小説『小さなトロールと大きな洪水』あらすじと感想。幻の第1作目

2019年7月25日

『小さなトロールと大きな洪水』はトーベ・ヤンソンの小説「ムーミン」シリーズの最初の作品。

長らく絶版だったものを1990年に再版したので、読者へのなじみは薄く挿絵の印象も全然ちがう。

まだ荒削りだった原初のムーミントロールを見ることができる貴重な作品。

この記事で紹介する本

こんな方におすすめ

  • 小説『小さなトロールと大きな洪水』のあらすじと見どころを知りたい
  • シリーズの中で最初の作品を知りたい

『小さなトロールと大きな洪水』とは?

『小さなトロールと大きな洪水』(原題”Småtrollen och den stora översvämningen”)は、フィンランドの女流作家・画家のトーベ・ヤンソンにより、1945年に刊行された。

1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうち第1作目。

ムーミンシリーズの「別巻」として刊行されている今作は、第二次世界大戦直後に出版された後、長らく絶版だった。

1990年に再版が決まり、日本でも同年、冨原眞弓訳で講談社より刊行された。

参考:Wikipedia講談社BOOK倶楽部

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冨原眞弓(訳)

フランス哲学研究者、スウェーデン文学者。

上智大学卒業後、パリ・ソルボンヌ大学大学院に学ぶ。

1989年にトーベ・ヤンソンの作品に出会い、原著での訳を行うためスウェーデン語を習得。

以降、ムーミン関連作品の翻訳・研究を多く手がける。

1998年に日本翻訳家協会文化奨励賞受賞。

参考:Wikipedia

代表作(翻訳)

代表作(研究)

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登場人物

  • ムーミントロール:今作の主人公。ムーミン一家の好奇心旺盛な優しい男の子。
  • ムーミンママ:ムーミントロールの母親。常に黒いハンドバッグを携帯している。
  • ムーミンパパ:ムーミントロールの父親。夢見がちでロマンチスト。
  • スニフ:小さなカンガルーのような外見の生き物。臆病で、宝石などキラキラ光る物が大好き。
  • ニョロニョロ:小さいお化け。白い靴下のような謎の生き物。
  • チューリッパ:光るチューリップの花から生まれた輝く青い髪を持つ少女。
  • 赤い髪の少年:美しい島に立つ塔にひとりで住む少年。嵐になると海の見張りをする。
  • 年とった男の人:岩山の奥にお菓子の庭をつくりひとりで暮らしている。
  • ありじごく:海辺の砂地に住むやっかいな生き物。
  • コウノトリ:メガネをなくして困っているところをムーミンたちが助ける。

参考:Wikipedia

 

あらすじ

ムーミンパパはいないけど、もう待っていられない!

冬がくる前に家を建てようと、おさないムーミントロールとママは、おそろしい森や沼をぬけ、荒れ狂う海をわたり、お日さまの光あふれるあたたかい場所をめざします。

仲のよいムーミン一家にこんな過去があったなんて。

スニフがまだ、名前をもたず、「小さな生きもの」だったころのお話。

引用元:講談社BOOK倶楽部

 


