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『聖なる夜に』ピーター・コリントン作、BL出版、2000年
『聖なる夜に』はピーター・コリントンによる、文字なしクリスマス絵本。
貧しいおばあさんに起きる奇跡を、精密な絵だけで表現している。
この記事で紹介する本
こんな方におすすめ
- 大人におすすめのクリスマスの絵本を探している
- 文字なし絵本の魅力を知りたい
絵本『聖なる夜に』とは?
『聖なる夜に』(原題”A Small Miracle”)は、1997年、イギリスで初版が発行された絵本。
日本では、2000年、BL出版より刊行された。
作者はピーター・コリントン。
ピーター・小リントン紹介
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内容紹介
奇跡のおきる夜
クリスマス・イブの晩に、ひとりのおばあさんが雪の中でたおれています。(中略)
それは、奇跡がおきる特別な夜。(中略)
おばあさんを助けにあらわれたのは・・・
引用元:『聖なる夜に』ピーター・コリントン作、BL出版、2000年
絵本『聖なる夜に』を読んだきっかけ
ももちんは、先にピーター・コリントンの『天使のクリスマス』を読んだことがあった。
文字なし絵本だからこそ豊かに表現される世界に、すぐにひき込まれた。
それで、ピーター・コリントンの他の絵本も読んでみたいと思ったのがきっかけ。
クリスマスをテーマにした絵本が他にもあると知って、図書館で『聖なる夜に』を発見。
『天使のクリスマス』とは、また違うクリスマスの不思議な世界にひき込まれました。
絵本『聖なる夜に』を読んだ感想
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『聖なる夜に』ピーター・コリントン作、BL出版、2000年
絵本『聖なる夜に』は、物語を通して、読む人に問いかけている。
「あなたは奇跡を信じますか?」
クリスマスは、子どもたちだけが喜ぶファンタジーではない。
大人だって信じていい。
そして、奇跡は今この瞬間にも起きている。
『聖なる夜に』は、忘れていた「奇跡を信じ、感謝する心」を静かに思い出させてくれる絵本。
主人公はおばあさん
『聖なる夜に』の主人公は、古いトレーラーで一人暮らしをするおばあさん。
おばあさんは、路上でのアコーディオン演奏で生活している。
今日の食事もままならないほど、貧しい。
一緒に過ごす家族もいない。
文字がないから、セリフも気持ちも書いていない。
おばあさんの静かな孤独が、絵にあふれている。
冷たく暗いクリスマス・イブ
クリスマス・イブに目を覚ましたおばあさんは、いよいよ一文無しで、パンのひとかけらもないことに気づく。
今日の糧を得るために、おばあさんはアコーディオンをもって出かける。
絵からは外の凍てつく寒さと暗さが伝わってくる。
低く曇った空、葉の落ちた寒々しい木々。
風は見えないけれど、読んでいる方まで感じるほどの冷たい風が見えるみたい。
おばあさんは、何を考えながらひとり雪原を歩いているのだろう?
クリスマスの街の活気との対比
街はクリスマスで活気づいている。
人々はツリーやプレゼント、ごちそうを作るための食糧をもって、楽しそうに歩いている。
おばあさんは路上でアコーディオンを演奏するけど、人々は素通り。
まるでおばあさんの存在が見えていないみたい。
一年で一番華やぐいでいる場面の中で、ひっそりと何時間も演奏を続けるおばあさんの寂しさが、いっそう際立って見える。
大事なアコーディオンを手放す
アコーディオン演奏でお金を得ることができず、頭を抱えたおばあさん。
ふと、後ろにある質屋を見つめる。
おばあさんは最後の手段で、大切なアコーディオンを手放すことにする。
アコーディオンと引き換えに得たお金で当面の食料はまかなえるかもしれない。
だけど、商売道具がなくなったおばあさんは、そのあとどうやって生きていくのか?
おばあさんだってそれは百も承知で決めたこと。
今日という日を生きるために・・・
涙を流しながらアコーディオンにさよならのキスをするおばあさんが胸に迫ってくる。
さらなる不幸
読んでいて、おばあさんがかわいそうで、そろそろ奇跡起きないかなって思うんだけど、さらなる不幸がおきる。
アコーディオンと引き換えに得たお金が入った小箱を、ひったくりに取られてしまうんだ。
何にも悪いことをしていない、今日を生きるために大切なものを手放して得たお金。
ひったくり、なぜそんな清らかなお金をわざわざねらう?
そんなことが起こっていいの?起こっていいわけないよ!
