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絵本『おおきな木』感想。木が少年に捧げる無償の愛。村上春樹の翻訳

2018年5月22日

シルヴァスタイン『おおきな木』村上春樹翻訳、2010年、あすなろ書房

絵本『おおきな木』は、大人になっても、読むたびに新しい感じ方ができる名作。

シンプルな絵と文から、さまざまな解釈ができる絵本でもある。

ももちん
今回は、英語版の表記も紹介しながら、村上春樹翻訳の『おおきな木』の魅力をお伝えするよ。

この記事で紹介する本

この記事でわかること

  • 絵本『おおきな木』内容とみどころ
  • 新旧翻訳の違い

『おおきな木』とは?

『おおきな木』(原題:The Giving Tree)はシェル・シルヴァスタイン作の絵本。1964年にアメリカ合衆国で出版された。

日本では、1976年、藤田 圭雄(ふじた・たまお)の翻訳により、実業之日本社より出版された。

同年、本田錦一郎(ほんだ・きんいちろう)の翻訳により、篠崎書林より出版された。

2010年、村上春樹による新訳により、あすなろ書房より出版された。

シェル・シルヴァスタイン/作

米国の作家、イラストレーター。1969年、1984年にグラミー賞を受賞するなどシンガーソングライターの顔ももつ。

1932年、シカゴ生まれ。イリノイ大学、ローズヴェルト大学などで学ぶ。

詩人、音楽家、漫画家、児童文学作家と多彩な顔を持つ。自由な性格であり一箇所に留まらない放浪の生活だった。

1999年没。

代表作(絵本)

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村上春樹(むらかみ・はるき)/訳

日本の小説家、翻訳家。

1949年、京都府生まれ。早稲田大学文学部卒業。

1979年、『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。

1987年発表の『ノルウェイの森』は2009年時点で上下巻1000万部を売るベストセラー。

日本国外でも人気が高く、2006年、フランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。

翻訳も精力的に行い、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、トルーマン・カポーティほか多数の作家の作品を訳している。

代表作(翻訳)

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内容紹介

一言あらすじ

一本のリンゴの木と、一人の少年の物語。

リンゴの木と少年は、いつも一緒に遊んだりお昼寝したり、仲良しの友達。

だけど、少年がだんだん成長していくにつれて、望むものが変わっていく。

木は自分の果実や枝、幹を少年に捧げていく。

そして、少年が老人になったとき、木が少年に捧げたものとは・・・。

『おおきな木』あすなろ書房公式サイト

 

絵本『おおきな木』の感想

シルヴァスタイン『おおきな木』村上春樹翻訳、2010年、あすなろ書房

初めに表紙を見て気づくのが、英語と日本語の題名の違い

日本語版では「おおきな木」となっているけれど、原題は“The Giving Tree”という。

“The Giving Tree”という題名から、絵本『おおきな木』は、「与え続けること」が大きなテーマであり、そこから読む人に何かを感じさせる物語であることがわかる。

 

『おおきな木』ポイント

 

木と少年の相思相愛

物語の前半、一本の木とひとりの少年の、相思相愛の様子が描かれている。

幼い少年は一本のリンゴの木の下に毎日やってくる。

葉っぱをいっぱい集め、かんむりを作る。

きのぼりをして、枝にぶらさがって遊ぶ。

木になるリンゴを食べ、かくれんぼをする。

くたびれると木陰で眠る・・・

少年はこの木のことが大好きだったことが伝わってくる。

もちろん、木のほうも少年のことが大好きだった。とても幸せな日々を送っていたんだよね。

 

木にとっての「少年」という存在

ときが流れ、少年は成長していく。

少年が木へそそいでいた愛情は、人間の女の子への愛情に変わり、木の下に来ることも減っていく。

一方、木の少年に対する愛情は変わらない

少年が大人になっても、年老いても、変わらず木は「ぼうや」と呼びかけるんだ。

英語版でも一貫して”boy”と表記されていることから、どんなに人間の姿が変わろうと、木にとっては愛しい「ぼうや」であることがわかる。

木と人間の時間の流れの違いを感じるよね。

ももちん

人間にとっての一生分は、木にとってのほんのひと時に過ぎないのかもしれない。

 

