
シルヴァスタイン『おおきな木』村上春樹翻訳、2010年、あすなろ書房
絵本『おおきな木』は、大人になっても、読むたびに新しい感じ方ができる名作。
シンプルな絵と文から、さまざまな解釈ができる絵本でもある。

この記事で紹介する本
この記事でわかること
- 絵本『おおきな木』内容とみどころ
- 新旧翻訳の違い
『おおきな木』とは?
『おおきな木』(原題:The Giving Tree)はシェル・シルヴァスタイン作の絵本。1964年にアメリカ合衆国で出版された。
日本では、1976年、藤田 圭雄(ふじた・たまお)の翻訳により、実業之日本社より出版された。
同年、本田錦一郎(ほんだ・きんいちろう)の翻訳により、篠崎書林より出版された。
2010年、村上春樹による新訳により、あすなろ書房より出版された。
シェル・シルヴァスタイン/作
米国の作家、イラストレーター。1969年、1984年にグラミー賞を受賞するなどシンガーソングライターの顔ももつ。
1932年、シカゴ生まれ。イリノイ大学、ローズヴェルト大学などで学ぶ。
詩人、音楽家、漫画家、児童文学作家と多彩な顔を持つ。自由な性格であり一箇所に留まらない放浪の生活だった。
1999年没。
代表作(絵本)
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村上春樹(むらかみ・はるき)/訳
日本の小説家、翻訳家。
1949年、京都府生まれ。早稲田大学文学部卒業。
1979年、『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。
1987年発表の『ノルウェイの森』は2009年時点で上下巻1000万部を売るベストセラー。
日本国外でも人気が高く、2006年、フランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。
翻訳も精力的に行い、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、トルーマン・カポーティほか多数の作家の作品を訳している。
代表作(翻訳)
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内容紹介
一言あらすじ
一本のリンゴの木と、一人の少年の物語。
リンゴの木と少年は、いつも一緒に遊んだりお昼寝したり、仲良しの友達。
だけど、少年がだんだん成長していくにつれて、望むものが変わっていく。
木は自分の果実や枝、幹を少年に捧げていく。
そして、少年が老人になったとき、木が少年に捧げたものとは・・・。
絵本『おおきな木』の感想

シルヴァスタイン『おおきな木』村上春樹翻訳、2010年、あすなろ書房
初めに表紙を見て気づくのが、英語と日本語の題名の違い。
日本語版では「おおきな木」となっているけれど、原題は“The Giving Tree”という。
“The Giving Tree”という題名から、絵本『おおきな木』は、「与え続けること」が大きなテーマであり、そこから読む人に何かを感じさせる物語であることがわかる。
『おおきな木』ポイント
木と少年の相思相愛
物語の前半、一本の木とひとりの少年の、相思相愛の様子が描かれている。
幼い少年は一本のリンゴの木の下に毎日やってくる。
葉っぱをいっぱい集め、かんむりを作る。
きのぼりをして、枝にぶらさがって遊ぶ。
木になるリンゴを食べ、かくれんぼをする。
くたびれると木陰で眠る・・・
少年はこの木のことが大好きだったことが伝わってくる。
もちろん、木のほうも少年のことが大好きだった。とても幸せな日々を送っていたんだよね。
木にとっての「少年」という存在
ときが流れ、少年は成長していく。
少年が木へそそいでいた愛情は、人間の女の子への愛情に変わり、木の下に来ることも減っていく。
一方、木の少年に対する愛情は変わらない。
少年が大人になっても、年老いても、変わらず木は「ぼうや」と呼びかけるんだ。
英語版でも一貫して”boy”と表記されていることから、どんなに人間の姿が変わろうと、木にとっては愛しい「ぼうや」であることがわかる。
木と人間の時間の流れの違いを感じるよね。

