サリンジャーの小説”The Catcher in the Rye”(1951年)は、日本では2種類の翻訳を読むことができる。
1964年に刊行された野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』と、2003年に刊行された村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』。
それぞれの翻訳の特徴を書いていくよ。
はじめに結論
野崎訳:古い言い回しや差別的な表現が多い。1950年代の少年のとげとげしさを味わうならおすすめ
村上訳:ソフトで現代的な言葉遣い。読みやすさを優先するならおすすめ
”The Catcher in the Rye”とは?
”The Catcher in the Rye”は、1951年、アメリカで出版された長編小説。作者はJ.D.サリンジャー。
全世界発行部数累計6500万部を超え、現在も世界中で毎年25万部ずつ売れ続けている。
日本国内発行部数も累計320万部を超えた。
日本では、1952年、橋本福夫の翻訳により『危険な年齢』と題され、ダヴィッド社より刊行された。
1964年、野崎孝の翻訳により『ライ麦畑でつかまえて』と題され、白水社より刊行。
1967年、繁尾久により『ライ麦畑の捕手』と題され、英潮社より刊行。
2003年、村上春樹による新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が白水社より刊行。
参考:Wikipedia
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白水社
書泉ブックタワーさん1階文芸書売場で、サリンジャー生誕100年(来年)フェア開催中。『ライ麦畑でつかまえて』『キャッチャー・イン・ザ・ライ』他関連書が並んでいます。『ライ麦』に魅了された青年を描いた映画『ライ麦畑で出会ったら』も公開中。 https://t.co/3htUq9af6n あわせてお楽しみ下さい。 pic.twitter.com/w2t7dMRhOU
— 白水社 (@hakusuisha) 2018年11月19日
白水社は、1915年創業の出版社。
1963年、「新しい世界の文学」シリーズを創刊。
1964年、野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』を刊行。
1983年、新書版の新シリーズ「白水Uブックス」が創刊。
2003年、『ライ麦』の愛読者であった村上春樹による新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を刊行。
2018年12月現在、”The Catcher in the Rye”の日本語翻訳権は白水社だけが持っている。
参考:『白水社 百年の歩み』白水社、2015年(Kindle版)
ここからは、二人の翻訳者の紹介。
野崎孝 /『ライ麦畑でつかまえて』(1964年) 翻訳
アメリカ文学者、翻訳家。
1917年青森県弘前市生まれ。
東京帝国大学文学部(現東京大学)卒業後、教師の職に就く。
第二次世界大戦で出征。復員後、各地で教授の職に就く。
1964年、J.D.サリンジャーの ”The Catcher in the Rye” を『ライ麦畑でつかまえて』の題名で邦訳。
1995年死去。
参考:Wikipedia
代表作(翻訳)
村上春樹 /『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(2003年) 翻訳
日本の小説家、翻訳家。
1949年、京都府生まれ。早稲田大学文学部卒業。
1979年、『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。
1987年発表の『ノルウェイの森』は2009年時点で上下巻1000万部を売るベストセラー。
日本国外でも人気が高く、2006年、フランツ・カフカ賞をアジア圏で初めて受賞。
翻訳も精力的に行い、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、トルーマン・カポーティほか多数の作家の作品を訳している。
代表作(翻訳)
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野崎訳と村上訳を読み比べ!
