のアン』以来、変わらずにアンを崇拝し続ける同級生。アンやギルバートと同時にレドモンド大学に入学する。

マリラ・カスバート・・・アンをかつて引き取った兄妹の妹。前作の最後で、隣人で親友のリンド夫人と同居することになった。

リンド夫人・・・子供たちも独立し、夫が亡くなったこともあり、マリラと同居することに。今ではアンに対して愛情を見せている。

デイビー・キース&ドーラ・キース・・・マリラが前作で引き取った双子の兄妹。

新登場

フィリパ・ゴードン・・・今作で新しく登場したアンの友人。アンと同じくノヴァ・スコシアのボーリングブローク生まれ。アン、プリシラ、ステラとともに、「パティの家」のルームメイトとなる。

ロイ・ガードナー・・・アンが3年生の時に雨の日にロマンティックな出会いをし、共に恋に落ちる。

クリスチン・スチュワート・・・キングスポートに音楽の勉強にきている女学生。ギルバートと恋の噂が立つ。

参考:Wikipedia

 

あらすじ

舞台は1880年代のプリンス・エドワード島。

前作『アンの青春』終章で、マリラがリンド夫人を迎え入れ、一緒に住むことになった。

これをきっかけに、アンは、かつての目標であったレドモンド大学への進学を決断した。

今作は、アヴォンリーからレドモンド大学のあるキングスポートへ旅立つ前から始まる。

期待と不安に胸をふくらませながら始まる新生活。

〈パティの家〉での友人との共同生活、勉学に励む日々、故郷で待つ家族との時間。

数人の崇拝者を持つほどの魅力ある女性に成長したアンは、ついに、真実の愛情に目覚める。

『アンの愛情』では、レドモンド大学に進学したアンの、18~22歳の生活を描いている。

 

