小説『続 若草物語』はオルコット『若草物語』の続編。
前作から3年たち、成長した四姉妹は結婚、仕事、命、それぞれの運命に向き合っていく。
『若草物語』といったら今作までは必ず読んでおきたい傑作。
この記事で紹介する本
この記事でわかること
- 小説『続 若草物語』あらすじとみどころ
- 四姉妹それぞれが向き合うテーマとその後
『続 若草物語』とは?
『続 若草物語』(原題”Little Women Married, or Good Wives”)は、アメリカの女流作家ルイザ・メイ・オルコットが1869年に発表した小説。
前年の1868年に発表した『若草物語』(原題”Little Women”)が大成功したため、続編として発表された。
シリーズは『若草物語』、『続 若草物語』、『第三若草物語』(原題”Little Men”)、『第四若草物語』(原題”Jo's Boys”)の全4作で、『続 若草物語』は第2作目にあたる。(邦題は角川文庫より)
日本では1933年、内山賢次の翻訳で『四少女』と題され、春秋社より2冊セットで刊行された。
シリーズ紹介(邦題は角川文庫より)
- 『若草物語』:マーチ家の四姉妹の10代を描く。長女メグ16歳、次女ジョー15歳、三女ベス13歳、四女エイミー12歳。感想記事はこちら。
- 『続 若草物語』:第一作に続く、マーチ家の四姉妹の物語。メグの結婚、ジョーの仕事とベア教授との出会い、ベスの死、エイミーとローリーの婚約などが描かれる。(この記事)
- 『第三 若草物語』:ジョーとベア教授がプラムフィールドに開いた学校の少年たちの生活が描かれる。感想記事はこちら。
- 『第四 若草物語』:前作から十年。少年たちは青年になりプラムフィールドは大学になっている。感想記事はこちら。
オルコット(作)吉田勝江(訳)紹介
小説『若草物語』あらすじと感想。四姉妹の成長と家族の絆を描く名作
小説『若草物語』は、アメリカの女流作家ルイザ・メイ・オルコットの自伝的な作品。 世界で最も愛される四人姉妹の一年間の成長物語。 この記事でわかること 小説『若草物語』あらすじとみどころ 4人姉妹ひとり ...
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この記事では第ニ作目の『続 若草物語』を紹介するよ。
登場人物
前回から継続
マーガレット(メグ):マーチ家の長女。20歳。今作初めにジョン・ブルックと結婚。
ジョゼフィン(ジョー):マーチ家の次女。19歳。勝ち気で独立心が強い。文筆業で家計を助ける。
エリザベス(ベス):マーチ家の三女。17歳。前作で猩紅熱にかかって以来病弱に。
エイミー:マーチ家の末娘。16歳。絵が得意。社交的で現実的。
マーチ夫人:四姉妹の母親。娘たちを優しく賢く導く。
マーチ氏:四姉妹の父親。
ローリー:お隣に住むお金持ちの青年。ジョーに想いを寄せる。
ジョン・ブルック:メグの夫。堅実で誠実。
ハンナ:マーチ家の家政婦。
マーチ伯母:お金持ちで気難しい。大きな屋敷に一人で暮らす。
ローレンスさん:ローリーの祖父。
新登場
ベア教授:ジョーがニューヨークで出会い、年がはなれた友人として慕う男性。
あらすじ
一言あらすじ
前作から三年たち、メグの結婚から物語は始まる。
メグは慣れない主婦から母となり、夫婦や家族の絆を学ぶ。
ジョーはニューヨークで新生活を始め、家計を助けようと文筆業にいそしむ。
ベスは刻々と弱っていく身体と向き合いながら、内なる平和を見つける。
エイミーはヨーロッパで絵を学びながら立派な「レディ」への道を歩む。
ジョーとベア教授の出会い、エイミーとローリーの婚約なども交えながら、姉妹はそれぞれの道を歩む。
このあとは詳しいあらすじ。
感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想
1.メグの結婚
前作から3年。南北戦争が終わり平和を取り戻したマーチ家の近況から物語は始まる。
前線から戻った父、変わらず快活な母、3年で美しく成長した四姉妹の様子。
メグはジョン・ブルックと結婚式をあげ、マーチ家のすぐ近くに新居をかまえる。
ローリーは大学に通いながら週末ごとにマーチ家を訪れている。
2.エイミーの社交熱
エイミーは芸術に情熱を燃やす一方で、いずれは立派な貴婦人になることを目指す。
