『不思議の国のアリス』はイギリスの作家ルイス・キャロルによる児童文学。
大人になって読んだんだけど、こんなに奇想天外でつかみどころのない物語、初めてだった。
だけど、確実にその不思議な世界観に引き込まれたよ。
今回は角川文庫の『不思議の国のアリス』のあらすじと感想を書いていくよ。
どの出版社の『不思議の国のアリス』を読めばいいか知りたいなら、次の記事からどうぞ。
この記事で紹介する本
こんな方におすすめ
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小説『不思議の国のアリス』とは?
『不思議の国のアリス』(原題”Alice's Adventures in Wonderland”)は、1865年にイギリスの作家ルイス・キャロルによって発表された児童文学。
ルイス・キャロルが知人の娘に贈った手書きの本『地下の国のアリス』に加筆・修正を加えた物語。
1871年、続編として『鏡の国のアリス』(原題”Through the Looking-Glass, and What Alice Found There”)が刊行。
1886年、『不思議の国のアリス』の原型である『地下の国のアリス』(原題”Alice's Adventures under Ground”、文、挿絵ともにルイス・キャロル)の複製本が刊行。
1889年、『不思議の国のアリス』を幼児向けに脚色した『子供部屋のアリス』(原題”The Nursery "Alice"”)が刊行。
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』『子供部屋のアリス』いずれも初版の挿絵はジョン・テニエル。
日本では、1899年に『鏡の国のアリス』の翻訳作品(邦題『鏡世界』須磨子訳)が発表。
1908年に『不思議の国のアリス』の翻訳作品(邦題『アリス物語』長谷川天渓訳)が発表された。
参考:Wikipedia
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河合祥一郎(訳)
英文学者。
1960年福井県生まれ。
東京大学大学院で博士課程終了後、ケンブリッジ大学に学ぶ。
200年以降、シェイクスピアの戯曲を新訳で次々と発表、話題を読んだ。
参考:Wikipedia
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登場人物
現実の世界
アリス:7歳の女の子。昼下がりの土手でいつのまにか夢の世界に入りこむ。
アリスの姉:アリスと一緒に土手にいる。アリスを見守る大人の存在として最初と最後に登場し、現実世界を象徴している。
ダイナ:アリスが飼っている猫。アリスのセリフにたびたび登場。
夢の世界
白うさぎ:チョッキと懐中時計を身につけ、アリスを夢の世界に引き込む。
ネズミ:アリスと一緒に涙の川に流される。
ドードー鳥:鳥たちの長老的存在。党大会レースをもちかける。
青虫:水ギセルをふかす静かな男の青虫。アリスに「キノコを食べると大きさが変わる」ことを教える。
公爵夫人:醜い容姿で赤ん坊をあやす女性。アリスに赤ん坊を預けて出かけてしまう。再会すると上機嫌で教訓をたれる。
チェシャーネコ:公爵夫人の家にいた、姿を消す猫。いつもニヤニヤしている。
帽子屋:トランプの女王の機嫌を損ね、時計が午後6時で止まり、いつもお茶会を開いている。
三月ウサギ:おかしなお茶会のメンバー。白ウサギとは別の野生のウサギで、ちょっと頭がおかしい設定。
ハートの女王:不思議の国の女王。「この者の首をはねよ!」と口癖のように言う。
ハートの王様:ハートの女王に頭が上がらない王様。
グリフォン:アリスを海ガメもどきのところに案内し、歌や踊りを教える。
海ガメもどき:アリスに悲しい身の上話をひろうする。
あらすじ
一言あらすじ
ある昼下がり、7歳の少女アリスがうたた寝中に見た、夢の物語。
不思議な白ウサギの後を追って巣穴に飛び込むと、そこには不思議な世界。
アリスは、姿が大きくなったり小さくなったりしながら、青虫やチェシャーネコのアドバイスを受け、冒険する。
三月ウサギと帽子屋との「おかしなお茶会」、トランプの国でのクロッケーなどを経て、ついには裁判で女王と対決する。
このあとは詳しいあらすじ。
感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想
第1章 ウサギの穴に落ちて
アリスが土手でボーっとしていると、目の前を1匹の白ウサギが走り抜け、アリスは後を追い巣穴に飛び込む。
飛び込んだ先にあった広間には、小さなドアと鍵があったが、アリスの体では小さなドアを通ることはできない。
アリスはテーブルの上に「わたしをおのみ」と書いてある小びん見つけ、飲み干すと小さくなった。
