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小説『ムーミン谷の冬』あらすじと感想。一人冬眠から覚めるムーミン

2019年6月9日

『ムーミン谷の冬』はトーベ・ヤンソンの小説「ムーミン」シリーズの6作目。

ムーミントロールがひとリ冬眠から目をさまし、初めて冬の世界を見る

おしゃまさんと心を通わせながら、冬の静けさと魅力を知っていく。

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  • 小説『ムーミン谷の冬』のあらすじと見どころを知りたい
  • アニメの『ムーミン谷の冬』について知りたい

『ムーミン谷の冬』とは?

『ムーミン谷の冬』(原題”Trollvinter”)は、フィンランドの女流作家・画家のトーベ・ヤンソンにより、1957年に刊行された。

1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作の第6作目。

トーベ・ヤンソンは今作で国際アンデルセン賞作家賞を受賞した。

日本では1964年、山室静訳、池田龍雄挿絵で講談社刊「少年少女新世界文学全集 第27巻」に掲載された。

日本で一番初めに刊行されたムーミンシリーズは、この『ムーミン谷の冬』である。

参考:「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」図録、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ・カルヤライネン著、セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社、2014年、Wikipedia

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登場人物

  • ムーミントロール:今作の主人公。ムーミン一家の好奇心旺盛な優しい男の子。
  • ちびのミイ:ミムラねえさんの妹。裁縫箱にもぐりこめるほど小さい。

冬にあらわれる

  • おしゃまさん:冬の間水あび小屋で暮らす、穏やかで冷静な女の子。
  • モラン:触れるものを凍りつかせる女の魔物。
  • スキーをするヘムレン:スキーとラッパが得意な陽気なヘムレン。
  • めそめそ:帽子をかぶりぼろきれをまとったイヌ。オオカミにあこがれている。
  • サロメちゃん:はい虫の女の子。スキーをするヘムレンを尊敬する。
  • ご先祖さま:毛むくじゃらの小さな生き物。ムーミン族の先祖といわれている。

春に目をさます

  • ムーミンパパ:ムーミントロールの父親。夢見がちでロマンチスト。
  • ムーミンママ:ムーミントロールの母親。常に黒いハンドバッグを携帯している。
  • スノークのおじょうさん:ムーミントロールのガールフレンド。
  • ミムラねえさん:ミムラ兄弟姉妹の長女。しっかり者でさばさばした性格。

参考:Wikipedia

 

あらすじ

まっ白な雪にうもれたムーミン谷。みんなといっしょに冬眠にはいったムーミントロールは、どうしたわけかひとり、目をさましてしまいます。

外に出ると、そこは白一色の世界!(中略)はじめて知る冬の世界は、おどろきと出会いがいっぱい!

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2014年

 

ももちん
このあとは詳しいあらすじ。(ネタバレあり) 感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想

第一章 雪にうずまった家

真冬のある日、ムーミントロールが一人冬眠から目をさます

初めて雪を見て外に出てみる。

姿をあらわさないが流しの下に住人がいるのに気づく。

 

第二章 水あび小屋のふしぎ

しっぽのりっぱなりすがほらあなの近くで眠っていたミイを起こしてしまう

ムーミントロールがおしゃまさんに出会う

おしゃまさんが冬の間暮らしているムーミン家の水浴び小屋には、姿の見えないとんがりねずみがいる。

 

第三章 大きな白うま

薄暗く孤独な日々を過ごしていたムーミントロールはミイと会い喜ぶ。

おしゃまさんが雪のうまを作る。

氷姫がやってきてりすを凍らせてしまう。

ムーミントロールたちはりすのお葬式をし、雪のうまはりすをのせて遠くに行ってしまう。

 

第四章 おかしな人たち

闇の生き物たちが「冬の大かがり火」をたき、ムーミン屋敷の流しの下の住人やモランが姿をあらわす。

翌日お日さまが出てムーミントロールは大喜びする。

ムーミン一家のご先祖様が姿をあらわしムーミン屋敷の模様替えをする。

 