全章一覧

新潮文庫版『アンの愛情』内容
第1章 変化のきざしレドモンドへ行く直前のアボンリーの秋。アンとダイアナは語り合う
第2章 秋の花飾りアンとギルバートは散歩しながら友人として語り合う
第3章 出発アン、ギルバート、チャーリー・スローンはレドモンドへと出発する。アンはプリシラとの再会を喜ぶも、ホームシックになる
第4章 四月の淑女アンとプリシラは大学への登録を済ませ、墓地を散歩する。後の親友となるフィリパ・ゴードンと出会う
第5章 故郷からの便りレドモンドでの初めの数週間、アンは少しずつ馴染んでいく。アボンリーの友人や家族からの手紙紹介
第6章 公園でアンと仲間たちが公園を散歩中、「パティの家」を通りかかり、運命を感じる
第7章 帰省クリスマス休暇でアンは待ちに待った帰省を迎え、家族やダイアナ、山彦荘の人びとと喜びの再会を果たす
第8章 初めての結婚申込み幼友達のジェーン・アンドリュースが泊まりに来る。アンはジェーンからの伝言で、ジェーンの兄ビリーから生まれてはじめて求婚される
第9章 不愉快な求婚者とうれしい友人休暇が終わりアンは大学に戻る。チャーリー・スローンからの求婚。友人ステラが来年からレドモンドに来ると知り、アンたちは「パティの家」でルームシェアしたいと考える
第10章 パティの家アンとプリシラとステラがパティの家を借りられることになる。フィリパに懇願され、次の年から4人でパティの家に住むことになる
第11章 人生の移り変わり一学年が終わり、アンはアボンリーに帰省する。アンはルビーが肺病であることを聞くが、ルビーはなおも元気そうに振る舞う
第12章 『アビリルのあがない』アンは自分が書いた小説『アビリルのあがない』を出版社に送るが返される。憤慨したダイアナに頼まれ、アンは小説の写しを渡す
第13章 不信実な者たちの道デイビーが日曜学校をさぼっていたずらをし、アンに懺悔する
第14章 去りゆく友ルビーの最後の日々、アンはルビーのもとへ通う。ルビーは死を迎え、アンは自分を見つめる
第15章 夢のゆくえダイアナが無断で『アビリルのあがない』の中身を変えて宣伝小説の懸賞に応募していた。アンは懸賞金を手にするが、作品を汚されて嫌な気持ちになる
第16章 『パティの家』の住人レドモンドでの第二学年、パティの家での共同生活が始まる
第17章 デイビーの手紙デイビーからの手紙がパティの家の住人を和ませる
第18章 ミス・ジョセフィンの遺言アンはクリスマス休暇で帰省する。来年度の学費の不安があったが、ミス・ジョセフィン・バーリーが亡くなり、千ドルをアンに遺した知らせを受ける
第19章 幕あいパティの家の同居人ジェムシーナ伯母さんの娘時代の話
第20章 ギルバート口をひらく第二学年の春、ギルバートはアンに求婚する。アンは断り、二人に距離ができる
第21章 きのうのばらアンはフィリパの故郷・ボーリングブロークに滞在する。滞在中、自分が生まれた土地・部屋へ訪れ、生前の両親の思い出話を聞く
第22章 アン、グリン・ゲイブルスへ帰るアンが帰省し、マリラは自分の老いとアンへの深い愛情を実感する
第23章 山彦荘の人びとアンは山彦荘で楽しい時間を過ごす。ラヴェンダー夫人はアンがギルバートを断ったことを聞き、助言を与える
第24章 ジョナス登場フィリパからアンへの手紙。貧しい牧師ジョナスへの恋心が綴られていた
第25章 美しの王子登場第三学年十一月、アンは同学年のロイ・ガードナーと出会いときめく
第26章 クリスチン登場アンは大学の会合へロイと一緒に出席するが、ギルバートとクリスチンという女性が一緒にいるのを見かけ気になる
第27章 打明け話アンはフィルがジョナスから求婚された話を聞く。自分とロイもいつかそうなると考えるが、ギルバートとクリスチンのことがどうしても気になる
第28章 六月のたそがれ第三学年が終わり、アンは帰省する。ダイアナの結婚式を目前に控え、アンは時の移りかわりを嘆く
第29章 ダイアナの結婚式ダイアナの結婚式後、アンは久しぶりにギルバートと散歩し、友人としての安心感を感じる
第30章 スキナー夫人のロマンスアンは夏の間、バレーロードで教師の仕事をする。駅へ迎えに来た「スキナー夫人」の昔話
第31章 アンからフィリパへバレーロード滞在中のアンからフィリパへの手紙。近隣の人びとの紹介
第32章 ダグラス夫人のお茶下宿先の独身女性ジャネットと意中の男性ジョン・ダグラスの話。
第33章 通いつづけた二十年ジョン・ダグラスは二十年ジャネットのもとに通い続けるが、一向に求婚しない。
第34章 ジョン・ダグラスついに語るジョン・ダグラスがジャネットについに求婚する。アンは隣の雇い人サムから思いがけなく求婚され、ユーモアで返す
第35章 レドモンドの最後の年レドモンド最後の学年が始まる。パティの家に再び集った住人たちの会話
第36章 ガードナー夫人とその娘たちロイ・ガードナーの母と妹たちがアンを訪ねる。アンは唯一アンの妹ドロシーと心を通わせる
第37章 学士たちアンたちは最終学年を終え、卒業式を迎える。ロイからの求婚は秒読みの状態だったが、アンは卒業式でギルバートから贈られたすずらんを身につける
第38章 偽装した愛情アンはロイから求婚される。その瞬間ロイを愛していないとわかり、アンは断る
第39章 結婚式さまざまアンはアボンリーへ帰り、ジェン・アンドリュース、フィリパの結婚式に続けて出席する
第40章 『黙示録』ギルバートが腸チフスで死にかけていることを知ったアンは、ギルバートを愛していることを悟る
第41章 真実の愛ギルバートは回復する。アンは再びギルバートからプロポーズされ、受け入れる

 

『アンの愛情』を読んだ感想

モンゴメリ『アンの愛情』村岡花子訳、(新潮文庫、2008年)

今作『アンの愛情』は、アンのレドモンド大学生活、18歳から22歳ころを描いています。

アン、まさに花盛り!

