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ムーミン短編「春のしらべ」感想。『ムーミン谷の仲間たち』より

「春のしらべ」はトーベ・ヤンソンの短編集『ムーミン谷の仲間たち』に収録されている短編。

スナフキンが旅の途中名前のない一匹のはい虫に出会い、名前をつけてあげるお話。

このお話が収録されている本

この記事でわかること

  • ムーミン短編「春のしらべ」のあらすじとみどころ
  • 「春のしらべ」関連情報

「春のしらべ」とは?

『ムーミン谷の仲間たち(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

「春のしらべ」(原題"Vårvisan")は、トーベ・ヤンソンが1962年に発表した短編集『ムーミン谷の仲間たち』(原題"Det osynliga barnet")に収録されている短編。

『ムーミン谷の仲間たち』は、1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうち第7作目。

日本では1968年、山室静訳で講談社より刊行された。

参考:「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」図録、Wikipedia

 

『ムーミン谷の仲間たち』についてもっと詳しく

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エピソード一覧

  1. 春のしらべ:スナフキンが名前のないはい虫と出会い、名前をつけてほしいと頼まれる。(この記事)
  2. ぞっとする話:赤ちゃんの弟のおもりに飽きたあにきホムサは、恐ろしいものが登場するお話を作り出す。感想記事はこちら。
  3. この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ:フィリフヨンカは大きな嵐の予感に恐怖心をつのらせていく。感想記事はこちら。
  4. 世界でいちばんさいごの竜:ムーミントロールはとても珍しい竜の生き残りを見つけ、可愛がるが、竜はそっけない。感想記事はこちら。
  5. しずかなのがすきなヘムレンさん:ヘムレンさんは年金で静かに暮らすことを望んでいるが、職場の遊園地が流されてしまう。感想記事はこちら。
  6. 目に見えない子:心が傷つき姿の見えなくなったニンニは、おしゃまさんに連れられてムーミン一家とともに暮らしはじめる。感想記事はこちら。
  7. ニョロニョロのひみつ:ムーミンパパは、家族をおいて一人ニョロニョロとともに航海の旅に出る。感想記事はこちら。
  8. スニフとセドリックのこと:大切なセドリックをあげてしまい、落胆するスニフに、スナフキンはあるお話を聞かせる。感想記事はこちら。
  9. もみの木:クリスマス前に冬眠から起こされたムーミン一家は、はじめてのクリスマスの準備をする。感想記事はこちら。

 

「春のしらべ」内容紹介

一言あらすじ

スナフキンが春の曲をつくっていると、一匹の名前のないはい虫があらわれる。

はい虫から名前をつけてほしいと頼まれたスナフキンは「ティーティ=ウー」という名前をあげる。

翌日スナフキンが会ったティーティ=ウーはすっかり変わっていた。

 

登場人物

  • スナフキン:ムーミントロールの親友。自由と孤独、音楽を愛する旅人。
  • ティーティ・ウー:旅の途中のスナフキンと出会うはい虫。

 

「春のしらべ」感想

『ムーミン谷の仲間たち』全体の感想は次の記事に書いているよ。

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ここからは、「春のしらべ」についての感想。

「春のしらべ」ポイント

 

ひとりが好きなスナフキン

お話の冒頭、ひとりで歩きながら美しい自然や作曲に幸せを感じるスナフキンに、こっちまでほっこりする。

スナフキンは本当にひとりの時間を愛しているんだなぁと感じる。

ももちんがスナフキンを素敵だなって思うのは、なんにも持っていないことが幸せなんだってよく知ってるところ。

持ち物を守ろうともしないしもっとほしいとも思っていない。

ふつうなら、どうやって食べていこう?って不安に思う場面でも、心はいつも自由

今日という日にはなんの問題もないってよくわかってるんだよね。

春のしらべがすぐそこまでやっているのを感じたスナフキンは、キャンプしながらひとり静かな夜に「歌をつかまえる」準備をする。

 

