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文字なし絵本『アライバル』感想。地球人なら誰もが心動かされる傑作

2018年5月27日

ショーン・タン『アライバル』2011年、河出書房新社

『アライバル』は、文字がなく全編絵だけで表現された絵本。

1冊読み終わると、まるで1つの映画を観終わったような満足感がある。

今回は、文字なし絵本『アライバル』の魅力をお伝えするよ。

この記事で紹介する本

この記事でわかること

  • 絵本『アライバル』内容とみどころ
  • 『アライバル』関連情報

絵本『アライバル』とは?

『アライバル』(原題”The Arrival”)は、2006年英語版が出版された絵本。

文章をいっさい入れずに描かれた作品(グラフィック・ノベル)であることが特徴。

2008年、本作品でアングレーム国際コミック・フェスティバル最優秀作品賞受賞。

日本では2011年河出書房新社より出版された。

ショーン・タン

オーストラリアのイラストレイター、絵本作家、映像作家。大人向けの絵本作品で知られる。

1974年、オーストラリアのバース郊外に生まれる。2007年よりメルボルンを拠点に活動。

マレーシアから西オーストラリアに移住した父の経歴が作風に影響を与えている。

世界幻想文学大賞アーティスト部門、ヒューゴー賞プロ・アーティスト部門、ディトマー賞最優秀芸術部門、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞など多数の受賞がある。

代表作(絵本)

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内容紹介

家族とはなれ、新たな土地に移民した一人の男。

見慣れぬ景色や異文化におどろき、翻弄されながらも、一日一日を生き生きと歩んでいく。

まるでサイレント映画のように一切の文字を使用せず表現した、究極の文字なし絵本!

 

絵本『アライバル』感想

  1. 絵が雄弁に語る移民の物語
  2. あらすじ

絵が雄弁に語る移民の物語

ももちんは、これまでも、文字のない絵本には何度か出逢ってきた。

ガブリエル・バンサンの『アンジュール―ある犬の物語』やレイモンド・ブリッグズの『ゆきだるま』など。

このように完成された絵本には、むしろ文字は余計で、文字がないからこそ想像力を存分にかきたてられるんだよね。

この『アライバル』ももちろんそうなんだけど、この物語は、一枚一枚の絵の情報量がすごい。

細かくて詳しくて、綿密なリサーチに基づいて描かれているのがわかる。

それでいて、地球上のどこにもいない動物、乗り物、システム、誰も読んだことのない文字・・・

地球上には実在しないものを、ここまで作り上げられるんだと、感動する。

あとがきに書かれていたのだけど、ショーン・タンは四年の歳月をかけてリサーチを重ね、構想を練り、描き続け、この『アライバル』を完成させた。

まったくのファンタジーなんだけど、世界にとってなじみ深く、どこか懐かしく、普遍的な「移民」というテーマ。

壮大な長編アニメーションを観ているような感覚になる。

 

あらすじ

Ⅰ.家族とはなれ旅立つ

物語は六章に分かれている。

第一章では、一人の男が、妻と娘とわかれて船に乗るシーン。

絵をみるだけで、この家族がお互いに愛し合っていること、やむを得ず男が職を求めて旅立たなければならないこと、そしてそのような境遇の人たちはめずらしくないことが見てとれる。

