『飛ぶ教室』は、ドイツの作家エーリヒ・ケストナーが生んだ、世界中で愛読されている児童文学。
現在さまざまな出版社から刊行されているので、特徴別にまとめてみた。
こんな方におすすめ
- 『飛ぶ教室』を読んでみたいけど、どれを選んだらいいか迷っている。
- 挿絵、翻訳、電子書籍など、特徴で選びたい。
『飛ぶ教室』最新情報
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小説『飛ぶ教室』とは?
『飛ぶ教室』(原題”Das fliegende Klassenzimmer”)は、ドイツの作家エーリヒ・ケストナーが1933年に発表した児童文学。
日本では1962年、高橋健二の翻訳で岩波書店より刊行された。
一言あらすじ
ドイツの寄宿学校(ギムナジウム)で、五人の少年が織りなすクリスマス前の数日間の物語。
実業高校との決闘、上級生との確執、友情で結ばれながらもそれぞれが抱える悩み。
信頼できる大人「正義さん」「禁煙さん」がよりそい、涙と笑いがあふれる。
物語の象徴としてクリスマス劇「飛ぶ教室」が登場する。
本の感想
『飛ぶ教室』本のあらすじと感想。クリスマス前の寄宿学校を描く傑作
『飛ぶ教室』はドイツの作家エーリヒ・ケストナーによる児童文学。 クリスマスを目前にした寄宿学校の少年たちの友情と、ふたりの大人との絆を描いた作品。 ももちん、最近初めて読んだけど、感動して泣きました。 ...
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初版と同じ挿絵で読む
ケストナーが子ども向けに書いた作品のほとんどで挿絵を手がけているのが、画家ヴァルター・トリヤー。
ここで紹介するのは、初めての『飛ぶ教室』はトリヤーの挿絵で読みたい!というあなたにおすすめの本。
ケストナー少年文学全集
『飛ぶ教室』の定番訳とされているのが、高橋健二訳のハードカバーシリーズ「ケストナー少年文学全集」。
「ケストナー少年文学全集」は1962年岩波書店より全8巻で刊行された。
ラインナップは次のとおり。挿絵は原書のまま、ヴァルター・トリアーのものを掲載している。
- 『エーミールと探偵たち』
- 『エーミールと三人のふたご』
- 『点子ちゃんとアントン』
- 『飛ぶ教室』
- 『五月三十五日』
- 『ふたりのロッテ』
- 『わたしが子どもだったころ』
- 『動物会議』
1964年、別巻で『サーカスの小びと』(絵:レムケ)が刊行された。
子どもの頃この高橋健二訳のケストナー作品に出会い、今でも愛読書にあげている大人は多い。
ももちんは第17刷(1977年)のものを読んだ。
高橋健二の翻訳は、「です」「ます」調の丁寧でクラシックな翻訳。
50年以上前の翻訳ということもあり、「半給費生」「ハンケチ」など、現代では使われない言葉もある。
また、「万難を排し」「憤激し」など難しい言葉も使われている一方で、「いいました」「ていのいい」など、ひらがな表記も多いので、少し読みづらさを感じる。
大人になってから読むには、「です」「ます」調がじゃまに感じられるかも。
同級生同士の会話からは、1930年代の寄宿学校の雰囲気や、少年一人ひとりの個性が伝わってくる。
古めかしい品の良さが、かえって当時の14歳の口ぶりをあらわしているのかも。
さあ、マッツ! でも、つかまらないようにしたまえ。美少年のテオドルが校庭で見はりをしているぜ。
引用元:『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー著、高橋健二訳、岩波書店、1962年
ケストナー少年文学全集はココがおすすめ
- トリヤーの挿絵
- 50年以上愛されている高橋健二の翻訳
- ハードカバー
高橋健二訳を電子書籍で読める
2021年11月、グーテンベルク21より高橋健二訳『飛ぶ教室』の電子書籍が刊行された。
挿絵もヴァルター・トリアーの絵をそのまま掲載している。