ある日我が家でパーティーの計画を立てたエイミーは、絵のクラスメイト十数人を招待する。
家族を巻き込んで準備を整えるが悪天候でひとりしか来ず、のちのちまで笑い草となった。
3.ジョーの文学修行
ジョーが新聞に応募した小説が選ばれ、お金はベスと母の静養にあてられる。
ジョーは原稿を本にするべく出版社に持ち込んだところ「三分の一を削ること」を条件として提示される。
家族会議でベスの「早く本になると良い」という率直な感想からジョーは条件をのみ、初めて小説を本として出版する。
小説は賛否両論あったがジョーは本格的に女流作家としての第一歩を踏み出す。
4.メグとジョンの新婚生活
メグは、結婚生活が想像していたような良いことばかりではないことを知る。
ジョンとメグは人付き合いやお金の使い方をめぐって喧嘩し、尊敬やゆるしを学び、夫婦の絆を深めていく。
一年後、二人の間に男と女の双子の赤ちゃんが誕生する。男の子はデミ、女の子はデイジーと呼ばれるようになる。
5.幸運をつかむエイミー
エイミーとジョーがマーチ伯母宅を訪問する。
伯母たちに心から親愛の情を示すエイミーと、反抗的でつっぱった態度のジョー。
エイミーはチェスター夫人のチャリティーバザーの手伝いも引き受け、娘のメイから嫌がらせを受けるが、立派に務めを果たす。
一連のエイミーの行動に好印象を受けた伯母は、数年のフランス滞在お供の権利をエイミーに与える。
自分も行きたかったジョーは、過去の反抗的な態度を後悔するが、エイミーを心から祝福し送り出す。
6.ジョーのニューヨーク生活
ジョーは近頃元気のないベスをみて、ベスがローリーを好きなのだと思い込む。
ローリーが自分に好意を寄せているのを感じたジョーは、しばらくニューヨークで家庭教師をしながら暮らすことにする。
ニューヨークの下宿先で、ジョーはドイツ人で20近く年上のベア先生と出会い、人間として尊敬し慕うようになる。
ベア先生の助言により、ジョーはお金のために大衆小説を書くのをやめ、良心にしたがい生きることを決意し帰郷する。
7.ローリーの求愛
ローリーが大学を卒業しジョーにプロポーズをする。
ジョーははっきりと断りローリーは傷つく。
孫を心配に思ったローレンス氏は、しばらくの間ヨーロッパ周遊滞在をローリーに持ちかける。
ローリーは祖父とともにヨーロッパへ旅立つ。
8.ベスの秘密
ジョーは、日に日に活気がなくなっていくベスにつきそい海辺での静養に出かける。
ベスはジョーに、まもなく自分に死が訪れることを伝える。
愛するベスがふたたび元気になるようにジョーは説得するが、ベスは運命を受け入れていた。
二人が静養から帰宅した様子を見て、両親もそのことを悟る。
9.メグとジョンの家庭
メグはデミとデイジーの世話にかかりきりで、ジョンは寂しく思い帰りが遅くなっていた。
メグは母からの助言を得て、ジョンや子どもたちへの接し方を変える。
ジョンにデミのしつけをしてもらい、夫とすごす時間を増やし、夫の関心ごとに興味を持つようにつとめる。
その結果、だんだんと家庭が愛情豊かなあたたかいものになっていく。
10.エイミーのお説教
エイミーとローリーがフランスで再会する。
洗練された貴婦人になっていたエイミーと少年らしさが消え大人の男性になっていたローリーは、お互いの存在を意識し始める。
ローリーは、エイミーがお金持ちの紳士との結婚を考えていることを知り、複雑な気持ちになる。
エイミーは日に日に感じるローリーの無気力さに幻滅し、「軽蔑している」と伝える。
ローリーはエイミーのお説教に目を覚まし、祖父の元へもどる。
11.ベスの死
マーチ家ではベスの部屋をあたたかで好きなものに囲まれる環境を作り、ベスとともに最後の時間を過ごす。
ベスはベッドにいながらも自分ができる小さな仕事にいそしむが、やがて針も持てないほど衰弱する。
ベスとジョーは心の深くから語り合い、やがてベスは穏やかな死を迎える。
12.ローリーとエイミーの婚約
ローリーは一念発起してウィーンで音楽に情熱を向けるが、自分の才能が届かないことをはっきり知りあきらめる。
エイミーはお金持ちのフレッドからの求婚を断る。
別の場所にいる二人のもとにベスの訃報が届き、ローリーは悲しみにくれるエイミーの元へ向かう。
スイスで再会したローリーとエイミーは、お互いが愛する人であることを悟り婚約する。
13.ベア教授の訪問と求婚