第五章 あたらしいお客たち

だんだん日が高くなり、たくさんのお客が食べ物を求めてムーミン屋敷にやってくる。

犬のめそめそ、はい虫のサロメちゃん、スキーをするヘムレンの登場。

ムーミントロールたちは元気すぎるヘムレンさんになじめないが、春を予感させる吹雪が通りすぎると少しずつ活動的になる。

ヘムレンさん、めそめそ、サロメちゃんはおさびし山へ向かう。

 

第六章 春がきた

お客たちは帰り、ムーミントロールとミイとおしゃまさんだけになる。

3人は春の訪れを体験し、凍ったりすも元気に動き出す。

ムーミンママたちが冬眠から目覚め、いつもの春にムーミントロールは幸福を感じる。

 

『ムーミン谷の冬』感想

『ムーミン谷の冬(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

『ムーミン谷の冬』は、シリーズの中で唯一「冬」を舞台に描かれている物語。

他の作品のように、冒険したりハプニングや楽しいことがあったりするのとはちょっとちがう。

ムーミントロールが、家族も見知った友だちもいないなか生まれて初めての冬を過ごす。

孤独や懐かしさをこえて、かつて感じたことのなかった心の内側の静かな部分があらわれる

ももちん

舞台が「ムーミン屋敷のまわりだけ」というのもあたらしい。

閉鎖された空間の中での物語は、後の『ムーミンパパ海へいく』を思わせる。

 

『ムーミン谷の冬』ポイント

ひとりぼっちのムーミントロール

冒頭では、冬まっただなかの夜に一人目をさましてしまうムーミントロールの、ぼんやりとした不安や寂しさが描かれている。

前作までは、どんな災難にあってもかならずムーミンパパやママ、仲間たちの誰かと一緒だった。

ムーミントロールの優しさや勇気、好奇心旺盛なところだって、誰かが一緒だから発揮できたんだよね。

それがたったひとり見知らぬ冬に起きてしまったら、その心細さはどれだけのものだろう?

今では、ムーミントロールはただ寂しく誰かがいた夏を懐かしむことしかできない。

そっとママのふとんの上にまるまって朝を待つムーミントロールのそばにいてあげたくなる。

 

はじめての孤独と恐怖

屋根の窓からはいだしてみると、そこには一面まっしろの世界とつんと冷たい空気のにおい。

生き物の音は何一つしない、静けさの世界。

冬も雪もまったくはじめてのムーミントロールにとって、それは不気味なものでしかなかった。

歩きはじめてまもなく雪の上に足跡を発見したとき、ムーミントロールのはりつめていた気持ちが一気にあふれだす。

それはひとりじゃないという安堵と、これまで感じないようにしていた「恐怖」

「おうい、待ってくれ。 ぼくをおいてっちゃあだめだよ」

彼はむちゅうでさけびながら、雪の中をはしりだしました。

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

ムーミントロールが感じた恐怖とはなにか怖いものがいるからじゃなく、「なんにもいない、ひとりぼっち」であることからくるもの。

これはそのまんま「死」の恐怖とつながっている。

今までは他人との関わりで保っていた「自分」という存在。

そんな「自分」を確認できる人がひとりもいないなかひとりで過ごすって、本当に怖いことなんだよね。

誰かがいるかもしれないと思ったとたん安心して泣いちゃう気持ち、よくわかる。

 

冬をおもしろがるミイ

一方別の場所で目を覚ますのが、ちびのミイ。

ミイが初めて雪を見たときの反応はムーミントロールと対照的。

なるほど、おかしな気持ちがするものだこと

そういうなり、ミイは小さい雪玉をまるめて、りすの頭にぶつけました。それから、ほらあなをとびだして、冬せいばつにとりかかりました。

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

雪を見て思い悩むナイーブなムーミントロールと、これはおもしろいとわくわくして雪に乗りだすミイ。

はじめての体験に対してつくりだすそれぞれの反応に「当たり前」はないんだなあ、と思った。

「ひとり」であることを1ミリも悲しまずに、いま目の前にある世界にためらわず踏み出す小さなミイに、体験する前に深く考えることの無意味さを突きつけられる。

 

