『鏡の国のアリス』は、ルイス・キャロルの有名な小説『不思議の国のアリス』の続編。
不思議の国ではトランプの世界だったけど、今回アリスはチェスの世界に迷いこむ。
ちょっと成長したアリスと、さらに冴えわたる言葉遊びの世界をたっぷりと味わえるよ。
今回は角川文庫の『鏡の国のアリス』のあらすじと感想を書いていくよ。
この記事で紹介する本
どの出版社の『鏡の国のアリス』を読めばいいか知りたいなら、次の記事からどうぞ。
翻訳別比較
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『鏡の国のアリス』とは?
『鏡の国のアリス』(原題”Through the Looking-Glass, and What Alice Found There”)は、1871年にイギリスの作家ルイス・キャロルによって発表された児童文学。
1865年に発表された『不思議の国のアリス』(原題”Alice's Adventures in Wonderland”)の続編にあたる。
初版の挿絵は『不思議の国のアリス』と同じくジョン・テニエル。
参考:Wikipedia
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角川文庫『鏡の国のアリス』
『鏡の国のアリス』はいろんな人の訳で出ているけど、今回ももちんが読んだのは角川文庫。
『不思議の国のアリス』を同じ角川文庫で読んだので、つづけて読みました。
『鏡の国のアリス』は、角川文庫以外にも、文庫・児童文庫・絵本など、さまざまな形で刊行されているよ。
すでに『不思議の国のアリス』を読んだなら、同じ人の翻訳の『鏡の国のアリス』を読むといいよ。
アリスは翻訳によって印象が大きく変わるので、安心して読める。
翻訳別特徴
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登場人物
現実の世界
アリス:7歳半の女の子。応接間でいつのまにか夢の世界に入りこむ。
ダイナ:アリスが飼っている猫。
キティとスノードロップ:ダイナの子猫。黒猫のキティと白猫のスノードロップ。
夢の世界
赤のクイーン:第2、9章に登場。チェスの駒の一つで、アリスに厳しく接する。
白のクイーン:第1、5、9章に登場。チェスの駒の一つで、ちょっと抜けている。
白のナイト:第8章に登場。チェスの駒の一つで、赤のナイトをしりぞける。
しゃべる花々:第2章に登場。アリスが鏡の国の庭で初めて出会う生き物。
鏡の国の虫:第3章に登場。アリスに話しかけるとても大きな蚊。
トゥイードルダムとトゥイードルディー:第4章に登場。お腹の大きな男の双子。
ハンプティ・ダンプティ:第6章に登場。卵の形をした生き物。
ライオンとユニコーン:第7章に登場。王冠をめぐって戦う。
ウシャギとボゥシャ:第7章に登場。白のキングの伝令。『不思議の国のアリス』の三月ウサギと帽子屋を思わせる。
あらすじ
一言あらすじ
『不思議の国のアリス』の冒険から半年後の11月。
7歳半のアリスが夢の中で体験する、鏡の向こうのチェスの世界の物語。
キングやクイーンなどの駒たちや、マザーグースの生き物たちと交流しながら、アリスはチェス盤の世界を進む。
最後には白のクイーンになり、夢から覚める。
言葉遊びなども織り交ぜながら、より緻密に物語が展開していく。
このあとは詳しいあらすじ。
感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想
第1章 鏡の家
舞台は11月4日(イギリスの記念日ガイ・フォークスの日の前日)。
アリスは応接間で、子猫のキティをチェスの赤のクイーンに見立て「ごっこ遊び」を始める。
アリスがふと、暖炉の上の大きな鏡をのぞきこむと、気づけば鏡の向こうの世界にいた。
鏡の世界ではチェスの駒が動き回っていて、アリスが白のキングとクイーンを持ち上げると、ひどく驚かれる。
アリスが1冊の本を見つけ開いてみると、そこには鏡のように左右あべこべで意味不明な「ジャバーウォッキー」という詩があった。
第2章 しゃべる花々のお庭
アリス、赤の女王と出会う。赤の女王、消える。
アリスが庭にでてみると、しゃべる花たちと出会う。
花たちは女の子同士のひそひそ話のようにおしゃべりをする。
そこにアリスと同じ大きさになった赤のクイーンが現れ、とげとげしくチェスの世界のルールを教える。
アリスは自分がポーン(駒の一つ)となって進むことを決める。
第3章 鏡の国の虫
アリスは汽車で2マス前へ進む。
アリスは小川をとびこえ、気づけば汽車に乗っている。
汽車で出会ったおおきな蚊は、降りたあとに鏡の国の虫の名前を教える。
アリスは「物に名前がない森」に入り、自分の名前を忘れそうになる。
