小説『アンの友達』は『赤毛のアン』のスピンオフ短編集。
「赤毛のアンが主人公の本にはおもしろさは劣る?」と思ったけど、隠れた名作。
一つ一つのお話が完成度が高く、どのエピソードも読み終えて満足のいくおもしろさ。
今回は、新潮文庫刊の村岡花子翻訳『アンの友達』をもとに、内容とみどころをお伝えするよ。
この記事で紹介する本
新潮文庫シリーズ合本版
この記事でわかること
- 短編集『アンの友達』エピソード紹介
- 各出版社の『アンの友達』
『アンの友達』とは?
『アンの友達』の原題は”Chronicles of Avonlea(アヴォンリー年代記)”。
カナダの女流作家モンゴメリが1911年に出版した短編集。
新潮社文庫では赤毛のアン・シリーズの4作目に入れられているが、大部分はアンと直接には関係していない。
アンが端役として登場したり、その名前が言及される短編もあるが、全体としては「アンの周囲の人々の物語」である。
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エピソード紹介
エピソード名 | あらすじ |
奮いだったルドビック | テオドラとルドビックは15年交際しているのに、ルドビックは一向に求婚してくる気配がない。 アンはルドビックを決心させるために、策を講じる。 |
ロイド老淑女 | ロイド老淑女は金持ちでケチの変わり者と思われていたが、実は極貧の状態にあった。 かつての婚約者の娘シルヴィアが音楽教師として赴任してきた事を知り、陰ながら彼女を喜ばせたいと思うようになる。 |
めいめい自分の言葉で | フェリクスはバイオリンの天才少年だった。 祖父のレオナード牧師はバイオリンを禁じ、孫にも同じ道を歩ませようとする。 牧師は孫が音楽を通して人に語りかけ、励ませる事は理解していなかった。 |
小さなジョスリン | ナン叔母さんは死ぬ前に、かつて世話し、今は歌手として大成したジョスリンにもう一度会いたいと切望していたが、家族は取り合わない。 そこで雇われ少年のジョーダンは家に来てもらおうと意を決し、滞在先を訪れる。 |
ルシンダついに語る | ルシンダとロムニーは婚約中に些細な事で喧嘩して以来、15年間、互いに口を利こうとしなかったが、親戚の婚礼の帰りにハプニングが起きる。 |
ショウ老人の娘 | ショウ老人は娘セーラの帰郷を待ちわびていた。しかし、ブリュエット夫人は、街の学校で3年過ごせば、垢抜けてこんな田舎町には満足できまいと言う。 |
オリビア叔母さんの求婚者 | オリビアは、20年前に恋人だったマルコムが島に戻り、自分と結婚する事になったと告げる。 しかし、綺麗好きのオリビアは、婚約期間中にがさつなマルコムに耐えられなくなっていく。 |
隔離された家 | 男嫌いのピーターは、欠席の続く日曜学校の生徒の事情を聞きに女嫌いのアレキサンダーの家に向かう。 しかし、天然痘に感染した疑いが生じ、家から出られなくなってしまう。 |
競売狂 | スローンは競売に夢中で、家はガラクタで一杯だった。 妻から入札しないと約束させられたものの、冗談で出品された孤児の赤ちゃんを競り落としてしまう。 |
縁結び | プリシーは20年前に姉エメリンからステファンとの結婚を反対され、独身であった。 妻を亡くしたステファンは再びプリシーに思いを寄せるが、再び反対にあう。 姉妹の近所に住む「わたし」ことロザンナは、何とか二人を結婚させようと画策する。 |
カーモディの奇蹟 | サロメは姉ジュディスから大切にされていたが、不幸が続いた上に足が不自由になる。 信仰を失った姉は、養子のライオネルを日曜学校へ行かせない。 ライオネルに良い手本を見せねばと、反対にめげずにサロメが1人で教会へ行くと、ライオネルが天水桶に落ちるのが見えた。 |
争いの果て | ナンシーは婚約者と口論し、島を去り看護婦となるが、20年ぶりに帰島すると、今も独身のピーターの家は散らかり放題だった。 見かねたナンシーは彼をびっくりさせようとする。 |
『アンの友達』を読んだ感想