冬を知っているおしゃまさん

ムーミントロールが目覚めてから初めて言葉を交わすのは、森で雪のランプを灯していたおしゃまさん

ももちん
おしゃまさんを見つけたときのムーミン、心底ほっとしただろうなぁ。

おしゃまさんは、冬の間ムーミン一家の水浴び小屋に住む女の子。

ひとり暮らしを自分流に楽しむ様子や落ち着いた語り口は、まるで女の子版のスナフキンみたい。

おしゃまさんは自分が知っている「冬」についてシンプルに教えてくれて、ムーミントロールに安心感をもたらすんだよね。

 

名言にしびれる

おしゃまさんは決して口数が多くはないけれど、たまに話す言葉がとっても知的でしびれる。

最初にムーミントロールと話したときも、空に輝くオーロラを見上げてこんなセリフをいう。

ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

哲学的すぎて大人のももちんにもよくわからんけど、なんかかっこいい・・・!

ムーミントロールにもよくわかっていないんだけど、おしゃまさんはそこで話を続けない

おしゃまさんは自分の言葉を、一緒にいる誰かにわかってもらおうとはさらさら思っていないんだよね。

おしゃまさんにとって、「わかりあう」ということはそんなに重要じゃない。

ムーミントロールにとってはちょっと物足りない友情だけど、だからこそおしゃまさんは、ひとりでも誰かと一緒でも居心地よく穏やかに過ごしているんだよね。

 

夏と冬、どっちが本当?

今作でおしゃまさんとムーミントロールは何度もかみ合わない会話をする。

ムーミントロールが話すこと夏のことばかりで、冬を過ごしなれているおしゃまさんにとってはとても偏った考えなんだよね。

ムーミントロールが銀のお盆を盗まれたと文句を言ったときも、一緒になって怒ったりしない。

あんたたちはいったい、あんまりいろんなものをもちすぎてるのよ。思い出の中のものや、ゆめで見るものまでさ

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

今ここにないものを懐かしむことに興味がないおしゃまさん。

共感を求めているのに、してもらえないムーミントロール。

このすれ違いにムーミントロールは不満を感じるんだよね。

だけどこの不満も、誰かと出会えたからこそ感じられる幸せな不満。

ムーミントロールはもう本当のひとりぼっちの恐怖におびえることはなく、大声で冬への戦いの歌をうたいながら歩くんだ。

 

死んだりすに対する反応

氷姫が凍らせたりすのお葬式をする場面は、ムーミントロールたちのそれぞれの反応がちがうのが興味深い。

 

悲しむという感情がないミイ

ミイは、りすが死んだと判断すると平気で「しっぽでマフをつくる」という。

ムーミントロールの反対にあいマフはあきらめるものの、お葬式の場面でもおもしろそうにスキップする。

ムーミントロールが「きみはちっとも悲しんじゃいない」と言われると、ミイは悪びれずに答える。

あたいがかなしんだら、それがりすさんにとって、なにかの役にたつの。

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

「悲しみ」という感情は、たしかに役に立つかと言われたらそうじゃないのかもしれないってはじめて思った。

だからってミイに愛がないわけではない。

ミイにとって、愛とはとくに「怒り」を通して表現するもの。

「怒り」はいましめたり助けたりするのに役立つけれど「悲しみ」は何の役にも立たない、とミイは考えているんだね。

ももちん

誰かが死んだとき悲しむのが「当然」「正しい」って思ってたけど、そうじゃないのかも?