マーチ家ではベスの死の悲しみから徐々に明るさを取り戻し、ジョーは再びものを書き始める。
やがて新婚のローリーとエイミーが帰郷し、マーチ家は喜びで迎える。
さらに突然ベア教授が訪問しジョーは大喜び、マーチ家も全員ベア教授を好きになる。
数週間の滞在の後、ジョーとベア教授はお互いの気持ちを確かめ合い、婚約する。
14.その後
2年後ジョーとベア教授は結婚し、亡くなったマーチ伯母のお屋敷「プラムフィールド」で学校を開く。
結婚して5年後のある日、ピクニックをしてくつろぐマーチ家、ローレンス家、ベア家、ブルック家と、プラムフィールドの少年たちの姿が描かれる。
ジョーとベア教授には二人の息子、ローリーとエイミーには一人娘が生まれていた。
一族がつどい幸福な時間をすごしている場面で物語は幕を閉じる。
『続 若草物語』を読んだ感想
『続 若草物語』は、前作『若草物語』の3年後から始まる物語。
タイトルや出版されている本の種類の多さをみても、『若草物語』が「メイン」で『続 若草物語』は「サブ」とみなされがち。
だけど『続 若草物語』には、前作にはない「ドラマ」としてのおもしろさがたっぷり詰まっている。
恋愛、結婚、仕事など、現代に生きる女性読者が共感するテーマが満載なんだよね。
事実、映画になってる『若草物語』は、どれも『若草物語』『続 若草物語』の2冊を原作としている。
『若草物語』では家族愛・姉妹愛・友情・奉仕といった「土壌」の部分。
『続 若草物語』ではその土壌の上で色とりどりに花開く四姉妹の姿が描かれている。
2冊通して読むことをおすすめするよ。
『若草物語』感想
花開く四姉妹
前作の終わりで13〜17歳だった四姉妹は、今作では16〜20歳になっている。
それぞれが女性らしい華やかさを増し、個性がはっきりし、自分の道を歩みはじめている。
妻となり母となるメグ
20歳のメグは、今作初めにジョン・ブルックと結婚する。
少女小説にありがちなのが「結婚してハッピーエンド」のパターンだけど、メグは、その先に待っている現実的な結婚生活の壁にぶつかる。
家事の苦労、夫とのすれ違い、子育ての悩み・・・地味でなかなか小説には描かれないけど、誰もが直面する部分。
そんな結婚生活に正面から向き合い、丁寧に取り組むメグの姿に、誰もが学ぶところがあると思う。
家族の支えとなるジョー
19歳のジョーは家で文筆業に励み、金銭的にも心情的にも両親を支えている。
ニューヨークでの下宿生活では、後に夫となるベア先生と運命の出会いをする。
文筆業での「お金」と「信念」の間でゆれるジョーの姿は、仕事への考え方を振り返るきっかけになる。
最愛の妹ベスとのかかわりも、ジョーの心に深く刻まれることとなる。
命と向き合うベス
17歳のベスは、前作で猩紅熱にかかって以来病弱になっている。
成長し変貌をとげていく他の姉妹とは違いベスは変わらずおとなしく、マーチ家にとって天使のような存在。
表面的には変わらない日々の中で、ベスは静かに「死」の予感と向き合っている。
なにか特別なことをしなくても、ベスの存在から家族はこの上ない慰めを感じ慎ましい気持ちになるんだよね。
貴婦人を目指すエイミー
16歳のエイミーは、芸術の学びをさらに高めることと、立派な貴婦人になることを目指している。
初めは子どもっぽいエイミーもヨーロッパの長期滞在のチャンスを得て、みるみる洗練された女性として頭角を表していく。
なにかとおいしいところをもっていくように見えるエイミーだけど、実は貴婦人になるために誰よりも努力している。
今作ではローリーと惹かれ合い、婚約する。
ジョーの恋愛
今作でおおきな見どころの一つがジョーの恋愛。
男勝りで自立心の強いジョーは、親友ローリーの求愛をこばみ20歳近く年上のベア先生と結ばれる。
二人の男性とジョーの心の変化から目がはなせない。
ローリーの求愛
前作からまるで兄妹のように仲良くじゃれ合っていたローリーとジョー。
お互い大好き同士なんだけど「好き」の種類がちがった。
ローリーの告白を断りながらもいたたまれなくなるジョーと、ふられてもなかなかあきらめきれないローリー、見ていて辛い・・・。
ジョーとベア先生の未来を予感するローリー
ジョーがローリーを愛せなかったのは、そもそも恋愛というものに興味がなかったから。
ジョーの恋愛についての無知は、ベスとローリーをくっつけようとしたり、ローリーに言って聞かせて自分をあきらめさせようとする場面からもわかる。