これまで紙書籍でしか読むことができなかった高橋健二訳を気軽に読むことができるようになったことはうれしい。
岩波少年文庫
岩波少年文庫は、1950年に岩波書店より創刊された児童文庫。
『飛ぶ教室』は2006年、池田香代子の訳で刊行された。
池田香代子の翻訳は「〜だ・〜である」調。
現代の小中学生でも読みやすい言葉づかいで、テンポよく物語が展開していく。
会話は高橋健二訳より子どもっぽく、「少年」感ある言葉づかいになっている。
児童文庫だが、ふりがなは少なめなので、大人も読みやすい。
小学校4,5年以上向け。
ほら、マッツ。つかまらないようにしなよ。庭の見張りは、かっこつけテオドールだ。
引用元:『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー著、池田香代子訳、岩波書店、2006年
岩波少年文庫はココがおすすめ
- トリヤーの挿絵
- 現代の感覚で読みやすい翻訳
- 文庫より大きめサイズ
- 子どもも大人にもおすすめ
新潮文庫
新潮文庫版『飛ぶ教室』は2014年、「Star Classicsー名作新訳コレクションー」の1冊として、池内紀翻訳で刊行された。
トリヤーの挿絵を使った唯一の文庫本。
池内紀の翻訳は、古風でもないが現代によせてもいるわけでもなく、どの年代の読者も受け取りやすい。
言葉づかいに癖がないぶん登場人物の個性が引き立っている。
ただひとつ、他のどの訳でも「正義さん」「正義先生」と訳されているベク先生が、池内訳では「道理さん」と訳されている。
この呼び名を読者が受け入れられるかどうか。
文庫らしく、漢字多め・ふりがな少なめなので、大人が読みやすい。
じゃあ、これ。でもマッツ、いいね、気をつけるんだ、いろおとこテオドールが庭で見張ってる。
引用元:『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー著、池内紀訳、新潮社、2014年
新潮文庫はココがおすすめ
- トリヤーの挿絵
- 手頃なサイズと値段の文庫
- 大人が読みやすい言葉づかい
- 「正義さん」ではなく「道理さん」
文庫でお気に入りの訳を見つけよう
『飛ぶ教室』は文庫版で複数刊行されている。
自分に合った翻訳を1冊を見つけてみよう。
講談社文庫
講談社文庫『飛ぶ教室』は、山口四郎訳で1983年に刊行、2003年に新装版が刊行された。
児童向けの「青い鳥文庫」「少年少女世界文学館」シリーズでも採用されている山口四郎の翻訳は、文庫の中では唯一の「です」「ます」調。
読む人を選ばない、優しく丁寧な翻訳。
ひらがな表記が多いので大人は少し読みづらいかも。
挿絵を手がけるのは、岩波少年文庫『長くつ下のピッピ』挿絵で知られる桜井誠。
そら、これ、マッツ。でも、とっつかまるなよ。美少年のテオドールが庭で見張りをしているからね。
引用元:『飛ぶ教室』エーリッヒ・ケストナー著、山口四郎訳、講談社、2003年
講談社文庫はココがおすすめ
- 手頃な値段とサイズ
- 「です」「ます」調の丁寧な翻訳
- 岩波少年文庫『長くつ下のピッピ』の桜井誠挿絵
桜井誠紹介記事
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光文社古典新訳文庫
光文社古典新訳文庫『飛ぶ教室』は、丘沢静也翻訳で2006年に刊行された。
丘沢静也の翻訳は、シンプルで明快な日本語なので、テンポよく読み進められる。
児童文学に特有のまどろっこしさがないので、大人がエンターテイメントとして読むのに最適。
高橋健二訳や山口四郎訳のような「です」「ます」調とはまったく違う受け取り方ができる。
あとがきを読むとその真意について理解しやすい。
巻末に解説・ケストナー年譜あり。
おい、マティアス。つかまるなよ。美男のテオドールが庭で見張りしてるからな。
引用元:ケストナー 丘沢静也:訳『飛ぶ教室』/光文社古典新訳文庫
光文社古典新訳文庫はココがおすすめ
- 手頃な値段とサイズ