ひったくりにも、理不尽な状況にも、怒りがもやもやと湧いてくる。
おばあさんの清らかさ
貧しく孤独なおばあさん。
だけど、物語からは、どんな逆境でも影響を受けない、どしんとした心の清らかさ、力強さが伝わってくる。
教会を気にかける
クリスマス・イブの朝、街へ向かうおばあさんは、教会の前を通る。
そのとき、教会にクリスマス・クリブ(キリスト生誕の飾り)を準備しているところを見るんだよね。
何気ない1シーン。
だけど、想像してみてほしい。
今日食べるものすら得られるかわからないおばあさんが、教会をのぞく心って、どんなものなんだろう?
そこには、お金や食べ物がない状況でも揺らがない、心の温かさが垣間見える。
ひったくりから守りたかったもの
ひったくりを必死で追いかけるおばあさん。
雪に残ったバイクの跡をたどっていくと、教会につく。
教会の献金のバケツを盗んで出てきたのは、さっきのひったくり!
自分の危険をかえりみず、おばあさんがひったくりから取り戻したのは、自分の小箱ではなく、献金のバケツ。
このとき、おばあさんを突き動かしたものは何だったんだろう?
それは、怒りともちがう、「清らかさ、正しさを貫く心」ともいえると思う。
これは説教や教訓とはちょっと違って、反射的な、心の根底にある善良さを表している。
聖なるものへの献身
教会に逃げこんだおばあさんがみたのは、無残にこわされたクリスマス・クリブ。
おばあさんは丁寧にクリスマス・クリブを元に戻してやり、献金のバケツも元に戻す。
おばあさんの心には、自分の飢えをしのぐために献金に手を付けるなんてことは、うかびもしなかったに違いない。
だけど、おばあさん自身の体は、もう限界だったんだよね。
トレーラーに戻る途中で、気を失って倒れてしまう。
クリブの人形たちが大活躍!
倒れているおばあさん。
遠くに小さく見えるのは、ちいさい人たち・・・
そう、教会のクリスマス・クリブの人形たちが走ってきたんだ!
ここからの、人形たちの活躍っぷりがハンパない!
てきぱきと活躍する人形たち
ここで活躍するのは、聖母マリア、ヨセフ、三人の賢者、羊飼いの6人。
おもしろいのが、描かれているのがもう、人形ではないんだよね。
「ちいさい人」という方があっていると思う。
昔の衣を着て、普通に走っている小さい人たちの姿、シュールすぎる・・・!
力を合わせて、おばあさんをトレーラーのベッドへ運ぶときも、「よいしょっと」みたいな掛け声が聞こえてきそうなリアルさ。
6人の小さい人は、みごとな役割分担で仕事にかかる。
- マリア様は、イエスさまを抱っこしながら、寝ているおばあさんを看病
(手を握っているのでめっちゃ強力なヒーリングしてるように見える) - ヨセフは斧をもって走り出したと思ったら、モミの木の切り出しとまき割り
- 羊飼いはひったくられた小箱を取り戻しに出掛ける
- 3人の賢者たちは街へダーッシュ!
それぞれの仕事を済ませ、再びトレーラーに集まった人形たち。
今度はツリーの飾りつけ、ごちそうづくり、トレーラーの壊れているところ修理にとりかかる。
こんがりと焼けた七面鳥や、熱々のスープの湯気が、めっちゃおいしそう・・・。
ツリーには、ジンジャークッキーやたくさんのろうそくやオーナメントが飾られ、めっちゃ華やか。
マリア様はずっとヒーリング。
全てが整うと、おばあさんが目を覚ます前に、人形たちは姿を消す。
ちいさい人間として受け入れられてる!
ここで3人の賢者たちの様子が詳細に描かれる。
賢者たちは、まずは質屋に向かう。
質屋では、クリスマス・クリブの飾りの宝物と引き換えに、アコーディオンと現金をゲットするんだ。
得た現金で、お次はスーパーで食料を調達。
この流れ、ちゃんと計算しててめっちゃ賢いよね。
さらにおもしろいのが、質屋のおじちゃんとスーパーのレジのお姉さん。
目の前で人形が動いているというのに、めちゃ普通に接してる。
全く驚いてないのに、こっちが驚きました。
当たり前が奇跡
目を覚ましたおばあさんは、目の前の光景を見てびっくり!