第4章 トゥイードルダムとトゥイードルディー
アリスは進んだ先で双子と出会う、隣には赤のキングがいねむり。
森を通り抜けると、双子のトゥイードルダムとトゥイードルディーと出会う。
双子は近くで眠っている赤のキングをアリスに見せる。
「キングはアリスの夢を見ている。キングが目を覚ましたらアリスは消える」という言葉に、アリスは怒る。
双子は壊れたおもちゃのガラガラをめぐって戦う準備を始め、アリスは着つけを手伝う。
そこへ黒雲とともにカラスが現れ、双子は逃げていく。
第5章 ウールと水
白のクイーンが現れ1マス進み、羊になってさらに奥へ進む。アリスは追って1マスずつ前へ進む。
白のクイーンが風とともにひどい身だしなみで現れ、アリスが直してあげる。
白のクイーンは時間を未来から過去へ向かって生きていることを伝え、突然羊に変身する。
アリスは気づけば羊の店のカウンターにいて、羊とともにボートに乗る。
羊が店の奥に姿を消すとアリスも進み、卵を手にとろうとする。
第6章 ハンプティ・ダンプティ
アリスは進んだ先でハンプティ・ダンプティに出会う。
卵はどんどん大きくなり、マザーグースでおなじみのハンプティ・ダンプティになった。
ハンプティ・ダンプティは、アリスが初めに見つけた「ジャバーウォッキー」の詩の解読を手伝う。
第7章 ライオンとユニコーン
アリスは白のキングと出会う。遠くに白のクイーンが逃げているのが見える。アリスは1マス前へ進む。
突然数千の兵隊が目の前を通り過ぎ、アリスは白のキングと話す。
白のキングの伝令としてウシャギとボゥシャが登場する。
マザーグースでおなじみのライオンとユニコーンが、白のキングの王冠をめぐって戦う。
太鼓が鳴り響き、アリスは逃げるように1マス前へ進む。
第8章 「これは、せっしゃの発明でござる」
赤のナイトが現れ王手(チェック)、白のナイトが退け、アリスを守る。アリスは1マス前へ進み、クイーンとなる。
進んだ先に赤のナイトが現れ、「王手(チェック)」と叫ぶ。
すぐに白のナイトが現れ、赤のナイトと決闘して勝つ。
白のナイトはしょっちゅう馬から落ちながらも、アリスを次のマスの手前まで送り、姿を消す。
アリスは小川を越え、クイーンになる。
第9章 女王アリス
アリス、二人のクイーンにはさまれる。3人の女王は城に入る。チェックメイト。
アリスが王冠をかぶっていると、赤と白のクイーンにはさまれ、クイーンたちは言い合いのあげく眠ってしまう。
アリスは王宮の中に入ると、すでに赤と白のクイーンが食事の席についていた。
アリスが席につき食事を始めると、突然花火のような混乱が起き、白のクイーンはスープの中に消える。
我慢できなくなったアリスは、小さくなった赤のクイーンをつかみゆさぶる。(チェックメイト)
第10章 ゆさぶって
アリスが赤のクイーンをゆさぶっていると、だんだんと夢から覚める。
第11章 目が覚めて
気づけばアリスは子猫のキティをゆさぶっていた。
第12章 夢を見たのはどっち?
アリスは夢を思い出しながら、キティに問いかける。
「夢を見たのは私か、それとも赤のキングかしら」と。
『鏡の国のアリス』を読んだ感想
ももちんは、前作『不思議の国のアリス』のとき、1回読んだだけだと、そのおもしろさがまったくわからなかった。
『鏡の国のアリス』もあまり期待しないで読んだんだけど、予想に反して、『鏡の国のアリス』は1回目から読みやすかった。
2回目には解説と照らし合わせて読むと、さらにおもしろいと思った。
どちらも不思議な世界なんだけど、一言で言うなら「天真爛漫に狂ってる不思議の国のアリス」と、「計算高く謎めいた鏡の国のアリス」という感じ。
『不思議の国のアリス』とはまったく違う境地を、『鏡の国のアリス』で味わうことができたよ。
『鏡の国のアリス』ポイント
チェスの世界
前作『不思議の国のアリス』ではトランプの世界だったけど、今作『鏡の国のアリス』では、アリスはチェスの世界に迷い込む。
物語では、アリス自身がチェスの駒のひとつとなって、チェスボードのような地面の上を、冒険しながら進んでいく。
途中で物語が「******」で区切られているところがあるんだけど、これはマスを進んだっていうこと。
この設定ひとつとっても、「チェス」という共通の理解があって、場面の切り替わりもわかりやすい。
ただ、チェスのことまったくわからないまま読むと、前作と同じような「意味不明」感を感じるかもしれない。
ももちんは、チェスのルールはまったく知らなかったけど、角川文庫では巻末にチェス解説があったので、照らし合わせながら読むと、いろんな発見があった。
進んでいく途中で、隣のマスにいるキングやクイーンと出会う場面。
ちゃんと意味があることだとわかってすっきり!
