絵本『ビロードのうさぎ』感想。酒井駒子の絵と訳が大人の心にしみる

投稿日:2019年11月5日 更新日:

『ビロードのうさぎ』マージェリィ・W・ビアンコ原作、酒井駒子絵・抄訳、ブロンズ新社、2007年


絵本『ビロードのうさぎ』は、クリスマスにもらわれたウサギのぬいぐるみの物語。

絵本『よるくま』で有名な酒井駒子が、絵と抄訳を手がけた。

ウサギの気持ちを細やかに描く物語と絵がマッチして、大人が読むと胸にぐっとくる絵本。

こんな方におすすめ

  • 大人がクリスマス前に読むのにぴったりな絵本を探している
  • 酒井駒子の絵本が好き。『ビロードのうさぎ』は読んだことがない
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1.背景

”The Velveteen Rabbit”(1922)表紙絵[public domain]

『ビロードのうさぎ』(原題”The Velveteen Rabbit”)は、イギリス出身の絵本作家マージェリィ・W・ビアンコが1922年に発表した児童文学。

初版の絵はウィリアム・ニコルソンによる。

日本では1953年、石井桃子訳で『スザンナのお人形・ビロードうさぎ』が岩波書店より刊行された。

2007年、酒井駒子の絵と抄訳(※)で絵本『ビロードのうさぎ』がブロンズ新社より刊行された。

ももちん

※「抄訳(しょうやく)」とは、原文のところどころを抜き出して翻訳することだよ。

 

マージェリィ・W・ビアンコ(原作)

作家、絵本作家。

1881年ロンドン生まれ。19歳から作家として活動する。

結婚後アメリカへ移住。

1922年41歳のとき”The Velveteen Rabbit”を発表。

その後絵本作家に転身し、精力的に作品を書いた。

1944年死去。

参考:Wikipedia

酒井駒子(絵・抄訳)紹介

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2.一言あらすじ

一言あらすじ

クリスマスプレゼントとしてぼうやのもとにやってきたビロードのうさぎ。

先輩のウマのおもちゃは、「ぼうやの本当の友だちになると、本物になれる」と教える。

やがてビロードのうさぎはぼうやの本当の友だちになり、自分を「本物のうさぎ」と思うようになる

ある日、ぼうやは重い病気にかかり、ビロードのうさぎはずっとそばで話しかける。

ぼうやが回復に向かうと、消毒のためビロードのうさぎは捨てられてしまう

ビロードのうさぎが本物の涙を流したとき、子ども部屋の妖精があらわれ、ビロードのうさぎを「だれにとっても本物のうさぎ」(動物のうさぎ)にする。

 

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3.『ビロードのうさぎ』を読んだきっかけ

ももちんが絵本『ビロードのうさぎ』を知ったのは2018年の秋頃。

ブログに書くクリスマス絵本について調べたときに、「大人におすすめ」というワードで必ずと言っていいほどあげられていたのが、『ビロードのうさぎ』だった。

さっそく図書館で読んでみたら、心にじんとくるお話で、酒井駒子さんの絵も素敵だった。

ももちん
あやうく図書館で泣きそうになりました。

酒井駒子さんの他の絵本はブログでも紹介していたので、とてもいい、というのは実感としてあった。

2019年のクリスマスは絶対『ビロードのうさぎ』の記事を書くぞ!と思っていたので、紹介できてうれしい。

 

合わせて読みたい

 

4.『ビロードのうさぎ』を読んだ感想

クリスマスのくつ下に入るビロードのうさぎ。ウィリアム・ニコルソン絵[public domain]

『ビロードのうさぎ』はクリスマスの絵本として紹介されることが多いけれど、物語そのものはクリスマスと関係ない

初め、ビロードのうさぎがクリスマスプレゼントとしてぼうやのもとにやってくる、というだけ。

物語に描かれるのは、ビロードのうさぎとぼうやの出会いから別れ

読み終わったあとには、心の中にどっしりしたもの、心地よさなど、なんとも言えない感情が残る。

クリスマスにかぎらず、いつでも手元において、出会いと別れを体験してきた大人に読んでほしい絵本

『ビロードのうさぎ』ポイント

  • 「ほんもの」になりたいうさぎ
  • ぼうやの「ほんもの」になる
  • 「ほんもの」への疑いと、かき消した気持ち
  • ぼうやに捧げた愛と、「ほんとう」のなみだ
  • ビロードのうさぎに起こる奇跡
  • 酒井駒子の絵と完璧な抄訳

