小説『ムーミンパパ海へいく』感想。灯台守になるパパと家族の気持ち

2019年7月4日

 『ムーミンパパ海へいく』はトーベ・ヤンソンの小説「ムーミン」シリーズの8作目。

ムーミンパパが家族を連れて島へ移住し、灯台守になる。

パパ、ママ、ムーミントロール、それぞれの心の変化を繊細に描いている。

シリーズの中でムーミン一家が登場する最後の作品。

この記事で紹介する本

こんな方におすすめ

  • 小説『ムーミンパパ海へいく』のあらすじと見どころを知りたい
  • シリーズの中で大人向けの作品を知りたい

1.『ムーミンパパ海へいく』とは?

『ムーミンパパ海へいく』(原題”Pappan och havet”)は、フィンランドの女流作家・画家のトーベ・ヤンソンにより、1965年に刊行された。

1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうちの第8作目。

日本では1968年、小野寺百合子訳で講談社より刊行された。

参考:Wikipedia

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2.あらすじ

毎日が平和すぎてものたりないムーミンパパは、ある日一家と海をわたり小島の灯台守になります。

海はやさしく、ある時はきびしく一家に接し、パパはそんな海を調べるのにたいへんです。

機知とユーモアあふれるムーミン物語。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

登場人物

  • ムーミントロール:ムーミン一家の好奇心旺盛な優しい男の子。
  • ムーミンパパ:ムーミントロールの父親。夢見がちでロマンチスト。
  • ムーミンママ:ムーミントロールの母親。常に黒いハンドバッグを携帯している。
  • ちびのミイ:裁縫箱にもぐりこめるほど小さい女の子。今作でムーミン一家の養女となっている。
  • モラン:触れるものを凍りつかせる女の魔物。

初登場

  • うみうま:海からあらわれて、月夜の砂浜で美しく舞う生きもの。
  • 漁師:島のはずれにある小さな家に住む無口な男。

参考:Wikipedia

エピソード一覧

  1. 水晶玉の家族:ムーミン谷での暮らしに不満のパパ
  2. 灯台:島に到着し、灯台での暮らしが始まる
  3. 西風:パパの仕事始め、ムーミントロールがうみうまと出会う
  4. 北東の風:パパの失敗、ムーミントロールとモランの交流
  5. :ママの趣味、ムーミントロールの家出
  6. 月がかけていく:ママの壁画、ムーミントロールとうみうまの交流
  7. 南西風:島の変化、漁師との交流
  8. 灯台もり:漁師が灯台守へ

 

3.『ムーミンパパ海へいく』感想

『ムーミンパパ海へいく(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、小野寺百合子訳、講談社、2011年

今作は、ムーミンパパが家族を連れて小さな島へ移り住み、灯台守になるお話。

登場人物はムーミンパパ、ママ、ムーミントロール、ミイ、漁師、モラン、うみうま。だけ。

海に囲まれた島での生活は、興奮するような冒険もなければ、あたらしい知り合いもいない。

単調な暮らしの中で、家族それぞれが自分自身の心と向き合い、変化していく様子が繊細に描かれている。

 

 

 

 

3−1.ムーミン一家の心の変化

『ムーミンパパ海へいく』は、シリーズの中で、ムーミン一家が登場する最後の作品でもある。

前作までの7作で、ムーミン一家のそれぞれのキャラクターって、ある程度確立していたと思う。

ももちん

勇気と好奇心があるムーミントロール。

いつでもやさしく家族をみまもるムーミンママ。

夢見がちでロマンチストなムーミンパパ。

この変わらないキャラクターが、読者を安心させてくれる面もあった。

だけど、ムーミン一家最後の登場作にして、このキャラクターにヒビが入るんだよね。

そもそも舞台が、みなれたムーミン谷ではなく、初めての島。

失敗続きで夢が打ち砕かれるムーミンパパ。

家族に捧げてきた自分を振り返るムーミンママ。

心の春を迎えるムーミントロール。

すべてをお見通しで変わらない存在のミイ。

慣れない生活と小さなコミュニティの中で、それぞれが自分自身のいろんな気持ちと向き合わされる。

ムーミンシリーズは、6作目の『ムーミン谷の冬』あたりから、冒険色がうすれ、微妙な心の動きが丁寧に描かれるようになっている。

一人ひとりの心の動きが細かく描かれているので、大人になってから読むと共感できるところも多くなってくる。

 