理性的に対処すれば人の気持ちをコントロールできると思っているんだよね。
一方でローリーは、ジョーはいずれ「ベア先生」を愛するようになることを察している。
君がしょっちゅう書いてよこした、あのろくでなしの先生という奴さ。もしも君がそいつを愛してるなんて言おうもんなら、僕は何をしでかすかわからないよ
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
笑って否定するジョーだけど、ローリーは恋する者の悲しい直感でわかっちゃってる。
お金、若さ、ルックス、性格の一致、家族の付き合い、ジョーへの愛情、、
ローリーはすべてを備えているけど、一番ほしいジョーの愛だけはいくら望んでも得ることはできない。
どうしようもない悔しさと悲しみが、ローリーの言葉や態度から伝わってくる。
母の見る目
ローリーとジョーの結婚は、ローリー自身だけでなく両家の家族も長い間予想していたことだった。
だけど母親のマーチ夫人だけは、ジョーとローリーはうまくいかないと見抜いていたんだよね。
二人とも飾りがなく自由を求める性格で、友達としてはとても相性が良い。
だけど、忍耐が必要な結婚生活には向いていない。
仲が良く条件も整っているなら、親としても文句なく結婚をすすめそうだけど、マーチ夫人はもっと先を見ていた。
ジョーには結婚を考える前に、まず自由と自立を謳歌することが必要だとわかっていたんだね。
ベア先生との出会い
ローリーのプロポーズ事件が起こる少し前、ジョーはニューヨークで8カ月間の下宿生活を体験していた。
念願だった自立と自由の生活で、ジョーは大変ながらもいきいきと暮らす。
そしてベア先生と出会い、友人として親交を深める。
ベア先生ってどんな人?
ベア先生の特徴をあげると次のとおり。
ベア先生ってこんな人
- ドイツなまりの英語を話す40歳くらいの大柄な男性
- ドイツでは名のある教授だったらしい
- 現在はアメリカで家庭教師をしながら二人の甥っ子と一緒に生活をしている
- 貧乏で部屋は散らかっていて、子ども好き
- 優しさとおおらかさがにじみ出ていて、みんなから好かれている
なるほど、ローリーとは真逆のタイプ。
円熟した大人の男性だね。
ジョーはベア先生の存在に安心感をおぼえ、つくろい物と交換にドイツ語を教わったりして親交を深める。
家にいたときは、家族を守ったり世話したりすることが生きがいだったジョー。
離れて暮らすことで初めて家族への役割をおろし、ひとりの女性として生き始めた。
ジョーがベア先生の前で見せる自然体の女性らしさにほっこりする。
いつのまにかジョーから家族への手紙には、頻繁にベア先生が登場するようになった。
お金のための文筆業
ベア先生は大らかけれど人格がしっかりとしていて、その生き方には強い信念も垣間見せる。
家族へのお金のために刺激的なスリル小説を書くようになっていくジョーに、ベア先生は厳しい言葉をなげかけるんだ。
こういうもの、ある人にはおもしろい。しかし私、うちの子供たちにこのようなわるいお話読ますくらいなら、火薬もたせて遊ばせるほうまだよろしいです
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
ジョーは「家族に捧げるためのお金だから」と、三文小説を書くことを正当化していたんだよね。
ベア先生はジョーを大切に想う気持ちからこそ、「悪いものは悪い」とまっすぐ伝える。
ジョーは改めて自分の書いたものを読み直し、それが「やくざ」で道をはずれていたことに愕然とし、書くことからはなれる。
この一件でジョーはますます深くベア先生を尊敬し、自分も友人としてふさわしくありたいと願うようになる。
その後ジョーは家に帰り、二人はしばらくはなれることになる。
再会と婚約
ジョーがニューヨークから家に戻って四年後、物語の終盤で二人は再会する。
ジョーが家族に囲まれながらも孤独を強く感じているときのベア先生の突然の訪問。
驚きと喜びではちきれそうなジョーの様子がほほえましい。
再会してすぐに愛を意識する二人は、はなれていたときもお互いへの気持ちを育んでいたんだね。
結ばれる場面
ベア先生はニ週間滞在し、みるみる美しく若返るジョー。
読んでるこっちまでうれしくなるし、何気なく見守っている家族もなんかいい。