モテまくり、青春謳歌しまくりでうきうき。

 

『アンの愛情』感想

 

ついに真実の愛に目覚めるアン

今作の一番のみどころは、何と言っても、アンとギルバートの恋愛ではないでしょうか。

ももちん

初めて出会ったときから一途にアンを想いつづけるギルバート

ギルバートのことを友だちだと思い込んで、一向に振り向かないアン

美しくかしこいアンに求婚する青年たち

さまざまな恋模様を経て、ついにアンは真実の愛に目覚めます。

 

一途にアンを想い続けるギルバート

『赤毛のアン』『アンの青春』では、恋愛には一切関心を持っていなかったアン。

一途にアンを愛していたギルバートも、アンの高潔な態度に愛情を隠し、良きライバル・友人としてふるまっていました。

今作でレドモンド大学入学時、アンは18歳、ギルバートは20歳になっています。

もう恋愛してもいいお年頃ですよね。

ギルバートは、今作『アンの愛情』では初めから、アンにアタックします。

アンと散歩中、アンの手に自分の手を重ねたり、ほとばしる愛を言葉にします。

でも、アンはギルバートのことを友人だと思い込んでいる。

たびかさなるアンの拒絶にあい、ギルバートも「友人」という立場に甘んじるしかない。

 

ギルバートの最初の求婚

アンにうまくかわされ続けるギルバートは、とうとうアンに求婚します。

でも、アン、なんて答えたと思います?

友達としては、とてもあなたに好意を持っているわ。でも、あなたを愛してはいないことよ、ギルバート。

出典:モンゴメリ『アンの愛情』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

ギルバートを愛していないと思い込んでいるアンは、はっきりと拒絶するのです。

アンとギルバートが愛し合っていることは、誰から見ても明らかなのに・・・

このアンの間違った思い込みにはイラっとくるし、ギルバートには同情を禁じえません。

 

ロイヤル・ガードナーの出現

アンがギルバートの最初の求婚を断ったのは、自身のギルバートへの愛に全く気づいておらず、自分はまだ運命の人との出会いは果たしていないと思っていたから。

こののち、アンはついに夢見ていた理想通りの男性、ロイヤル・ガードナーと出会います。

背は高く、眉目秀麗で、上品な容貌。黒い、暗い、量りしれぬまなざし。甘美な、音楽的な、思いやりのこもった声。

出会いのロマンチックな状況も手伝って、アンは「ついにほんとうの王子があらわれた」とおもいこみます。

そして、ギルバートにも、クリスチンという美人の恋人(噂では)ができます。

アンはロイとの交際をはぐくみながらも、ギルバートとクリスチンが一緒の姿を見るにつけ、心を痛めるのでした。

(でもまだ自分の気持ちには気づいていない)

 

ロイ・ガードナーの求婚

アンとロイの交際は順調につづき、周囲の誰もが認めるカップルとなります。

それもそのはず、アンは自分がロイを愛していると思い込んでいるのです。

レドモンド大学卒業も近づくある日、アンはついにロイ・ガードナーにプロポーズされます。

ロイも、アン自身も、プロポーズは結婚に至る形だけのもので、当然返事は「イエス」だろうと思い込んでいました。

そう、アン自身でさえも。

ところが、ロイのプロポーズの言葉を聞いた瞬間、アンには衝撃が走るのです。

「あたしはロイを愛していない!」と悟るアン。息も絶え絶えに断ります。

2年間ももてあそばれたロイ(アンにそのつもりがなかったにしても)は、すごすごと去ります。

アン、気づくの遅すぎでしょうよ・・・しかも、この時点では、まだギルバートへの愛に気づいていない。

このアンのかたくなな思い込みに、思わず、「早く目覚ませよ!」と言いたくなります。

 

アンがギルバートへの愛に気づいた瞬間

レドモンド大学を卒業し、アヴォンリーに一時帰省したアン。

ある日、ギルバートが腸チフスにかかって死にかけていることを知ったアンは、ようやくギルバートを愛していることに気づきます。

あたしはギルバートのものであり、ギルバートはあたしのものなのだ。

苦痛の絶頂にあって、、アンはそれに疑問の余地がなかった。

出典:モンゴメリ『アンの愛情』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

ギルバートは無事峠を超えて、回復します。

フィリパから「アンとロイはなんでもないから、もう一度試みろ」との手紙を受け取ったギルバートは、最終章でアンに2度目の求婚をします。

ようやく恋人同士になるアンとギルバート。めでたしめでたし。

 