いざドアから出ようとするが、鍵をテーブルの上に置き忘れたため、アリスは絶望して泣く。
その後アリスはテーブルの下に小さなケーキを見つけ、食べる。
第2章 涙の池
ケーキを食べたアリスはどんどん大きくなり、身長は3メートルを超えてしまった。
アリスが泣いていると、先ほどの白ウサギが姿をあらわし、手袋とせんすを落とし逃げ去る。
アリスがせんすを拾いあおいでみると、体がみるみる小さくなる。
いざドアから出ようとすると、まだ鍵がテーブルの上にあることに気づき、アリスは落ち込む。
足を滑らせたアリスは自分が流した涙の池に落ち、近くにいたネズミとともに流されて、岸につく。
第3章 党大会レースと長い尾話
涙の池に流された生き物たちが、続々と岸に上がってきた。
ドードー鳥の提案で、体を乾かすために「党大会レース」が催される。
スタートもゴールもないめちゃくちゃなレースを終えたあと、アリスは思わずダイナのことを口にする。
怖がった生き物たちは去っていき、アリスはひとりぼっちになる。
第4章 ウサギのお使い、小さなビル
ひとりぼっちのアリスの前に再び白ウサギが現れる。
アリスをお手伝いの「メアリ・アン」と間違え、家に行き手袋とせんすを探すように命じる。
アリスは白ウサギの家に入ると小びんを見つけ、好奇心から飲んでみると体が家からはみ出さんばかりに大きくなる。
怒った白ウサギは使いのビルを煙突から忍び込ませるが、アリスにキックされビルは飛んでいく。
白ウサギが窓から投げ込んだ小石がケーキに変わり、アリスがケーキを食べると体は8センチほどに小さくなり、逃げ出すことができた。
第5章 青虫が教えてくれたこと
次にアリスが出会ったのは、キノコの上で水ギセルをふかす青虫。
押し問答のあと、青虫はキノコを食べると大きくなったり小さくなったりすることを教える。
アリスがキノコを一口食べると首がにょきにょき伸び、木の上にいたハトは、ヘビが卵を奪いにきたと警戒する。
キノコを一口ずつ調整しながら食べると、アリスの背丈は元通りになる。
その後小さな家に出くわし、アリスはキノコを調整して食べて、20センチほどの大きさになってから訪ねる。
第6章 ブタとコショウ
小さな家は公爵夫人の家だった。
家に入ると、中には公爵夫人と泣きわめく赤ん坊、料理人とチェシャーネコがいた。
不機嫌な公爵夫人はアリスに失礼なことをいい、赤ん坊をアリスに預けて出ていってしまう。
アリスが赤ん坊を抱いてとほうにくれていると、赤ん坊はみるみるうちにブタに変身する。
ブタは森の中に消え、木の上にいたチェシャーネコと話す。
アリスは、チェシャーネコが教えてくれた「三月ウサギ」を見てみたくなり、その方向へあるき出す。
第7章 おかしなお茶会
アリスは、三月ウサギと帽子屋と眠りこけるヤマネが開いている、おかしなお茶会に参加する。
かつて帽子屋は「時間さん」とけんかをし、それ以来ずっと6時のお茶の時間を過ごしている。
アリスは3人の失礼な態度と意味不明な会話に我慢がならず、席を立つ。
歩いていると木についているドアを見つけ、ドアを開けると初めにいた広間に入る。
アリスはキノコを上手に食べて、広間の小さなドアから先に入ることができた。
第8章 女王陛下のクロッケー場
ドアの先には美しい庭があり、アリスの前をハートの女王様と王様の行列が通る。
つんと立っているアリスに怒った女王は「この者の首をはねよ!」と叫ぶが、アリスは「ナンセンス!」と言い返し、女王を黙らせる。
女王は手当たり次第「首をはねよ!」と連呼し、アリスをクロッケーの試合に出場するように命じる。
フラミンゴのクラブとハリネズミのボールのルール無視のクロッケーにアリスは戸惑う。
そこにチェシャーネコが現れ、王様はすぐに処刑を命じるが、首だけ浮いているチェシャーネコの首をはねることができず困惑する。
アリスはチェシャーネコの飼い主である公爵夫人に聞くことを提案する。
第9章 海ガメもどきの話
再び現れた公爵夫人は、上機嫌でアリスに「教訓」をたれ、アリスはうんざりする。
そこに女王が現れると、おびえた公爵夫人はすぐにいなくなり、アリスは再びクロッケーの試合に戻される。
女王は試合のあいだ中だれかれかまわず処刑を命じ、とうとう試合が中断する。(王様により全員釈放される)
女王は突然アリスに「海ガメもどき」の生い立ち話を聞くようにいい、「グリフォン」に案内を命じる。
海ガメもどきは、泣きながら「海の学校」での勉強の話をする。
第10章 ロブスターのおどり
グリフォンの提案で、海ガメもどきは「ロブスターのうたとおどり」をアリスに教える。
アリスもお返しに暗唱するが、うまくいかない。
そのとき、遠くから「裁判が始まる」との知らせが聞こえ、グリフォンはアリスをつれて裁判の場所へ向かう。
第11章 タルトをぬすんだのはだれ?
