集英社の「少年少女世界名作の森」シリーズは、1989年から1990年に刊行された、全20巻の児童文学全集。
その中の1冊が『赤毛のアン』。豊富な補足説明がついていて、子どもの学習用に最適の1冊。
この記事で紹介する本
この本の特徴
- 補足説明や資料が豊富
- 児童向けに翻訳も配慮されているのが物足りない
- 総ルビではない。小学校高学年向け
- 省略エピソード一覧
少年少女世界名作の森シリーズ『赤毛のアン』
『赤毛のアン』(原題”Anne of GreenGables")は1908年、にカナダの女流作家、ルーシーモード・モンゴメリにより出版された。
日本では、村岡花子の翻訳により、三笠書房より1952年、のちに新潮文庫より1954年に出版。
ルーシー・モード・モンゴメリの著作の中で最も有名な1冊でもあり、実写映画化やアニメ化、舞台化もされている。
モンゴメリ紹介
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谷口由美子(訳)
翻訳家。主にアメリカの児童文学の翻訳を行っている。
1949年山梨県生まれ。上智大学外国語学部英語文科卒業後、アメリカへ留学。帰国後、翻訳活動に専念。
参考:Wikipedia
代表作(翻訳)
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田中槇子(絵)
画家。イラストレーター。
1942年、東京都生まれ。
武蔵野美術大学商業デザイン科卒業。
グラフィックデザイナーを経て、イラストレーターとして活躍。
代表作(絵)
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『少年少女世界名作の森』について
今回レビューする『赤毛のアン』は、1990年に集英社より出版されたもの。
『少年少女世界名作の森 14』(集英社)として、谷口由美子翻訳、田中慎子の挿絵で製作されたハードカバー。
『少年少女世界名作の森』は、全20巻のハードカバーの児童文学全集。1989年から1990年にかけて初版が出版された。
20巻に収録されているラインナップは、今でもみんなが知ってる名作ばかり。
収録されているタイトルは以下の通り。
第1巻 「ああ無情」
第2巻 「クリスマス・キャロル」
第3巻 「十五少年漂流記」
第4巻 「若草物語」
第5巻 「シャーロック・ホームズの冒険」
第6巻 「小公女」
第7巻 「宝島」
第8巻 「足ながおじさん」
第9巻 「ドン・キホーテ」
第10巻 「ロミオとジュリエット」
第11巻 「トム・ソーヤの冒険」
第12巻 「秘密の花園」
第13巻 「怪盗ルパン」
第14巻 「赤毛のアン」
第15巻 「巌窟王」
第16巻 「絵のない絵本」
第17巻 「ロビン・フッドの冒険〈イギリス伝説〉」
第18巻 「不思議の国のアリス」
第19巻 「西遊記」
第20巻 「石の花」
著者や翻訳者、装丁などは、集英社の児童図書サイト「S-KIDS.LAND」で見ることができました。
S-KIDS.LAND「少年少女世界名作の森」ページはこちら。
少年少女世界名作の森シリーズ『赤毛のアン』感想
物語の内容そのものについての感想は、新潮文庫版『赤毛のアン』レビュー記事に書いています。
物語の感想
小説『赤毛のアン』あらすじと感想。大人にこそおすすめの純文学
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ここからは、「少年少女世界名作の森」の『赤毛のアン』について書いていくよ。
ぱっと見の特徴
少年少女世界名作の森シリーズはハードカバーでしっかりした作り。
小学校の図書室にいくと、シリーズそろって本棚に並んでるイメージ。
表紙のオブジェは「ペンギンスタジオ」というユニットによって製作されている。
このアンのオブジェは正直、コミカルな感じでかわいらしさがないので、ももちんは好みではない。
表紙と中のイラストは全く違います。
補足説明・資料が豊富!
「少年少女世界名作の森」シリーズの『赤毛のアン』の一番の特徴は、補足説明や資料が豊富なこと。
本文上のスペースでは、歴史的背景や作品に関する情報を写真やイラストを使って説明。
本文下のスペースでは、難しい言葉の意味の説明。
巻末には、翻訳をした谷口由美子による解説、モンゴメリの年表、他の作品や関連作品などの読書案内。
動植物のイラストや実際にモデルとなった場所の写真など、大人のももちんも知らなかったような情報もたくさん載っていておもしろかった。
物語を楽しみながら背景まで学んでいけるので、子どもの学習用の本にぴったり。
難易度
文字の大きさは大きめ。ふりがなは、小学校中学年までに習う漢字にはついていない。
対象読者年齢は小学5年~中学生とあるので、それに合わせた感じ。
児童向けの配慮
翻訳の谷口由美子は、児童向けということで、表現の仕方にとても注意したんだと思う。
新潮文庫の村岡花子訳にあるような、現代では差別的表現ととられかねない言葉や、皮肉のきいたセリフも、谷口訳では随分と柔らかくなっている。
例えば、アンがレイチェルリンド夫人にかんしゃくを起こす場面。
村岡訳では、アンが言うセリフに、こんな一言がある。
でぶでぶふとって、ぶかっこうで、たぶん、想像力なんかひとっかけらもないだろうって、言われたらどんな気持?