 

感傷的なムーミントロール

死んだりすを見て強いショックと悲しみを感じるのがムーミントロール。

ムーミントロールは、目の前で何かが死ぬのを見るのは初めてなのかもしれない。

めずらしく「りすのお葬式をする」と自分の意見をゆずらないところに、もともとある優しさがあらわれている。

みんなお葬式をするのは初めてだったけど、ムーミントロールはおごそかに指揮をとる。

ももちん

誰かが死んだときのムーミントロールの悲しみは、人間にはなじみぶかい感情だよね。

 

現実的なおしゃまさん

おしゃまさんは、りすを見つけたとたんいちはやく外へ出てリスをつかまえて中にいれる。

りすが死んでいるとわかったとき、ミイやムーミントロールどちらかに賛成することはしない。

いくつもの冬を経験しているおしゃまさんにとって、「死」というものはムーミントロールよりずっと身近なもの。

本来「死」というものは自然の摂理であって悲しむものではないってこと、よくわかっているんだね。

だけどおしゃまさんには、ミイのように悲しみという感情がないわけではない。

ムーミントロールの「お葬式をしたい」という意志に賛成し、はしゃぐミイには「だまりなさい」ときびしく言う

ムーミントロールのように悲しみを全面にあらわさないけれど、「りすくんの詩」を朗読し送り出す姿にじんとくる。

 

冬から春への心の変化

季節は少しずつめぐり、「冬の大かがり火」を経てお日さまを迎え、ムーミン屋敷にはお客さまも現れ始める。

外側の環境が変わっていくにつれ、ムーミントロールはいつの間にか冬になじんでいる自分を発見する。

 

冬の大かがり火とモラン

三人が体験する「冬の大かがり火」は、「光をおそれるこの世のものではない動物たち」の不気味なたき火。

「お日さまの出る前の日」にする冬の折り返し地点の儀式なんだよね。

ここで姿をあらわすのが、冷たい女の魔物モラン。

モランはあたたかさをもとめて火の近くにくるんだけど、火は消えてしまいひとり寂しく暗闇の中へ消えていく。

『たのしいムーミン一家』や『ムーミンパパの思い出』にも登場するモランは「おそろしい魔物」というイメージが強く、嫌われる存在だった。

今作で初めてモランの寂しさが描かれ、その寂しさを理解しているのがおしゃまさんなんだよね。

ももちん

『ムーミンパパ海へいく』では、ムーミントロールはモランに同情し優しくしてあげる場面があるよ。

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お日さまが顔を出す

大かがり火の翌日お日さまが出るのをいままで一番強く願っていたのは、もちろんムーミントロール。

喜びを素直にミイへのキスで表現するムーミントロールと、キスを嫌だと素直に表現するミイ、かわいい。

この日、ムーミントロールは初めて落ち着いた心で心地よく夜を過ごす。

初めてお日さまが出た日は、皮肉にもムーミントロールが初めて寂しさを感じずに夜を過ごした日でもあった。

冬も半ばを過ぎて、とうとうムーミントロールは冬を受け入れたんだね。

 

静けさを乱すヘムレンさん

ある日訪れるヘムレンさんとの関わりによって、ムーミントロールは心の葛藤と成長を体験する。

はじめムーミントロールは、ラッパふいたりスキーをすべる元気の良いヘムレンさんを好きになれない。

ももちん
冬の静かな暮らしの居心地の良さを乱すものに違和感を感じたんだね。

このヘムレンさん、ももちんからみても騒がしくてじゃまっけに感じた。

なにより困るのは、スキーや水泳をまわりにもすすめること。

ムーミントロールはやりたくもないスキーをやらされ、できなくてしょんぼりしてしまう。

ヘムレンさんは、自分がしていることが誰にとっても正しいことだと思いこんでいるんだよね。

 

ムーミントロールの心の成長

ある晩おしゃまさんはムーミントロールに、ヘムレンさんにでていくように仕向ける計画をもちかける。

おしゃまさんは意地悪なのではなく、ヘムレンさんにおびえていた他の住民たちのことを気遣っていたんだよね。

ムーミントロールのうそを心底信じ切ったヘムレンさんを見て、ムーミントロールは突然我に返る。

自分が人をだましているのだと気づいたムーミントロールは、必死でヘムレンさんを行かせないようにとめる。

冬の静けさを味わいながらも人と関わるあたたかさやめんどくささも知り、ムーミントロールの心は一回り大きくなった。

 