裁判では、ハートの女王が焼いたタルトをハートのジャックが盗んだ罪で裁判にかけられていた。
しかし、証言台にたった帽子屋や料理人は全く意味のないことを言う。
その間にアリスはだんだん体が大きくなっていく。
第12章 アリスの証言
最後にアリスが証言台に呼ばれ、大きくなったアリスは陪審員の動物たちをなぎ倒しながら進む。
アリスを差し置いて意味のない証言が進み、ついに女王陛下はハートのジャックを評決の前に「処刑」を命じる。
怒ったアリスは「あなたたちみんな、トランプじゃないの!」と叫ぶと、トランプがいっせいにアリスに襲いかかる。
そこでアリスは目を覚ます。
不思議な夢に興奮する妹を見て、アリスの姉は自身の夢の世界に浸る。
『不思議の国のアリス』を読んだきっかけ
ももちんが『不思議の国のアリス』を読んだきっかけは、「不思議の国のアリス展」。
『不思議の国のアリス』は、大人になってから一度読もうとしたことがあったんだけど、その奇想天外な世界になじめず、最後まで読み通すことができなかった。
だけど物語から漂う「なんとなく奥が深くダークな感じ」が心に引っかかっていて、いつかじっくり読みたいな、と思っていたんだよね。
2019年に、松本で「不思議の国のアリス展」が開催されることを知って、見に行こうと思った。
展示を見に行く前に本を読んでおこうと思い、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を読みました。
展示は本を読んでいなくても、アリスっぽい雰囲気が好きなら充分に楽しめるよ。
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角川文庫の『不思議の国のアリス』の理由
『不思議の国のアリス』はいろんな人の訳で出ているけど、今回ももちんが読んだのは、角川文庫の『不思議の国のアリス』。
理由は次の通り。
角川文庫のポイント
- 気軽に手に取れる文庫版だった
- Kindle Unlimited対象だった(2019年9月現在)
- 訳が読みやすかった
- テニエルの挿絵だった
一番大きかったのは、ももちんが利用しているAmazonの電子書籍読み放題サービス、「Kindle Unlimited」の対象だったこと。
あと、初めて読む「アリス」は、初版本を手がけたテニエルの挿絵が良かったので、そこもクリア。
以前読み通せなかったアリスは新潮文庫(矢川澄子訳)だったので、それ以外で探したら、角川文庫版になりました。
河合祥一郎訳は読みやすく、原文の言葉遊びも工夫して訳されている。
大人が初めて読む『不思議の国のアリス』は角川文庫版がおすすめだよ。
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『不思議の国のアリス』を読んだ感想
ももちんは、この記事を書くにあたって、3回『不思議の国のアリス』を読んだ。
1回目:奇想天外すぎて、読み進めることすらしんどい。
2回目:ようやく話の流れがわかってくる。とはいっても、おもしろみは感じない。
3回目:少しずつかみくだいて読むことで、なんとなくおもしろさがわかってくる。
くりかえし読むごとに、アリスの世界が少しずつ浸透していった感じ。
3回読んだだけなので、アリスの世界に一歩踏み込んだくらいなんだろうな。。
