絵本

絵本『くまとやまねこ』感想。誰かを亡くした悲しみに優しくしみこむ

投稿日:

『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

『くまとやまねこ』は、『夏の庭』の湯本香樹実と、『よるくま』の酒井駒子によって生み出された、スペシャルな絵本。

愛する存在を失った悲しみにそっとしみこみ、寄りそってくれるような絵本だよ。

  1. 著者紹介
  2. 絵本を読んだきっかけ
  3. 大切な存在を亡くした悲しみ
  4. 「時間」だけが癒してくれる
  5. やまねことの出会い
  6. 新しい世界へ
  7. 完ぺきなコラボに鳥肌
  8. インタビュー・書評紹介
この記事はこんな人におすすめ
  • 大人が読んでじんとくる絵本を探している
  • 湯本香樹実、酒井駒子の作品が気になっている

 

スポンサーリンク

1.背景

『くまとやまねこ』は、2008年、河出書房新社より刊行された絵本。発行部数16万部のベストセラー。

初めて掲載されたのは、福音館書店の月刊誌「おおきなポケット」(1998年7月号)。

湯本香樹実の文に、ささめやゆきの絵で掲載された。

後に改稿、絵本として単行本化された。

湯本香樹実(文)

小説家・脚本家。

1959年東京都生まれ。東京音楽大学音楽学部卒業。

小説『夏の庭ーThe Friends-』で日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞。

同作品は十ヵ国以上で翻訳され、映画化・舞台化もされた。

絵本の翻訳も手掛ける。

参考:『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

主な作品(小説)

主な作品(絵本・童話の文)

酒井駒子(絵)

絵本作家、画家。

酒井駒子の略歴・主な作品についてはこちら。

「おおきなポケット」

『くまとやまねこ』が初めに掲載されたのは、福音館書店の月刊誌「おおきなポケット」。

「おおきなポケット」では、小学校低学年向けの絵本や読み物を掲載していて、子どものみならず、大人にもファンは多かったみたい。

人気があり、単行本化されている作品も多い。

1992年に創刊され、2011年に休刊。

参考:Wikipedia

2.内容紹介

ある日、くまの仲良しだったことりが死んでしまった

くまは、悲しくて、悲しくて、家の中に閉じこもってしまう。

ある日、窓を開けてみると、とてもいいお天気で、くまは、みちびかれるように散歩に出かけた。

その先で出会ったのは、みなれないやまねこ

やまねことの心の交流が、大切な存在を失った悲しみに、やさしくしみこむ

3.絵本を読んだきっかけ

『よるくま クリスマスのまえのよる』酒井駒子、白泉社、2000年

ももちんは、先に酒井駒子の絵本『よるくま』『よるくま クリスマスのまえのよる』を読んだことがあった。

特に『よるくま クリスマスのまえのよる』はとても心に響く絵本だったので、レビュー記事も書いたんだよね。

その後、図書館に別の用事で行ったときに、たまたま見つけたのが『くまとやまねこ』。

さっそく読んでみると、大切な存在を亡くした悲しみと、それを受け入れていくプロセスが、丁寧に描かれていた。

さらっと目を通しただけで、うるっときてしまった。

この絵本のレビューを書きたい、と思ったので、そのまま借りてきました。

『よるくま クリスマスのまえのよる』レビュー記事はこちら。

4.絵本を読んだ感想

『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

絵本をひらいたとたん、「うわ、どうしよう」ってなった。

その理由は、「ある朝、くまはないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです。」という書き出し。

大切な誰かを亡くしたところからのスタート。

正直、悲しい物語は苦手なのだが・・・と思った。

だけど、シンプルながら力のある書き出しと、美しいモノクロの絵にひき込まれ、気づけば物語にひき込まれていた。

4-1.大切な存在を亡くした悲しみ

はじめ、くまは、小さな木の箱をつくる。

丁寧にきれいに作ったその箱に花びらをしきつめ、死んだことりをそっと入れた

くまは、ことりが死んでしまい、この悲しい心をどう扱ったらいいのかわからない。

思い出されるのは、昨日の朝のことりとの何気ない会話。

時間を戻せたなら・・・後悔と悲しみが押しよせる

森の動物たちの言葉

くまは、いつもことりと一緒にいたくて、ちいさな箱を持ち歩いていた。

森の動物たちにお願いされ、箱の中身を見せるくま。

森の動物たちは、どんな反応をしたと思う?