サロメちゃんはヘムレンさんが好き

意外にもヘムレンさんのことが大好きなのが、臆病なはい虫のサロメちゃん。

サロメちゃんはヘムレンさんがラッパをふくのが大好きで、一生懸命それをヘムレンさんに伝えようとするところがかわいい。

吹雪の中ヘムレンさんを探していなくなったサロメちゃんを、ヘムレンさんは必死で探し助ける。

ももちん
ヘムレンさんもここで、サロメちゃんに優しくなかったことを反省するんだよね。

このふぶきの一件で、ムーミントロールもおしゃまさんも他のお客たちもヘムレンさんを好きになり始める

 

春の訪れと心の雪解け

いよいよ春が訪れる。

吹雪や雪解けを体験しながら、ムーミントロールは家族の目覚めを待つ。

 

春の手前の吹雪

物語の後半でムーミントロールが初めて体験する吹雪は、実は春の始まりを告げるもの。

吹雪に出会ったときムーミントロールははじめ、風を体中に受けながら向かっていくんだよね。

だけどとうとう疲れて、吹かれるにまかせてみる

するととたんに体が軽くなり、きもちよく動いていけることに気づいた。

さあ、いくらでもおどかすがいいや。もう、おまえのやりかたはわかったぞ。

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

これは吹雪のみならず、人生の中で試練がやってきたときの対処とそのまま通じるものがある。

嫌なことに思いっきり抵抗して対処するのもいいけど、力を抜いてまかせてみたら思いのほか楽にすすむこともある

 

おしゃまさんの意図

春の風がはっきりと感じられるようになる頃には、ムーミントロールは家族が目覚めることをおそれるくらいいまの暮らしを満喫していた。

おしゃまさんは水浴び小屋の掃除をし、めずらしくこれからくる夏のことを言いはじめる。

なぜ真冬の寂しいときにその話をしなかったの、ときくムーミントロールにおしゃまさんはこう答える。

どんなことでも、自分で見つけださなきゃいけないものよ。そうして、自分ひとりで、それをのりこえるんだわ

引用元:『ムーミン谷の冬』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

あのさびしかった真冬、おしゃまさんがムーミントロールをなだめるようなことを言わなかったのは、「自分で見つけ乗り越えること」を大切に思っていたから

結果的にムーミントロールは孤独をのりこえ、人との関わりから自分を知り、冬を好きになった。

 

家族の目覚め

やがて氷が溶け海に水が戻ってきたとき、ムーミントロールのくしゃみをきいてムーミンママは目覚める。

目覚めたママは何事もなかったように、ムーミントロールのお世話、家中の掃除をはじめる。

目覚めた瞬間から「ママ」としての役割を当たり前のようにこなすのが、さすがムーミンママ。

おしゃまさんのてまわしオルガンの音で、ミムラねえさん、スノークのおじょうさん、ムーミンパパも目をさまし、またいつもの春が始まる。

 

感想おさらい

 

『ムーミン谷の冬』補足

小説『ムーミン谷の冬』を読むとき参考になる情報を紹介するよ。

 

フィンランドの冬

前作『ムーミン谷の夏まつり』は、北欧の「夏至祭」や「白夜」を思わせる描写がたくさんあった。

北欧の人たちにとって短い夏の訪れは、めいっぱいお祝いし喜びを分かち合う大切な季節なんだよね。

一方で冬は日がさす時間が短く、暗く長い凍てつく夜が続く。

『ムーミン谷の冬』には、北欧特有の冬の情景・文化が描かれているので紹介するね。

 