こうやって、読めば読むほど味が出てくるのが、『不思議の国のアリス』の魅力なのかも。
『不思議の国のアリス』感想ポイント
第一印象は「しんどい」
さっきも書いたけど。
『不思議の国のアリス』を最初読んだときは、しんどくて、なかなか読み進めることができなかった。
なにがしんどいかっていうと、話のつながりがぶっとんでいること。
小説とか物語を読むときって、ある程度の想定外は「おもしろい!」って思う。
だけど、話のつながりそのものが「おいおい、そんなのあり?」ってなっちゃうと、もう、読む気が失せちゃうんだよね・・・。
『不思議の国のアリス』って、そんな感じ。
それもそのはず、『不思議の国のアリス』は、アリスが見ている夢の世界の物語。
夢の世界は、現実では説明できないことが起こって当たり前。
ももちんみたいに、アリスにドラマ的なおもしろさを求めて読み始めると、しんどいよ。
1回目読み終わったあと、ストーリーを全く覚えていないことにもびっくり。
まさに、夢を見ていたような感覚になったよ。
無秩序にイライラする
『不思議の国のアリス』では、読む人が無意識にもっている「物語って、ストーリーってこういうもの」っていう常識を、かたっぱしから裏切っちゃう。
ももちんはこの無秩序になじめず、イライラしてた(笑)
例えばこんな感じ。
初めの広間の場面。
「小さくなる→大きくなる→小さくなる」をやりすぎ。
ふつう、物語で失敗って1回まででしょ!
あげく、そのドアから庭に出られないんかい!
党大会レースの場面。
スタートもゴールもないんかい!
しかもみんな好きなときに初めて終わってる・・・
クロッケーの場面。
何の秩序もない・・・
あげくのはてに女王、処刑命じすぎて誰もいなくなるって・・・
もはや、意味わからんし。
裁判の場面。
もはや、裁判の意味ないよね・・・
ハートのジャックがタルトを盗んだかどうかの審議をしようよ・・・
みたいな感じ。
もう、最初から最後までこういうつっこみだらけで読んだので、おもしろいと感じる前に、疲れちゃった。
だけど、「無意味」に見えるひとつひとつが、とってもクオリティが高い。
一見すると無意味なんだけど、むしろ考えつくされた「無意味さ」みたいな感じ。
だって、普通の感覚で書いてたら、一つくらい予想通りにつながるエピソードがあるはず。
数学者でもあるルイス・キャロルの、無秩序に対するきめ細かなこだわりがよくあらわれていると思った。
完全なる無秩序の世界。
うまくいくいかないの世界からかけはなれてる!
子どもなら楽しめる?
ももちんが感じたような『不思議な国のアリス』の物語にたいするイライラ感は、「大人になってから初めて読んだ」ということもあると思う。
子どもの頃に触れていたら、絵から受け取る第一印象で、不思議の国の世界に魅了されやすい。
はちゃめちゃな展開も、頭の柔らかい子どものときなら、何の疑問もなく「おもしろい!」ってなるのかもしれない。
それでも、読みやすさでいったら、これまで記事に書いてきた他のイギリス児童文学(『メアリー・ポピンズ』や『クマのプーさん』)の方がよっぽど受け取りやすい。
物語を自分で読んで感じられるのは、やはり大人になってから読む『不思議の国のアリス』だと思う。
キャロルは、小さな子ども向けに『不思議の国のアリス』を書き直した『子ども部屋のアリス』を出しているよ。
テニエルのカラー挿絵と読みやすさは、大人にもおすすめ!