恋するジョーはベア先生の前で泣いたり笑ったり、悲観的になったり冷静になったり、表情がくるくる変わってかわいらしい。
ベア先生とジョーが子どもみたいに雨に濡れながら気持ちを確かめ合う場面は、何度読んでもニヤニヤしてしまう。
自分のことを「貧乏なおじいさん」というベア先生に、ジョーははっきりと言う。
私はその貧乏がうれしいのですわ。お金持ちのだんなさまなんて大きらい!
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
貧乏だろうが歳がはなれていようが関係ない!っていうジョーの熱い思いが伝わるこのセリフ、大好き。
こうして二人は結婚の約束をし、そのまえにそれぞれの義務を喜んで果たそうと決める。
現代っ子エイミー
ジョーにふられたローリーはどうなるかというと、なんと四姉妹の末っ子エイミーと結ばれる。
前作ではわがままっぷりが鼻についたけど、今作では美しい貴婦人に成長するエイミー。
ブレずに我が道を行くけど世渡りが上手い。
おまけに最終的にローリーとくっつくなんてできすぎてない?
不幸が寄りつかないエイミーの強さに、読んでると嫉妬で心がざわつきます。
ジョーとエイミーの対比
物語では、成長したジョーとエイミーは喧嘩はしないけど、対照的な二人として描かれる。
エイミー | ジョー | |
「好き」の極め方 | ヨーロッパで芸術を学ぶ | お金のために小説を書く |
目指すもの | 貴婦人・裕福 | 自立して家族を助ける |
ラッキー度 | ヨーロッパ周遊に選ばれる | 反抗的な態度でチャンスを逃す |
結婚相手 | お金持ちの美青年ローリー | 貧乏なおじさんベア先生 |
こうやって見ると、「汚れない美しい道を歩むエイミー」と、「泥くさい真面目な道を歩むジョー」の対比に見える。
作中でも、ジョーが自分とエイミーを比べてみじめな気持ちになることがときどきある。
それはかつてのように切ないものではなかったが、同じ姉妹でありながら、どうしてひとりはなんでもほしいものが得られ、ひとりは得られないのかという、悲しくも根気のよい疑いであった。
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
同じ家に生まれていて、ここまで性格や人生の歩み方が違うんだね。
どちらが良い・悪いはないけど、ももちんが親しみを感じるのは、不器用ながらも一生懸命なのがわかりやすいジョー。
エイミーは「たいして苦労もせず、良いところをもってく」ように見えて、なんだか冷めてみてしまうんだよね。
エイミーの努力
ももちんの色めがねを外して見ると、実はエイミーは、貴婦人になるために誰よりも努力していることがわかる。
相手が好きじゃなくてもおつき合いを義務とわりきって笑顔でこなす。
知り合いのチャリティーバザーでは、意地悪に屈せず、「親切」でお返しをする。
あの人たちが卑劣だからといって、私までそうしなければならないってことはないでしょう。私はそうすることがいやなのよ。
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
もしジョーなら、意地悪をされたら言い返すかやり返すかしたかもしれない。
もちろんエイミーだって意地悪されて怒りを覚えたけど、それを並々ならぬ努力で「優しさ」に変えたんだよね。
エイミーは、苦労していないわけじゃなくて、「見せていない」だけなんだよね。
常に高いところを見て歩みつづけ、チャンスをつかむのがエイミー。
それはエイミーが運が良いからではなく、「レディーでありたい」というブレない強さと日々の心がけが実を結んだ当然の結果なんだよね。
ローリーとの関係
エイミーとローリーがお互いを意識するようになったのは、二人がフランスで再会してから。
お互いが故郷にいたときとはずいぶん変わっていることをみとめ、無意識に意識し始める。
ドライなエイミー
はじめエイミーはローリーに恋心はなく、ヨーロッパで知り合ったフレッド(お金持ちで自分を好いてくれている)に結婚を申し込まれたら、承知するつもりでいたんだよね。
母親への手紙ではっきりと「相手を愛してはいないがお金持ちだから結婚するつもり」ということを表明するあたり、エイミーの強さを感じる。
エイミーのこういうまっすぐさが好き。
ふつうなら、そういうことは上手に隠しながら結婚するもんね。
そんなエイミー