人間にとっての一生分は、木にとってのほんのひと時に過ぎないのかもしれない。
「おおきな木」の疑問
おおきな木の少年への愛情は変わらず、木はいつもわが身を差し出して、少年に幸せになってもらおうとする。
あるときは、お金が欲しい少年のために、リンゴをどっさり取らせてやる。
あるときは、家を建てたい少年のために、全部の枝を切らせてあげる。
どのときも、木は自分の身を少年に差し出し、それで木は幸せだった。
そしてしまいには、船を作りたい少年のために、木は、自分の幹を切って船をつくること、その船にのって遠くに行って、幸せになることを提案する。
ここで初めて、木の違う感情が湧いてくる。
今まで「幸せだった」と繰り返していたけど、この場面で初めて木は「幸せであること」に疑問を持つんだよね。
なぜ、切り株になった木は、幸せに疑問を持ったんだろう?
ナンの見返りもなく、与え続けるばかりでいることに疲れちゃったのかな?
自分、何やってるんだろう・・・みたいな。


うーん。どうかな。
切り株になった木には、いよいよ少年に与えられるものがなくなってしまった。
遠くに行ってしまう少年は、そんな自分の元もう二度と戻ってこないと思った。
その寂しさから、「幸せだった」と言い切れなかったのではないかな。
正解はない。
自分がおおきな木なら、どう思うのか想像してみるのがおもしろい。
最後まで変わらない母性
最後、年老いておじいさんになった少年が木のところにやってくる。
切り株になった木は、少年に与えられるものがなく残念に思う。
だけど同時に、少年はもう何も必要としなくなっていた。
ただ一つ、腰かけて休める場所があればよかった。
木は喜んで自分の身を差し出し、少年はその切り株に腰かける。
最後の最後まで少年に与え続けた無償の愛。
英語版では木は”She(彼女)”と表記されている。このことから、おおきな木の少年への、母のような、祖母のような愛を感じるよね。
感想おさらい
新旧翻訳の違い
東京は雨ですね。
ニジノ絵本屋12時からオープンです。『おおきな木』再入荷してます。
今は村上春樹さん翻訳ですが昔は本田錦一郎さん。
そしてもう一冊は英語の『the Giving Tree』です。#絵本 #おおきな木 #村上春樹 pic.twitter.com/cQu8TwIsgq— ニジノ絵本屋♡「ニジノ絵本屋さんの本」無事完成 (@nijinoehonya) 2015年6月17日
今回レビューしたのは2010年に出版された村上春樹翻訳の『おおきな木』。
この『おおきな木』は、それまで篠崎書林から本田錦一郎のの翻訳で出版されていた。
本田錦一郎が亡くなり、出版社が出版を続けることができなくなったという事情から、村上春樹による新訳版が生まれた。
この本田錦一郎と村上春樹の翻訳では、内容がだいぶ変わってくる。
一番顕著なのは、木が少年に船をつくるための幹を与えてしまった場面。
英語版では”And the tree was happy...but not really.”となっている。
村上春樹翻訳では、「それで木はしあわせに・・・なんてなれませんよね。」となっている。
本田錦一郎は、「それで木はしあわせだった。だけど それは ほんとかな。」と訳している。
ここをどう解釈するかは、読み手次第。

ももちんは、読者に質問を投げかけるような本田訳が好み。
本田錦一郎訳
英語版
シルヴァスタイン作×村上春樹新訳の絵本
11月中旬刊行の絵本の紹介です😊
『はぐれくん、おおきなマルにであう』
(シルヴァスタイン 作/村上春樹 訳)
自分にぴったりの誰かを待っていたはぐれくん。
おおきなマルとの出会いで、おおきな変化が‥#村上春樹 #哲学絵本 pic.twitter.com/QLBTx9mO21— あすなろ書房 (@asunaroshobo) November 9, 2019
シルヴァスタインのもう一つのロングセラー絵本が、1977年刊行の『ぼくを探しに』(原題”The missing piece”)と、1982年刊行の続編『続ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い』(原題”The missing piece meets the Big O”)。
どちらも作家の倉橋由美子が翻訳を手がけた。
2019年11月、この続編の方の絵本”The missing piece meets the Big O”が、村上春樹の新訳であすなろ書房より刊行された。
書名も『はぐれくん、おおきなマルにであう』と大きく変更されている。
まだ読んでいないので、ぜひ読み比べしてみたい!
まとめ
絵本『おおきな木』村上春樹翻訳版みどころまとめ。
何度も読み返すと、そのたびに感想が変わる、不思議な絵本。あなたもぜひ読んでみてね。
シルヴァスタインの他の絵本『めっけもののサイ』はこちら。
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