3−2.ムーミンパパの不満

物語の始まりは、8月の終わりのムーミン谷。

なにもかもうまくいっているムーミン谷での暮らしに、冒険好きのムーミンパパはものたりなさをつのらせている。

ある日、パパが居眠りしている間に、ムーミンパパとムーミントロールがボヤを消したとき、自分を呼ばなかったことに怒る。

パパはどんな小さい変化でも自分が立ち会いたいのに、ほかの家族は自分たちで処理してしまうので、仲間はずれにされたと思うんだよね。

ふてくされてボヤのあとを一晩中みはりつづけるパパの態度に、家族も困り顔。

ももちん

パパ、なかなかめんどくさいのね・・・

 

水晶玉をのぞく

そんなくすぶったパパの日課は、庭にある大きな水晶玉をのぞくこと。

水晶玉の向こうには、忙しく動き回るムーミンママやムーミントロール、ミイがうつっている。

水晶玉にうつる家族の姿はとても小さくたよりなく、まるで水槽にかっている魚のように見えたのかもしれない。

そのような想像をすることで、なんとか自分の存在価値を保っていたんだよね。

ムーミンパパは、自分が家族を守り、頼られ、やしなってあげる生活を夢見て、島への移住を考えていく。

ももちん

この水晶玉は、次作『ムーミン谷の十一月』でも登場し、本音を映し出す役割を果たすよ。

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3−3.家族の気持ち

船出にちょうどよい晩がやってきて、ムーミン一家は島へ向けて出発する。

ムーミンパパははりきって舵をとりはじめるけど、ムーミンママやムーミントロールは、どこか上の空

 

ムーミンママ

これまでのムーミンママは、はじめからパパの決めたことには100%賛成してきた。

だけど、今回の島への移住のときは、船出のときからママの心には疑問がわいているんだよね。

おかしいわ。くらしがうまくいきすぎているからといって、悲しんだり、ましてはらをたてるなんて、おかしいわ。だけど、そうなんだからしかたないわ。)

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

ムーミンママはムーミン谷での生活に心底満足していたし、家族の世話や庭仕事といった生活に喜びを感じていた。

だから、そんな生活をわざわざ変えたがるパパに「?」しかなかった。

ムーミンパパの考えを理解したわけではなかったけれど、なにも言わずにパパについていくんだよね。

ももちん
いまの自分にもの足りなさを感じて、外側に「理想の自分」をもとめているパパ

一方で、ママはそのままのパパを愛しているので、これ以上何かをもとめて変わる必要はない、と思っているんだね。

船出が始まると、パパはがぜん元気になってママを休ませる。

くたびれていたママは、すべてをしきりたがるムーミンパパにすべてを任せる。

ムーミントロールがおどろいたのは、大事なハンドバッグさえも砂の上に置きっぱなしだったんだよね。

その力の抜け方は、どこかあきらめに近いものを感じる。

 

ムーミントロールとモラン

パパの冒険好きの性格を引き継いでいるムーミントロールは、あたらしい生活にはワクワクしている。

だけど、それ以上にムーミントロールがなぜか心ひかれるのが、魔物のモランなんだよね。

ももちん
モランは、触れるものを凍らせてしまう、女の魔物。

今作冒頭で、モランはムーミン谷にあらわれ、ランプで明るいムーミン屋敷を窓からのぞく。

それからムーミントロールは、モランのことばかり考える。

ムーミントロールはモランのことを決して好きではないけれど、その孤独を思い、優しくしてやりたいという気持ちがわくんだよね。

一方でモランは、ムーミン屋敷に人の気配がなくなり、海の向こうに明かりが灯っているのを見つける。

モランにとっては、明かりがムーミン一家のものかどうかは関係なく、ただ明かりが見えたから近づくだけ。

明かりが消えたら、また他の明かりが見えるのを待つだけ。

とてもシンプルで、だからこそ不気味な魔物なんだよね。

モランは、ムーミン一家が持っていた明かりを目指し、ゆっくりと追いかけ始める・・・。

 