「ほんもの」になりたいうさぎ

ウマのおもちゃとビロードのうさぎ。ウィリアム・ニコルソン絵[public domain]

ビロードのうさぎは、ベルベットでできたうさぎのぬいぐるみ。

新入りおもちゃのビロードのうさぎは、初めはぼうやの目に触れることもなく、周りのおもちゃにばかにされる

縮こまるビロードのうさぎに、先輩のウマのおもちゃは「子ども部屋の魔法」を教えるんだ。

「子ども部屋の魔法」とは、「おもちゃ」から「ほんもの」になる魔法

 

「ほんもの」って?

物語では、「ほんもの」とか「ほんとう」という言葉が何度も出てくる。

それだけ、ビロードのうさぎにとって「ほんもの」になることは大事なことだった。

どうすれば「ほんもの」になれると思う?

ウマのおもちゃは教えてくれた。

それは、おもちゃが子どもから心から大切にされ、本当の友だちになったとき

それを聞いてから、ビロードのうさぎは、ぼうやの「ほんもの」になることを夢見るんだよね。

ももちん

一番古くてボロボロのウマのおもちゃも、かつて誰かの「ほんもの」だったのかもしれないね。

 

ぼうやの「ほんもの」になる

ある日お手伝いのナナは、ぼうやの枕元になにげなくビロードのうさぎを置く。

ももちん

おもちゃにたいしてそっけなく、こわがられるナナだけど、このときはグッジョブ。

ぼうやとビロードのうさぎは、この日から毎晩一緒に眠るようになる

ビロードのうさぎは、ぼうやのことをすぐに大好きになる。

眠るときはぼうやによりそい、春が来ると、一緒に外で遊ぶ日々。

ぼうやと一緒が楽しくて、幸せで、自分の体はだんだん汚れていくけれど、そんなことちっとも気にならない

あるときナナがビロードのうさぎを「きたないおもちゃ」と言うと、ぼうやは「ほんとうのうさぎなの」と反対する。

この言葉を聞いたとき、ビロードのうさぎは「自分が本当のうさぎになった」と知るんだ。

ももちん

自分が汚れていくことも気にならないほどぼうやを愛し、うれしくて眠れなくなるビロードのうさぎに、つきんと胸が痛くなる。

 

動物のうさぎとの出会い

本物のうさぎとお話するビロードのうさぎ。ウィリアム・ニコルソン絵[public domain]

夏のある日、ビロードのうさぎが外にすわっていると、奇妙なものと出会う。

「ふしぎなもの」としてビロードのうさぎの目にうつったのは、本当の動物のうさぎ

動物のうさぎはビロードのうさぎを「本当のうさぎじゃない」と言って去っていく

 

「ほんもの」への疑い

このときのビロードのうさぎのショックは、どれだけのものだっただろう。

自分とそっくりなのに、自分とはまったく違う、動きまわれるうさぎがいるなんて。

「ほんもの」だと思いこんでいた自分は、はたして本当に「ほんもの」なのだろうか?

そもそも、「ほんもの」って、何だろうか?

たくさんの「?」がわいたんじゃないかな。

だけど、ふたたびぼうやと一緒の日々にもどり、ビロードのうさぎの疑問はかき消えていく

 

おさえこんだ気持ち

ぼうやとすごす日々は、「ほんもの」でいられる幸せをビロードのうさぎに感じさせてくれた

ボロボロになっても、ぼうやにとってはすばらしいうさぎであるという幸せ。

心の奥では、動物としての「ほんもののうさぎ」への憧れが芽ばえていたかもしれない。

だけど、そこには目を決して向けてはいけないという、ビロードのうさぎのいろんな気持ちが伝わってくる。

ももちん

本当の気持ちを認めてしまったらどうなるだろう?

ぼうやをうらぎることになる?

望んだところで、動物になれるわけがない?