5人に求婚されるアン

ちなみに、女性として花開き始めるアンは、今作『アンの愛情』で、5人の男性に求婚されることとなります。

そのうち二人は、これまで紹介した、ギルバートとロイ・ガードナー。

しかしながら、アンはその他に、三人の男性に求婚されているのです。

 

ビリー・アンドリュース

記念すべき初めての求婚は、幼友達ジェーン・アンドリュースの兄、ビリー・アンドリュースから。

直接ではなく、妹のジェーンからこのことを聞かされたアン。

ビリーのことを微塵も気にかけたことのなかったアンはもちろん断ります。

初めての求婚というものを夢見ていたアンは、実際には笑い話にしかならないような経験になってしまい、ため息をつきます。

 

チャーリー・スローン

眼中にない男性からの求婚はつづきます。

次なる求婚者は、『赤毛のアン』時代からアンに思いを寄せていた同級生、チャーリー・スローン。

成績やルックスはあまり良くなく、レドモンドでもフィリパから「でめきん」と言われたり、マリラとリンド夫人の会話中でも、平凡極まりないスローン家の人間とされていますが、本人は全く気づいていません。

チャーリー・スローンの尊大な態度の求婚を不快に感じながらも、精いっぱいの思いやりをもってやんわり断るアンなのでした。

 

サミュエル・トリバー

眼中にない男性からの求婚、3度目は、アンが夏に2か月間先生として赴任した町、バレー・ロードで起こります。

求婚者サミュエル・トリバーは、背が高くやせた田舎者で、アンの下宿先の隣家の雇人。

ハッカドロップをしきりにアンに勧める以外、まったくアンの印象に残らなかったサム。

出逢って何日もたっていないうちに、サムはアンに「おめえさん、おれんとこへついてきてくれっかね?」と求婚します。

過去のビリーとチャーリーの経験から、アンの求婚に対する夢はとっくになくなっていたため、怒りよりも笑いが勝ち、友達に話して聞かせるまでになりました。

 

あこがれる!キャンパスライフ

『アンの愛情』もう一つの見どころは、アンの楽しいキャンパスライフ

アンは「パティの家」で友人と共同生活をしながら、恋愛に勉強に、充実した日々を送ります。

 

〈パティの家〉での共同生活

『赤毛のアン』ではグリーン・ゲイブルス、『アンの青春』では山彦荘。

アンシリーズには、作品ごとに、鍵となる家が魅力的に描かれています。

今作で出てくるのは〈パティの家〉。ミス・パティという老婦人が持つ白い木造のかわいい家です。

この家で、アンとルームメイトたちは共同生活を送るのですが、その充実っぷりにとっても憧れます。

ももちん

勉学に励み、優秀な成績をおさめる。

学生たちの社交場となり、にぎやかな日々を送る。

恋人もでき、ときどき散歩にも出かける。

なんてキラキラした学生生活でしょうか。

比べたくないですが、私の学生時代は、はるかにブラックで、孤独でしたよ。

なんだか切なくなってしまいますね。

 

フィリパという、異色の存在

今回新しく登場する人物の一人に、フィリパという友人がいます。

アンとはレドモンド大学で知り合い、後に〈パティの家〉でのルームメイトの一人となります。

このフィリパ、今まで登場してきた、真面目で純真なアンの友人たちとは、違っています。

美人で社交好きで毎日パーティー、男友だちも多く、崇拝者に競わせるのを楽しむタイプ。

しかしながら、その天真爛漫さに、周りは惹きつけられていく。

その社交的な性格とは裏腹に、数学の成績は学年トップというギャップもあります。

大学生活において成長し、金持ちでも容姿端麗でもない牧師の男性を愛するようになります。

どういうわけか、ジョナスにはあたし、軽薄だと思われたくないのよ、アン。おかしいわね。(中略)

ジョナスはお説教をしました。お説教を始めて十分もしたころには、あたしはあまりにも自分が小さな、下らぬものに感じられ、肉眼では見えないにちがいないと思ったの。

出典:モンゴメリ『アンの愛情』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

この描写から、フィリパが外見の美しさよりも、精神の美しさに価値があることを見出していることがわかります。

軽薄なフィリパも好きだったけど、こうして人は成長していくのだな、と感慨深くなります。

のちにフィリパは、ジョナスとの愛を実らせ結婚します。

 

ルビー・ギリスの死

今作で印象的なエピソードは、アンの幼友達、ルビー・ギリスの死。

『赤毛のアン』からちょいちょい出てくる、金髪で美人のクラスメイト、ルビー・ギリスは、不治の肺病に侵され、亡くなってしまいます。

 

ルビー・ギリスってどんな人?