3−4.からまわりのムーミンパパ

とうとう目的の島に到着し、はりきっているムーミンパパ。

だけど、はじめから想定外のことや失敗ばかりが続く。

やることなすことうまくいかず、パパは、徐々に自分を見失っていく・・・

ももちん

挿絵のパパの目がまんまるで無表情なのが印象的。

なぜ?なにかがおかしいぞ?っていう、パパのあっけにとられている様子が伝わってくる。

 

灯台の鍵がない

島について初めの想定外は、灯台にたどりついたはいいものの、中にはいる鍵がなかったこと。

「ようこそ我が家へ」と、おごそかに灯台の扉のまえにたつパパの背後で、ミイが一言。

「かぎがかかっているわよ」(中略)

ムーミンパパはふりかえって、ぽかんとしてちびのミイを見つめました。

「かぎがかかっているの。おまけにかぎはないのよ」

と、ちびのミイはくりかえしました。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

物語で、はじめに鍵がなくてつまづく展開って、なかなかないよね・・・。

まわりを探しても鍵がなく、がっかりしたムーミンパパ、家族をほったらかして眠ってしまう

ももちん

ムーミンパパ、たよりない・・・。

だけど、このムーミンパパのたよりなさがあると、家族はちょっといきいきするんだよね。

ママは食事づくりの準備にかかり、ムーミントロールはさっそく島の探検に出かける。

 

漁師との出会い

ムーミントロールが島を探検していると、小さな家に住んでいる漁師と出会う。

漁師は、ムーミン一家以外で島に住む唯一の人

当然ムーミントロールは知り合いになりたがり、いろいろ質問するけど、漁師はそっけなく、返事すらしない。

ムーミン一家は漁師と仲良くなることをあきらめ、自分たちだけでなんとかしようとする。

ももちん

この漁師が後にキーマンになっていくよ。

 

鍵を見つけるパパ

パパは起きてからも、灯台の鍵を見つけたいと願うけど、なんのヒントもなく途方にくれる。

しばらく一人になりたくて歩いていると、ふいに崖っぷちに出る。

ここでパパは、前の灯台守が本当に一人になりたいときには、この崖へ来たのかもしれない、と想像する。

しばらく灯台守の気持ちになっていると、ふと手をのばした岩のさけめに鉄の鍵があった。

これこそが、灯台の鍵だった。

前の灯台守の「一人になりたい」と、ムーミンパパの「一人になりたい」がリンクしたからこそたどり着けた場所。

ムーミンパパはこの儀式に合格し、晴れて「灯台守」になれたんだよね。

 

灯台にあかりがつかない

ようやく灯台の中に入ることができたけど、今度は「灯台に明かりをいれる」ことができない。

次の日も、その次の日も、パパは灯台の明かりをなんとかつけようとがんばるけど、つけることはできない。

灯台守の一番大事な仕事が叶えられないパパは、だんだんイライラしてくるんだよね。

そんなときは、下の階で待っている家族すら気に触ってしまう。

家族は、パパが明かりをつけられないことをまったく責めていない。

ムーミンパパ自身が、「灯台守たるもの、こうあるべき」っていうのが叶えられないから、ひとりでイライラしているだけなんだよね。

だけど、そんな自分を家族に見られたくないから、よけいストレスになっていく。

ももちん

だんだん、理想の自分を追いかけても、そうなれないことがわかり始めてきたんだね。

 

明かりがつかない理由

灯台に明かりをつけることができなかった理由は、物語の後半でわかる。

ある日ムーミントロールとミイは、たくさん鳥のお墓が集まっている場所を見つけるんだよね。

その鳥の骨は、ミイが灯台の下で見つけたものと同じだった。

そこからわかったのは、この鳥たちは、灯台の明かりに飛び込んで死んでしまったということ。

まえの灯台守は、毎朝鳥の死体を拾い上げてはここに埋め、あるとき明かりを消して出ていってしまったのかもしれない、とムーミントロールは推測する。

ももちん

前の灯台守が明かりを消したのは、鳥への優しさからだったんだね。

 