ビロードのうさぎがおしこめた気持ちが、心にひびく。

 

ぼうやの病気と突然の別れ

消毒の薬品とビロードのうさぎ。ウィリアム・ニコルソン絵[public domain]

ビロードのうさぎが、もはやうさぎとわからないくらいボロボロになったある日、ぼうやは重い病気にかかる

ビロードのうさぎはベッドの奥に隠れ、だれもいなくなったら顔を出し、ぼうやに話しかけた。

楽しかった日々のこと、これからやってみたいこと。

毎晩そうして、ぼうやに話しかけた

ももちん

けなげなビロードのうさぎに、泣ける。

そして長い病気の日々のあと、ぼうやは回復し、海へ静養に行くことになった。

ビロードのうさぎは、また楽しい日々がやってくると、ワクワクする。

だけど、終わりは突然やってきた。

お医者さんがナナに、ぼうやの部屋を消毒するように言うんだ。

 

「見え方」の違い

お医者さんがビロードのうさぎのことを「バイキンのかたまり」と言った場面には悲しくなった。

ぼうやにとっては「ほんもの」でも、大人たちにとっては「バイキンのかたまり」なんだ・・・。

大人とこどもの「見え方」の違いにびっくりするけど、そう見える大人の気持ちもわかる。

というか、ぬいぐるみに心があること、ほとんどの大人は忘れてしまっているもんね、ももちんも含め。

 

「ほんとう」の悲しみ

こうしてあっけなく、ビロードのうさぎは捨てられてしまう。

こんなに簡単に、終わりがやってくる。

楽しかった日々と、本物になれた喜びもなくなり、明日には燃やされてしまう。

何より悲しいのは、ぼうやがこのことに気づいてすらいない、ということだと思う。

ももちん

自分がボロボロになることも気にならないほどぼうやを愛し、毎晩話しかけて看病した。

そんなぼうやに、お別れも言えずに捨てられてしまう

ビロードのうさぎは、どれだけ悲しかっただろう。

 

ビロードのうさぎに起こる奇跡

子ども部屋の妖精。ウィリアム・ニコルソン絵[public domain]

ぼうやのことを思い、悲しみをいっぱいに感じて、とうとう奇跡が起きた。

ビロードのうさぎの頬を、本当のなみだがつたったんだ。

本当のなみだ。

この瞬間が、ビロードのうさぎにとって、本当に「ほんもの」になった瞬間だったのかもしれない。

 

子ども部屋の妖精

そして2つ目の奇跡が起こる。

ビロードのうさぎのなみだが落ちた地面から花が芽を出し、妖精が姿をあらわすんだ。

妖精は、ビロードのうさぎに魔法をかける。

どんな魔法だと思う?

それは・・・

本物の動物のうさぎになる魔法。

ビロードのうさぎは、動物のうさぎになった。

 

「ほんもの」への望み

これまでもビロードのうさぎは、自分を「ほんとう」のうさぎだと思っていた

だけど、それは、ぼうやにとってだけ

お医者さんやナナなどの大人はもちろん、動物のうさぎからみても、ビロードのうさぎは「ほんとう」のものではなかった

「にせもの」だったんだよね。

ビロードのうさぎ自身、心のどこかでそれをずっと感じていた。

ぼうやのためだけに自分を捧げたとき。

「ほんもの」かどうかなんて関係なく、ぼうやを愛したとき

やっとビロードのうさぎは、自分のことを「ほんもの」と認めることができたのだと思う。

自分を本当に認めたとき、想像すらしなかった、すばらしい奇跡が起こったんだ。

ももちん

この場面のあと、ラストの1ページを読んで、鳥肌がたった

ぜひ絵本を手にとって、読んでほしいな。

 

酒井駒子の絵と訳

『ビロードのうさぎ』マージェリィ・W・ビアンコ原作、酒井駒子絵・抄訳、ブロンズ新社、2007年

絵本『ビロードのうさぎ』は、画家の酒井駒子さんが、絵と抄訳を手がけた。

言うまでもなく、絵はすばらしい。

ビロードのうさぎの無表情の中に、ちゃんと喜怒哀楽の感情が感じられる。

新しかったうさぎが汚くなっていく様子も伝わってくる。

そして翻訳。

全文訳ではなく、原文の一部を翻訳しているのが「抄訳」なんだけど、この仕上がりがすごい。

見ているだけで心が静かになる独特の絵に、余白を充分に感じられる物語の文が、しっくり合っている

これ以上多かったら説明っぽくなり、これ以上少なかったら物語の感動が損なわれる、絶妙のラインで言葉を選んでいる

全訳を読んでから『ビロードのうさぎ』を読んでも、物足りなさはまったく感じないし、逆に全文訳では味わえない余韻があるんだよね。

ももちん

他の訳と読み比べてみても、酒井駒子の絵本『ビロードのうさぎ」が一番泣ける

ほんとうにすごい。

 