みんな困った顔をして、「つらいだろうけど、わすれなくちゃ」って言うんだ。

もちろんみんな、くまへの思いやりからこの言葉をかけたんだよね。

早くくまに元気になってほしい。

ことりはもう戻ってこないんだから、前を向いてほしい。

友だちに対してそう思うのは、自然なことだと思う。

だけど、身近で大切な存在を亡くした経験がある人なら、くまの気持ちはいたいほどわかるはず。

ことりが戻らないのは百も承知。

前を向いたほうがいいのもわかってる。

わかってるけど、悲しい心は、そう簡単にコントロールできないんだ。

4-2.「時間」だけが癒してくれる

そのうちくまは、自分の家にこもって、鍵をかけてしまう

何日も、昼も夜もない部屋の中で、じっと座り続ける。

くまの自分への愛

くまが自分からとじこもったこと、あなたはどう感じる?

ももちんは、自分への愛だと思ったんだよね。

たとえば人間社会では、たいていは悲しいことがあっても、人と関わる機会がすぐにやってくる。

生活のために仕事も家事もしなくちゃいけないし、周りに心配かけたくないから、元気なふりをしたりもする。

そのうち悲しみは薄れていくけど、心の奥底には、まだ感じていない悲しみが残っている。

くまが自分から一人を選んだことは、周りから見たら、不健康なことかもしれない。

でも、くまにしてみたら、そのときの自分の望みを叶えることでもあったんだ。

だって、忘れたくないんだもん。

まだまだ、ことりのことを思って、悲しんでいたいんだもん。

「ひとり」という安心安全な環境で、どんなに深い悲しみも、じっくりと味わうという選択。

これ、一見マイナスのように見えて、とても大事なプロセスなんだよね。

心の変化

忘れなくていいよ。

悲しみを持っていていいよ。

前に進まなくていいよ。

ことりを忘れられない自分、変われない自分にOKを出し、とじこもったくま。

何日もたったある日のこと、くまは窓を開けて、いいお天気に感動をおぼえるんだ。

草のにおい、白い雲のぽっかりうかんだ空・・・

前は当たり前だったかもしれないその光景が、今のくまにはキラキラして見える。

とじこもったばかりのくまには、外に出たいと思うようになるなんて、想像もできなかっただろう。

だけど、時間は、ゆっくりだけど確実に、悲しみを癒すんだよね。

くまは、何の期待もせずに、ただ悲しみに身をゆだねてとじこもった。

この「身をゆだねる」ということが、時間の癒しの力を最大限に引き出した、ともいえる。

4-3.やまねことの出会い

久しぶりに散歩に出かけたくまは、昼寝をしているやまねこに出会う。

やまねこの横にあった箱の中身がみたくなったくまは、おそるおそる話しかける。

やまねこは、くまの持っている小さな箱の中身を見せてくれたらぼくも見せる、と言う。

くまはちょっと迷ったけど、見せてあげるんだ。

やまねこの反応

くまは、きっと怖かったと思う。

また、「わすれなくちゃ」なんて言われたらどうしよう?って。

だけど、やまねこから出てきた言葉は違った。

やまねこは、くまの寂しさによりそってくれたんだ。

おどろいているくまに、やまねこは、自分の箱の中身を見せる。

箱から出てきたのは、バイオリン。

「きみとことりのために、一曲えんそうさせてくれよ」

ことりの死を受け入れたくま

やまねこが奏でる音楽は、くまの心に優しくしみこんでいった。

くまは、音楽をききながら、いつのまにか、ことりとのいろんなことを思い出していった。

楽しかった思い出、けんかしたこと、仲直りしたこと・・・

ひとつひとつ、鮮やかに思い出したんだ。

このときのくまの心は、悲しみや後悔はなかったと思う。

自覚はしていなくても、くまはこのとき、ことりの死をすでに受け入れていたんだよね。

くまはことりを埋めて、やまねことともにお墓をつくった。

「ぼく、もうめそめそしないよ」というくまの言葉。

強がりではなく、ことりが心の中に住み続けることをさとったくまの、力強い言葉。

4-4.新しい世界へ

ことりを埋めて、お墓をつくったくま。

演奏旅を続けるやまねこに、いっしょにおいでよ、と誘われる。

やまねこがくまに差し出したタンバリンは、使い古されて汚れていたけど、とてもいい音がした。