「反対」という規則性
前作『不思議の国のアリス』は、まったく筋が通らない「無秩序」な感じがとっつきづらかった。
今作で描かれている「鏡の国」の世界でも、たしかに不思議なことはたくさん起こる。
だけど、そこにははっきりとした「ルール」があるんだよね。
鏡の国で起こること
- 詩の文字が反転している
- 目的地に向かうと遠ざかる
- 白のクイーンの時間は未来から過去へ進んでいる
- 卵ひとつで二百円、ふたつで七十五円
どれも、現実で起こることとは「反対」のことが起こってるんだよね。
「反対」だというルールがわかると、どう動けばいいかもわかる。
アリスも、文字の反転は鏡合わせで読んだり、目的地に近づくためには逆方向に歩いたりして、いくつかの謎を解決する。
ルールを理解することで、謎を解いていく気持ちよさは『鏡の国のアリス』ならではの魅力。
もちろん無秩序も!
『不思議の国のアリス』と同じように、「え! そこでそうなるの!」っていう意味わからない場面もたくさんある。
例えば・・・・
なんの前ぶれもなく汽車に乗ってる・・・
ふつう、「汽車が見えたから乗りました」くらいあるよね。。
ちょ!
白のクイーン、いきなり羊になってるし!
シュールすぎ。。
羊のお店にいたのに、いつのまにか川でボート乗ってるよ。。
ふたりの女王寝てたのに、いつのまにかテーブルの席についてる。
なんかおかしい。。
みたいな感じ。
だけど、それほど拒否反応はなく、スラスラ読めた。
『不思議の国のアリス』で適応したのかも。
アリスの成長
『鏡の国のアリス』を読んでいて、「アリス、成長したなー」って何度も思った。
『不思議の国のアリス』では、いろんな不思議な出来事にまきこまれて、まごついてることが多かったアリス。
今作では、アリス自身がだれかを助けたり、わからないことを解決して進んでいく場面も多い。
『鏡の国のアリス』の設定は、『不思議の国のアリス』からわずか半年後。
この半年の間に、アリスはよりかしこく優しく成長したんだなぁ。
頼られるアリス
『鏡の国のアリス』で目立つのは、アリスがだれかを助ける場面。
ざっとあげるだけでも次の通り。
アリスの成長
- 双子の戦いの着つけを手伝う
- 白のクイーンの身だしなみを整えるのを手伝う
- 白のナイトが馬から落ちるのを何度も助ける
あと、白のクイーンに「侍女に採用する」と言われたときも、笑ってお断りする。
『不思議の国のアリス』では、バカにされたり命令されたりすることが多かった。
今作では、アリスからどことなく品格と余裕が感じられる。
唯一のガミガミキャラは赤のクイーン。
だけど、前作のハートの女王ほどのおそろしさはなく、ただのガミガミおばさんって感じ。
教訓を受け入れる
成長したアリスだけど、今作でも子どもらしく泣いたり怒ったりする。
印象的だったのが、アリスが寂しくて泣いているとき、白のクイーンにはげまされるところ。
自分がどんなに大きなお姉さんなのか考えなさい。今日はどんなにがんばったか考えなさい。
引用元:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
白のクイーン、ふつうにアリスをはげましている・・・
そして、アリスもこれにこたえて、泣くのをやめるんだよね。
『不思議の国のアリス』では、教訓好きの公爵夫人にうんざりしていたアリス。
このエピソードでは、白のクイーンが言うことをすんなり受け入れていたのがとっても印象的だった。
女王になるアリス
物語の終盤では、アリスはとうとう女王になる。
女王になる前に川をわたるとき、白のナイトが歌ってくれたことは、アリスにとってもっとも心に残る場面だった。
「いろいろな体験をして最後に女王になる」というストーリーが、ちゃんと成立している。
半年間で劇的に成長したアリスを感じるんだけど、実際に『鏡の国のアリス』が発表されたのは、『不思議の国のアリス』の6年後。
この6年の間に、子どもだったアリス・リデル(アリスのモデルとなった少女)は美しい娘に成長している。
ルイス・キャロルは、かつて無邪気に遊んでいた少女が成長し、はなれていく寂しさを強く感じていたので、物語にも「アリスの成長」がにじみ出ているんだと思う。
その寂しさは、『鏡の国のアリス』の最初と最後の詩からも伝わってくる。
白のナイトのモデルはルイス・キャロル自身だとされている。
女王になるアリスを見送る場面に、キャロルの気持ちが込められているんだね。
おかしなキャラクター
『鏡の国のアリス』でも、動物や架空のキャラクターがたくさん登場する。
特に印象的だったキャラクターを紹介するよ。