この章だけでも謎があって、巨大なしっぽのような影が街を覆っている。

なにか不穏な空気が伝わってくる。これは残された奥さんと娘の心をあらわしているのかもしれない。

Ⅱ.大都会に到着

第二章では、男が移住先に到着する場面。

巨大な船には、新天地を求め、大勢の移民が乗っている。

まるで映画『タイタニック』に出てくる一場面のようだ。

何日も海を進み、たどりついたのは、見たこともないような大都会。

この景色がとても雄大だけど細かいんだ。西洋でも東洋でもない、不思議な世界。

文字もよくわからない。

男は入国審査をなんとかくぐり抜け、大都会に足を踏み入れる。

風船のような乗り物に乗ってたどりついた街の中では、人々が活気あふれる生活をしている。

看板を持った少年、路上の床屋、演奏家たち・・・

この光景は地球のいたるところで見られる、ごくなじみ深いものだ。

男は絵とジェスチャーを駆使して、なんとか住む部屋を見つけた。

この大都会には、いたるところに見たこともないような生物がいる。

どうやら、ひとりに一匹、パートナーとしているものらしい。キキにとってのジジ、ナウシカにとってのテトみたいなものかしら。

男が部屋にたどり着いたとき、部屋にいたのは、表紙絵にもいる生き物。

男はようやく一息ついて、家族の写真を眺めながら、夜は更けていった。

Ⅲ.初めての友人

一晩あけて、男は食料を調達しに街へ出る。

空とぶ船で移動しようとしたところ、乗り方がわからない。

横にいる女性に切符の買い方、乗り方を教えてもらう。

この切符を買う機械も、地球には存在しないシステム(だけど旧式の電話のようでアナログっぽい)のものだ。

知り合った女性も、過酷な環境から逃げるようにして、この大都会にたどり着いた過去がある。

その回想シーンも自然に流れていき、全く違和感がないのがすごい。

船でたどりついた土地で、さっそく食料を調達する男。

だけど、男にとってなじみ深い食物であるパンを求めてきたのに、全く見たこともないような食べ物を買うはめになった。

食料品を買うときに知り合った男性と息子と仲良くなり、お宅訪問して食事をごちそうになることになった。

その道中での男同士の様子から読み取るに、男はどうやら第一章で出てきた巨大なしっぽから逃げる必要があると感じているみたい。

だから、危険な場所に奥さんと娘だけを残してくることに心配を感じているんだ。

知り合った男性もまた、巨人たちの攻撃からからがら逃げ出して、この大都会へやってきた。

みんな、それぞれの事情を抱えながら、希望をもってこの土地へやってきているんだ。

たのしい食事の時間を過ごしながら、夜は更けていく。

Ⅳ.仕事に就く

翌日、男は仕事を求め街をさまよい歩く。

断られつづけながらようやく見つけた仕事は、ポスター貼りの仕事。

だけど、文字の上下をさかさまに貼ってしまう失敗をする。

この男もこの都会の文字はちんぷんかんぷんなんだね。

次に見つけた仕事は、郵便配達のような仕事。包みに書かれてある文字みたいな記号みたいなものをみながら、ポストのようなところに入れていく。

だけど注意書きが読めずに危険な場所に入ってしまい、猛獣に追い返されてしまう。

最後に見つけた仕事は、巨大な工場のライン作業。

そこで出逢ったおじいさんも、この場所に至るまでのストーリーがある。戦争で片足を失った過去。

定時になって賃金を受け取り、男とおじいさんはおじいさんの仲間たちと合流する。そこで繰り広げられるゲームは、まるでゲートボールみたい。

こうして着実に、男は新しい土地へなじんでいく。

Ⅴ.家族を迎え入れる

季節は流れる。男は遠い土地に住む家族へ仕送りを続ける。

そして、待ちに待った家族との再会の瞬間がやってくる。

Ⅵ.家族での新生活

妻と娘も新しい生活になじみ、生活に笑顔と活気があふれている。

娘はお使いもできるようになった。

街にはどんどん新しい移民がやってくる。

娘は自分から困っている人に声をかけ、教えてあげる。

男が入国したてのときに親切にしてもらったように。

移民たちであふれる世界は、助け合いと信頼の世界だ。

そこでは心を閉ざしていては生きていけない。

世界中どこでもこの助け合いの循環がある。

そのことを思い出させてくれる物語でもある。

 

関連本

この『アライバル』には、一度や二度読んだだけではとらえきれないような、裏に流れるストーリーがあるのだと思う。

大都会にあるルール、生活様式、法律みたいなものとか。

そのストーリーを理解する助けになるのが、この『見知らぬ国のスケッチ』。

アイデアの元になったスケッチを交えながら紹介する、メイキングブック。

いずれ読んでみたい。

 

【終了】ショーン・タンの世界展

2019年5月から、東京のちひろ美術館で開催されるショーン・タンの世界展。

日本で開催される初めてのショーン・タンの大規模な個展。

ちひろ美術館も、とても居心地の良い美術館で、岩崎ちひろの企画展も同時開催。

ももちんもぜひ行ってみたいと思う。

 「ショーン・タンの世界展」ちひろ美術館・東京

期間:2019年5月11日(土)~2019年7月28日(日)

会場:ちひろ美術館・東京(西武新宿線上井草駅下車徒歩7分)〒177-0042 東京都練馬区下石神井4-7-2

休館日:月曜(祝休日は開館、翌平日休館)

開館時間:10時00分〜17時00分
※入館は閉館の30分前まで

入館料:一般800円、高校生以下無料。

ショーン・タンの世界展公式サイト

 

まとめ

文字なし絵本『アライバル』みどころまとめ。

 

世代を超えて楽しめる一冊だよ。

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

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