全12編の短編からなる『アンの友達』は、それぞれ登場人物も全く違います。
しかし、時代背景が同じなので、エピソードごとに共通するものを感じることができます。
今作は大きく分けると次のような共通点を感じました。
『アンの友達』ポイント
血のつながりを超える絆
まず感じた共通テーマは「血のつながりを超える絆」。
「ロイド老淑女」
ロイド老淑女の前に、若かりし頃けんか別れしてしまった恋人の娘シルヴィアが、成長して現れます。
ロイド淑女は、シルヴィアに父親と自分のかつての関係を悟られまいと、距離を置きながらも、名前を伏せてシルヴィアにさまざまな贈り物をするようになります。
シルヴィアの表情やしぐさにかつての恋人の面影をみるロイド老淑女。
やがて自分の娘のようにシルヴィアを愛するようになります。
長い間顔を合わせなくても、彼が結婚し、なくなったと聞いても、思いを寄せ続けられるひたむきさ。
そして、どんなに貧乏になっても離すことのなかった高い誇りすらも、愛するシルヴィアのために捨ててしまう姿には、毎度感動します。
最後にはシルヴィアもロイド老淑女の愛に応え、お互い母娘のように慕うようになり、あたたかな気持ちになります。
「競売狂」
これも現代の日本では考えられないようなお話です。
このエピソードの場面のように、古い家具すらも競りの対象になり、どんどん引き取り手が現れるという状況は、ちょっと想像がつきませんよね。
モノがあふれる今、お金を払って処分してもらう時代ですから。
ましてや赤ん坊を競り落としてしまうとは・・・!
そしてこの後の展開も、なんともハートウォーミング。
初めは全く育てる気のなかったスローンの奥さんも、しばらく赤ん坊と一緒に暮らすうちに、すっかり情が移ってしまう。
しまいには、引き取り育てることにします。
なんというか、わが身の楽さとか、常識とかをこえて、最終的には「人情」を優先してしまう、このアヴォンリーの人々の姿に、なんともほっこりするのです。
「カーモディの奇蹟」
こちらも、血のつながらない養子のライオネルがカギを握っています。
足のわるいサロメが、姉ジュディスの反対を押し切って教会にいる時に、遠くにライオネルの姿を見る。
なんと天水桶に落っこちてしまった!
サロメは一心不乱に天水桶に走っていく。
ライオネルが無事だとわかった時、サロメは自分が松葉杖をついていないことに気が付いた・・・。
これも、ライオネルを愛しているからこそ起こった奇跡。
そこに親子や兄弟でなく、養子を設定しているところに、血のつながりに頼らない絆の強さを感じられます。
「めいめい自分の言葉で」
これは、血のつながっていますが、祖父と孫のエピソードです。
レオナード牧師の反対を押し切って、娘マーガレットはヴァイオリン奏者ムーアと結婚するものの、1年後に病気で死んでしまう。
その6年後にムーアも死んだので、孫のフェリクスを引き取り、牧師に育てようとする。
フェリクスにはヴァイオリンの才能があるが、牧師は、音楽には悪が入り込んでいるとして、ヴァイオリンをとりあげ、一切禁止する。
ここまで読むと、牧師のわからずや!って思うかもしれませんが、そうではないのです。
レオナード牧師とフェリクスは心の底から愛し合っていて、フェリクスも約束を守るのです。
そうやってお互いを想いあっていると、やはり奇跡が起こる。
臨終の床にあっても牧師の祈りを受け入れようとしなかった村人が、フェリクスのヴァイオリンを聴いて改心してしまう。
この奇跡を目の当たりにした牧師は、孫に音楽を許すことにする。
ここでも、親子ではなく、祖父と孫という、少し離れた関係の二人の絆が描かれています。
長年の仲違いが解消される快感
モンゴメリ作品では、数十年単位の長い仲違いの末、最後には仲直りして結ばれるという展開もよくあります。
『アンの青春』のミス・ラヴェンダーもそうですし、なによりアン自身も、出逢いから数年間は口もききませんでした。
『アンの友達』でも、想い合いながらもなかなか結ばれない、見ていてうずうずしてしまう人たちは登場します。