次の記事で紹介しています。
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おかしなキャラクター
『不思議の国のアリス』を読んでいて目が行くのは、アリスが出逢うおかしなキャラクターの方々。
もはや、「アリス以外は全員おかしい」というレベル。
なかでも、ももちんが「狂ってる!」と言いたいキャラクターを紹介するね。
公爵夫人
物語を読んでて、ももちんが一番狂気を感じたのが「公爵夫人」。
なんで狂気かっていうと、まるで「ジキルとハイド」のように、まったく別の人格の公爵夫人が現れるから。
最初の出会いは、アリスが公爵夫人の家をたずねたとき。
不機嫌な公爵夫人は、抱いている赤ちゃんに「ブタ!」と言い放ったり、アリスの首を切るなどという。
この時点で相当怖い。
でも、公爵夫人がここでうたう子守唄は斬新で好き。
そして、トランプの国でアリスは公爵夫人と再会する。
このときの公爵夫人は、まるで別人のように笑顔でアリスにくっついてくる。
やたら教訓を持ち出してきて、しまいには「愛」について語っちゃう。
この二面性が、なんとも言えず怖いんだよね。
『不思議の国のアリス』では、不気味にすら感じる公爵夫人。
子ども向けの『子ども部屋のアリス』では、この公爵夫人の二面性の謎をきちんと説明しているよ。
帽子屋と三月ウサギ
『不思議の国のアリス』を読んでいなくても、イメージでなんとなく定着しているのが「帽子屋」と「三月ウサギ」。
物語では中心的キャラクターというわけではないし、「おかしなお茶会」も立て続けに起こる出来事の一つに過ぎない。
だけど、席を一つずつ移りながらお茶会をつづける姿はなんとも奇妙。
アリスが三月ウサギのとなりに座っているので、席を一つ移ると三月ウサギが茶碗を汚したあとになるというところは、なんだか消化不良のもやもや感が残った。
帽子屋も三月ウサギも、アリスをもてなそうという気がなく失礼なことばかりいうのも、お茶会の先入観を裏切られる。
「お茶会の場面では、お茶とお菓子と美しい風景を楽しむ場面を読みたい」という気持ち、不完全燃焼でした。
ちなみに、三月ウサギは、冒頭で登場する「白ウサギ」とは違うウサギ。
三月ウサギは、発情しておかしくなる野ウサギをイメージしている。
青虫とチェシャーネコ
青虫とチェシャーネコは、それぞれ別の場面で登場し、アリスに知恵をさずけるキャラクター。
青虫は水キセルをふかしながら、アリスの質問に答えたり答えなかったりして、アリスをいらいらさせる。
チェシャーネコはニヤニヤしながら姿を消したり現れたりして、道案内をする。
どちらも「自分自身が奇妙な存在である」ということをよくわかっている。
狂った世界の中で、気ままに生きているところが好感もてる。
ハートの女王
トランプの国の最高権力者、ハートの女王。
子どもの頃、なんとなくイメージで『不思議の国のアリス』を好きになれなかった理由は、ハートの女王の口癖「この者の首をはねよ!」が怖かったから。
あらためて物語をよんでみても、その残酷さをおとぎの世界でバンバン言っちゃっていいのかな?って、正直思った。
だけど、「首をはねよ」は女王がなにも考えず言ってるだけで、実は誰も本気にしていないんだよね。
実際、グリフォンはアリスに「実際には誰ひとり処刑なんかしていない」と教えてくれる。
それをわかって読んでみると、騒いで権力をふりかざすハートの女王が、あわれに思えてくる。
「首をはねよ」は趣味の悪いジョークで、ほんとは怖いことはなにも起こっていない。
大人になって初めてわかった・・・
怖いものなしのアリス
不思議の国の世界では、アリスが唯一「まともな人間」。
他の登場キャラクターは、帽子屋をのぞいたすべてが動物や架空の生き物。
そして、みんなちょっとおかしい。
完全アウェーな世界に迷い込んだアリスだけど、まったく怖がらずに、どんどん突き進むところがすごい。
夢の世界だから、恐怖をあまり感じないのかもね。
おかしな展開にも動じない
アリスが不思議の国で体験することは、実際に起こったら失神しそうなくらいに怖いことばかり。
さらっと書いてるけど怖い
- 深い深い穴に落ちていつ底につくかわからない
- 体が小さくなり、ネズミや子犬や青虫が巨大な姿で目の前にせまる
- 自分の首がにょきにょき伸びる
他にもいっぱい。
だけどアリスは、失敗して泣いたりびっくりしたりはするけど、基本的に怖がることはないんだよね。
それどころか、この不思議な世界でどうにか生きていくために、積極的に話しかける。
相手のおかしな言動とは反対に、質問できるところもすごい。
チェシャーネコが煙のように現れ、公爵夫人の赤んぼうについてアリスに聞く場面、アリスの受け答え、冷静すぎてシュール。
「ブタになりました。」アリスは、ネコがふつうのやりかたでもどってきたかのように、とても静かに答えました。
引用元:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
チェシャーネコが消えたり現れたりすることと、赤んぼうがブタに変身することのダブルの不思議さに見舞われているのに、アリスめっちゃ普通(笑)
夢の世界の体験にはまりながらも、どこか冷静なんだよね。
「教訓」に興味がない