つづく失敗

ムーミンパパは灯台に明かりがつけられないかわりに、次から次へと別の仕事をおもいつく。

石をころがし防波堤をつくったり、漁のために海に網をかけたり。

だけど、やることなすことうまくいかず、パパは途方にくれる。

そもそも本当に必要な仕事ではなく、「やることをつくる」ための仕事なんだけどね。

パパの落胆もわかるけど、それ以上に大変なのはムーミンママ。

ムーミンママはパパが失敗するたびになぐさめては、同情を示すんだよね。

ママ自身も慣れない暮らしで不安があるけど、それを見せずにパパを安心させようとするけなげさがたまらない。

 

家族のための食料

家族を養いたくて島へ移住したのに、失敗つづきのパパは、だんだんやる気がなくなっていく。

割れた窓を見ても直す気がなくなり、思いつきでママへのプレゼントのベルトをつくるんだよね。

そのベルトは、割れた窓ガラスの破片や米粒で飾りつけをした美しいものだった。

素敵なベルトをみて、ママはもちろん大喜び。

ももちん

ママは、パパが持ち前のユーモアや優しさを見せたことに喜んだんだね。

だけど、パパはそのとき初めて、ムーミン一家の食べものが尽きかけていることを知るんだよね。

ここで、パパは少し正気を取りもどし、家族が生きていくために自分がするべき唯一のこと、「食料確保」に動き出す

翌日からパパは、釣りだけする日々を送る。

ももちん

いままであんなにこだわっていた「灯台守としての仕事」のことは、考えるのもめんどうになったみたい。

食料がいっぱいになっても釣りつづけるパパに、ちょっとした狂気を感じる。

 

3−5.自分を見直すムーミンママ

島での生活でストレスを感じるのは、ムーミンパパだけじゃない。

これまで献身的にパパを支えてきたムーミンママも、いままでの自分のあり方を見直すようになる。

 

庭いじりを夢みるママ

いつになくぼんやりしていたママが、島ではじめに元気が出るできごとが、土を見つけたこと

ママにとって庭いじりはなによりの楽しみ。

だから、この石だらけの島にも自分の庭をつくれるかもしれないと、わくわくしたんだよね。

すぐに、それは土ではなく海草で、何年も時間をかけて土になるのだ、ということがわかる。

ムーミンママは、次の夏には何も育てられないと知っても、いきいきと庭になる予定の場所に海草を運び集める

パパへの不満から目をそらす

ムーミンパパが釣りに没頭するようになると、ママは違和感をおぼえるんだよね。

(パパは遊びごとではなくて、大まじめなのだわ。(中略)たしかに食べものがたくさんあるというのはいいことだけど、どういうわけか、あまり食べものがないときの方が楽しかったわ。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

きっと、ムーミンママがパパへもとめていたのは、コミュニケーションと思いやり

だからこそ、パパが食料がないときでもママにベルトをつくってくれたことに、心から喜ぶんだよね。

だけど最近のパパは、釣りにしか興味がなく、家族の方に関心を向けていない。

パパへのぼんやりとした不満を感じながらも、ママはそれを感じないように、庭いじりを夢みる。

そんな夫婦のすれ違いをよそに、ムーミントロールは自分の世界を作りあげていく。

家族が何よりも大切なムーミンママが、家族よりも自分の考えに夢中になっていく姿は、いままで見たことがなかった。

パパもママも、いまここから目をそらし、どんどんぼんやりしていく様子が、なんか怖い。

 

壁に絵を描く

ピクニックから帰ってきたムーミンママは、ムーミン谷の楽しい夏を思い出し、ちょっと悲しくなる。

そして突然、部屋の壁に絵を描き始めるんだよね。

ムーミンママの大好きな美しい色とりどりの花の絵。りんごの木や青いベランダ・・・

絵を描きすすめるほど、その全体像は、かつて住んでいたムーミン谷に似てきた。

ママは心の中を絵に描くことで、自分の本音を感じていくんだよね。

パパは、ママが描いた絵の中に海や岩がないことに気がつき、問いかける。

ママはそこで、青いボートの絵を描いてみるけど、うまくいかない。

かきたくないものを、かこうとするのはおよしなさいよ

こういって、ムーミンパパは、おくさんをなぐさめました。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

パパがママの心によりそうセリフがぐっとくる。

ももちん

ようやくパパも、ママが抱えている寂しさに気づいたのかもしれないね。

 