現在”The Catcher in the Rye”の日本語訳で定番なのは、1964年に刊行された野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』と、2003年に刊行された村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』。
野崎訳と村上訳、それぞれの特徴を書いていくよ。
野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』特徴
野崎訳は1964年の刊行以来、40年以上”The Catcher in the Rye”の定番和訳として位置づけられた。
当時神戸に住む一高校生の村上春樹は、この野崎訳を読み「不思議に心に深く強く残った作品」と記している。
癖のある語り口をそのまま翻訳
野崎孝訳の特徴は、主人公ホールデンの癖のある語り口を、見事に日本語訳に反映していること。
野崎訳のホールデンは、とげとげしく他者を寄せつけない、癖の強さを感じる。
今では使っちゃいけない差別用語もじゃんじゃん使われている。(村上訳では使われていない)
でもきっとホールデンは当時こういう言葉を平気で使う少年だったんだろうし、それが普通だったんだと思う。
一つ例をあげると、ホールデンが語る次の一文。
あいつが童貞でなくて、誰が童貞なもんか。
引用元:『ライ麦畑でつかまえて』サリンジャー著、野崎孝訳、1984年、白水社
これ、村上訳だと次の通り。
アックリーはまったく童貞の見本みたいなやつだった。
引用元:『キャッチャー・イン・ザ・ライ』サリンジャー著、村上春樹訳、2003年、白水社
16歳の不良少年ならどっちのセリフが合うかな?って考えると、野崎訳の方がしっくりきた。
村上訳はもうちょっと冷静な視点なんだよね。
翻訳一つで、ここまで雰囲気変わってくるって、おもしろい。
野崎孝は、「50年代アメリカのティーン・エージャーの口調の翻訳は至難のわざだった」と後に訳者解説で記している。
訳者解説は著作権者の意向により書籍につけられず、白水社の公式サイトで掲載されている。
野崎孝による『ライ麦畑でつかまえて』解説/白水社公式サイト
野崎孝訳はココがおすすめ
- 40年以上読み継がれている定番訳
- 古い表現や差別的な表現、どぎつい表現
- ホールデンのとげとげしさを翻訳から感じる
村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』特徴
本日の朝日新聞12/15付「古典百名山 桜庭一樹が読む」は、サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(村上春樹訳)。『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)というタイトルでも知られています。来年は著者生誕100周年、伝記映画も公開されます。この機にぜひご一読ください。 https://t.co/3oPip7V5zq pic.twitter.com/cVwKWfZebY
— 白水社 (@hakusuisha) 2018年12月15日
2003年、『ライ麦畑でつかまえて』の愛読者であった村上春樹による新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が刊行された。
新訳を刊行する際、村上春樹自身が「野崎訳」を残すという希望を提示し、その希望は白水社の考えとも一致したとのこと。
それ以降、2人のホールデンが共存することになった。
現代の読者が読みやすい訳文
村上春樹訳の特徴は、現代の読者が読みやすい、流れるような訳文。
野崎訳より語り口がだいぶソフト。
終盤で、英語のスラング「Fuck you」が出てくるんだけど、野崎訳はちゃんと日本語に訳してる分、めっちゃ生々しい(笑)
村上訳は「ファック・ユー」と、カタカナ表記なので、日本人にとっては軽く受け止められる。
『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』
今日はJ・D・サリンジャーが亡くなった日(2010年)|『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の新訳を果たした村上春樹が翻訳仲間の柴田元幸と、その魅力・謎・真実を語り明す|『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(村上春樹、柴田元幸・著)文春新書 https://t.co/GkBnNoeHmA
— 本の話@文藝春秋BOOKS (@hon_web) 2017年1月27日
村上は初め、新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の巻末につけるために長い解説を用意した。
しかし、著作権者から「解説はつけてはならない」という強い要請があり、解説は幻となった。
「幻の解説」は、文春新書の『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』で読むことができる。
参考:『白水社 百年の歩み』白水社、2015年(Kindle版)
村上春樹訳はココがおすすめ
- シンプルに村上春樹ファンならアガる
- 野崎訳に比べやわらかい表現
- 現代の言葉づかいに近い翻訳
野崎訳は、1950年代の少年のとげとげしさをそのまま味わうならおすすめ。
村上訳は、ソフトで現代的な言葉遣い。読みやすさを優先するならおすすめ。
まとめ
『ライ麦畑でつかまえて』翻訳比較まとめ。
野崎孝訳はココがおすすめ
- 40年以上読み継がれている定番訳
- 古い表現や差別的な表現、どぎつい表現
- ホールデンのとげとげしさを翻訳から感じる
村上春樹訳はココがおすすめ
- シンプルに村上春樹ファンならアガる
- 野崎訳に比べやわらかい表現
- 現代の言葉づかいに近い翻訳
あなたの好みで選んでみてね。
野崎訳
村上訳
野崎訳『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ感想は、次の記事をどうぞ。
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