キャンドル

ムーミントロールがおしゃまさんと初めて出会ったとき、おしゃまさんはキャンドルの周りを雪玉で囲んだ「雪のランプ」をこしらえていた。

キャンドルの小さい火は、みているとほっと落ち着くような「心のあたたかさ」をもたらす。

北欧では、暗い冬を乗り越えるためにキャンドルは欠かせないもので、室内でも外でもたくさんのキャンドルを灯す

 

オーロラ

ムーミントロールとおしゃまさんが「雪のランプ」を楽しんでいるとき、空に輝くのがオーロラ。

北欧の北極圏で冬に見られるオーロラは、夜空を神秘的に彩る。

太陽が姿をあらわさない極地で、オーロラの光は暗く冷たい空を一層きわだたせる

ももちんが一度フィンランドでオーロラを見たとき、その美しさに感動する半面、たまらなく太陽が恋しくもなった。

 

たき火

今作で、お日さまが姿を見せる前の日に海岸でたかれるのが「冬の大かがり火」

スウェーデンでは毎年4月30日に古い家具や木材を燃料に大きなたき火を燃やし、新しい季節の訪れを祝う。

今作では季節がちょっとずれているけれど、ムーミン屋敷にあった古いベンチなどを燃やした。

わかりやすく「古いもの」を燃やすことで、「新しいもの」を迎え入れる心の準備も整っていくんだね。

 

おしゃまさんのモデルはトゥーリッキ・ピエティラ

引用元:トーベ・ヤンソン - 「HARU-the Island of the Solitary」「Tove and Tooti in Europe」/ Victor Entertainment

おしゃまさんは今作のほか、次作『ムーミン谷の仲間たち』にも登場する。

知的で独立心があるおしゃまさんは、トーベ・ヤンソンが長年連れ添ったパートナー、トゥーリッキ・ピエティラがモデル

トーベが書いた小説『ムーミン谷の冬』(一九五七)では、トゥーリッキ・ピエティラに対する恋心と愛情が描かれている。この本は、ふたりが同棲を始めて一年が経った頃に出版された。二〇〇〇年の三月、トーベは「『ムーミン谷の冬』を執筆することができたのは、すべてトゥーティのおかげだった」とトゥーリッキに感謝の意を表している。

引用元:『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ・カルヤライネン著、セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社、2014年

この頃すでにムーミン作家として売れっ子だったトーベは、原稿の締切や契約、コミックスの連載などに追われ、疲労やストレスも大変なものだった。

そんなとき、一緒にいて癒やし励ます存在だったのが、トゥーリッキなんだよね。

映像で見るとフォルムもおしゃまさんぽくてかわいらしい。

グラフィックデザイナーとしても活躍していたトゥーリッキは、トーベとともにムーミン屋敷の立体模型など多数の立体作品の制作を手がけた。

トーベとトゥーリッキは1964年から25年以上にわたり、フィンランドの孤島クールヴ島で夏を過ごした。

二人が撮影した映像は、自然と共存しつつましく暮らす日々の豊かさを思い出させてくれる。

参考:Wikipedia、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ・カルヤライネン著、セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社、2014年

 

『ムーミン谷の冬』が読める本の形

今回ももちんが読んだのは、講談社文庫の『ムーミン谷の冬』。

『ムーミン谷の冬』は、文庫以外にも、児童文庫やハードカバーで刊行されている。

 

ソフトカバーの新版

『ムーミン全集[新版]5ムーミン谷の冬』トーベ・ヤンソン作、山室静訳、講談社、2020年

2019年3月に講談社より新しく刊行されているのが、ソフトカバーの『ムーミン全集[新版]』

講談社1990年刊のハードカバー『ムーミン童話全集』を改訂したもの。

翻訳を現代的な表現・言い回しに整え、読みやすくし、クリアなさし絵に全点差し替えられている。

ソフトカバーなので持ち歩きやすい。

これから「ムーミン」シリーズを買って読もうと思っているなら、最新版のこちらがおすすめ。

『ムーミン谷の冬』は2020年2月刊行。

電子書籍版あり。

 