ちょっと壊れる

ムーミンママにとって島の暮らしは大変なものだったけど、ママはそれを怒りや悲しみで表現することがなく、表情も変わらない。

その分、たまに起こるとっぴな言動が、ちょっと怖く感じるんだよね。

 

ひとりひそかに笑う

ある日、ふいにママはパパに「魚はもう十分」というような不満をもらし、パパの機嫌をそこねてしまう。

本当は、パパ自身も釣りには飽きていたんだけど、ほかにすることも思いつかなかったから続けていただけなんだよね。

パパはあっさりと釣りをやめ、今度は島にある「黒池」の探検の計画を思いつく。

ちょっと目をさまし、目を輝かせて探検に乗り出すパパを見て、ママも一瞬ほくそ笑む。

おもしろいぞ。やけにおもしろいぞ

ママは、急いであたりを見まわしました。もちろん、ママが「やけ」なんてわるいことばをつかったのをきいたものは、だれもいませんでした。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

パパが変わる様子に、こっそり悪い言葉を言ってにやつくママは、まるでミイみたい。

ムーミンママの「やさしい妻、お母さん」というイメージにヒビが入った瞬間。

 

雨の中のピクニック

ある日、ぶきみに変わる黒池の様子を見たママは、突然「いますぐピクニックにいくこと」を提案する。

パパは理解できなかったけど、ママは危険を予感し、何かが起こるまえにピクニックで楽しもうとしていたんだよね。

ママの提案にしたがった結果、家族は雨の中のピクニックを楽しむ。

ほんの気休めかもしれないけれど、みんなの不安な気持ちがピクニックによってゆるんだのは確かだった。

いっけん気まぐれにしか思えないような行動だけど、いつのまにか家族を安心させてしまう。

ムーミンマママジックだなぁ。

 

ママとしての役割にうんざりする

非日常なことがつづく島の暮らしで、ママの「ママとしての役割」だけは、唯一変わらないように思われていた

物語では、この絶対的なイメージにもヒビが入るんだよね。

ある日、ムーミンママが姿を消し、家族をおどろかせる。

といっても大げさなものでなく、いつも夕方に家にいるムーミンママがいなかった、というだけ。

実はムーミンママは、家と外を自由に行き来できるミイやムーミントロールを見て、うらやましい気持ちが湧いていたんだよね。

母親というものは、すきなときに外にいって寝るというわけにいかないのがざんねんね。ほんとうは母親こそ、そういうことがときにはできるといいのにさ)

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

すべての母親が共感しそうなムーミンママの気持ち。

家族にとっては、お母さんって家にいて当然の存在。

だけど、それは当たり前のことではないし、お母さんだってその役割をぬぎたいこと、あるよね。

夜遅くに帰ってきたママは、パパに言う。

「たまには変化も必要ですわ。わたしたちは、おたがいに、あまりにも、あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない? そうでしょ、あなた」

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

パパやムーミントロールだけでなく、ママ自身だって、「母親は家にいなければならない」って、ずっと思い込んできた。

その考えに気づき、ちがう行動をとってみたママは、家族から自立するということを少しわかったのかもしれない。

それは、一緒にいながらにして、自分は自由にできるということを知っている、ということなんだよね。

ももちん

このままの変化に、パパも自分をかえりみて、少しずつ変わっていく。

 

3−6.ムーミントロールとミイ

パパとママがあたらしい生活になかなかなじめない一方で、ムーミントロールとミイは持ち前の好奇心で、あたらしい生活にずんずん入り込んでいく。

 

秘密の隠れ場所

ある日ムーミントロールは、しげみの奥に、隠れ家にぴったりの空き地を見つける。

すぐにムーミントロールの気に入ったけれど、難点がひとつあった。

地面一帯に赤アリがすみついていたんだよね。

 

