小説『第四 若草物語』は、オルコット『若草物語』シリーズの完結作。
プラム・フィールドの子どもたちは若者に成長し、職業や恋愛に悩む。
メグ・ジョー・エイミーが再び手を取り合い、我が子たちを見守る姿に心があたたまる。
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この記事で紹介する本
この記事でわかること
- 小説『第四若草物語』のあらすじとみどころ
- 印象的なエピソード
『第四 若草物語』とは?
『第四 若草物語』(原題”Jo's Boys”)は、アメリカの女流作家ルイザ・メイ・オルコットが1886年に発表した小説。
1868年『若草物語』(原題”Little Women”)、1869年『続 若草物語』(原題”Little Women Married, or Good Wives”)、1871年『第三 若草物語』(原題”Little Men”)に続く第四作目として発表された。
シリーズは『若草物語』、『続 若草物語』、『第三若草物語』、『第四若草物語』の全4作(邦題は角川文庫より)。
日本では1963年、 吉田勝江の翻訳で『若草物語 第4(ジョーの少年たち)』と題され、角川文庫より刊行された。
シリーズ紹介(邦題は角川文庫より)
- 『若草物語』:マーチ家の四姉妹の10代を描く。長女メグ16歳、次女ジョー15歳、三女ベス13歳、四女エイミー12歳。感想記事はこちら。
- 『続 若草物語』:第一作に続く、マーチ家の四姉妹の物語。メグの結婚、ジョーの仕事とベア教授との出会い、ベスの死、エイミーとローリーの婚約などが描かれる。感想記事はこちら。
- 『第三 若草物語』:ジョーとベア教授がプラムフィールドに開いた学校「ベア学園」の少年たちの生活が描かれる。感想記事はこちら。
- 『第四 若草物語』:前作から十年。少年たちは青年になり、プラムフィールドは大学になっている。(この記事)
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この記事ではシリーズ完結作の『第四 若草物語』を紹介するよ。
登場人物
大人たち
ジョー(ベア夫人):マーチ家の次女。プラムフィールドの経営と作家業で多忙の日々。
フレデリック・ベア:ジョーの夫。大学の学長。
メグ(ブルック夫人):マーチ家の長女。女学生たちの良き相談相手。
エイミー(ローレンス夫人):マーチ家の四女。学生たちに芸術面での資金援助とアドバイスを行う。
セオドア・ローレンス(ローリー):エイミーの夫。ジョーの親友。
マーチ氏:マーチ家の父親。プラムフィールドの牧師。
姉妹の子どもたち
ロブ:ジョーの長男。15歳。おとなしく優しい性格。
テディ:ジョーの次男。12歳。激しい気性で元気。
デミ:メグの長男で双子の兄。20歳。新聞記者を経て出版社で働く。
デイジー:メグの長女で双子の妹。おとなしい。プラムフィールドの切り盛りを手伝う。ナットが好き。
ジョジー:メグの次女。14歳。元気でいきいきしている。女優を目指している。
ベス:エイミーの一人娘。15歳。美しく気立てが良い。彫刻創作に熱中している。
フランツ:ベア先生の甥。26歳。ドイツで結婚し商売人になる。
エミル:ベア先生の甥。24歳。陽気な性格で航海士になる。
元生徒たち
ナット:22歳。ドイツに音楽留学する。デイジーが好き。
ダン:25歳。世界中を転々としながら暮らしている。
トミー:21歳。ナンに振り向いてもらうために医学を学んでいる。
ナン:20歳。医学の道で自立するために勉学に励む。
アリス・ヒース:プラムフィールドの女学生。
あらすじ
一言あらすじ
前作『第三若草物語』から十年後。
ジョーとベア先生がプラムフィールド開いた学校「ベア学園」は、今では各地から学生が集う大学になっている。
かつてここで学んだ子どもたちは成長しそれぞれの道に歩み始め、進路や恋愛に悩み奮闘していた。
ジョー・メグ・エイミーは協力してプラムフィールドの学生たちの指導や相談相手として活躍する。