しゃべる花たち
アリスが鏡の国の庭で出会うのが、おしゃべりする花たち。
オニユリ、ヒナギク、スミレ、バラたちがくりひろげるおしゃべりは、毒舌のガールズトークそのもの。
堂々としてドスがきいてるオニユリ、一見きれいだけどやけにとげとげしいバラなど、ひとつひとつの花の個性がきわだっている。
アリスの顔立ちや色、髪型などの外見を厳しくチェックするところは、新入りをジロジロ見る女子たちの目線そのものだと思った。
トゥイードルダムとトゥイードルディー
アリスが出会う小太りの双子、トゥイードルダムとトゥイードルディーは、漫才のようなセリフがおもしろい!
テニエルのクラシックなイギリス風の挿絵に、関西弁が妙にハマってるんだよね。
双子はアリスと一緒に踊ったり、おもちゃのガラガラをめぐってけんかしたりするので、一緒にいるときのアリスはお姉さんに見える。
だけど、眠っている赤のキングを見つけたとき、双子はドキッとすることを言うんだよね。
それは、アリスはキングの夢の中の登場人物にすぎず、キングが目を覚ましたらアリスは消えてしまう、ということ。
あんたはキングの夢のなかのものでしかないんやから。自分が本物やないことくらい、自分でも、ようわかっとるやろ。
引用元:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
トゥイードルダムのこの言葉を聞いたとき、アリスは泣きだしてしまう。
アリスが一番こわかったのはこのときなんじゃないかと思う。
人って、誰もが「自分中心」で生きている。
世界の中心にいる自分が、まさか誰かの夢の中でしか生きていないなんて、絶対に信じたくないよね。
アリスは目を覚ましてからも、「夢をみていたのは自分なのか、それとも赤のキングなのか」と考える。
それほどまでに、トゥイードルダムの言葉は深くアリスに突きささった。
白のクイーン
物語でたびたび登場し、不思議な余韻を残すのが白のクイーン。
がみがみ厳しい赤のクイーンとは違い、ふわふわした、どこかつかみどころのないキャラクター。
ひどい身だしなみで現れ、アリスに直してもらう一面もあれば、泣くアリスをはげまして笑わせる一面もある。
ちょっと不気味なのは、時間が「未来から過去へ」流れていることを教えてくれたとき。
痛みに泣き叫んだ次にブローチで指を刺し、次の瞬間笑ってるんだよね。
「笑ってる最中にブローチで指を刺し、痛みに泣き叫ぶ」の逆バージョン。
そういうことなんだよね、、って思うけど、目のあたりにするとちょっと怖い。。
ほかにも、突然羊に変身したり、スープの中に消えたりと、一番シュールな展開になるのが白のクイーンなのです。
ウシャギとボゥシャ
白のキングの伝令としてちょっとだけ登場するのが、「ウシャギ」と「ボゥシャ」。
このふたり、挿絵を見ると『不思議の国のアリス』に登場する「三月ウサギ」と「帽子屋」のコンビによく似ている。
だけど、お互い初対面のように接しているので、もしかしたら違うキャラクターなのかも。
ゲスト出演みたいな感じなのかしら。
しれっと登場してるのがおもしろい。
「ジャバーウォッキー」の詩
『鏡の国のアリス』でも、韻をふんだり、だじゃれを言い合ったり、言葉遊びの工夫がいたるところにもりこまれている。
特に有名なのは、アリスが見つけた1冊の本に書かれている「ジャバーウォッキー」という題名の詩。
アリスが初めて「ジャバーウォッキー」の詩を読んだとき、こんな感じだった。
アリスが見つけたジャバーウォッキーの詩
- 左右反転している(鏡にうつすと読める)
- 「ぬなやかな」「わめしゃめく」など、意味がわからないけど、なにか感じる言葉がたくさん
- 「だれかがだれかを殺した」というストーリーは理解できた
ももちんも、細かい意味はわからないけど、挿絵と言葉から「息子が怪物をたおし、父親が息子を抱きしめた」というストーリーであることはなんとなくわかった。
後にアリスは、ハンプティ・ダンプティに「ジャバーウォッキー」の詩を解説してもらう。
「ぬるぬる」と「しなやか」が合わさって「ぬなやかな」となる。
「わめく」と「くしゃみみたいなの」が合わさって「わめしゃめく」となる。
簡単に言うと、2つの言葉がひとつに合わさっている「かばん語」という手法が使われているんだよね。
ルイス・キャロルのオリジナルの言葉でつくられたこの「ジャバーウォッキーの詩」は、現在でも「ナンセンス詩」の代表としていろんな解釈や研究がされている。
さらに韻ふんだりしてるので、翻訳はとっても難しいらしい。
いろんな翻訳で「ジャバーウォッキーの詩」だけ読んでみるのもおもしろいよ。
さらに詳しく