ルビー・ギリスは、今作『アンの愛情』でスポットが当たりますが、『赤毛のアン』『アンの青春』ではいじわるなジョシー・パイと並んで出てくるわき役、という印象です。

ヒステリー気味で感情的になりやすいが、実は、クイーン学院卒業後、教師になるしっかりした面もある。

金髪で色白で血色の良い美人。クイーン学院時代は学年で一番の美人とされました。

 

男性にはモテるが女性には嫌われる

ルビー・ギリスでもう一つ印象的なのは、男性の目を非常に気にする、ということ。

作中にも、ルビー・ギリスと男性の話はたくさん出てきます。

恋多きルビー・ギリス

  • 容姿にこだわりがあり、アンのそばかすをうわさする(『赤毛のアン』)
  • 恋のうわさが好き。ダイアナに「十五になったらすぐに恋人をもつ」と言う。(『赤毛のアン』)
  • アンは「ルビー・ギリスって、若い男の人たちのことばっかり考えているのよ。」とマリラに話す。(『赤毛のアン』)
  • アヴォンリー時代はギルバートとよく一緒に歩き、うわさになっていた。

『アンと青春』でのアンとダイアナの会話でも、その一面がうかがえます。

ギリス家の娘はみんな、そうだ、話すことと言えば、男の子がどうしたの、だれが自分に夢中になっているの、ってことばかりだって。また不思議なことに、そのとおりみんな、ルビーに夢中になっているのね

出典:モンゴメリ『アンの青春』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

どうやらルビー・ギリスは男性にはモテるけど、同性には嫌われるタイプの女性だったようです。

 

死から逃れようとするルビー・ギリス

『アンの愛情』で、レドモンドから帰省したアンは、久しぶりに見るルビー・ギリスの様子に驚愕します。

非常にやせており、頬の色は病的に紅潮していたルビー・ギリス。

不治の肺病にかかり、先は長くないといううわさでした。

ルビーは死期を悟っていながら、受け入れることができずに元気にふるまっていました。

どんどん青ざめていく姿とは裏腹に、恋人たちのことを陽気におしゃべりしたがるルビー。

アンはルビーの姿をつらく、不気味にすら思いながら、訪問を続けます。

 

死に直面したルビーと、アンの会話

ルビーが死を迎える前の晩、とうとうルビーはアンに気持ちを吐き出すのです。

その場面が心を揺さぶりました。

あたしもほかのひとたちと同じように生きていたいの。あたしは、あたしは、結婚したいのよ、アンーそしてーそしてー子供を生みたいのよ。

モンゴメリ『アンの愛情』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

もし私が、アンのように死期が近い友人を前にしたなら、どのような言葉が出てくるだろうか

きっと、何を言われても、何にも言えないと思います。

かたや死期が迫っている者と、かたやそうでない者。

ましてや20歳前という年齢で、共感など難しいというのが、現実ではないでしょうか。

「結婚し、子供を生む」という、若い女性なら当然持つ希望を、絶たれてしまうということ。

この晩のアンとルビーのやりとりから、私はルビーの人間としての根源的な欲求と、それが叶わぬ恐れを感じ、強く惹かれました。

ルビーはこの夜、アンに気持ちを吐き出すことができて、楽になりました。

アンはこのとき、確かにルビーの心を救ったのだと思います。

アンはこの夜を境に、自分の内面に変化を感じました。

そのときどき、その場その場では美しく、すぐれたものであっても一生の目標とする値打ちのない、小さなことに生涯を賭けるべきではない。

モンゴメリ『アンの愛情』(村岡花子訳、新潮文庫、2008年)