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このあとは詳しいあらすじ。(ネタバレあり) 感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想
1.十年後の夏
前作から十年後、大学に姿を変えたプラムフィールドでのジョーとメグの会話。
12人の若者(ロブ、テディ、デミ、デイジー、ジョジー、ベス、フランツ、エミル、ナット、トミー、ナン、ダン)の現在を紹介。
ジョーとメグはエイミーとローリーのお屋敷「パルナサス」へ向かい、姉妹が集う。
2.ジョーの作家業
十年の間にジョーは作家として成功する。
経済的に潤う反面、愛読者のひっきりなしの訪問や大量の手紙に悩まされる。
オルコット自身の実体験を反映しコミカルに描いている。
3.ダンの滞在
ダンが二年ぶりにプラムフィールドを訪れ、皆を喜ばせる。
楽しい数週間を過ごし、ダンは西部で農場を始めに、エミルは航海に、ナットはドイツへ音楽留学に旅立つ。
4.ロブとテディ
ジョーとベア教授が留守中のロブとテディ。
テディがダンから預かっている犬にかまれそうなところをロブがかばい、かわりにかまれてしまう。
ロブとテディは狂犬病を心配しナンに相談、ナンは落ち着いて対処する。
普段おとなしいロブの強さと、ふだん元気なテディの弱さが現れた事件。
6.ジョジーの夢
ローレンス家とジョジーが休暇を共に過ごしているとき、偶然ジョジーのあこがれの女優ミス・キャメロンが一緒になる。
ジョジーはミス・キャメロンが海に落としたブレスレットを拾い上げ、演技を見てもらう機会を得る。
ミス・キャメロンはジョジーの才能を認めるが、まずは勉学に励むことをすすめる。
7.トミーの婚約
十年間ナンを追いかけていたトミーが、休暇先でドーラという女の子と婚約する。
困惑しているトミーの一部始終を聞いたジョーは、正しい選択であることを告げる。
ナンはトミー婚約のニュースを聞いて祝福し、トミーは医学の道をやめ家業の商売の道に入る。
8.デミの就職
デミが母メグに新しい就職先が出版社に決まったことを話し、メグは喜ぶ。
デミはひそかにプラムフィールドの女学生アリス・ヒースを愛していて、妹ジョジーはそれに気づく。
9.エミル
エミルの乗っている船が火事になり、エミルと乗客、乗組員はボートに避難する。
数日後に食料と水が底をつき、エミルは死を覚悟しながらも希望を周りに示す。
やがて雨がふり救助され、エミルは貴重な体験をともにしたメアリという女性と惹かれ合う。
10.ダンの罪
ダンは、旅の途中で知り合った少年を助けようとして相手を殺してしまい、刑務所に服役していた。
自暴自棄になりかけ悪い仲間とともに脱獄することも考えるが、死にゆく友人の囚人と牧師の言葉で思いとどまる。
厳しい刑務所の中で、精神的葛藤と熟考の日々をおくる。
11.ナットの失敗
ローレンスの後ろだてのあるナットは、留学先のドイツで上流社会に歓迎され、お金を湯水のように使ってしまう。
結果、良家の娘に気があると誤解され、友人がナットの暮らしぶりをベア教授に知らせそうになり、請求書の山を見て、ナットは失敗に気がつき落ち込む。
ナットは心を入れ替え、質素な下宿に移り、自分ができる仕事で学費と生活費を稼ぐ生活を始める。
12.プラムフィールドの一場面
プラムフィールドでのクリスマスの演劇ではジョジーとメグが出演し、見に来ていたミス・キャメロンは称賛する。
女の子と遊ぶことや楽しむことしか考えていないドリーとジョージにジョーが説教する。
ジョーと女子学生たちが女性の生き方についた話し合う。
13.デミとアリス
卒業祝日(クラスデー)でアリス・ヒースは素晴らしい演説をし称賛を受ける。
フランツ、エミルがそれぞれの伴侶を伴い訪問する。
ジョジーのアドバイスを受け、デミはアリスに愛の告白をする。
アリスはこれを受け、家族への義務を果たした後の結婚を約束する。
14.ダンの休養
プラムフィールドでは、ダンが鉱山事故で多くの命を救ったニュースを見て、ローリーとテディが迎えに行く。
衰弱していたダンはプラムフィールドに移され、ジョーを始め女性たちがみんなでダンの世話をする。
ダンはベスに恋心を抱いており、ジョーだけがそれに気づく。
ジョーはベスをダンから遠ざけ、ダンも受け入れる。
15.終幕
