このまえ「クマのプーさん展」に行って、本を読んでなかったことを後悔したので、さっそく読んでみた。
読んでみて、大人になりすぎた自分と、新しい考え方を知ったよ。
この記事で紹介する本
こんな方におすすめ
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『クマのプーさん』とは?
『クマのプーさん』(原題”Winnie-the-Pooh”)は、1926年に発表されたA・A・ミルンの児童文学。
1928年には同様の構成をもつ続編『プー横丁にたった家』(原題”The House At Pooh Corner”)も発表された。
『クマのプーさん』のシリーズはこの二つの物語集と、二つの詩集『クリストファー・ロビンのうた(原題”When We Were Very Young”)』(1924年)『クマのプーさんとぼく(原題”Now We Are Six”)』(1927年)の計4冊からなっている。
挿絵はいずれもE.H.シェパードが手がけている。
日本では1940年に『熊のプーさん』、1942年に『プー横丁にたった家』が石井桃子の翻訳で、岩波書店より刊行された。
参考:Wikipedia
A.A.ミルン(作)とE.H.シェパード(絵)の紹介
クマのプーさん展2019感想。充実の展示!本を読んでなかったと後悔
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石井桃子(訳)の紹介
絵本『せいめいのれきし』感想。バートンの代表作、改訂版の特徴
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岩波少年文庫について
石井桃子さんが岩波書店で最初に出版したのは『熊のプーさん』(“くま”は漢字でした).1940年12月,四六判で1円20銭でした.そば1杯15銭の頃ですから8杯分ですね.ちなみに,現在の少年文庫版はこちら.☞ https://t.co/ExyMKYhBTV pic.twitter.com/YiFrS2GHmN
— 岩波書店 (@Iwanamishoten) 2018年3月10日
岩波書店は1940年、石井桃子の翻訳により、日本で最初に『クマのプーさん』を刊行した。
以降、A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳の「クマのプーさん」作品の出版に力を入れている。
2019年2月現在、29冊のクマのプーさん関連作品を出している。
『クマのプーさん』だけでも、装丁を変えて4種類出ている。
岩波書店公式サイト「クマのプーさんの本」のページ
内容紹介
世界一有名なクマ、プーさんが活躍する楽しいファンタジー。
幼い少年クリストファー・ロビンが、美しいイギリスの森を舞台に、プーやコブタ、ウサギ、ロバのイーヨーなど、仲よしの動物たちとゆかいな冒険をくりひろげます。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
主な登場人物
クリストファー・ロビン・・・仲間たちに頼りにされている、森で一番かしこい少年。プーのことが大好き。
プー・・・ハチミツが大好きな、心優しいクマ。
コブタ・・・プーの一番の友人のコブタ。気は小さいけど、仲間想い。
フクロ・・・森一番の物知りのフクロウ。難しい言葉を使いたがる。
ウサギ・・・みんなのまとめ役だが、せっかちでたまに失敗をする。
イーヨー・・・とても悲観的な性格の、年取ったロバ。
カンガ&ルー・・・カンガルーの親子。愛情深い母親のカンガと好奇心いっぱいのルー坊や。
参考:「MOE」2019年3月号
エピソード一覧
物語は、まえがきとお話で構成されている。
お話のタイトルは次のとおり。
- わたしたちが、クマのプーやミツバチとお友だちになり、さて、お話ははじまります
- プーがお客にいって、動きのとれなくなるお話
- プーとコブタが、狩りに出て、もうすこしでモモンガーをつかまえるお話
- イーヨーが、しっぽをなくし、プーが、しっぽを見つけるお話
- コブタが、ゾゾに会うお話
- イーヨーがお誕生日に、お祝いをふたつもらうお話
- カンガとルー坊が森にやってきて、コブタがおふろにはいるお話
- クリストファー・ロビンが、てんけん隊をひきいて、北極へいくお話
- コブタが、ぜんぜん、水にかこまれるお話
- クリストファー・ロビンが、プーの慰労会をひらきます そして、わたしたちは、さよならをいたします
『クマのプーさん』を読んだきっかけ
ももちんが『クマのプーさん』を読んでみたいと思ったのは、渋谷で開催中の「クマのプーさん展」に行ったから。
もともとイギリスの風景や雑貨が好きなので、好奇心だけで、本を読まずに「クマのプーさん展」を観に行ったんだよね。
展示はめっちゃ良かった!