「奮い立ったルドビック」
交際期間15年にして、なかなかテオドラにプロポーズしないルドビック。
このエピソードだけアンも登場し、二人をくっつけようと画策します。
知り合いの男性に協力してもらい、仲のいい姿を見せつけるという典型的な作戦。
ルドビックには効果てきめんで、いよいよ奮い立ったのでした。
「ルシンダついに語る」
こちらは、仲違い期間15年。ルシンダとロムニーは婚約中に喧嘩をして以来、15年間口をきいていない。
これって、ふつうなら別れたということになりますよね。ちがうんです。
二人は口はきかないけれど想い合っていて、婚約の間柄は続いているんです。
この頑固さも、血筋として本人も周りもすませてしまうのもおもしろい。
あるハプニングから、ルシンダはロムニーについに口をききます。
そのセリフがかわいらしい!ぜひ読んでみてね。
「オリビア叔母さんの求婚者」
こちらは、20年。オリビアは若いころにマルカムとの結婚を父親に反対され、マルカムはブリティッシュ・コロンビアへ行ってしまった。
20年ぶりに帰ってくるマルカムと婚約したオリビア。
しかし、きれい好きで家の中が整っていないと気が済まないオリビアは、玄関に泥をつけても気にしないマルカムにひっかかる。
ささいな違いが積み重なり、とうとうオリビアは、マルカムの求婚を断ってしまう。
最後の最後でのどんでん返しは、見ていてすかっとします!
「縁結び」
こちらも20年越しの愛。
かつてプリシーの崇拝者だったステファンは、プリシーの姉エメリンの反対にあい、結婚をあきらめた。
その後、別の女性と結婚し家庭をつくるが、奥さんと死別し、再びプリシーの愛を勝ち得ようとする。
依然として反対するエメリンを相手に、ステファンと「わたし」ことロザンナ、レオナード牧師は、プリシーと結婚するためのある計画を立てる。
ここでおもしろいのは、姉妹の容姿の対比です。
エメリンは体は大きく、色は黒く、不器量で、またとなく横柄な人がらだった。哀れなプリシーはまったくその圧政下にあった。(中略)
プリシーは、ほっそりとした体つきで、頬はバラ色、青い訴えるような目をしており、うすい金色の髪はくるくると小さな輪を作って顔のまわりにまつわっていた。
出典:モンゴメリ『アンの友達』2008年、新潮社
こんなにはっきりと善と悪を分けてしまう、モンゴメリのユーモア。
「めいめい自分の言葉で」に登場するレオナード牧師が、ここでも登場し、いい仕事します。
「争いの果て」
こちらも20年のブランクがあります。
かつて婚約していたピーターとナンシー。
ささいなことから口論になり、ナンシーはピーターと別れモントリオールで看護師として働く。
20年後アヴォンリーに戻ってきたナンシーは、ピーターがいまだ独り者であることを知らされる。
ある日、ちょっとしたいたずら心から、ナンシーはピーターの家へ入り込み、掃除をしていると・・・
『アンの友達』最後のエピソードは、ハッピーエンドで締めくくられます。
ちょっといじわるな女性たち
悪気はないけどおせっかいで、ときにちょっと意地悪な女性たち。
『赤毛のアン』のレイチェル・リンド夫人のような、ピリッと癖のある女性たちが、『アンの友達』でもいい味出してます。
「小さなジョスリン」
死ぬ前に、かつてかわいがっていたジョスリンの歌をもう一度聴きたい。
そんなナン叔母さんの切実な願いを、軽くあしらってしまうのが、同居している義理の姪のウィリアム・モリソン夫人。
家事もナン叔母さんの世話もきっちりこなすウィリアム・モリソン夫人は、「そんな遠出は叔母さんにはできませんよ。」と軽くあしらってしまう。
悪気はないのはわかるけど、ナン叔母さんは、自らの死を予感している。だから切実なのに、わかってくれません。
結局、雇われ少年ジョーダンの行動によって、ジョスリンはナン叔母さんに歌を披露することに成功します。
こういうザ・主婦みたいな型の女性、モンゴメリ作品に多いです。
「ショウ老人の娘」
こちらの意地悪役はブリュエット夫人。