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
感想おさらい
引用紹介
『鏡の国のアリス』では、多くのマザーグースや有名な曲が引用されている。
意味不明な話の流れも、実はマザーグースの歌詞の通りの展開だったりするので、知っておくとおもしろいよ。
マザーグースと歌
- トゥイードルダムとトゥイードルディー
- くわの木ぐるぐる回ろうよ
- ハンプティ・ダンプティ
- ライオンとユニコーン
- ”My Heart and Lute”
- ”Hush a Bye Baby”
- ”Bonnie Dundee”
トゥイードルダムとトゥイードルディー(P69)
アリスが第4章で出会う「トゥイードルダムとトゥイードルディー」(原題”Tweedledum and Tweedledee”)は、マザーグースとして有名。
出会ってすぐにアリスは、歌を思い浮かべる。
さらに物語では、双子がガラガラをめぐって戦いの準備をし、カラスが見えて逃げるところまで歌詞の通り。
原詩と意味
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
くわの木ぐるぐるまわろうよ(P72)
引用元: Here We Go Round The Mulberry Bush Nursery Rhyme/nurseryrhymes123
第4章でアリスは、トゥイードルダムとトゥイードルディーと輪になって踊る。
そのとき歌っていたのが、マザーグースの一つ”Here We Go Round the Mulberry Bush(くわの木ぐるぐるまわろうよ)”。
手遊び、身体遊び歌の一つとして知られている。
原詩と意味
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
ハンプティ・ダンプティ(P111)
引用元: Humpty Dumpty Cartoon/alby bubbaloo
第6章でアリスが出会ったハンプティ・ダンプティ(原題”Humpty Dumpty”)は、有名なマザー・グースのひとつ。
マザー・グースではハンプティ・ダンプティは塀から落ちて壊れ、直せなくなるが、『鏡の国のアリス』では落ちることなく、「ジャバーウォッキー」の詩の解読を手伝う。
原詩と意味
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
ライオンとユニコーン(P139)
第7章で、アリスが出会うライオンとユニコーン(原題 "The Lion and the Unicorn")は、マザー・グースのひとつ。
"The Lion and the Unicorn"はライオンとユニコーンが王冠をかけて戦うところ、プラムケーキや太鼓で逃げ出す場面など、歌詞をなぞっている。
原詩と意味
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
タラの目(木戸にすわって)(P168)
第8章で、アリスが白のナイトとお別れするとき、白のナイトが『タラの目(木戸にすわって)』(原題”Haddocks' Eyes”)という歌をうたう。
しかし、このメロディは白のナイトのオリジナルではなく、アイルランドの詩人トマス・ムーアの詞にイギリスの作曲家ヘンリー・ローリー・ビショップが曲をつけた歌”My Heart and Lute”のもの。
原詩
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
アリスの子守り唄(P187)
引用元: Hush a Bye Baby - Popular English Nursery Rhyme with LYRICS/kidscartoonmania
第9章で、赤のクイーンが子守り唄をうたい、眠ってしまう。
元の歌は、”Hush a Bye Baby”という有名な子守り唄。
原詩と意味
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年、Wikipedia
鏡の国のアリスです(P191)
引用元: Irish Rovers - Bonnie Dundee/Azzo Blue
第9章でアリスが王宮の入るとき、門がひらき、「鏡の国のアリスです」と歌が聞こえる。
元の詩は、イギリスの小説家ウォルター・スコットの戯曲『デヴァーゴイルの運命』に登場する「ボニー・ダンディー」という詩。
原詩