だけど、物語をよく知らないので、原画の一つ一つが、どの場面を描いているのかがわかりにくかったんだよね。
後日改めて、本をちゃんと読んでみようと思って、手に取ったのがきっかけ。
A.A.ミルンの物語とE.H.シェパードの絵、両方を楽しめる岩波少年文庫を選びました。
クマのプーさん展公式サイトはこちら。
『クマのプーさん』を読んだ感想
『クマのプーさん』の物語は、100%「ほのぼの」でできている。
汚れがない。みんなありのまま。やさしい。ってのが全体の印象。
「そのままでいいんだよ」
やさしさしかない場所から、プーと仲間たちが呼びかけてくれている。
『クマのプーさん』ポイント
大人がなかなか入りこめない?
大人になってから初めて読む『クマのプーさん』は、入り込むのに時間がかかる。
児童向けの読みにくさ
ももちんが読んだのは岩波少年文庫の『クマのプーさん』。当然子ども向けなんだよね。
ひらがなが多く、すらすら読み進めない。
石井桃子の翻訳は古風で味があるんだけど、『クマのプーさん』特有の言い間違い、書き間違いの場面、マジで読みづれえ(笑)
戸たたきの下には、はり紙がしてあって、
ごよのあるしとひぱてください
と書いてあり、鈴ひもの下にも、はり紙がしてあって、
こよないしとたたてください
と書いてありました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
あ、本当はこう言いたいんだね、とわかるまで何度も読み返す。
読者には読みづらいけど、一方で「プーさん」の世界観に忠実なその言葉づかい。
なれるまで時間がかかった。
設定が素敵すぎる
初めに登場するのは、ぬいぐるみのクマを大事にしている男の子、クリストファー・ロビンとお父さん。
クリストファー・ロビンが寝る前に、お父さんにお話をせがみにやってくる。
語られるのは、ぬいぐるみと仲間たちが織りなす純粋無垢な物語たち。
もうね、設定も内容も、なんか素敵すぎるのね。
現実世界にまみれているももちんは、そんなプーさんの世界になかなか入りきれなかった。
しょせん、おとぎ話の世界よね・・・って思った。
大人から子どもに歩調を合わせる
読み初めは、「つらい・・・」と思った『クマのプーさん』。
だけど読んでいくうちに、プーさんと仲間たちのそのまんまのやさしさに、いつしか癒されていることに気づく。
きっと、プーさんたちは、それをやさしさだと思っていない。
何かをしてあげるやさしさの前に、全体にあるのは、「お互いがそのままでいることを許しあっている」というやさしさ。
現実では短所とみられがちな、「頭が悪い」「悲観的」「見栄っ張り」みたいなところだって、自分も他の人もジャッジしたり非難したりしない。
それぞれが究極にありのままであることに、いつのまにか居心地の良さを感じるんだよね。
プー
『クマのプーさん』で一番よく登場するのは、もちろんクマのプー。
プーは、クリストファー・ロビンの持っているぬいぐるみのクマなんだけど、お話の中では森の中に住んでいて、動いたり話したりする。
自分で自分をハッピーに
プーは、頭の回転がちょっと鈍くて、食いしん坊のクマ。
何より好きなのはハチミツ!