新版はココがおすすめ

  • 翻訳が現代的な表現、言い回しに整えられているので読みやすい
  • クリアなさし絵に全点差し替え
  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • ソフトカバーなので持ち歩きやすい
  • 電子書籍で読める

 

講談社文庫

『ムーミン谷の冬(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

講談社文庫の「ムーミン」シリーズは、1978年に初めて刊行された。

2011年に新装版が刊行。

写真では2011年刊行時の表紙だが、2019年3月現在、フィンランド最新刊と共通のカバーデザインに改められている。

文庫版だけど挿絵が豊富で、ふりがなも少なく読みやすい。

大人が手軽にムーミンを読みたいなら、講談社文庫がおすすめ。

電子書籍版あり。

 

文庫はココがおすすめ

  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • 値段がお手頃で気軽に読める
  • 電子書籍で読める

 

青い鳥文庫

『ムーミン谷の冬(新装版) (講談社青い鳥文庫)』トーベ・ヤンソン作、山室静訳、講談社、2014年

講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。

「ムーミン」シリーズは2014、2015年に新装版が刊行された。

児童文庫だけど、字は小さく漢字も多い。ふりがなもふられているが、難易度は文庫版とそんなに変わらない

 

児童文庫はココがおすすめ

  • 文庫よりサイズが大きめで読みやすい
  • ふりがな付き
  • 児童文庫にしては文字が小さいので、子どもが読むなら童話全集か新版の方がおすすめ

 

映画やアニメで描かれる「ムーミン谷の冬」

「冬」をテーマにしたお話は、映画やアニメでも描かれている。

小説『ムーミン谷の冬』とストーリーやキャラクターがかぶるところもあるので、紹介。

 

パペットアニメーション

1979年、トーベ・ヤンソンとラルス・ヤンソン監修のもとポーランドで制作されたのは、パペットアニメーション(全78話)のムーミン。

日本では、カルピスまんが劇場シリーズでムーミンの声をつとめた岸田今日子が一人ですべてのキャラクターの吹替を演じ、1990年にNHKBS2で放映された。

2012年、フィンランドでデジタル・リマスター版が制作されると、日本でも松たか子・段田康則の吹替で再吹き替えされた。

どちらの吹替版でも小説『ムーミン谷の冬』を元にしたエピソードが8話収録されており、原作の世界をパペットアニメーションでたっぷり味わえる。

参考:Wikipedia、『pen』2015年2月15日号(CCCメディアハウス)

岸田今日子版・全78話

松たか子・段田康則版・冬の巻・全10話

 

映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』

引用元:映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』 公式サイト

『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』は、デジタル・リマスター版のお話を劇場版に編集し、2017年に公開された。

主人公・ムーミントロールの吹替は宮沢りえが担当している。

『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』公式サイト

 

アニメの「冬」のお話を集めたDVD

『楽しいムーミン一家』『楽しいムーミン一家 冒険日記』は、1990-1992年にかけてテレビ東京で放送されたアニメシリーズ。

『ムーミン谷の冬〜クリスマス〜』は、冬のお話4話(「スナフキンの旅立ち」「ムーミンとミイの大冒険」「ムーミン谷の冬の住人」「帰ってこないスナフキン」)をセレクトしたDVD。

小説『ムーミン谷の冬』をベースとしたお話は「ムーミンとミイの大冒険」「ムーミン谷の冬の住人」。

『楽しいムーミン一家』『楽しいムーミン一家 冒険日記』のDVDは、権利上の問題から、2019年3月現在発売されていない。

中古品の販売や図書館での視聴はすることができる。

参考:Wikipedia

『楽しいムービー一家 』公式サイト

 

まとめ

小説『ムーミン谷の冬』見どころまとめ。

 

ムーミントロールがはじめての冬と一人を知り、冬の住人と心を通わせながら新たな自分を知っていく物語。

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ムーミンの記事

 

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ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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