ムーミントロールとミイの「忖度」

ムーミントロールがミイに「アリを引っ越しさせたい」と相談すると、かんの良いミイはすぐにすべてを理解する。

もし、あたいがありを追っぱらったら、あんたはあたいになにをくれる

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

すぐに取引をもちかけるミイ、悪いなー(笑)

後日、ムーミントロールは、空き地のアリが全部死んでいるのを見つける。

ミイが灯油を土にまいて、アリを全滅させちゃったんだよね。

ムーミントロールにとって、この「アリの大虐殺」はとてもショックなことだった。

ミイはまったく罪悪感なく、むしろへこんでいるムーミントロールにきつい言葉を放つ。

「あんたはあたいがありになにをするか、ちゃんと知っていたはずよ。(中略)あんたったら、ほんとに自分自身をだますのがじょうずね!

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

ミイ、するどいなぁ。

なにか悪いことが起こったとき、私たちはつい直接手をかけた人だけが「悪い」って思いがち。

だけど、自分が手をかけていないからって、「私は悪くない」というのはちがう。

自分がなにをしているのか、ちゃんと見なさいよって、ミイはムーミントロールに言っているんだよね。

 

うみうまとの出会い

島での暮らしで、ムーミントロールにとって最も印象的な出来事が、「うみうま」との出会い。

うみうまは、夜の海からときどきあらわれる全身花模様の美しい生きもの。

 

夢中になるムーミントロール

ムーミントロールは、美しいうみうまをひと目見た瞬間に心を奪われてしまう。

きみたちはきれいだねえ。ほんとうにきれいだねえ。ぼくをおいてきぼりにしないでよ!

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

うみうまが去ってしまってからも、ずっとうみうまのことが頭からはなれないムーミントロール。

この「恋に悩む」感じは、スノークのおじょうさんとのときは見られなかったので新鮮だった。

スノークのおじょうさんと一緒のときは、ムーミントロールは男らしさを発揮して、スノークのおじょうさんを守ろうとする。

だけど、うみうまを前にすると、ムーミントロールはとたんに自信がなくなってしまうんだよね。

自分の容姿にコンプレックスを感じるムーミントロール、初めて見た。

うみうまが上から目線でムーミントロールをからかう様子も魅惑的。

ムーミントロールのことを「太っちょのうにちゃん」とか「たまごだけぼうや」とか「たまごの形をしたきのこのぼうや」とか呼ぶんだよね(笑)

ももちん

ムーミントロールにとってうみうまは、美しさの格が違い、近寄りがたいけど心ひかれる「高嶺の花」のような存在だったんだね。

 

モランとの交流

うみうまと対照的に描かれるのが、明かりをもとめてムーミン一家を追いかけてくる魔物のモラン。

ムーミントロールがうみうまに会うために明かりをもって浜辺に出ると、なぜか前後のタイミングでモランがあらわれる

ムーミントロールはモランが好きではないけれど、無視することもできない

毎晩浜辺にでては、モランが明かりをもとめて現れるのを待つんだよね。

美しい魔性のうみうまと、寂しく冷たく醜いモラン。

ムーミントロールは、理性ではモランのことを好きではなかったと思う。

実際、近づきすぎるモランに怒りをあらわしたりもしているし。

だけど、モランを完全に突き放すこともせず、正反対のふたりと接していくうちに、不思議と両方に引きこまれていくんだよね。

 

家族の反応

ムーミントロールは、これまで感じたことのない胸のうずきを家族のだれにも言わずにすごす。

だけど、何もかもお見通しなのがちびのミイ。

ムーミントロールとうみうまとモランの三角関係をみつけて、ひとりにやにやする。

ミイ、アリ退治から三角関係を見抜くところまで、振れ幅大きすぎ(笑)