不思議なことつづきの物語の中で印象的なのが、公爵夫人が「教訓めいたこと」を言いはじめる場面。
「愛こそが世界を動かす」だの、「類は友を呼ぶ」だの、とってつけたような教訓を次々言ってくる公爵夫人に、アリスはうんざりする。
ここは、ももちんも素直にうんざりしたので、公爵夫人に合わせないアリスに共感した。
これに限らず、『不思議の国のアリス』では、たいていの児童文学で「良いもの」として描かれているものが、描かれていない。
親切とか、友情とか、正しさとかね。
そのかわり、そういう教訓をおちょくるような言葉遊びがさえわたっているんだよね。
批判を通りこして、無意味にしたてるキャロルの頭の良さ。
「不思議の国のアリス展」の図録で、『不思議の国のアリス』は「教訓主義呪縛を初めて解き放った児童書」と書かれている。
それまでの児童文学はノンフィクション・宗教的・教訓的なものが多かったんだって。
権力にまどわされない
アリスは、不思議なことに動じないだけでなく、権力に対しても「おかしい」とおもったら立ち向かう強さがある。
アリスは初め、最高権力者ハートの女王の行列が通ったとき、まわりが土下座しているのを知っていながら、あえて立ったままでいるんだよね。
怒り狂った女王が「首をはねよ」と命令しても、「ナンセンス!」の一言でだまらせる。
最後の裁判の場面では、判決の前に刑の宣告をしようとする女王に、きっちり言い返す。
「なに言ってるの!」アリスは大声で言いました。「宣告が先だなんて、ナンセンス!」
引用元:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
目の前でおかしなことが起こったとき、「この人強そうだな」ってひと目でわかる相手に言い返すこと、あなたならできる?
ももちんなら、まわりにあわせて目立たないようにしちゃうなあ・・・
場の空気を察するんだけど、まどわされない強さ、ももちんも見習いたいなぁ。
誰にも反対されたことのない女王が、いちいち激怒する姿は痛快!
女王とアリスのやり合いは見どころの一つだよ。
イギリスの階級制度
『不思議の国のアリス』を読んでいると、ところどころで感じるのが「イギリス階級制度」。
主人公のアリスのしぐさや会話から、アリスが良家のおじょうさまであることが予想できる。
一部をあげるとこんな感じ。
階級制度がわかる表現
- アリスが穴から落ちている途中で「おじぎ」しようとする
- 7歳なのにフランス語を話そうとする
- 服装がリボンのついたエプロンドレス
- アリスの空想に「ばあや」が登場
このような描写から、アリスは高い教育を受けていて、礼儀作法もしつけられていることがわかる。
アリスのモデルとなったアリス・リデルは、オックスフォード大学寮長の娘。
当時の中産階級の裕福な家庭で育ち、小さな頃からルイス・キャロルのような学者や芸術家と交流する機会があった。
また、同じウサギでも、白ウサギと三月ウサギは、服装や言動がまったく違うことがわかる。
白ウサギは懐中時計にチョッキ。召使いのメアリー・アンやトカゲのビルに命令もする。
三月ウサギは頭にワラをまいて、お茶会ではカップを汚して平気な顔。アリスに失礼なことも言う。
白ウサギはペットにもなるウサギ「rabbit」で、三月ウサギは野ウサギ「hare」と、使い分けられているんよね。
参考:「MOE」2019年10月号、「不思議の国のアリス展」図録、Wikipedia
テニエルの絵
物語がさらに味わい深くなっているのは、ジョン・テニエルの挿絵にもある。
テニエルは、もともと子ども向けの絵を描いていたわけではない。
イギリスの週刊誌『パンチ』の風刺漫画を長年手がけていた人なんだよね。
『不思議の国のアリス』の挿絵は、読者が子どもだからといって、やわらかく表現するようなことはされていない。
グロテスクなものはグロテスクに、美しいものは美しく、繊細な技術でリアルに描かれている。
特に印象的なのは、公爵夫人やハートの女王の醜さ。
なんの可愛げもなく、ここまで醜く描かれていると、かえっておもしろくなって見ちゃうんだよね。
あと、アリスの姿が大きくなるところも怖い・・・
『不思議の国のアリス』感想
引用紹介
『不思議の国のアリス』では、当時親しまれていたマザー・グース(童謡)や詩を、キャロル自身が言葉をかえ、まったく違う内容で表現されているものがある。
道徳的な内容の詩もまったく無意味でおかしな内容にかわっているところに、キャロルの遊び心と教訓への批判が感じられる。
「小さなかわいいワニさんが・・・」(P27)
アリスは広間で、学校で習った詩を暗唱しようとするが、口からでてくるのはワニ登場するおかしな詩。
元の詩は、作詞家アイザック・ウォッツ作の教訓詩「怠惰といたずらの戒め」(原題:”Against Idleness and Mischief”)。
勤勉なハチが蜜をあつめる詩。
原詩と意味
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「ウィリアム父さん、年だよ」(P64)
アリスが青虫のまえで暗唱しようとするのは、ロバート・サウジーの同名の詩。
もともとは、元気な老人を称える詩だけど、作中では老人がおかしなことばかりする。
原詩