出典:『赤毛のアン』モンゴメリ著、村岡花子訳、2008年、新潮文庫
この一言は、アンの激しい怒りとともに、アンが相手を傷つける言葉を瞬時に言えるかしこさも表しているセリフ。
だけど、谷口訳では、この部分は丸々省略されている。
その後のリンド夫人へのおわびまで通して読んでみても、アンのかんしゃくもちは十分伝わるけど、隠し持った計算高さが、あまり描かれていない。
物語全体に表れている、言葉に言い表せない「おかしさ」や「人間の裏表」みたいなところが不足しているように感じ、あくまで子どもが読むための本なのだと思う。
省略されている部分
完訳の『赤毛のアン』が全38章に対し、「少年少女世界名作の森」の『赤毛のアン』は全22章。
単純に16章分の物語が省略されているわけではなく、全体的に少しずつ省略されて、全22章にまとめた感じ。
新潮文庫版『赤毛のアン』 | 「少年少女世界名作の森」『赤毛のアン』 |
第1章 レイチェル・リンド夫人の驚き 第2章 マシュウ・クスバートの驚き | やってきた少女アン |
第3章 マリラ・クスバートの驚き 第4章 『グリン・ゲイブルス』の朝 | 女の子はいらない |
第5章 アンの身の上 第6章 マリラの決心 | アンの身の上 |
第7章 アンのお祈り 第8章 アンの教育 | マリラ、アンを引きとる |
第9章 レイチェル・リンド夫人あきれかえる 第10章 アンのおわび | リンド夫人、恐れをなす |
第11章 アン日曜学校へ行く 第12章 おごそかな誓い | 黒かみの親友、ダイアナ |
第13章 待ちこがれるピクニック 第14章 アンの告白 | アンの告白 |
第15章 教室異変 | 学校でのひとさわぎ |
第16章 ティー・パーティの悲劇 第17章 新しい刺激 | イチゴ水事件 |
第18章 アンの看護婦 | アン、幼い命を救う |
第19章 音楽会と災難と告白 | ジョセフィンおばさん、たまげる |
第20章 行きすぎた想像力 | アンの『お化けの森』 |
第21章 香料ちがい | ケーキのお味は? |
第22章 アンお茶に招かれる | (省略) |
第23章 アンの名誉をかけた事件 | アンは負けずぎらい |
第24章 音楽会 | (省略) |
第25章 マシュウとふくらんだ袖 | マシューのすてきなプレゼント |
第26章 ストーリークラブの結成 | (省略) |
第27章 虚栄の果て | 「あたしのかみを見て!」 |
第28章 たゆとう小舟の白ゆり姫 | 白百合ひめの災難 |
第29章 忘れられないひとこま | (省略) |
第30章 クイーン学院の受験 第31章 二つの流れの合うところ 第32章 合格者発表 | クィーン学院めざして |
第33章 ホテルの音楽会 | ホテルのコンサート |
第34章 クイーンの女学生 第35章 クイーン学院の冬 第36章 栄光と夢 | アンの栄光と夢 |
第37章 死のおとずれ | マシューの死 |
第38章 道の曲り角 | ちかいあった友情 |
外せないエピソードはきちんと収められているので、最初に読む『赤毛のアン』には良いと思う。
これを読んだらぜひ、他の『赤毛のアン』も読んでほしいな。
田中槇子のイラスト
「少年少女世界名作の森」は、表紙はオブジェの写真なんだけど、本を開いてみると、中の挿絵は全く違う絵。
挿絵を担当したのは、児童文学のイラストを数多く手がける田中槇子。
カラーイラストもふんだんに盛り込まれていて、読み進めやすい。
実は、田中槇子が『赤毛のアン』のイラストを担当したのは「少年少女世界名作の森」が初めてではない。
上の写真は、偕成社より1966年から1976年に出版された、「世界の幼年文学カラー版」全30巻のうちの第25巻。
この表紙絵が田中槇子のイラストなので、「少年少女世界名作の森」の挿絵もここから想像してみてね。
まとめ
「少年少女世界名作の森」の『赤毛のアン』みどころまとめ。
- 補足説明や資料が豊富
- 児童向けに翻訳も配慮されているのが物足りない
- 総ルビではない。小学校高学年向け
- 省略エピソード一覧
豊富な補足説明がついていて、子どもの学習用に最適の1冊だよ。
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