がローリーへの愛に気づいたとき、きっぱりとフレッドを断る。
お金のために結婚すると言っていた自分を恥ずかしく思うんだよね。
結婚後ローリーがエイミーをこのことでからかうと、エイミーは言う。
ときどき、あなたが貧乏だったらいいと思うことがありますのよ。そしたらどんなにあなたを愛しているかわかっていただけますもの
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
この言葉、結局お金持ちのローリーに言ったところで絵に描いた餅なんだけれども。。
だけど、エイミーがローリーをだんな様としてたてながら、立派な婦人として輝いていく様子は見ていて気持ちがいい。
二人は夫婦として、自分たちが持てる豊かさを気前よく分け与えながら幸福な結婚生活を歩んでいく。
ジョーへの気持ちとの違い
ところでローリーさん、ジョーにふられたあとでエイミーにいくってどうなのよ。。
ジョーへの気持ちってそんな軽いものだったの?
って思うのはももちんだけではないはず。
実際ローリーはしばらくジョーのことを引きずっていたし、エイミーにひかれ始める自分を否定することもあった。
だけど時間を経てジョーへの熱情のような気持ちは癒され、兄妹のような家族愛に変わったんだよね。
二人が故郷に帰ったとき、ジョーは二人を心から祝福する。
だけどエイミーがジョーにちょっぴりやきもちをやくところがかわいい。
ローリーのエイミーへの愛は、ジョーのときのような激しいものではない。
穏やかで強い、お互いに尊敬しあいながらも柔らかい愛。
結局エイミーほどローリーを深く愛せる人はいなくて、ローリーはひとりの男性として愛される喜びと、激しさを伴わずに優しく愛することの素晴らしさを知るんだよね。
命と向き合うベス
他の姉妹たちは恋愛や結婚で悩んでいるなか、まったく違う次元の心持ちで生きているのが三女ベス。
前作で猩紅熱にかかって以来体が弱り、やがてくる「死」とひとり向き合う。
家族の誰にも話さず、忍耐と信仰で受け入れようとする姿は静かな力強さに満ち、キリストのような清らかさまで感じる。
利己心がないベス
ベスが初めて死の予感のこと話すのは、ジョーと二人で海へ静養に出かけたとき。
ジョーはその言葉に抵抗するけれど、弱っていくベスの様子を見れば予感が本当になるのは明らかだった。
こういうとき運命を受け入れた本人は強く、周りにいる家族は弱さが出るよね。
本人よりも自分が辛いから、つい励ましちゃう。。
ベスはジョーの励ましに対し、自分が長生きすると思ったことはないし大きな夢をもったこともないと答える。
私は自分のことを、ただ家の中でちょこちょこして、よそではちっとも役に立たない、ばかなベスだとしか考えたことはないの。
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
自分を「ばかなベス」と言う言葉からは、自己卑下は感じない。
ただ自分の人生に満足していながらも、人の役に立つような人生ではなかったと思っているんだよね。
周りの誰もがベスから受けている恩恵に、ベス自身はまったく気づいていないんだなぁ。
ベスの利己心のなさと今ここに満足する愛の生き方は、誰にも真似できない尊さがある。
主張がないのでその価値に気づきにくいけど、周りはその存在からかけがえのないものを受け取っているんだよね。
家に帰ってからも、一日一日を丁寧に幸福を感じながら過ごすベスの姿からは、辛さや悲しみよりも愛と強さを感じる。
家族はそんなベスに答えるように、最後の日々が美しいものとなるように手を取り合って努力する。
ジョーの学び
人生の終わりが近づくときベスが誰より頼りにしていたのは、姉のジョー。
ジョーもベスのそばから片時もはなれず看病し、話し相手になり、静かに見守った。
最愛の妹に寄り添う日々はジョーにとって決して「犠牲」ではなく、むしろかけがえのない「学び」を与えてくれるものだった。
ときに聖書を読み、ときに静かに涙を流すベスの姿から、ジョーは「忍従」「博愛」「義務への忠誠」「信仰」など、大切な学びを深く優しくしみこませていく。
初めはベスに死が訪れることを受け入れられなかったジョー。
ベスとの最後の日々の中で、死は本当の「お別れ」ではないことを知っていくんだね。
やがてベスは安らかな死を迎える。
ジョーの苦しみ
ベスの生前ジョーはベスと両親の助けになることを約束したけど、実際には簡単ではないことを知った。