華やかに飾られたツリー。
テーブルにはごちそう。
アコーディオンに、お金が入った小箱。
暖炉ではごうごうとまきが燃えている。
おばあさんの喜びの表情はプライスレス。
この光景に感動するのは、読者がおばあさんの境遇を知っているから。
何も知らなかったら、この光景は、よくあるクリスマスの風景にすぎない。
とりたてて豪華なものでも、びっくりするようなものでもない。
だけど、どこの豪勢なクリスマスを過ごすよりも、おばあさんは幸せを感じていたのだと思う。
おばあさんには、この奇跡を起こしたのは誰だかわからない。
自分の行いが奇跡につながったとは、想像すらしていないのだと思う。
喜びをしみじみと感じながら、おばあさんはアコーディオンをならす。
幸せは、家族がいることでも、豪華なプレゼントでもないんだよね。
生きていることこそがありがたい。
外側の状況が、たとえ孤独で貧しく年老いていたとしても、生きている喜びを感じられたなら、それは奇跡なんだ。
『天使のクリスマス』との違い
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『天使のクリスマス』ピーター・コリントン作、ほるぷ出版、1990年
ピーター・コリントンのクリスマス絵本は2冊ある。
今回紹介した『聖なる夜に』と『天使のクリスマス』という絵本。
どちらも文字がなく、絵だけで表現された絵本。
どちらも好きな絵本だけど、そのストーリーも受け取る感覚も全く違う。
子どもがいない、サンタがいない
『天使のクリスマス』は、女の子が眠っている間に、天使とサンタクロースが協力してプレゼントを届けるお話。
子どもは、天使もサンタクロースも大好きだし、みたらテンション上がる。
『聖なる夜に』では、天使も、サンタクロースも登場しない。
クリスマスではよく描かれる、子どもも、家族も登場しない。
登場するのは、おばあさんと、クリスマス・クリブの人形たち。
この究極のシンプルさが、するどく読者に問いかけている。
「クリスマスの本当の意味って?」
「本当の幸せって?」
ネガティブも描く
『天使のクリスマス』では、中流か、ちょっと裕福な家庭が舞台となっている。
描かれるたくさんのプレゼントや住居は、読者がみて、素敵だな、憧れるな、と思う。
『聖なる夜に』で描かれるのは、あえて貧しいおばあさん。
表面的には、読者が同情するほど、お金がなく、食べ物に困り、家族もいない、年老いている、という状況。
その中で、心の清らかさだけが際立っている。
クリスマスの奇跡がどんな人に起きるのか?
本当に大事なものは何なのか?
そんなことが伝わってくる。
『天使のクリスマス』感想
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文字なし絵本『天使のクリスマス』感想。静かで不思議な一夜の世界!
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関連トピック
クリスマス・クリブとは?
ここで、日本人にはあまり聞きなれない「クリスマス・クリブ」について説明するね。
クリスマス・クリブはイエス・キリスト生誕の時の様子をあらわした飾りのこと。
クリスマスが近づくと、キリスト教圏の国では、多くの教会でクリスマス・クリブが飾られる。
キリストが、馬小屋で生まれたことを思い出させ、敬虔な気持ちにさせてくれる。
飾られる人形は飼い葉おけに寝かされたキリスト、母マリアと父ヨセフ、羊飼い、3人の賢者たちなど。
参考:『クリスマスってなあに?』ジョーン・G・ロビンソン作、こみやゆう訳、岩波書店、2012年
クリスマスの物語を知れる絵本
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上段左から『クリスマスのものがたり』フェリクス・ホフマン作、しょうのこうきち訳、福音館書店、1975年
『クリスマス』バーバラ・クーニー作、安藤紀子訳、ロクリン社、2015年
『クリスマスってなあに?』ジョーン・G・ロビンソン作、こみやゆう訳、岩波書店、2012年
下段左から『聖なる夜』セルマ・ラーゲルレーヴ文、イロン・ヴィークランド絵、うらたあつこ訳、ラトルズ、2007年
『クリスマス』ヤン・ピエンコフスキー絵、木原悦子文、リトルベル、2016年
『くりすますのおはなし』柿本幸造絵、谷真介文、女子パウロ会、1990年
絵本では、クリスマス・クリブについて知識がなくても、人形たちの活躍を楽しめる。
けれど、キリスト生誕のお話について知っていると、さらにおもしろく読めるだろうなあと思った。
キリスト生誕についてのお話の絵本については、次の記事をどうぞ。
クリスマスのお話絵本
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【クリスマス物語】大人におすすめ!キリスト誕生の絵本16作品まとめ
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まとめ
絵本『聖なる夜に』みどころまとめ。
- 著者・作品紹介
- 絵本を読んだきっかけ
- 主人公はおばあさん
- おばあさんの清らかさ
- クリスマス・クリブの人形が活躍
- 当たり前が奇跡
- クリスマス・クリブとは
何気ない一日が特別であることに、気づくことができる絵本だよ。
クリスマスに読みたい絵本については、こちらのバナーからどうぞ。
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