「おおきな木」の疑問

おおきな木の少年への愛情は変わらず、木はいつもわが身を差し出して、少年に幸せになってもらおうとする

あるときは、お金が欲しい少年のために、リンゴをどっさり取らせてやる。

あるときは、家を建てたい少年のために、全部の枝を切らせてあげる。

どのときも、木は自分の身を少年に差し出し、それで木は幸せだった

そしてしまいには、船を作りたい少年のために、木は、自分の幹を切って船をつくること、その船にのって遠くに行って、幸せになることを提案する。

ここで初めて、木の違う感情が湧いてくる

今まで「幸せだった」と繰り返していたけど、この場面で初めて木は「幸せであること」に疑問を持つんだよね。

 

なぜ、切り株になった木は、幸せに疑問を持ったんだろう?

 

ナンの見返りもなく、与え続けるばかりでいることに疲れちゃったのかな?

自分、何やってるんだろう・・・みたいな。

ももちん
ももちん

うーん。どうかな。

切り株になった木には、いよいよ少年に与えられるものがなくなってしまった。

遠くに行ってしまう少年は、そんな自分の元もう二度と戻ってこないと思った。

その寂しさから、「幸せだった」と言い切れなかったのではないかな。

正解はない。

自分がおおきな木なら、どう思うのか想像してみるのがおもしろい。

 

最後まで変わらない母性

最後、年老いておじいさんになった少年が木のところにやってくる。

切り株になった木は、少年に与えられるものがなく残念に思う

だけど同時に、少年はもう何も必要としなくなっていた

ただ一つ、腰かけて休める場所があればよかった。

木は喜んで自分の身を差し出し、少年はその切り株に腰かける。

最後の最後まで少年に与え続けた無償の愛。

英語版では木は”She(彼女)”と表記されている。このことから、おおきな木の少年への、母のような、祖母のような愛を感じるよね。

 

感想おさらい

 

新旧翻訳の違い

今回レビューしたのは2010年に出版された村上春樹翻訳の『おおきな木』

この『おおきな木』は、それまで篠崎書林から本田錦一郎のの翻訳で出版されていた。

本田錦一郎が亡くなり、出版社が出版を続けることができなくなったという事情から、村上春樹による新訳版が生まれた。

この本田錦一郎と村上春樹の翻訳では、内容がだいぶ変わってくる。

一番顕著なのは、木が少年に船をつくるための幹を与えてしまった場面。

英語版では”And the tree was happy...but not really.”となっている。

村上春樹翻訳では、「それで木はしあわせに・・・なんてなれませんよね。」となっている。

本田錦一郎は、「それで木はしあわせだった。だけど それは ほんとかな。」と訳している。

ここをどう解釈するかは、読み手次第。

ももちん

ももちんは、読者に質問を投げかけるような本田訳が好み。

本田錦一郎訳

英語版

 

シルヴァスタイン作×村上春樹新訳の絵本

シルヴァスタインのもう一つのロングセラー絵本が、1977年刊行の『ぼくを探しに(原題”The missing piece”)と、1982年刊行の続編『続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い(原題”The missing piece meets the Big O”)。

どちらも作家の倉橋由美子が翻訳を手がけた。

2019年11月、この続編の方の絵本”The missing piece meets the Big O”が、村上春樹の新訳であすなろ書房より刊行された。

書名も『はぐれくん、おおきなマルにであう』と大きく変更されている。

まだ読んでいないので、ぜひ読み比べしてみたい!

 

まとめ

絵本『おおきな木』村上春樹翻訳版みどころまとめ。

 

何度も読み返すと、そのたびに感想が変わる、不思議な絵本。あなたもぜひ読んでみてね。

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

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