ショウ老人はひとり暮らし。学校を卒業し、明後日帰ってくる娘セーラを心待ちにしていた。
そこへ、長年の隣人ブリュエット夫人はやってきて、いらんことを言う。
セーラが返ってきて幻滅する理由をさんざん並べた後で、こんな言葉を言い放つ。
親切心からあなたに言っときますけど、おそらくセーラはあなたを見くだすでしょうから、あなたもその心構えでいなさるがいいですよ。
もちろん、セーラにすれば、あんなにかたい約束をした手前、帰らなくちゃわるいとでも考えてるんでしょうがね。
出典:モンゴメリ『アンの友達』2008年、新潮社
ひ、ひどすぎる・・・。
セーラとの再会に喜ぶショウ老人と、最後にセーラが言った言葉を、ブリュエット夫人にも聞かせてやりたくなります。
「隔離された家」
このエピソードに出てくる婦人は、ピーター・マクファーソン。
彼女は意地悪ではないが、生粋のレイチェル・リンド型です。
天然痘の疑いがあると知らずに入ってしまったアレキサンダー・エイブラハムの家で、ピーターは数週間隔離されることになる。
他人の家にもかかわらず、自分が家事をしやすいように家を整え、毎日掃除と食事の用意をしなければ気が済まないピーター。
やがて二人の間に愛情が生まれ、エイブラハムがいよいよ天然痘の症状が出てきたとき、ピーターは義務として、医者にも有無を言わさず看病する。
その押しの強さはおせっかいでもあるけれど、心強くもあります。
感想おさらい
ドラマ「アボンリーへの道」も必見!
引用元:NHKエンタープライズ ファミリー倶楽部『アンの友達』に収められているエピソードには、カナダの人気ドラマ「アボンリーへの道」と内容がリンクするエピソードもあります。
「アボンリーへの道」は、それ自体にファンも多く、特にアン・シリーズを好きな人なら絶対にはまるドラマです。
次に紹介する3つのエピソードは、ドラマと筋が一緒なので、合わせて観ると、おもしろさ倍増です。
『アンの友達』エピソードタイトル | 『アボンリーへの道』エピソードタイトル |
ロイド老淑女 | 心にひびく歌声(シーズン1第5話) |
オリビア叔母さんの求婚者 | アビゲールの求婚者(シーズン1第7話) |
隔離された家 | すてきな看護婦さん(シーズン1第3話) |
他出版社の『アンの友達』リスト
今回の記事は、村岡花子翻訳の新潮文庫『アンの友達』(2008年、完訳版)をもとに書いています。
新潮文庫以外の『アンの友だち』を紹介します。
講談社文庫
講談社文庫は、掛川恭子による完訳版。
ハードカバー
講談社からの完訳版は、ハードカバーの児童向けでも出版されている。
銅版画家の山本容子の挿絵が入っていて、豪華。
講談社青い鳥文庫
講談社青い鳥文庫のアンシリーズは、新潮文庫と同じ村岡花子の翻訳。
完訳版ではなく、児童向けに編集されたもの。
シリーズ通して挿絵をHACCANが手がけていて、子どもたちが手に取りやすいように仕上げている。
『アンの友だち』は2021年10月に刊行。
ポプラポケット文庫
ポプラ社の児童文庫、ポプラポケット文庫からは、村岡花子訳『アンの友達』が出版されている。
表紙のイラストは、透明感ある水彩画で多くのファンがいる内田新哉。
電子書籍
Kindle版の出版社、グーテンベルグ21からは、角川文庫のアンシリーズで翻訳を手がけた中村佐喜子訳の『アンの村の人々』を読むことができる。
この『アンの村の人々』は、1965年に角川文庫より刊行されたものだが、現在紙書籍は絶版となっている。
角川文庫で中村佐喜子翻訳のアンシリーズを読み進めてきた人におすすめ。
まとめ
『アンの友達』みどころまとめ。
『アンの友達』結局全エピソードを紹介することになってしまいました。。
どれ一つ、見逃してほしくないエピソードです。
まだ、赤毛のアンが主役のシリーズしか読んだことがないっていうあなた。
また違う魅力を感じられる『アンの友達』を、ぜひ読んでみてね。
新潮文庫シリーズ合本版
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