  • step.1

    8月の終わり、ムーミントロールムーミンママは冬ごもりする家を建てる場所を求めて森をさまよう。

    二人はスニフと出会い、一緒に旅をつづける。


  • step.2

    3人が沼をわたっているとき大ヘビに襲われそうになる。

    ムーミンママが持っていたチューリップから青い髪の少女「チューリッパ」が登場。その輝きで大ヘビは退散する。

    4人は旅を続ける。


  • step.3

    火をかこみながら、ムーミンママはムーミンパパがニョロニョロと一緒にどこかに行ってしまったことを話す。

    岩山に住む年とった男の人と出会い、彼が作ったお菓子の王国を満喫する。

    ムーミントロールとスニフが体調をくずし、4人は岩山を後にする。


  • step.4

    ムーミンママが浜辺でアリジゴクにおそわれるが、危機一髪で助かる。

    浜辺でニョロニョロを見つけ、一緒にボートに乗る。

    海で出会った海のトロールが港へ連れて行ってくれ、ムーミントロールたちはニョロニョロと別れる。


  • step.5

    野原にある塔で見張りをする赤い髪の少年と出会う。

    チューリッパは塔にとどまり、ムーミントロール・ムーミンママ・スニフはムーミンパパを探して旅を続ける。


  • step.6

    大雨が続き洪水が起き、ムーミンママは流されてくるネコの母子を助ける。

    手紙の入ったビンを見つけ読んでみると、ムーミンパパが木の上で助けを待っている手紙だった。


  • step.7

    ムーミントロールたちがコウノトリのメガネを見つけ、コウノトリはお礼に空からムーミンパパを探す手伝いをする。

    ムーミンママがムーミンパパを見つけ、再会を果たす。

    雨が上がり、草地に流されてきたムーミンパパが建てた家を見つける。

    一家とスニフはこの家に住むことにする。


 

『小さなトロールと大きな洪水』感想

『小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、2011年

ももちんは、ムーミンシリーズのほかの作品を全部読んでから最後にこの『小さなトロールと大きな洪水』を読んだ。

まず目がいくのは、いつも見慣れているムーミンの絵とまったくちがう挿絵

鼻が長くちょっと不思議な感じ。

短い童話風の物語ではこれから登場するキャラクターが顔を見せ、これからつづく壮大なファンタジーへの足がかりとなるような作品となっている。

この作品でしか登場しない、人間の少年や花の精の少女といったキャラクターも見どころ。

ももちん

シリーズの最後に読むと、よく知っているキャラクターの意外な一面などあたらしい発見ができるよ。

 

『小さなトロールと大きな洪水』ポイント

 

物語の背景

人気小説「ムーミン」シリーズの第一作目『小さなトロールと大きな洪水』は、1945年に刊行された後まもなく絶版となった。

シリーズ最終作『ムーミン谷の十一月』が刊行された1970年以降も長く再版されずにいて、ようやく再版されたのは1990年

トーベ・ヤンソンは再版にあたって今作を書き直そうとしたけれど、あえて直しをいれず昔のままでの再版を決めたとのこと。

今作にはトーベ・ヤンソンによる「序文」が掲載され、この物語ができた背景を知ることができる。

 

戦争とムーミントロール

トーベ・ヤンソンがムーミントロールの物語を書き始めたのは1939年、第二次世界大戦が始まった年

画家として活動していたトーベ・ヤンソンは絵を描くことにいきづまり、「トロール」を主人公にした物語を書きはじめる。

「トロール」というキャラクターはそのときはじめて思いついたわけではなく、これまでも風刺雑誌『ガルム』の挿絵などにサインがわりに描いていた。

戦争を風刺する絵を仕事で書き続けていたトーベ・ヤンソンにとって、同時期にハッピーエンドの童話を書くということは、心のうるおいとなっていたのかもしれない。

ムーミンシリーズの中でも今作『小さなトロールと大きな洪水』と次作『ムーミン谷の彗星』は、戦争中に書かれたこともあり、物語の中になにか不気味な雰囲気を感じる。

参考:『小さなトロールと大きな洪水』ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、1992年

 

おなじみキャラクターの始まり

今作ではシリーズの主人公ムーミントロール、ムーミンママ、スニフ、ニョロニョロの初登場をみることができる。

ムーミントロールとムーミンママはの絵が次作『ムーミン谷の彗星』以降と全然違うのがおもしろい。

一方で、スニフやニョロニョロはあまり変わっていない。

 

ムーミントロールとムーミンママ

今作からムーミンママとムーミントロールの結びつきは強く、やさしいママとぴったりよりそうかわいいムーミントロールが描かれている。

ただしムーミンパパはいない。

ムーミンパパは、ニョロニョロとともにどこかへいってしまったんだよね。

ももちん
第1作目から、ムーミンパパは放浪癖があったんだね。

残されたムーミンママとムーミントロールは、冬をあたたかく過ごせる場所をもとめて森をさまよい歩く。

 

不安定なママ

他のムーミンシリーズとちょっとちがうのが、ムーミンママの描き方。

次作以降は「優しくおおらかで何事にもあまり動じないムーミンママ」というキャラクターができあがっている。

今作ではまだママのキャラクターが固まっていない。

他では見られない、泣いたりイライラ不機嫌になったりするママを見ることができる。

ももちん

ママの黒いハンドバッグは健在!