ジョー自身がベスの不在に深い悲しみと寂しさを感じているので、両親を励ますどころではなかったんだよね。
絶望と反抗の気持ちを繰り返しながらも「自分の義務」を果たそうとつとめる日々の中で、ジョーは自然と変化を感じる。
自分が長年抱いていた、「困難でも素晴らしいことをしたい」という望みが、かつて持っていた「野心」とは違う形で叶っていることに気づくんだよね。
自分の生涯を父と母にささげて、彼らが自分にしてくれたように、彼らのために家を楽しいところにする、これ以上美しい仕事があるであろうか。
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
この事に気づいたとき、ジョーは自分に与えられた機会を大切にし、一層努力する。
やがて自然な流れで再びものを書くようになったとき、その作品にはかつてなかった「真理」が現れていた。
これ以降、ジョーは作家としての仕事もするようになる。
野心を捨て家族や日常に喜んで捧げるようになったとき、書く仕事も回り始めたんだね。
心が変わり伴侶を求めるようになるジョーは、やがてベア先生と再会する。
メグの結婚生活
メグは、結婚後の生活での試練を経験する。
ジョーやエイミーのように「愛する人と結ばれるまで」のストーリーは、ドラマティックで人を引きつける。
だけど現実では結ばれてからの人生の方が長く、平凡で刺激的なドラマもない。
結婚前の数年と、結婚後の数十年。
悲しみすら絵になる若さと、年を重ね内側からにじみ出る感じの良さ。
自己主張・個性の輝きと、忍耐・奉仕・愛の優しさ。
学びがぜんぜん違う・・・
女性たちは華やかな主役の舞台を降り、社会から注目されない「主婦」としての日々の中で、本当の学びに入っていくんだよね。
読者に身近なテーマ
メグと夫のジョンの間でとりあげられている「試練」のテーマは次のとおり。
メグとジョン
- メグが料理に失敗した日にジョンが突然お客様を連れてきて、メグが怒る
- メグが高価な服に散財した後ろめたさから「貧乏」に愚痴を言い、ジョンを傷つける
- メグが子どもの相手ばかりして夫の相手をせず、二人の距離がはなれる
どの家庭でも起こりそうなケンカ。
だからこそ、夫婦に大切な学びが含まれている。
どんなに愛し合っていても、一緒に暮らせばちょっとした不満や違和感を感じるのは自然なこと。
だけどたいていはささいなことだからちゃんと話し合うこともなく、心にたまっていきやすい。
メグは、二人の関係に違和感を感じたらちゃんと話し、努力する。
それはメグにとって勇気がいるし、自尊心が傷つくし、簡単なことではないけれど、でもちゃんとやるんだよね。
ときには、自分は悪くない!っていう気持ちがありながら、ジョンのために自分をおろして謝る。
その一つ一つの忍耐と努力が着実にメグの器を広げ、夫婦の絆がさらに強くなっていく。
メグの謝り方、取り組み方は、一生懸命でかわいい。
ジョンはメグのそういうところをさらに愛していく。
母との絆
メグが結婚生活の試練に直面するたびに、かげながら助言を与え支えるのが母親のマーチ夫人。
前作では娘たちへの接し方からマーチ夫人の母親としての賢さがわかったけど、今作では夫ジョンへの接し方をメグに助言する。
マーチ夫人は、前作で旅したときにジョンにつきそってもらった経験から、ジョンを人として信頼し尊敬してもいた。
ジョンのはっきりした頑固な性格をよくわかっていたので、メグに的確なアドバイスをすることができたんだよね。
ふたりともわるかったら、自分から先に謝るようにするのですよ。
引用元:『続 若草物語』L・M・オルコット著、吉田勝江訳、角川文庫、2008年
いつも口出しするのではなく、メグの元気のない様子をそれとなく察して声をかける。
控えめながらも具体的な助言が素晴らしい。
メグは母親の助言を100%信頼して実行し、家庭を幸福なものに育てていく。
メグとマーチ夫人は「母親」という視点で結ばれ、大人の女性としての絆を深めていく。
数年後
『続若草物語』では、四姉妹の6年間(ジョーで例えると19〜25歳)が描かれる。
前作『若草物語』と合わせると、ニ作品で四姉妹の10年間の歩みをたどることができるんだよね。
そして嬉しいのが、今作の最終章でさらに数年後の様子が描かれていること。