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
公爵夫人の子守り唄(P82)
引用元: Speak Gently/Julia Findon
公爵夫人が赤ん坊を抱きながら、「どなりましょ なぐりましょ」などとうたったおかしな子守り唄。
元の歌は、ウィリアム・ヴィンセント・ウォレス作曲、デイヴィッド・ベイツ作詞の「優しく語りかけよ」 (原題”Speak Gently”) 。
「子どもにはやさしく語りかけよう」という意味の元の歌が、完全に反対の意味の歌になっている。
原詩
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「きらきら、コウモリ!」(P97)
引用元: Twinkle Twinkle Little Star | Family Sing Along/Muffin Songs
おかしなお茶会で帽子屋がうたう「きらきら、コウモリ!」は、有名なマザー・グース「きらきら星」のパロディー。
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「ロブスターの踊り」(P136)
グリフォンとの「ロブスターとの踊り」にあわせて、海ガメもどきがうたを歌う。
元の歌は、メアリ・ハウィット作詞の「クモとハエ」という子どもの遊びうた。
原詩と意味
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「ロブスターの声がする」(P141)
アリスがグリフォンと海ガメもどきの前で、学校で習った詩を暗唱しようとするが、「ロブスターの声がする」とおかしな詩になっている。
元の詩は、アイザック・ウォッツの教訓詩「ぐうたら」(原題”The Sluggard”)であり、怠け者をいましめる内容。
原詩と意味
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「海ガメ・スープ」(P144)
海ガメもどきがすすり泣きながらうたう『海ガメ・スープ』。
元の歌はジェイムズ・M・セイルズ作詞作曲の「夕べの星」(原題”Star of the Evening”)。
原詩
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「ハートの女王、タルトを焼いた」(P150)
引用元: Pudding And Pie - The Queen Of Hearts/Weissquell
裁判の場面で、白ウサギが読み上げるのは、マザーグースでおなじみの「ハートの女王」(原題”The Queen of Hearts”)。
歌詞はパロディーではなく、元の詩をそのまま物語に使用している。
原詩と意味
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
「君は彼女のとこに行って・・・」(P164)
裁判の最後で、白ウサギが「君は彼女のとこに行って・・・」から始まる詩を読みあげる。
ウィリアム・ミー作の「アリス・グレイ」という歌のパロディ。
参考:『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
アリスの本紹介
ルイス・キャロルが書いた「アリス」の本は4作品あるよ。
- この記事で紹介した『不思議の国のアリス』(1865年)
- 続編に当たる『鏡の国のアリス』(1871年)
- 『不思議の国のアリス』のもとになった『地下の国のアリス』(刊行は1886年)
- 『不思議の国のアリス』を小さな子ども向けに書き直した『子ども部屋のアリス』(1889年)
それぞれの特徴をざっくり紹介するね。
『不思議の国のアリス』
この記事で紹介している『不思議の国のアリス』(1865年刊行)は、アリス関連作4作品のなかで最も有名。
ルイス・キャロルがもともと知人の娘のために書いた『地下の国のアリス』(後ほど紹介)に、大幅な加筆・修正、言葉遊びが組み込まれている。
ジョン・テニエルの挿絵も魅力。
いろいろな『不思議のアリス』紹介
『不思議の国のアリス』大人向け28作品比較。文庫・絵本特徴まとめ
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『鏡の国のアリス』
『鏡の国のアリス』(原題”Through the Looking-Glass, and What Alice Found There”)は1871年にルイス・キャロルによって発表された。
挿絵は『不思議の国のアリス』と同じく、ジョン・テニエル。
物語の設定は『不思議の国のアリス』の冒険から半年後の11月、7歳半のアリスが鏡の向こうの世界で体験する夢の物語。
『不思議の国のアリス』ではトランプの世界だったが、今作ではチェスの世界に迷い込む。
言葉遊びやチェスの論理なども織り交ぜながら、より緻密に物語が展開していく。
本の感想
小説『鏡の国のアリス』あらすじと感想。不思議の国から半年後の夢。
『鏡の国のアリス』は、ルイス・キャロルの有名な小説『不思議の国のアリス』の続編。 不思議の国ではトランプの世界だったけど、今回アリスはチェスの世界に迷いこむ。 ちょっと成長したアリスと、さらに冴えわた ...