 

スニフ

ムーミンママとムーミントロールが旅のはじめに出会うのがスニフ。(今作では「小さな生きもの」という表現をされている。)

ももちん

ムーミントロールが初めに出会った友達は、スナフキンではなくスニフなんだよね。

スニフは今作ですでに「臆病で光るものが好き」という性格ができあがっている。

ブツブツ小言をいいながらもムーミンママとムーミントロールに同行し、重要なものを見つけちゃうスニフはなんだか憎めない。

 

ニョロニョロ

今作から登場するもうひとつの生きものが「ニョロニョロ」

ニョロニョロの特徴も今作でできあがっている。

なぞめいた感じがムーミンパパをひきつけ、集団で行動し、耳はきこえず言葉も発さない。

そんなニョロニョロとムーミンママたちが一緒に航海する場面がある。

ムーミンパパをたぶらかしたニョロニョロはムーミンママにとっては敵と思ってもいいはずなんだけど、一緒に行動するようすはなんだかシュール。

お別れするときもちゃんとお礼を忘れないところが、しつけがしっかりしているムーミンママらしい。

 

ほかのキャラクター

今作に登場するメインキャラクターは、意外にもムーミン一家以外ではスニフとニョロニョロのみ。

ヘムルは今作ではちらっと登場するくらいなんだけど、容姿が他の作品と全然違っててちょっと怖い(笑)

スナフキンやスノークは会話の中で名前がでてくるくらいなんだよね。

そのかわり今作でしか登場しないキャラクターがたくさん登場するので、なんだか新鮮。

 

人間のような容姿のキャラクター

今作では、ほかの作品ではあまり見られない人間に近い容姿のキャラクターが登場する。

 

青い髪のチューリッパ

ムーミントロールたちが大ヘビに襲われそうになるところを助けるのが、チューリップの花の精チューリッパ。

青く光る長い髪をもつ美少女チューリッパに、ムーミントロールもスニフもどぎまぎしてるのがかわいい。

人間のような容姿のチューリッパがムーミントロールたちと一緒にいる絵も新鮮。

 

赤い髪の少年

チューリッパが旅の途中で恋に落ちるのが、たどりついた島の塔で暮らす赤い髪の少年。

青い髪のチューリッパと、赤い髪の少年の組み合わせがとっても素敵。

島を旅立つとき、チューリッパは少年とともにとどまることを決める。

お別れは寂しいけれど、チューリッパの幸せを考えきっぱりと旅立つムーミンママは、チューリッパの女性としての幸せを尊重したんだね。

 

お菓子の国の年とった男の人

今作でちょっと不気味なのが、お菓子の国に暮らす年取った男の人

その世界は、ガラスでできた雪、ねじり砂糖でできた草、小川のように流れるレモネードなど、子どもが喜びそうなにせものの世界でできていた。

ムーミントロールとスニフはすぐにこの世界に夢中になり、チョコレートやキャンディを食べすぎてお腹をこわす。

にせものの世界で子どもたちをひきつけとどまるようにすすめる男の人は、なんだか怖い。

ムーミンママはその不気味さを感じ、長居はせずに旅立つ。

 

不思議な生き物たち

物語で登場する不思議な生き物たちは、ムーミントロールたちをおそったり助けたりする。

 

アリジゴク

浜辺でムーミンママをおそうのがアリジゴク

ふつうの昆虫のアリジゴクではなく、顔がライオンのようになっているところがおそろしい。

アリジゴクは『たのしいムーミン一家』にも登場し、魔法の帽子でハリネズミに変えられてしまう。

ムーミントロールがアリジゴクを敵視していた原因は今作のこの事件にあったんだよね。

 