省略されている部分

訳文は、漢字が少なく、子どもでも読みやすい。

文字の量は、絵本にしては多いけど、物語にしては短いくらい。

全文訳と比較して、おもに省略されている部分は次のとおり。

省略されている部分

  • ビロードのうさぎが他のおもちゃにバカにされている詳しい描写
  • ウマのおもちゃ自身がぼうやのおじの「ほんもの」だったということ
  • ビロードのうさぎが動物になったときの気持ちの描写

 

もっと詳しく

 

5.今作以外の「ビロードのうさぎ」の本

今回紹介したのは、酒井駒子さんによる抄訳の絵本『ビロードのうさぎ』。

元の物語はもっと長い、児童文学のジャンルに入るもの。

現在日本で刊行されている『ビロードのうさぎ』の本を紹介するよ。

現在は絶版で手に入りにくいものも。

図書館で手にとってみてね。

ももちん

電子書籍以外の本は、子どもでもじゅうぶん読める易しさ。

味わい的には、酒井駒子の絵本『ビロードのうさぎ』は大人向け

他のは子ども向け、という感じ。

『ビロードうさぎ』ウィリアム・ニコルソン(絵)石井桃子(訳)

『ビロードうさぎ』 マージェリィ・W・ビアンコ文、石井桃子訳、ウィリアム・ニコルソン絵、童話館出版、2002年

絵本『ビロードうさぎ』は、2002年、童話館出版より刊行された。

1953年に岩波書店より刊行の『スザンナのお人形・ビロードうさぎ』の『ビロードうさぎ』を新しく翻訳し直したもの。

ウィリアム・ニコルソンの絵に石井桃子の翻訳という、ベーシックな1冊。

形は絵本だが、文章のメインで挿絵が数点入っている。

小学校高学年以上向け。

 

『スザンナのお人形・ビロードうさぎ』岩波書店

『スザンナのお人形・ビロードうさぎ』マージェリィ・W・ビアンコ文、石井桃子訳、高野三三男絵、岩波書店、1953年

児童書『スザンナのお人形・ビロードうさぎ』は、1953年、岩波書店より刊行。

先に紹介した童話館出版『ビロードうさぎ』の元になった本。

高野三三男の絵は昭和感あり、日本の昔話を読んでいるような不思議な気持ちに。。

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『ベルベットうさぎのなみだ』BL出版

『ベルベットうさぎのなみだ』マージェリィ・W・ビアンコ原作、ルー・ファンチャー文、スティーブ・ジョンソン/ルー・ファンチャー絵、成沢栄里子訳、BL出版、2004年

絵本『ベルベットうさぎのなみだ』は、2004年BL出版より刊行された。

読みやすくまとめられた文の量と翻訳。

絵はベルベットうさぎを中心に大きく描かれていて、臨場感を感じる。

漢字が多くふりがなも少ないので、小学校中学年以上。

 

『ビロードのうさぎ』電子書籍

『ビロードのうさぎ』マージェリィ・W・ビアンコ作、ウィリアム・ニコルソン絵、毛利孝夫訳

電子書籍で読める全訳の『ビロードうさぎ』。

初版のウィリアム・ニコルソンの挿絵が入っている。

漢字、言葉づかいともに、大人の読み物としてしあげられている。

 

まとめ

絵本『ビロードのうさぎ』みどころまとめ。

ココがポイント

  • 「ほんもの」になりたいうさぎ
  • ぼうやの「ほんもの」になる
  • 「ほんもの」への疑いと、かき消した気持ち
  • ぼうやに捧げた愛と、「ほんとう」のなみだ
  • ビロードのうさぎに起こる奇跡
  • 酒井駒子の絵と完璧な抄訳

ウサギの気持ちを細やかに描く物語と酒井駒子の絵がマッチして、大人が読むと胸にぐっとくる絵本。

 

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