- テンポの良さを重視し、大人が読みやすい新訳
- 挿絵なし
読みやすい児童文庫
『飛ぶ教室』は児童文庫のラインナップが豊富。
それぞれ翻訳やイラストに特徴があるので、自分に合ったものがあるかチェックしてみよう。
講談社青い鳥文庫
講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。
講談社文庫や少年少女世界文学館シリーズにも採用された山口四郎による翻訳は、「です・ます」調で易しく読みやすい。
滝平加根による素朴なイラストが、物語の世界をじゃませずにポイントになっている。
ふりがなは多いが時は小さめなので、小学校高学年以上向け。
そら、これ、マッツ。でも、とっつかまるなよ。美少年のテオドールが庭で見張りをしているからね。
引用元:『飛ぶ教室』エーリッヒ・ケストナー著、山口四郎訳、講談社、2003年
青い鳥文庫はココがおすすめ
- 文庫より大きめサイズ
- 「です」「ます」調の丁寧な翻訳
偕成社文庫
偕成社文庫の『飛ぶ教室』は、1978年高橋健二訳、2005年に若松宣子訳の新訳版が刊行された。
若松宣子の翻訳は、「〜だ」「〜である」調で易しい日本語。
字が大きめでふりがなも多いので大人は少し読みづらい。
挿絵を手がけたのは、擬人化した動物のイラストが人気のイラストレーター・フジモトマサル。
はい、マッツ! だけどつかまんないでね。ハンサム・テオドールが庭の見張り番なんだから。
引用元:『飛ぶ教室』ケストナー著、若松宣子訳、フジモトマサル絵、偕成社、2005年
偕成社文庫はココがおすすめ
- 文庫より大きめサイズ
- フジモトマサル挿絵
角川つばさ文庫
2009年に創刊された角川つばさ文庫は、本を読むのがちょっと苦手という子にも「読んでみたい」気持ちを応援する児童文庫。
「10歳までに読みたい世界名作」シリーズの『フランダースの犬』の編訳も手がける那須田淳と木本栄の共訳は、難しい言葉は極力使わず、現代語で読みやすく仕上げている。
カラフルで現代的なイラストは、「100年後も読まれる名作」シリーズ『くまのプーさん』も手掛けるpattyによるもの。
すべての『飛ぶ教室』の中で唯一、それぞれのキャラクターを絵で明確にしているので、「字だけ」が苦手な大人にもおすすめ。
巻頭に登場人物・名場面紹介あり。
総ルビ、小学校中学年以上向け。
でも、見つからないようにうまくやってね、マッツ。きょうは、あの美少年テオドアが庭のみはり当番だからさ。
引用元:『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー作、那須田淳・木本栄訳、アスキー・メディアワークス、2012年
那須田淳編訳『フランダースの犬』紹介
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patty絵『くまのプーさん』紹介
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つばさ文庫はココがおすすめ
- 一般的な文庫より大きめのサイズ
- 現代的な挿絵でキャラクターをイメージしやすい
- 現代的な言葉づかい
活字が苦手な人でも読みやすい児童書
『飛ぶ教室』は子ども向けに、挿絵や解説、大きな字などで工夫されている書籍も刊行されている。
子どもが読む本と侮ってはいけない。
実は、活字が苦手な大人にもおすすめなんだよね。
少年少女世界文学館
講談社「少年少女世界文学館シリーズ」は、楽しく読みながら世界各国の歴史や文学を学べる決定版シリーズ。
難しい言葉や時代背景、歴史上の人物などの丁寧な解説がすばらしい。
全24冊の中の第15巻が『飛ぶ教室』。
たくさんの昔話や童話の挿絵を手がける赤坂三好のカラーイラストは、洋風でいきいきとしたテイスト。
講談社青い鳥文庫と同じく山口四郎の翻訳。
巻末には岩波書店の「ケストナー少年文学全集」の翻訳者・高橋健二による解説、阿川佐和子による随筆を掲載。