登場人物たちがその後どうなったかが手短に語られ、物語は幕を閉じる。
『第四 若草物語』を読んだ感想
今作『第四若草物語』は、オルコット「若草物語」シリーズ最後の作品。
前作『第三若草物語』から十年たち、プラムフィールドは大学に様変わり。
子どもたちも二十歳前後の若者に成長している。
『第四若草物語』感想
再び活躍するジョー、メグ、エイミー
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マーチ家の四姉妹(ジェシー・ウィルコックス・スミス画)[public domain]
今作は若者たちの恋愛・進路がメインだけど、ここにきて再び手を取り合うマーチ家の姉妹もみどころ。
前作ではジョー・メグ・エイミーの登場場面は、子どもとのやりとりや家庭の中での役割がメインだった。
今作では子どももある程度手を離れて、自分たちが本来好きなことに情熱を注いでいる。
ジョー・メグ・エイミーが、それぞれの得意分野で大学の運営面で連携しているのも素敵。
作家・ジョー
ジョーはこの十年の間に作家として成功していた。
忙しかったジョーが再び筆をとったのは、学校の資金不足を少しでも補うため。
作家としての理想追求が第一の目的ではないことは、シリーズ通してエイミーの芸術的情熱と対照的なんだよね。
だからこそ、ジョーは成功してからは得た収入に感謝して、両親や学生のために惜しみなくつかう。
その成功でジョーがなによりもうれしく幸福に思ったことがなんであるかを知るものは少なかった。
それは彼女の母親の晩年をしあわせに、静穏にしてあげられる力ができたことだった。
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
ジョーが『若草物語』の少女時代から夢見て、『続若草物語』で葛藤の末に定めた「自立して母親を助ける」という望みが、今作でしっかり叶っている。
その一方でファンや手紙に悩まされ、「自由がなくなる」という悪い面もコミカルに描いているのがおもしろい。
本文中にも「正真正銘の実話」と書いていることから、オルコット自身が実際に体験したメリット・デメリットなんだろうな、と思った。
活発な未亡人・メグ
メグは、かつて住んでいた「鳩の家」からプラムフィールド内に建てた家に移り住んでいる。
このメグの未亡人生活、なんか楽しそう。
今やメグは、大学の女学生から慕われるアドバイザー。
学問はできるが生活にうとい女学生に、倹約しながら姿をよく見せる工夫や裁縫を教え、感謝されている。
子どもたちはそれぞれ個性を発揮して暮らしているし、妹のジョー・エイミーもすぐ会える。
かつての女優熱を発揮して劇にも出演。
かつて鳩の家で家族だけのために暮らしていた頃より、メグの自由な個性が発揮されている。
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女性が家庭以外の場所でいきいきしている姿は、見ていて気持ちが良い。
貴婦人エイミー
ローレンス家のお屋敷は「パルナサス」と呼ばれ、プラムフィールドの社交場となっている。
エイミーは若い画家や彫刻家の援助をしながら、自分でも彫刻に情熱を注いでいた。
お金のためにものを書くジョーと、純粋な芸術をたしなむエイミーの対照的な生き方は、今作でも変わらない。
エイミーとローリーは、生まれつき陽の当たる場所で生きるのが似合う二人。
一人娘ベスふくめ、ほんと陰がなく妖精的、詩的な印象なんだよね。
エイミーはすこしも年を取らないように見えた。幸福のおかげで若さを保ち、豊かな境遇のおかげで彼女に必要な教養を身につけていたのである
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
エイミーは「裕福さ」の恩恵を決して否定しない。
お金があるからこそ身につけられる教養、優雅さ、気品を肯定し、自分の魅力の一部としているんだよね。
また、大学では女学生たちに気品ある着こなしや色合わせを指導し、教養のための本も寄付している。
家庭的な面も重視し、メグとともに裁縫も教えてあげていて、なんだか完璧な婦人になっています。
「パルナサス」って?