一方パパとママはと言うと、自分たちの暮らしに精一杯で、息子の変化にはなかなか気づかない

だけど終盤で、ムーミンママは、ムーミントロールがいつのまにか変わっていることがわかるんだよね。

「いったい、どうしたというんだろうな」

むすこがいってしまってから、ムーミンパパはたずねました。

春のめざめよ。あの子自身でも、気がついてはいないけど

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

これまでのスノークのおじょうさんとの恋愛関係は、やさしくかわいいものだった。

今作で、まったく違う女性との関わりを通して、ムーミントロールのあたらしい男性としての一面が目覚めたんだね。

ももちん

ムーミントロールが大人の男性になっていく入口。

ちょっとドキドキします。

 

3−7.島の異変

ある夜、ムーミントロールは島の砂が生きもののように動いているのを見つける。

それは、島全体がモランの上陸をおそれ、逃げまどっている姿だった。

ようやくパパとママが島の異変に気づいたとき、ムーミントロールはほっとする。

島の様子はあいかわらず不気味なままで、事態がよくなったわけではないけど、パパやママと不安を分かち合えたというだけで、ムーミントロールは安心するんだよね。

 

パパとママの目覚め

これまでどこかぼんやりとしていたパパとママも、島の異変を目の当たりにすることで、少しずつ目がさめていく。

 

海との和解を果たすパパ

いままでパパは、一生懸命この海と島のことを理解しようと頑張ってきた

ノートにたくさんの仮説を書きつけては考えるけど、なにひとつ結論を出せなかったんだよね。

島の異変に気づいたとき、パパは、海は頭では決して理解できないものであることを悟る。

「理解できない」ということを受け入れたとき、パパは自分のするべきことがはっきりと見え、自分の大切なものを守ることに専念する。

このときからパパはふっきれて、海がやっかいだと思うときは、海と心で対話することをやってみる。

すると自然にベストなことが起き、海からの恵みも感じられるようになる。

パパが海を理解することをやめ、ハートを開いたことで、逆に海のことを理解できるようになったんだね。

ももちん

相手をコントロールしたい気持ちを手放し、自分からハートを開くと、相手のガードもゆるむってこと。

 

ホームシックが消えるママ

パパと海の関係が変わり、島での生活は、恵み豊かないきいきとしたものに感じられるようになる。

そんななか、ムーミンママもムーミン谷をなつかしむことが減っていく。

あるときママは、かつてあんなに夢中になって描いていた壁画の前にたっても、心が動かないことに気づく。

ママは、いつのまにか島での暮らしを受け入れ、本来の自分をとりもどしていることに気づくんだよね。

 

ムーミントロールとモラン

ムーミントロールは、自分を悩ませていたモランと、明かりなしで向き合うことを決意する。

ムーミントロールが明かりを持たずにモランの前にあらわれると、モランは純粋に喜びをあらわす。

だしぬけに、モランがうたいはじめました。おばさんがよろこびの歌をうたいながら、あっちこっちにからだをゆり動かすと、そのたびにスカートがひらひらしました。

引用元:『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

嫌われ者とされていたモランが、こんなに可愛らしく愛情を表現する姿がすてき。

冷たい魔物のモランは、いつでも明かりだけをもとめてさまよっていた。

今作でも、モランが唯一見つけたのがムーミン一家の明かりだったから、追いかけただけのことだった。

だけど、島で繰り返しムーミントロールと交流するうちに、いつの間にかモラン自身も変わっていたんだよね。

モランが去ったあとの砂は、もうちっとも固く凍っていなかった。

これまでだれからも愛されたことのないモランは、ムーミントロールから優しくしてもらったことで、自分自身の中にあるあたたかさのかけらを思い出すんだよね。

 

漁師との交流

いろいろあったけど、ムーミン一家は島での暮らしを心から受け入れ、なじみはじめていた。

ある日ムーミン一家は、漁師の誕生日パーティーをすることを決める。

パパの大事なシルクハットをもらった漁師は、鏡の中の自分をじっと見つめる。

そのとき漁師は、本当の自分は身も心も「灯台守」であることを思い出すんだよね。

同時にムーミンパパは、本来の自分ではなかった「灯台守」から解放され、「ムーミンパパ」に戻る

全員が本来の自分にもどったとき、そこには平和があった。

ももちん

ムーミン一家が「島での暮らし」という葛藤を受け入れたとき、それを手放す機会もやってきたんだね。

 