お話の中では、ハチミツをおいしそうに食べるプーに心があたたまる。
「なにかひと口どう?」
プーは、いつも午前十一時には、なにかひと口やるのが、すきでした。そこで、いま、ウサギが、お皿や茶わんをとりだすのを見ると、たいへんうれしく思いました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
ももちんはお茶の時間が大好きなので、プーが友だちと「なにかひと口」やる場面を読むとほっこり幸せになった。
プーは自分の家にもハチミツのツボをたくさん持っている。
自分の一番好きなものをよくわかって、ちゃんと大事にしてあげる。
それを自然にやっているプーが素敵だな、と思った。
気にしない
プーさんの一番好きなところは、なにごとも気にしないところ。
お話の中でプーが登場すると、自然と鼻歌が聞こえてくるみたい。
もちろん、いろんな失敗もするし、「いやんなっちゃう!」ってつぶやくこともたくさんあるけど、次の瞬間には忘れてる。
それに、そんなプーのことをみんなが大好きなんだよね。
「ぼくは、ばかだった、だまされてた。ぼくは、とっても頭のわるいクマなんだ。」
「きみは、世界第一のクマさ。」クリストファー・ロビンが、なぐさめるようにいいました。
「そうかしら?」と、プーは少し元気になり、それから、きゅうに元気いっぱいになると、
「ともかくも、もうかれこれ、おひるの時間だ。」と、いいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
自分を責めすぎず、引きずらないところ、とってもいいよね。
ヒーローの一面
お話では、プーの友だちへの思いやりが伝わってくる場面がたくさんある。
年取ったロバのイーヨーがしっぽをなくしたときも、プーは自分がしっぽを見つけると言う。
そして実際に見つける。
洪水で家に閉じ込められたコブタを助けるときも、プーのひらめきが大活躍。
ふだんはのほほんとしているプーだけど、ときには友だちのために自分から行動して、実際に感謝されるというヒーロー的一面もあるんだよね。
クリストファー・ロビン
展示作品も紹介していくよ♪
プーさんの物語のはじまりは、クリストファー・ロビンが、プーをひきずりながら、階段をおりてくるところ。
バタン・バタン、ってプーのあたまがちょっと痛そうだよ。#プーさん #原画 #階段 pic.twitter.com/xq5Uzt17BM— クマのプーさん展 【公式】 (@wp2019jp) 2019年1月2日
クリストファー・ロビンは、現実とお話の世界のつなぎ役。
現実ではプーはぬいぐるみってわかっているけど、お話の中では、森に住んで、プーや動物たちとおしゃべりして過ごしてる。
お話の中に登場する唯一の人間でもあるんだけど、主役という感じではないんだよね。
プーや仲間たちが繰り広げるお話の中で、あくまで登場人物のひとりとして存在するクリストファー・ロビンは、どこか大人びて見える。
人間の子どもらしさ
クリストファー・ロビンは、プーや動物たちよりかしこい。
だからところどころで、プーや動物たちをちょっとバカにしたり、笑ったりするんだよね。
人間の子どもならではの利口さと優しさ、どちらもある。
「ばっかなクマのやつ!」
プーはお話の中で、ちょいちょい変な提案をしたり、失敗もしたりする。
そんなとき、クリストファー・ロビンが心の中でいうのが「ばっかなクマのやつ!」というセリフ。
プーさんの世界では、誰もそんなこと思ったりしないのかな?って思ってたけど、違った。
クリストファー・ロビンは心の中でそんなセリフを言いながらも、プーにその言葉を直接は言わないんだ。
思ってることをそのまま言わないかしこさと、プーへの思いやりが伝わってきた。
ちなみに、角川文庫版の『クマのプー』では、このセリフは「おばかなクマぼう!」だし、
新潮文庫版の『ウィニー・ザ・プー』では、「バカなくまちん」となっている。
翻訳によってずいぶん印象が変わるよね。
さらに詳しく