「パルナサス」とは、ギリシャにある山の名前。
ギリシア神話では、太陽神アポロと芸術・文学をつかさどる女神が住んでいたと言われている。
明るく陽気なローリーと芸術を愛するエイミーのお屋敷にふさわしい名前だね。
ダンの運命
かつてのプラムフィールドの子どもたちの中で、もっとも波乱万丈の人生を送るのが、不良少年だったダン。
ダンは25歳になり、今作序盤で二年ぶりにプラムフィールドを訪ね、ジョーやみんなに歓迎される。
色黒でワイルドな風貌、どこででも生きていけるたくましさは、プラムフィールドでは男の子たちの憧れであり、女の子たちには近寄りがたい存在。
未来仕事への希望に燃えていたダンは、この訪問後、辛い運命に見舞われる。
罪と葛藤
西部に向かう旅の途中で、ダンは知り合った少年を助けようとして、襲ってきた相手の男を殴り、殺してしまう。
刑務所に入ることになったダンは、正当防衛の結果相手が死んでしまったことについては、悪いと思っていなかった。
それよりも、どれだけ努力しても自分の無法者気質は正せないことへの絶望と、信じてくれたジョーを裏切ってしまったことへの罪の意識が大きかったんだよね。
気の毒なマザー・ベア! あの人はおれを救おうとした、しかしもうだめだ。無法者は救われるわけにはいかないのだ
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
ダンは自暴自棄になり、いっときは自由への渇望から脱獄計画に加わろうとする。
だけど、心のなかにはジョーから教えられた「良くなりたい気持ち」がしっかり残っていたんだよね。
「楽で悪い道」か「難しいけれど正しい道」か。ダンは葛藤に苦しむ。
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かつてジョーが何十年もかかって「かんしゃく」に取り組んだことを考えれば、ダンにとって「正しい道」がどれだけ難しいことかがわかる。
それでも、刑務所で親切にした囚人メイスンが病死した夜、ダンは正しい道を行こうと決意する。
ほかのものにたいしては相変わらず沈黙のまま、きびしい顔をしてうちとけなかった。善にも悪にも背を向けたまま、彼は牧師さんがもってきてくれる本に読みふけっていた。
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
ダンは牧師の助けを借りて辛抱強く取り組み、どんなものにも覆されない「自制心」を身につけていく。
ベスへの恋心
辛い刑務所の期間、心の奥でひそかにダンを支えていたものがあった。
それってなんだと思う?
なんと、妖精のようなベスとの思い出だったんだよね。
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ダンはベスのことが好きだったんだね・・・びっくり。
ジョーがダンの様子を見て気づいてしまったときの、ダンの言葉が優しくせつない。
ぼくから奪わないでください、ただのぼくの幻想なのですから。しかし人間はなにかを愛さずにはいられません。ぼくを好きだというふつうの女の子を愛するくらいなら、ぼくは彼女のような妖精を愛するほうがずっといいのです
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
ダンの「自分を愛してくれる女性よりもベスを愛する」という気持ちは、限りなくピュアでまっすぐな愛。
罪を犯したダンは、ベスと結ばれることはおろか、想いを知ってもらうことすら叶わない。
それを百も承知で、自分を愛してくれる人を探すのではなくひとりで生きていく方を選ぶって、なかなかできるものではない。
とことん自分を見つめたダンの精神は、「自分にとって少しでも正しくないことは選ばない」というところまで磨かれたんだね。
このことはジョーとダンだけの秘密となり、ダンはベスに友だちとして別れを告げ、次の地へ旅立つ。
赤い糸まつり
今作では、かつてプラムフィールドで学んだ子どもたちが成長し、続々と将来の伴侶を見つけていく。
ナットとデイジー
前作では子どもながら思い合っていたナットとデイジーは、十年後も静かにお互いを思っている。
デイジーの母親メグは、ちょっと弱っちくて孤児のナットを愛娘の恋人としては認めない。