感想おさらい

 

4.モデルとなった島

引用元: Söderskär Lighthouse

今作『ムーミンパパ海へいく』の舞台と言われている島が、フィンランドにあるソーダーシャール島

希少な海鳥種を保護するため島への上陸は禁止されているけど、ヘルシンキから出ている定期船のガイドツアーは例外。

島のシンボルとなっている大きな灯台は1864年にロシアによってレンガで建てられた、歴史ある灯台。

内部には灯台の歴史の資料や、ムーミン童話の複製画を見ることができ、宿泊も可能。

参考:『MOE』2018年11月号、白泉社、ソーダーシャール島/おでぶさんときどきおしゃまさん

ソーダーシャール島紹介

 

5.『ムーミンパパの海へいく』が読める本の形

今回ももちんが読んだのは、講談社文庫の『ムーミンパパ海へいく』。

『ムーミンパパ海へいく』は、講談社文庫以外にも、児童文庫やハードカバーで刊行されている。

中でも、2019年3月から刊行が始まっているソフトカバーの新版は、翻訳が読みやすくクリアな挿絵とのこと。

一度手に取って読んでみたいなぁ。

 

ソフトカバーの新版

『ムーミン全集[新版]7 ムーミンパパ海へいく』トーベ・ヤンソン作、小野寺百合子訳、講談社、2020年

2019年3月に講談社より新しく刊行されているのが、ソフトカバーの『ムーミン全集[新版]』

講談社1990年刊のハードカバー『ムーミン童話全集』を改訂したもの。

翻訳を現代的な表現・言い回しに整え、読みやすくし、クリアなさし絵に全点差し替えられている。

ソフトカバーなので持ち歩きやすい。

これから「ムーミン」シリーズを買って読もうと思っているなら、最新版のこちらがおすすめ。

『ムーミンパパ海へいく』は2020年8月刊行。

電子書籍版あり。

新版はココがおすすめ

  • 翻訳が現代的な表現、言い回しに整えられているので読みやすい
  • クリアなさし絵に全点差し替え
  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • ソフトカバーなので持ち歩きやすい
  • 電子書籍で読める

 

講談社文庫

『ムーミンパパ海へいく(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、小野寺百合子訳、講談社、2011年

講談社文庫の「ムーミン」シリーズは、1978年に初めて刊行された。

2011年に新装版が刊行。

写真では2011年刊行時の表紙だが、2019年3月現在、フィンランド最新刊と共通のカバーデザインに改められている。

文庫版だけど挿絵が豊富で、ふりがなも少なく読みやすい。

大人が手軽にムーミンを読みたいなら、講談社文庫がおすすめ。

電子書籍版あり。

文庫はココがおすすめ

  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • 値段がお手頃で気軽に読める
  • 電子書籍で読める

 

青い鳥文庫

『ムーミンパパ海へいく (新装版) (講談社青い鳥文庫)』トーベ・ヤンソン作、小野寺百合子訳、講談社、2014年

講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。

「ムーミン」シリーズは2014、2015年に新装版が刊行された。

児童文庫だけど、字は小さく漢字も多い。ふりがなもふられているが、難易度は文庫版とそんなに変わらない

児童文庫はココがおすすめ

  • 文庫よりサイズが大きめで読みやすい
  • ふりがな付き
  • 児童文庫にしては文字が小さいので、子どもが読むなら童話全集か新版の方がおすすめ

 

まとめ

小説『ムーミンパパ海へいく』見どころまとめ。

 

 

『ムーミンパパ海へいく』感想

  • ムーミン一家のキャラクター崩壊
  • 失敗続きで自分を見失うムーミンパパ
  • ママとしての役割を壊すママ
  • ぼんやりしていくパパとママが怖い
  • うみうまとモランに翻弄されるムーミントロール
  • 葛藤を受け入れたとき手放しが起こる

 

ムーミン一家の心の変化をじっくり味わえる、大人向けの作品。

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Kindleまとめ



そもそも電子書籍って何?っていうところから、Kindleアプリの操作、Kindle Unlimitedまで、Kindleの記事をまとめたよ。

  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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