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『地下の国のアリス』
『不思議の国のアリス』の原点は、ルイス・キャロルがアリス・リデルへのプレゼントとして作った本『地下の国のアリス』。
1886年に『地下の国のアリス』複製版が刊行された。
『地下の国のアリス』の特徴は次の通り。
『地下の国のアリス』ココがポイント
- ルイス・キャロル自身が描いた挿絵と、手書きの文章
- 全4章からなる。『不思議の国のアリス』(12章)の約半分の長さ
- 『不思議の国のアリス』最大の特徴である「言葉遊び」がない
物語の筋は『不思議の国のアリス』と大体同じ。
あらすじを短い物語で知りたいときにもおすすめ!
『地下の国のアリス』紹介
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『子ども部屋のアリス』
『不思議の国のアリス』を幼児向けに脚色した”The Nursery "Alice"”は、1897年に発表された。
『子ども部屋のアリス』として邦訳されることが多い”The Nursery "Alice"”の特徴は次の通り。
『子ども部屋のアリス』ココがポイント
- 大筋は『不思議の国のアリス』と同じだが、短くなっている
- 言葉遊びが少なく、小さい子どもに語りかけるようなやさしい言葉づかい
- 『不思議の国のアリス』の挿絵から20点をジョン・テニエル自ら色づけ
- 表紙絵はテニエルではなく、エミリー・ガートルード・トムソン
参考:Wikipedia
キャロル自身は「0歳から5歳」と言っているけど、明らかにそれは無理!(笑)
でも、やさしい言葉づかいとカラーイラストで、『不思議の国のアリス』よりやさしく読むことができるよ。
読み聞かせにもおすすめ。
『子ども部屋のアリス』紹介
子ども向け『不思議の国のアリス』34作品比較。児童書、絵本まとめ
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【2022】特別展アリスーへんてこりん、へんてこりんな世界
引用元:特別展アリス―へんてこりん、へんてこりんな世界―/fujitv-events
2022年7月に東京・六本木で開幕したのが「特別展アリス―へんてこりん、へんてこりんな世界」。
児童文学として誕生した『不思議の国のアリス』が、アート・ファッション・映画など多様なジャンルに広がった「文化現象」に焦点をあてた展示。
とはいっても、児童文学『不思議の国のアリス』が生まれた背景や、ジョン・テニエルの原画なども豊富に展示されている。
物語の世界に没入する形の演出で、作品も一部を除き写真撮影OKなのもすごい。
音声ガイドを事前にアプリでダウンロードして、会場で聞けるのがよかった!
アリス展2022感想
「アリス展」2022感想。物語の世界に没入!文化現象「アリス」を堪能
東京・六本木ヒルズで開催中の「特別展アリスーへんてこりん、へんてこりんな世界」に行ってきた。 児童文学『不思議の国のアリス』が成立した背景はもちろん、映画・舞台・ファッションなど、時代・国境を超えて広 ...
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まとめ
『不思議の国のアリス』本の感想まとめ。
奇想天外でつかみどころがないけど、その不思議な世界観に引き込まれる物語。
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』収録(電子書籍のみ)
アリスの記事
次の記事で出版社別『不思議の国のアリス』をまとめているよ。
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