意外と冷静
プーとコブタが自分の足跡をモモンガーとかん違いするお話がある。
クリストファー・ロビンは、すぐに声をかけずに、木の上からその様子をしばらく見てるんだよね。
途中で「おばかさん。」と声をかけるんだけど、なんかクリストファー・ロビン、大人だな。って思った。
友だちのプーやコブタに会ったからって飛びつくわけじゃない、観察力のある男の子なんだよね。
コブタがプーをゾゾと間違えて大慌てしたときも、クリストファー・ロビンは冷静。
「ほら、あれ、ゾゾの音、きこえるでしょう?」近づくと、コブタは、心配そうに聞きました。
「なんかはきこえるね。」クリストファー・ロビンもいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
一緒になって怖がらないし、かといって否定もするわけじゃない。
こういうところ、ちょっとももちんと似てるなって思って共感した。
コブタに笑いぬく
ももちんがクリストファー・ロビンかわいいなって思ったのは、コブタがプーをゾゾと間違えて大慌てしたとき。
最後に、こわがっていた相手がプーだとわかって、クリストファー・ロビン、めっちゃ笑うんだよね。
すると、きゅうに、クリストファー・ロビンは笑いだし・・・笑って・・・笑って・・・笑いぬいたんです。そして、まだそうやって、笑っているうちにーガッチャン! ゾゾの頭が木の根へぶつかり、メチャリとつぶれたつぼのなかから、あらわれ出たのは、プーの頭でした。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
笑いぬくクリストファー・ロビンを見て、心が和みました。
プーのことが大好き
クリストファー・ロビンはプーのことが大好き。
プーが大好きってことを、思ってるだけじゃなく、言葉にして素直に伝えてるところもとってもいいなって思った。
「ああ、プー・クマ!」と、クリストファー・ロビンはいいました。「ぼくは、きみがとってもすきなんだよ!」
「ぼくだってさ。」と、プーはいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
クリストファー・ロビンの気持ちに、素直に答えるプーも素敵。
見習いたいなって思った。
それぞれ魅力ある個性
『クマのプーさん』は、プーとクリストファー・ロビンだけの物語じゃないんだよね。
こんなにも個性豊かなキャラクターたちがいること、読んでみて初めて知った。
コブタ
コブタは、現実ではプーと同じくクリストファー・ロビンのぬいぐるみ。
お話の中では、百町森に暮らすプーの親友なんだよね。
気が小さいなんだけど、プーと一緒に「狩り」にでかけたり、わなを仕掛けたり、いろんな事して遊ぶのが大好き。
E.H.シェパードの絵では、プーとの対比でめっちゃちっちゃく描かれているのもかわいい。
ももちんがほっこりしたのは、「トオリヌケ・キ」の看板(トオリヌケ・キンシが欠けたもの)を、自分のおじいさんの名前だと言って、誇りをもって家の前に立てているところ。
プーとの何気ない会話にやさしさも感じるんだよね。
次作の『プー横丁にたった家』では、勇敢になったり、やさしさを発揮したり、さらに活躍する。
イーヨー
ロバのぬいぐるみのイーヨー。
お話の中では、年取ったロバとして、じめじめしてさびしい湿地に暮らしている。
イーヨーは、悲観的で暗い性格。
「それで、あなたのごきげんは、いかがです?」と、プーはいいました。
イーヨーは、首を横にふりました。
「あんまりいかがじゃなくてな。」と、イーヨーはいいました。「もうよほどながいこと、いかがという気はしたことがなくてな。」
「そりゃそりゃ。」と、プーはいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
プーの受け答えも秀逸(笑)
こんな性格のイーヨーだから、しっぽをなくしたり、誕生日を忘れられたり、ちょっとした悲しい出来事がよくおこる。