このときくまは、「やまねこにも、ずっといっしょだった友だちがいたのかもしれない」と感じた。

だけど、それを聞くかわりに、くまは答える。「ぼく、れんしゅうするよ」

喜びも悲しみもまるごと受け入れる

やまねこはきっと、くまと同じ体験をしていたんだろうと思う。

だから、お互いわかっていた。

誰かを大切に思えば思うほど、お別れの悲しみも深いこと。

だけど、だからと言って、また誰かを愛することを怖がらない。

喜びも悲しみもまるごと受け入れて進んでいく姿に、胸がじんわり熱くなる。

4-5.完ぺきなコラボに鳥肌

湯本香樹実の文と、酒井駒子の絵。

それぞれがとても力強く、文だけでも、絵だけでも泣けるのに、その二つがかけ合わさっている。

『くまとやまねこ』は、それぞれの魅力を最大限にひきだしあって完成された、芸術ともいえる絵本。

音楽が聞こえてきそうな文

湯本香樹実の文は、子どもが読めるようなシンプルな言葉から、情景がありありと伝わってくる

特別な装飾語は使われていないのに、静かに感動を引き起こす。

やまねこのバイオリン演奏の場面は、本当に音楽が聞こえてくるみたいで、読む人の心までしみてくる。

あと、くまがことりをうめる場面は心に残った。

その場所がくまとことりにとって、どれだけ大切な場所なのか。

文章からその場所が、ささやかだけど、とても美しいことが想像できた。

なぜか鳥肌がたつ絵

そして、酒井駒子の絵は、さすがだな、と鳥肌が立った。

全体的には、くまの悲しみが伝わってくるような、モノトーンの絵。

後半、くまの心がちょっとぴかっとしたとき、その心の動きに応じるように、ピンクが使われている。

そう、控えめに使われているピンクは、くまの心の希望をあらわしているんだよね。

そして、物語に入り込んで読み進めると、ここぞというタイミングで登場する、見開きの美しい絵

くまがやまねこのバイオリンを聞きながら、ことりを思い出したところの場面が圧巻。

余白もたっぷりとって、読む人の心が物語にちょうど良いペースになるように計算されている。

5.関連トピック

絵本『くまとやまねこ』について、見つけた著者インタビューや書評を紹介するよ。

湯本香樹実インタビュー

楽天ブックスの公式サイトでは、『くまとやまねこ』で文を手がけた湯本香樹実のインタビューを読むことができる。

湯本香樹実がこの絵本の中で伝えたかったことや、心がけたこと、酒井駒子との仕事についても語られている。

冒頭の、死と時間、再生についてのところがおもしろかった。

湯本香樹実さん著者インタビュー/楽天ブックス公式サイト

著名人の書評

角田光代(女流作家)

河出書房新社公式サイトでは、『文藝 2008年 夏季号』に掲載された、作家の角田光代による『くまとやまねこ』書評を読むことができる。

この書評、読むだけで泣ける

ご自身もインコを飼っていて、亡くしたときの悲しみをつづっている。

「かなしみの深さは、人の死によって受けるものとほとんど変わらない」本当にその通りだと思う。

絵本そのものを読む前に、ぜひ読んでおきたい文章。

角田光代さんによる書評紹介/河出書房新社公式サイト

書評サイト”ALL REVIEWS”

書評サイト”ALL REVIEWS”では、朝日新聞に掲載された『くまとやまねこ』記事を読むことができる。

内容は短めで淡泊な感じ。

河出書房新社の担当編集者の言葉や、読者の傾向など、『くまとやまねこ』にまつわる情報がわかる。

ライター瀧井 朝世による書評/ALL REVIEWS

まとめ

絵本『くまとやまねこ』みどころまとめ。

  1. 著者紹介
  2. 絵本を読んだきっかけ
  3. 大切な存在を亡くした悲しみ
  4. 「時間」だけが癒してくれる
  5. やまねことの出会い
  6. 新しい世界へ
  7. 完ぺきなコラボに鳥肌
  8. インタビュー・書評紹介

愛する存在を失った悲しみにそっとしみこみ、寄りそってくれるような絵本だよ。

酒井駒子の絵本『よるくま クリスマスのまえのよる』については、こちらの記事をどうぞ。

スポンサーリンク
関連記事

-絵本
-

Copyright© ももちんの書評情報 , 2018 All Rights Reserved Powered by STINGER.