参考:『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル作、ジョン・テニエル絵、河合祥一郎訳、角川文庫、2010年
『鏡の国のアリス』以外のアリスの本
ルイス・キャロルが書いた「アリス」の本は4作品あるよ。
- 最も有名な『不思議の国のアリス』
- この記事で紹介した『鏡の国のアリス』
- 『不思議の国のアリス』のもとになった『地下の国のアリス』
- 『不思議の国のアリス』を小さな子ども向けに書き直した『子ども部屋のアリス』
それぞれの特徴をざっくり紹介するね。
『不思議の国のアリス』
『鏡の国のアリス』の前作『不思議の国のアリス』(1865年刊行)は、アリス関連作4作品のなかで最も有名。
ルイス・キャロルがもともと知人の娘のために書いた『地下の国のアリス』(後ほど紹介)に、大幅な加筆・修正、言葉遊びが組み込まれている。
ジョン・テニエルの挿絵も魅力。
『不思議のアリス』感想
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『鏡の国のアリス』
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挿絵は『不思議の国のアリス』と同じく、ジョン・テニエル。
言葉遊びやチェスの論理なども織り交ぜながら、より緻密に物語が展開していく。
いろいろな『鏡の国のアリス』
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『地下の国のアリス』
『不思議の国のアリス』の原点は、ルイス・キャロルがアリス・リデルへのプレゼントとして作った本『地下の国のアリス』。
1886年に『地下の国のアリス』複製版が刊行された。
『地下の国のアリス』の特徴は次の通り。
『地下の国のアリス』ココがポイント
- ルイス・キャロル自身が描いた挿絵と、手書きの文章
- 全4章からなる。『不思議の国のアリス』(12章)の約半分の長さ
- 『不思議の国のアリス』最大の特徴である「言葉遊び」がない
物語の筋は『不思議の国のアリス』と大体同じ。
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『子ども部屋のアリス』
『不思議の国のアリス』を幼児向けに脚色した”The Nursery "Alice"”は、1897年に発表された。
『子ども部屋のアリス』として邦訳されることが多い”The Nursery "Alice"”の特徴は次の通り。
『子ども部屋のアリス』ココがポイント
- 大筋は『不思議の国のアリス』と同じだが、短くなっている
- 言葉遊びが少なく、小さい子どもに語りかけるようなやさしい言葉づかい
- 『不思議の国のアリス』の挿絵から20点をジョン・テニエル自ら色づけ
- 表紙絵はテニエルではなく、エミリー・ガートルード・トムソン
参考:Wikipedia
キャロル自身は「0歳から5歳」と言っているけど、明らかにそれは無理!(笑)
でも、やさしい言葉づかいとカラーイラストで、『不思議の国のアリス』よりやさしく読むことができるよ。
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【2022】特別展アリスーへんてこりん、へんてこりんな世界
引用元:特別展アリス―へんてこりん、へんてこりんな世界―/fujitv-events
2022年7月に東京・六本木で開幕したのが「特別展アリス―へんてこりん、へんてこりんな世界」。
児童文学として誕生した『不思議の国のアリス』が、アート・ファッション・映画など多様なジャンルに広がった「文化現象」に焦点をあてた展示。
とはいっても、児童文学『不思議の国のアリス』が生まれた背景や、ジョン・テニエルの原画なども豊富に展示されている。
物語の世界に没入する形の演出で、作品も一部を除き写真撮影OKなのもすごい。
音声ガイドを事前にアプリでダウンロードして、会場で聞けるのがよかった!
アリス展2022感想
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まとめ
『鏡の国のアリス』本の感想まとめ。
ちょっと成長したアリスと、さらに冴えわたる言葉遊びの世界に引き込まれる物語。
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』収録(電子書籍のみ)
アリスの記事
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