はい虫との出会い

そんなキャンプの夜に、スナフキンは一匹のはい虫と出会う。

はい虫は初めて見るスナフキンにおびえながらも、憧れをいだきながら見つめ自分から話しかける。

歌をつかまえるのをじゃまされたスナフキンは、不機嫌に対応。

はい虫に名前をつけてくれるように頼まれても、その返答は引き気味。

おまえさん、あんまりおまえさんがだれかを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ。ぼく、よく知ってるがね

引用元:『ムーミン谷の仲間たち』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

恋愛でも宗教でもそうだけど、良さそうななにかを自分と一体化させて依存しはじめたとたん、自由はなくなる。

スナフキンはそのことをシンプルに伝えているんだよね。

スナフキンはそもそも、言い寄られるのはあまり好きじゃない。

崇拝する側だけでなく崇拝される側だって、やさしい心を持っていたら影響はめっちゃ受けるもんね。

このお話の初めでもスナフキンは、自分を崇拝しすぎているムーミントロールを思い浮かべては心配になり、「あいつのことは考えまい」とする。

だけど、あきらめて行きかけたはい虫に、スナフキンは「ティーティ・ウー」と名づけてあげるんだよね。

名前をつけてもらったとたん、ティーティ・ウーはうっとりとその名をさけんだ。

 

自我が芽生えたティーティ・ウー

翌朝ふたたび出発したスナフキンは、どうしてもティーティ・ウーのことが頭からはなれない。

頭からふりきろうとしても、昨日交わした言葉のひとつひとつがはっきり浮かんでくるんだよね。

スナフキンも一時的にティーティ・ウーの崇拝者になって、心が不自由になっていたのかなぁ。

とうとうスナフキンは昨日出会った場所にもどり、新月に願をかけてティーティ・ウーを探す。

あらわれたティーティ・ウーは自信に満ち、これから自分の家をつくるところだった。

昨日は一匹のはい虫に過ぎなかったけれど、名前をつけてもらったとたん、ティーティ・ウーは新しく生まれたんだよね。

いまは、ぼく、一個の人格なんです。だから、できごとはすべて、なにかの意味をもつんです。だって、それはただおこるんじゃなくて、ぼく、ティー・ティ=ウーにおこるんですからね。

引用元:『ムーミン谷の仲間たち』ヤンソン作、山室静訳、講談社、2011年

「名前をもつこと」のパワーってすごい。

人は当たり前に名前があるからわかりづらいけど、名前があるから個性があるし、他の人との境界線や違いがはっきりする

ティーティ・ウーは初めて個性がめばえ、この自分で残りの人生を体験していくことをいそいでいたんだね。

思えばムーミンシリーズのキャラクターって、個人の名前がついていないことが多い

「ムーミントロール」「スノーク」「ミムラ」「ヘムル」などは、種族の名前で一個人の名前ではない。

そういう意味では、トーベ・ヤンソンは一個人のドラマではなく、誰しもに当てはまることとして描きたかったのかもしれない。

足早に去っていくティーティ・ウーを見送り、スナフキンは野原に寝そべり、春のしらべを感じはじめる・・・。

ももちん

自我を持つことのパワーと不自由さ、どちらも考えさせられるお話。

 

アニメで見られる「春のしらべ」

引用元:『ムーミン谷のなかまたち』公式サイト

 

短編「春のしらべ」のお話は、3Dアニメ『ムーミン谷のなかまたち』でも楽しむことができる。

アニメ『ムーミン谷のなかまたち』は、フィンランドとイギリス合作のアニメシリーズで声優陣も豪華。

ムーミントロール役はタロン・エガートン(『キングスマン』主演)、ムーミンママはロザムンド・パイク(『ゴーン・ガール』主演)、ほかにもケイト・ウィンスレットとか、映画にあまり詳しくないももちんでもよく知ってる俳優さんばかり。

スナフキン役の吹替は高橋一生。

映像と音楽で臨場感あふれるアニメで物語の世界を楽しもう。

「春のしらべ」はシーズン1のエピソード2。

 

『ムーミン谷のなかまたち』公式サイト

 

まとめ

ムーミン短編「春のしらべ」まとめ。

 

「名前」という自我を持つことのパワーと不自由さ、どちらも考えさせられるお話。

収録されている本

 

ムーミンの記事

 

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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