小学校高学年以上。
そら、これ、マッツ。でも、とっつかまるなよ。美少年のテーオドールが庭で見張りをしているからね。
引用元:『飛ぶ教室 (21世紀版・少年少女世界文学館 第15巻)』エーリッヒ・ケストナー著、山口四郎訳、講談社、2011年
ポプラ世界名作童話
<ポプラ世界名作童話(20)>最上一平/文×矢島真澄/絵の『飛ぶ教室』(E.ケストナー/作)ドイツの寄宿舎でくらす少年たちの友情をえがいた物語。https://t.co/QzCiCu9tI0 pic.twitter.com/YEPjzIz9Pj
— ポプラ社ポケット文庫+ (@poplar_pocket) November 4, 2016
ポプラ社の「ポプラ世界名作童話シリーズ」は、小学校に入ってはじめて世界名作に出会う子どもたちのためのシリーズ。
編訳は、自身も児童文学作家として活躍する最上一平。
物語は、前書き・あとがきや細かい部分は省略されているが、名場面や大筋はしっかり描かれている。
児童書や絵本のイラストを手がける矢島眞澄の挿絵がちりばめられ、活字が苦手でも読み進めやすくなっている。
小学校低学年向け。
マッツ、つかまらないようにね。気どり屋テーオドールが庭を見はっているよ。
引用元:『飛ぶ教室』E・ケストナー作、最上一平文、ポプラ社、2016年
児童書はココがおすすめ
- イラストがたくさんある
- 解説やコラムつきのものもある
- 大きな字
- あらすじとみどころをわかりやすく知れる
電子書籍だけで読める
『飛ぶ教室』は、電子書籍でしか読めないものもある。
電子書籍未体験の人も、これを機にチャレンジしてみては?
少年少女世界の文学
電子書籍で唯一読める『飛ぶ教室』が、「カラー名作 少年少女世界の文学」シリーズ。
「少年少女世界の文学」シリーズは、1969年小学館より刊行。現在は1978年の第2版を電子書籍化している。
植田敏郎の翻訳は、「〜だ」「〜である」調のシンプルでクラシックな訳。
輪島清隆の挿絵は、講談社文庫『飛ぶ教室』の桜井誠の挿絵とテイストがよく似ている。
漢字は少ないが、ふりがなはない。
さあ、マッツ。でも、庭で美男子のテオドールが見はりをしているから、つかまらないように行けよ。
引用元:『カラー名作 少年少女世界の文学 飛ぶ教室』ケストナー作、植田敏郎訳、小学館、2017年
電子書籍はココがおすすめ
- かさばらず、いつでもどこでも読める
- 値段が手頃
まとめ
各出版社の『飛ぶ教室』まとめ。
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文庫
文庫名 | 翻訳 | 挿絵 |
新潮文庫 | 池内紀 | トリヤー |
講談社文庫 | 山口四郎 | 桜井誠 |
光文社古典新訳文庫 | 丘沢静也 | なし |
「ですます」訳、桜井誠挿絵なら講談社文庫。
「だ・である」調のシャープな訳なら光文社古典新訳文庫。
児童文庫
文庫名 | 翻訳 | 挿絵 |
岩波少年文庫 | 池田香代子 | トリヤー |
講談社青い鳥文庫 | 山口四郎 | 滝平加根 |
偕成社文庫 | 若松宣子 | フジモトマサル |
角川つばさ文庫 | 那須田淳・木本栄 | patty |
「ですます」調の丁寧訳なら青い鳥文庫。
アニメ絵の現代語訳なら角川つばさ文庫。
ハードカバー・電子書籍
シリーズ名 | 翻訳 | 挿絵 |
ケストナー少年文学全集 | 高橋健二 | トリヤー |
グーテンベルク21 (電子書籍) | 高橋健二 | トリヤー |
少年少女世界文学館 | 山口四郎 | 赤坂三好 |
ポプラ世界名作童話 | 最上一平 | 矢島眞澄 |
少年少女世界の文学 (電子書籍) | 植田敏郎 | 輪島清隆 |
あなたにとって一番ぴったりくる『飛ぶ教室』を手にとって見てね。
『飛ぶ教室』本の感想については、こちらの記事をどうぞ。
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