だけど、ナットがドイツ留学中に立派な青年に成長しているのがわかると、かたくなな態度も徐々にやわらぎ、最後に二人は認められる。
流されるナット
留学先のドイツでは、ナットの弱さがあらわれる。
異文化の自由さに魅了され、短期間でローリーから援助されたお金を使い果たしてしまうんだよね。
ナットは、自分が貧乏な学生であることを言わずに上流階級の人達と交流した結果、あるお嬢さんに気を持たせることになり、傷つけてしまう。
また、高額の請求を見てやっと事の重大さに気づく。
そのときナットを救ったのは、故郷プラムフィールドからの手紙。
変わらない愛情のありがたさと深い反省を感じたナットは、元の貧しく真面目な学生生活に戻ることを決める。
ベア教授やジョーをはじめとした周りの大人たちが、ナットを見放すのではなく「若気の至り」として寛大に受け入れているところに余裕を感じる。
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失敗からお金の使い方や自分で自分を律することの難しさを思いしるって良い経験だよね。
おとなしいデイジー
デイジーは、今作ではだいぶおとなしい感じがする。
家庭的で優しくメグの良きサポートをする娘として描かれ、同年代のナンやアリスのような活発さや利発さと比べると、目立たない。
一途にナットを思う気持ちも、メグの意に沿わなければ涙をのんであきらめようとする。
だけど、不安を心のなかにしまい、愛する者のために優しく生きようとする姿には、誰よりも芯の強さを感じる。
ひたすら家族思いで、いつでも自分を横においておける静かな奉仕精神は、マーチ家の四姉妹のベスを思わせる。
デミとアリス
本好きで空想的な男の子だったデミは、十年後はしっかりと地に足をつけた青年になっている。
デミの職業は新聞記者から編集者へと変わっていくけれど、どちらも世の中が見えていないと務まらない仕事。
母親を安心させたい気持ちも描かれ、父ジョン・ブルックの実直さが受け継がれている。
そんなデミが好きになったのは、今作で初めて登場するプラムフィールドの女学生アリス・ヒース。
アリスは、学業優秀で大勢の前で堂々と演説するような、自分の意見をもっている女性。
愛するデミの求愛を受けても、「両親の面倒をみる義務」を優先させ、数年間待ってもらうしっかりした面を持つ。
選択に迷いがなく、まっすぐに前を見る凛とした姿勢が、デミと共通するものを感じる。
トミーとドーラ
わんぱく坊主だったトミーは、十年後も変わらずナンを追いかけている。
おてんば少女だったナンは医療の道を目指し学業に励んでいるが、トミーは違う。
ナンに振り向いてもらうために好きでもない医学を学んでいるんだよね。
ナン自身はトミーには見向きもせず、ひたすらに自分の目標に向かって歩んでいる姿が見ていて気持ちが良い。
結局、トミーは自分を好きでいてくれる年下のドーラを愛するようになる。
トミーのナンへの気持ちは愛ではなく、友情の延長線だったとわかる流れは、かつてのローリーのジョーへの恋心を思い出させる。
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ナン自身は自立し、生涯独身をつらぬく設定。
オルコットの人生を反映させているのかもしれない。
エミルとメアリー
今作で最もドラマチックな出会いをするのが、ベア教授の甥エミル。
航海士になったエミルは航海中に事故にあい、一時行方不明になる。
生きるか死ぬかの数日間、エミルは必死で乗客・乗組員をサポートし、死をも覚悟する。
そのとき一緒になったのが、偶然同じ船に乗っていたイギリス人の娘メアリー。
メアリーがジョーたちの前で恋人エミルの勇敢さを堂々と称賛するところが、見ていてうれしくなる。
万一このひとがまた難破するようなことがあったら、あたしは陸で待っているよりも、むしろいっしょにいるほうがいいと思いますわ
引用元:『第四 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
究極の状況をともに経験した絆は強く、二人の婚約はベア教授やジョーにも祝福される。
フランツとルドミラ
ベア教授の甥でエミルの兄のフランツは、今作で一番初めに婚約する。
プラムフィールドの若者たちの中でも最年長の26歳で、子ども時代も監督役をしていたしっかり者のフランツ。