和気あいあいとした仲間の中でも一人落ち込んでいたりするけど、れっきとした仲間の一人。
悲観的な性格もそのまんまでOKしてもらえるって、人間関係じゃあまりないことだから、新鮮に感じた。
プーとコブタが、ハチミツをなめちゃったあとの空っぽのつぼと、割れてしまった風船をイーヨーにプレゼントしたときの反応がかわいい。
イーヨーは、つぼを見ると、すっかり夢中になってしまいました。
「そうじゃ。」と、イーヨーはいいました。「わしの風船は、このなかへはいるぞ。」
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
この瞬間、たぶんイーヨーが一番うれしかった瞬間なんだろなー。
フクロ
フクロはぬいぐるみではなく、野生のフクロウをモデルにしたキャラクター。
森一番の物知りで、難しい言葉を使いたがる。
だけど、どんなに難しい言葉を偉そうに使っても、それがわかる聞き手がいないから、おかしなことが起きるんだよね。
「まず、あのなんですって?-あなた、お話の途中でくしゃみをなさったものだから。」(中略)
「わたしはね、『まず薄謝!』といったのです。」
「ほら、また、した。」と、プーはかなしそうにいいました。
「薄謝ですっ!」と、フクロは、大きな声でいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
「薄謝(はくしゃ)」をくしゃみと間違えるプーさん(笑)
こういうやりとりがところどころにあっておもしろい。
ウサギ
ウサギも、フクロと同じく、野生のウサギをモデルにしたキャラクター。
みんなをまとめたがり、しきりたがる性格。
森に新入りのカンガとルー親子が来たとき、カンガ&ルーを森から追い出すために、いち早く計画を練るのがウサギ。
最初から仲間として受け入れないところが、なんだか人間っぽい。
その「ルー坊捕獲計画」でとくいげに指揮をとるのはいいとして、おもしろいのが、どんな反応をするべきかまで考えてるところ。
「すると、カンガが、『ルー坊は、どこへいっちゃったんでしょう?』と、いうだろう。そしたら、ぼくらで、『あはァ!』っていってやるのさ。」
「あはァ!」と、プーは、れんしゅうしました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
精いっぱい勝ち誇った感じで「あはァ!」というところまで考えてる(笑)
プーやコブタには、その意味はよくわかっていないんだけど、いっぱい「あはァ!」を練習するところもかわいい。
結局この計画は失敗し、カンガとルー親子は森の仲間として受け入れられる。
カンガとルー
『クマのプーさん』の後半から登場するのが、カンガルーの親子、カンガとルー。
カンガとルーはぬいぐるみなので、大きさはプーたちと同じくらい。
母親のカンガは、まるで人間の母親のような愛情で、ルー坊やに接する。
次作『プー横丁にたった家』では、トラの子どものトラーが登場するんだけど、トラーのこともまるで自分の子どものように受け入れるんだよね。
ちょっとこの愛情が、『クマのプーさん』の中では異質な感じ。
「母親」というキャラクターが強調されていて、ももちんはちょっと苦手。
初めはウサギたちにいたずらされるカンガ&ルーだけど、すぐに仲間になる。
ありのままのプーと仲間たち
個性豊かなプーと仲間たち。
それぞれのキャラクターが、反対と言ってもいいくらい、全然違っているんだよね。
楽観的なプーと、悲観的なイーヨー。
物知りのフクロと、頭の回転が鈍いプー。
仕切りたがりのウサギ、気の小さいコブタ。
人間の世界では、長所、短所って言われそうだけど、百町森では、ひとつひとつが「個性」なんだよね。
良い悪いがない。
口で言うのは簡単なんだけど、ジャッジなく違いを受け入れるって、すごく難しいこと。
それぞれがありのままで、ゆるーく自然な姿が素敵だと思った。
わかってるふりでうまくいく
お互い、よくわかってないんだけど、なんとなくわかっているふりするときって、あるよね?