私は、キリスト教における天国や来世の概念をよく知りません。

けれど、この感覚。

私たちが日常で左右される感情や悩みは、大きな視点から見たら、些細なことに過ぎない

私自身が乳がんの診断をされて、初めにまざまざと死を意識したとき、共通するものを感じました。

時代を問わず、人は死を目の当たりにするとき、それまでの悩みのちっぽけさに気づくのかもしれない。

そんなことを思いました。

 

感情移入できない?アンが完璧すぎて遠い存在に

実は、『アンの愛情』ですが、私はアンシリーズの中で、最も読んだ回数が少ないです。

これは、今作に、あまり共感できるところがなかったからですね。

『赤毛のアン』『アンの青春』で、あれほど事件を巻き起こしてきたアン。

今作では、真面目で美しい女性に成長していて、ほとんどやらかしません

そのあたりが、ちょっと物足りないなぁと感じました。

その分、恋愛面での甘酸っぱく、恥ずかしいエピソードは盛りだくさんです。

恋愛をメインのテーマとした作品が好きな方にはたまらないと思います。

私自身は、アンが結婚してからのストーリーのほうが好きです。

特に『アンの夢の家』は、カバーがすり切れるほど読んでいます。

 

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感想おさらい

 

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上段左から『赤毛のアン』『アンの青春』『アンの愛情』『アンの友達』『アンの幸福』
下段左から『アンの夢の家』『炉辺荘のアン』『アンをめぐる人々』『虹の谷のアン』『アンの娘リラ』
いずれもモンゴメリ著、村岡花子訳、新潮社、2008年

今回の記事は、村岡花子翻訳の新潮文庫『アンの愛情』(2008年、完訳版)をもとに書いています。

各出版社がシリーズで出しているので、自分が読んだ『赤毛のアン』と同じ出版社・翻訳家のものを読んでみることをおすすめします。

『赤毛のアン』でできあがった世界観を壊すことなく、『アンの愛情』でも味わうことができますよ。

 

文庫

文庫版は漢字が多くふりがなが少ないので、大人がすらすら読みやすい。

翻訳もそれぞれ違うので、読み比べてみるのもおもしろい。

 

文春文庫

『アンの愛情』モンゴメリ著、松本侑子訳、文春文庫、2019年

2019年文春文庫より刊行されたのが、松本侑子による全文訳の『アンの愛情』

松本侑子による全文訳は、すでに集英社文庫より『赤毛のアン』『アンの青春』『アンの愛情』の3作が刊行されている。

今回の文春文庫版は、集英社文庫版の翻訳・訳注を改定した「新訳」

シリーズ全巻の刊行も期待。

 

集英社文庫

集英社文庫からは、松本侑子による完訳版。注釈が巻末に付いていて、引用文の出典元なども詳しく解説。

『アンの愛情 (集英社文庫 モ 8-3)』モンゴメリ、松本侑子訳、2008年

 

講談社文庫

『アンの愛情 (講談社文庫―完訳クラシック赤毛のアン 3)』モンゴメリ、掛川恭子訳、2005年

講談社文庫は、掛川恭子による完訳版。

 

角川文庫

『アンの愛情 (角川文庫)』モンゴメリ、中村佐喜子訳、2015年

角川文庫からは、村岡花子と同時代の翻訳家、中村佐喜子訳。Kindle版あり。

別名で『アンの婚約』がKindle版で刊行されているが、中身は同じ。

Kindle Unlimited対象

 

文庫はココがおすすめ

  • 持ち歩きやすく気軽に読める
  • 電子書籍で読めるものもある
  • 大人が読みやすい表現
  • 完訳版が多くでている
  • 注釈を楽しめるものもある

 

ハードカバー

『アンの愛情 (完訳 赤毛のアンシリーズ 3)』モンゴメリ、掛川恭子訳、1990年

講談社からの完訳版は、ハードカバーの児童向けでも出版されている。

銅版画家の山本容子の挿絵が入っていて豪華。

 

ハードカバーはココがおすすめ

  • 特別感のあるハードカバーで読みたい
  • オリジナルイラストが楽しめる

 

児童文庫

『アンの青春』は児童文庫のラインナップも豊富。

それぞれ翻訳やイラストに特徴があるので、自分に合ったものがあるかチェックしてみよう。

 

【2021年2月】角川つばさ文庫より刊行!