ジョーとベア先生は結婚して、マーチ伯母が住んでいたプラムフィールドに新しい学校を開く。
そこに集うメグやエイミーの家族、両親が集まり、一日を過ごす様子はとても幸せそう。
四姉妹の物語は、これにて一段落。
次作以降は、プラムフィールドで、それぞれの子どもたちに主役がうつっていく。
次作『第三若草物語』
小説『第三若草物語』あらすじと感想。ジョーと子どもたちの学校生活
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各出版社の『続 若草物語』
今回読んだのは、角川文庫の『続 若草物語』。
『続 若草物語』は角川文庫以外にも出版されているよ。
映画では今作『続・若草物語』までが原作になっていることが多いので、読んでみることをおすすめする。
シリーズ1&2を収めた愛蔵版
2019年12月講談社より刊行されたのは、『若草物語』シリーズ第1巻・第2巻を1冊に収めた『若草物語 I&II』。
ずっしりとしたハードカバーの重量感に、人気イラストレーター北澤平祐の美しくも親しみやすい装画・挿絵がしっくり合う。
数々の英米児童文学の翻訳を手がける谷口由美子の訳文は、難しい言葉を使わずに古典の品の良さを残した訳。
講談社青い鳥文庫の訳文に加筆・修正を加えたものなので、世代問わず読みやすい。
全章あるが完訳ではない。
谷口由美子紹介
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講談社青い鳥文庫
児童文庫で唯一シリーズ全4作刊行しているのが、講談社青い鳥文庫。
先に紹介したハードカバー『若草物語Ⅰ&Ⅱ』と同じ、谷口由美子の訳文が使われている。
角川文庫と読み比べると、難しい単語が使われていないのですらすら読める。
ふりがなつきでイラストもかわいいので、古典のかたくるしい先入観なく読める。
藤田香による現代的なイラストがかわいらしい。
全章あるが完訳ではない。
講談社文庫(電子書籍)
掛川恭子訳の『若草物語』は、1974年に学習研究社より刊行された。
原書はバーバラ・クーニー挿絵の1955年刊のもの。
講談社文庫から1993年に『若草物語』、1995年に『続若草物語』が刊行されている。
2020年『若草物語』2021年『続若草物語』が電子書籍で刊行された。
訳文は「だ・である」調で、品があるけど易しい日本語。
掛川恭子翻訳作品
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映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
引用元:映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』公式サイト2020年初夏に公開されたのが映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』。
主演のジョーをシアーシャ・ローナン、メグをエマ・ワトソン、ローリーをティモシー・シャラメが演じるという、豪華俳優陣。
アカデミー賞では作品賞、脚色賞、主演女優賞(シアーシャ・ローナン)、助演女優賞(エイミー役フローレンス・ピュー)にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。
監督は『レディ・バード』でシアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメと組んだグレタ・ガーヴィグ。
映画の感想
映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』感想と魅力
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まとめ
小説『続 若草物語』まとめ。
成長した四姉妹の結婚、仕事、命、それぞれの運命を描いた傑作。
『若草物語』といったら、今作までは必ず読んでおきたい。
ジョーとベア教授が開いた学校の物語『第三若草物語』感想はこちら。
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『若草物語』記事一覧
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