『クマのプーさん』も、そんな場面たくさんある。
100%理解することは重要じゃないんだよね。
ゾゾを知らないのに知ってるふり
ゾゾ(ゾウのこと)を見た話をするクリストファー・ロビンに、受け答えをするプーとコブタ。
ふたりとも、ゾゾがなんだかわかってないんだけど、それが何か聞くなんてことはしない。
「ぼくも見た。」と、プーがいいました、ゾゾって、どんなもんだろうなとかんがえながら。
「そんなにちょいちょい見るもんじゃないさ。」と、クリストファー・ロビンが、またなんでもなさそうにいいました。
すると、コブタが、「いまはね。」と、いいました。
「いまは、時期はずれだから。」と、プーもいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
わからないことははっきり聞くべき、という考えがくつがえされた。
わかったふりして、ふんふん言っててもいいんだね。
なんか心が軽くなった。
間違いだらけだが誰も気づかない
イーヨーへの誕生日祝いを用意したプーは、フクロに「お誕生日御祝い」と書いてもらいに行くんだ。
フクロは、なんとなく、そんな感じのことを書いて、まぎらわす。
おたじゃうひ たじゅやひ おたんうよひ おやわい およわい
プーは、ほれぼれと、それを見物しました。
「なに、ちょっとお誕生日御祝いと書いただけのことです。」と、フクロは、なんでもなげにいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
間違っていることに気づかないプーは、それを喜ぶ。
できないこともできてるふりしていいんだ。
またまた心が軽くなった。
飽きたら終了でいい
人間の世界では、最後までやり抜くのが良いことで、飽きてやめちゃうのは良くないことってされがちだと思わない?
ももちんも、一度始めたら最後までって思ってるから、プレッシャーかけて、興味があってもなかなか手をつけられないってことある。
だけど、プーさん読んでて思った。
飽きたらやめちゃってもいいんだよ。
北極探検?
クリストファー・ロビンは、森のみんなを集めて探検にでかける。
目標とするのは、ノース・ポール(北極)。
だけど、実は、クリストファー・ロビン自身も、ノース・ポールって何のことなのかわかってないんだよね。
「プー。」と、クリストファー・ロビンはいいました。「きみ、その棒、どこで見つけた?」
プーは、じぶんのもってる棒を見ました。そして、
「ぼく、ただめっけたんです。それで、役にたつだろうと思って、ひろってきたんです。」
「プー。」クリストファー・ロビンは、おもおもしくいいました。「探検はおわった。きみは、北極を発見したんだよ。」
「ああ!」と、プーはいいました。
引用元:『クマのプーさん』A.A.ミルン作、E.H.シェパード絵、石井桃子訳、岩波書店、2000年
プーが川で見つけた棒を「ノース・ポール」とみなし、発見したと宣言するクリストファー・ロビン。
たぶん、飽きちゃったんだと思うんだ・・・。
飽きたら、こんなに堂々とやめていいんだ。しかも、「最後までやった」ふりしてもいいんだ。
なんか新しい考え方を見たような気がした。
シェパードの絵
なぞの足跡を追いかけていたプーとコブタ。それは木のまわりを歩いた自分たちの足跡なのに!そうとは知らず、こわくなって逃げてしまうコブタ。そんなふたりを木の上からながめているクリストファー・ロビンのきもちになると、思わずクスッと笑わせてくれる”狩り”の一場面。#プーさん #原画 pic.twitter.com/yiuBZcCiT2
— クマのプーさん展 【公式】 (@wp2019jp) 2019年1月13日
「クマのプーさん展」に行ってわかったのは、『クマのプーさん』 はA.A.ミルンの文に、E.H.シェパードの絵が合わさって、初めて『クマのプーさん』なんだ、ということ。
A.A.ミルンとE.H.シェパードは直接の話し合いを重ね、ふたりで『クマのプーさん』を作り上げていったんだよね。
そんなE.H.シェパードが描く森やキャラクターは、どれも味わい深い。
実際にモデルになっているというイギリスの森の空気が感じられ、動物たちの描写もいきいきとしている。