今作では出番は少ないけれど、留学中のナットの様子をそれとなくメグに伝えるなど、さりげない優しさを見せている。
故郷のドイツで堅実な商売の仕事につき、「かわいくてチャーミング」なルドミラという娘と婚約する。
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ナット&デイジー・デミ・エミル・フランツ・トミーがそれぞれの伴侶を見つけた。
ナンは独立独歩で医療の道へ。
ちびっこチームの十年後
若者たちが赤い糸を結んでいる最中、年下の少年少女たちが過ごしている様子を紹介するね。
ロブとテディ
ベア教授とジョーの息子、ロブとテディは15歳と12歳になっている。
もの静かなロブと無鉄砲なテディの本性があらわれるのが、両親の留守中ロブがテディをかばい犬に足を噛まれるエピソード。
狂犬病の可能性が頭によぎったロブは、ナンに傷口を焼いてもらうんだよね。
このときロブは冷静にこらえ、テディの方が失神しちゃう。
結局ロブは狂犬病ではなく事なきを得たけれど、この出来事はロブとテディの心に深く刻まれる。
ロブは生命の危機を感じることで、自分のうちに「困難に立ち向かう勇気」と「静かに神へ祈る気持ち」があるのを感じる。
一方テディは、自分のふるまいが兄の身の危険を引き起こしたことを反省し、同時に兄への尊敬の念をもつようになる。
後でこの事件を聞いたジョーは、かつて母が自分を導いてくれたように、テディの欠点も一緒に直していこうと決意を新たにする。
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今作の最後で、テディは牧師になる。
自分の弱さをよく知っているからこそ、人に伝えられる道を選んだんだね。
ベスとジョジー
エイミーの一人娘ベスとメグの末娘ジョジーは15歳と14歳。
いとこ同士で歳も近く仲良しのベスとジョジーは、まったく違う魅力をもっている。
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色白の金髪、可憐なベスは「白ユリ」。
小麦色の肌で表情がくるくる変わるジョジーは「野の花」。
妖精ベス
今作でのベスは、人間味を感じさせない、妖精のような存在として描かれている。
生まれながらの気品と美しさに加え、物質的な豊かさに磨かれた趣味の良さと奥ゆかしさを備えている。
一切の苦労が似合わない、エイミーとローリーの「陽」の部分を受け継いだ少女。
精神的にも汚れのない純真さは、若くして亡くなったマーチ家の「ベス」を思い出させる。
ジョジーの女優魂
ジョジーはメグから女優の才能を受け継ぎ、情熱的に女優を目指す。
姉のデイジーとは真逆で活発な性格。
夢中になって夢を追いかけるところが、ジョーにそっくり。
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ベスはエイミーとベス似。
ジョジーはメグとジョー似。
デイジーはメグとベス似。
マーチ家の四姉妹の性格が、娘たちにも垣間見られるのがおもしろい。
感想おさらい
講談社青い鳥文庫『若草物語4 それぞれの赤い糸』
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『若草物語4 それぞれの赤い糸 (講談社青い鳥文庫)』オルコット作、谷口由美子訳、藤田香絵、講談社、2011年
今回読んだのは、角川文庫の『第四若草物語 (角川文庫)』。
角川文庫以外で唯一シリーズ全4作刊行しているのが、講談社青い鳥文庫。
谷口由美子の訳文は、角川文庫と読み比べると、難しい単語が使われていないのですらすら読める。
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ふりがなつきでイラストもかわいいので、古典のかたくるしい先入観なく読める。
登場人物をイラストで見ることができるのもうれしい。
藤田香による現代的なイラストがかわいらしい。
全章あるが完訳ではない。
まとめ
小説『第四 若草物語』まとめ。
プラム・フィールドの若者たちの恋愛と職業の悩みと、それを見守るジョー・メグ・エイミーを描くシリーズ完結作。
『若草物語』記事一覧
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