コウノトリ

ムーミンパパの捜索を手伝ってくれたのは、大きなコウノトリ。

コウノトリはメガネをなくして困っていたんだけど、ムーミントロールが見つけてあげた。

そのお礼にムーミントロールたちを背中に乗せて飛びまわり、一緒にムーミンパパを探してくれるんだよね。

空を飛び回る大きな生き物は『ムーミン谷の彗星』の大わしもいる。

 

パパとの再会

さまざまな出会いと別れを重ねながら、旅の最後にムーミンパパを最初に見つけるのは、やっぱりムーミンママ

何もかも水に流し、再会を心から喜び抱き合う様子に心からほっとする。

ムーミンパパは一家が住む家を建てたけど、洪水で流されてしまい残念がっていた。

翌朝ムーミン一家は、美しい谷にその家が流れ着いているのを見つける。

ムーミンママはつぶやく。

この家より美しい家はないわ。

ママはムーミントロールの手をとって、空のように青い部屋へはいっていきました。

引用元:『小さなトロールと大きな洪水』ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、1992年

このままのセリフには、家族がまた一緒になった喜びがにじみ出ている。

ムーミン一家とスニフはこの家に住み、物語は次作『ムーミン谷の彗星』につづいていく。

次作『ムーミン谷の彗星』からは、「ムーミン谷」での物語が始まっていく。

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感想おさらい

 

『小さなトロールと大きな洪水』が読める本の形

今回ももちんが読んだのは、ムーミン童話全集の『小さなトロールと大きな洪水』。

『小さなトロールと大きな洪水』は、ムーミン童話全集以外にも、文庫や児童文庫で刊行されている。

 

ソフトカバーの新版

『ムーミン全集[新版]9 小さなトロールと大きな洪水』トーベ・ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、2020年

2019年3月に講談社より刊行されているのが、ソフトカバーの『ムーミン全集[新版]』

講談社1990年刊のハードカバー『ムーミン童話全集』を改訂したもの。

翻訳を現代的な表現・言い回しに整え、読みやすくし、クリアなさし絵に全点差し替えられている。

ソフトカバーなので持ち歩きやすい。

これから「ムーミン」シリーズを買って読もうと思っているなら、最新版のこちらがおすすめ。

電子書籍版あり。

新版はココがおすすめ

  • 翻訳が現代的な表現、言い回しに整えられているので読みやすい
  • クリアなさし絵に全点差し替え
  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • ソフトカバーなので持ち歩きやすい
  • 電子書籍で読める

 

講談社文庫

『小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、2011年

講談社文庫の「ムーミン」シリーズは、1978年に初めて刊行された。

2011年に新装版が刊行。

写真では2011年刊行時の表紙だが、2019年3月現在、フィンランド最新刊と共通のカバーデザインに改められている。

文庫版だけど挿絵が豊富で、ふりがなも少なく読みやすい。

大人が手軽にムーミンを読みたいなら、講談社文庫がおすすめ。

電子書籍版あり。

文庫はココがおすすめ

  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • 値段がお手頃で気軽に読める
  • 電子書籍で読める

 

青い鳥文庫

『小さなトロールと大きな洪水 (新装版) (講談社青い鳥文庫)』トーベ・ヤンソン作、冨原眞弓訳、講談社、2015年

講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。

「ムーミン」シリーズは2014、2015年に新装版が刊行された。

児童文庫だけど、字は小さく漢字も多い。ふりがなもふられているが、難易度は文庫版とそんなに変わらない

児童文庫はココがおすすめ

  • 文庫よりサイズが大きめで読みやすい
  • ふりがな付き
  • 児童文庫にしては文字が小さいので、子どもが読むなら童話全集か新版の方がおすすめ

 

まとめ

小説『小さなトロールと大きな洪水』見どころまとめ。

 

「ムーミン」シリーズの最初の作品で、まだ荒削りだった原初のムーミントロールを見ることができるよ。

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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