表情は点と線だけでシンプルなのに、絵から会話が聞こえてきて、愛着がわいてくる。
クリストファー・ロビンは真正面から描かれていなくて、横顔やしぐさから子どものかわいらしさが伝わってくる。
挿絵が違うと、物語の世界観も全く変わってくるということが、ほかの挿絵のプーさん(角川文庫、新潮文庫)を読んでみてもわかる。
感想おさらい
【開催中】クマのプーさん展2022
【#プーさん展2022 🍯見どころ】
「クマのプーさん」貴重な原画約100点1950-60年代、新装版のために描かれた原画約100点(アメリカから来日!)をたっぷり展示しています。これは、岩波書店『クマのプーさん プー横丁にたった家』『絵本 クマのプーさん』の表紙や口絵に使われているお馴染みのもの。 pic.twitter.com/FR6Us09xNo
— PLAY_2020 (@PLAY_2020) July 18, 2022
現在、東京・立川にあるPLAY!MUSEUMで「クマのプーさん展」開催中。
1950〜60年代にE.H.シェパードが描いた新装版用のカラー原画を見ることができるよ。
クマのプーさん展2022感想。百町森を抜けてカラー原画に会いに行こう
東京・立川で開催中の「クマのプーさん展2022」に行ってきた。 イギリスの森に迷い込んだ感覚で、「クマのプーさん」のカラーの原画を思いっきり堪能できたよ。 この記事でわかること 「クマの ...
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他出版社の『クマのプーさん』
今回の記事は、石井桃子翻訳の岩波少年文庫『クマのプーさん』(2000年)をもとに書いた。
『クマのプーさん』は2019年3月現在、岩波書店以外で2社から出版されているよ。
それぞれの出版社ごとに、翻訳者や特徴をあげておく。
角川文庫『クマのプー』
「#クマのプーさん」生みの親
A・A・ミルンさんが生まれた日ですプー通りの家 クマのプー
森絵都さんの新訳でいかがでしょう?https://t.co/kMyZmHCYTH pic.twitter.com/dabxDYXPXr— カドブン (@KadokawaBunko) 2018年1月17日
角川文庫より2017年に刊行されたのは、直木賞作家の森絵都による新訳『クマのプー』。
単純に大人向けに漢字多めというところもあるし、表現が現代語なので、すらすら止まらずに読める。
森絵都自身が児童文学も書くので、キャラクターのツボを心得てて、かつわかりやすいんだよね。
挿絵を担当したのは、佐藤さとる「コロボックル」シリーズの挿絵でも有名な村上勉。
電子書籍版では、村上勉の挿絵をカラーで楽しむことができるよ。
新潮文庫『ウィニー・ザ・プー』
新潮社より2016年に刊行された『ウィニー・ザ・プー』は、エッセイストでテレビにもよく出ている阿川佐和子による新訳。
大人向けの単行本なので、やはり漢字多用・ふりがな少なめという点では、石井桃子訳より読みやすい。
阿川佐和子訳は、読んでいて、全体的に甘さというか、柔らかさを感じた。
挿絵を手がけたのは、人気イラストレーターの100%ORANGE。
次の記事で各社の『クマのプーさん』シリーズをまとめたので、参考にしてみてね。
『クマのプーさん』18シリーズ比較。翻訳、イラスト、映画まとめ!
『クマのプーさん』は、イギリスの作家A.A.ミルンが生んだ、世界中で愛読されている児童文学。 現在さまざまな出版社から刊行されているので、特徴別にまとめてみた。 こんな方におすすめ 『クマのプーさん』 ...
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まとめ
小説『クマのプーさん』見どころまとめ。
プーさんが教えてくれたこと
- そのままでいいんだよ
- 気にしなくていいんだよ
- 素直に伝えてごらん
- どの個性も素敵だよ
- わかってるふりしていいんだよ
- 飽きたらやめていいんだよ
続編の『プー横丁にたった家』とセットで読むと、プーさんの世界をより深く味わえるよ。
プーさんの記事
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