『新訳 アンの初恋(上) 完全版 ‐赤毛のアン3‐ (角川つばさ文庫)』モンゴメリ、河合祥一郎訳、南マキ・一ノ瀬 初奈絵、2021年

『新訳 アンの初恋(下) 完全版 ‐赤毛のアン3‐ (角川つばさ文庫)』モンゴメリ、河合祥一郎訳、南マキ・一ノ瀬 初奈絵、2021年

2021年2月3月、角川つばさ文庫より刊行予定なのは、河合祥一郎による新訳の『新訳 アンの初恋 完全版 ‐赤毛のアン3』

完訳版でありながら小学校中級から読める読みやすさが特徴。

南マキ・一ノ瀬 初奈による現代的な絵もかわいらしい。

上巻が2月、下巻が3月に刊行予定。

河合祥一郎の翻訳作品をAmazonで見る

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講談社青い鳥文庫

『アンの愛情 赤毛のアン(3) (講談社青い鳥文庫)』モンゴメリ、村岡花子訳、2011年

講談社の児童文庫、青い鳥文庫からは、HACCANによるイラストがかわいらしい『アンの愛情』が出版されている。

こちらは村岡花子訳で、完訳ではないが、すべての章が入っている。

 

集英社みらい文庫

集英社の児童文庫、集英社みらい文庫『アンの愛情』は、大人気マンガ家の羽海野チカによる描き下ろしの表紙が特徴。

数々の少女文学の翻訳を手掛ける木村由利子による新訳。講談社青い鳥文庫よりも、省略されている部分が多い。

『新訳 アンの愛情 (集英社みらい文庫)』モンゴメリ、木村由利子訳、2013年

 

ポプラポケット文庫

『アンの愛情―シリーズ・赤毛のアン〈3〉 (ポプラポケット文庫)』モンゴメリ、村岡花子訳、2008年

ポプラ社の児童文庫、ポプラポケット文庫からは、村岡花子訳『アンの愛情』が出版されている。

表紙のイラストは、透明感ある水彩画で多くのファンがいる内田新哉。

 

偕成社文庫

『アンの愛情 完訳版〈上〉 (偕成社文庫)』モンゴメリ、茅野美ど里訳、1992年

『アンの愛情 完訳版〈下〉 (偕成社文庫)』モンゴメリ、茅野美ど里訳、1992年

偕成社文庫は、児童文庫ながら完訳版の『アンの愛情』が読める。

茅野美ど里訳は、とても読みやすく美しい日本語なので、大人にもおすすめ。

 

児童文庫はココがおすすめ

  • 一般の文庫よりも易しい訳文
  • 一般の文庫より大きめのサイズ
  • 挿絵が多い
  • 大きな字、ふりがな付きで読みやすい

 

漫画

モンゴメリ『アンの愛情』いがらしゆみこ(画)、くもん出版、1997年

漫画『アンの愛情』は、1998年にくもん出版より出版された。

『THE KUMON MANGA LIBRARY アン・ブックス全5巻』の第5巻として、高橋美幸(シナリオ)、いがらしゆみこ(画)で出版された。

Part1~3まで、全三冊で『赤毛のアン』1冊分を描き、続編の『アンの青春』『アンの愛情』は各1冊ずつで出版されている。

小学校高学年以上向け。

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漫画『赤毛のアン』感想。名作を『キャンディキャンディ』作者が描く

『赤毛のアン』を読んでみたいが文字が多い小説はなかなか読めない! そんなあなたは、漫画で『赤毛のアン』に触れてみましょう。 いがらしゆみこ『赤毛のアン』 今回レビューする『赤毛のアン』は、1997~1 ...

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漫画はココがおすすめ

  • 活字が苦手な人も入りやすい
  • あらすじとみどころがわかりやすい

 

まとめ

『アンの愛情』みどころまとめ。

 

『アンの愛情』は、ももちんには、少し感情移入しにくい作品でした。

しかしながら、家族や友人たちの暮らすアヴォンリーへ里帰りする場面は懐かしかったです。

アンが自分の生家を訪ね、アンのルーツもさらに掘り起こされていきます。

アンが大人になってからが描かれる初めの作品、ぜひ読んでみてくださいね。

 

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『赤毛のアン』シリーズ
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