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絵本『くまとやまねこ』感想。誰かを亡くした悲しみに優しくしみこむ

2018年11月30日

『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

絵本『くまとやまねこ』は、『夏の庭』の湯本香樹実と、『よるくま』の酒井駒子によって生み出された、スペシャルな絵本。

愛する存在を失った悲しみにそっとしみこみ、寄りそってくれるような絵本だよ。

この記事で紹介する本

こんな方におすすめ

  • 大人が読んでじんとくる絵本を探している
  • 湯本香樹実、酒井駒子の作品が気になっている

絵本『くまとやまねこ』とは?

『くまとやまねこ』は、2008年、河出書房新社より刊行された絵本。発行部数16万部のベストセラー。

初めて掲載されたのは、福音館書店の月刊誌「おおきなポケット」(1998年7月号)。

湯本香樹実の文に、ささめやゆきの絵で掲載された。

後に改稿、絵本として単行本化された。

 

湯本香樹実(文)

小説家・脚本家。

1959年東京都生まれ。東京音楽大学音楽学部卒業。

小説『夏の庭ーThe Friends-』で日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞。

同作品は十ヵ国以上で翻訳され、映画化・舞台化もされた。

絵本の翻訳も手掛ける。

参考:『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

代表作(小説)

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酒井駒子(絵)

絵本作家、画家。

1966年兵庫県生まれ。東京藝術大学美術学部油絵画科卒業。

1998年に『リコちゃんのおうち』(偕成社)で絵本作家デビュー。

黒を下地にした印象的な画風、どこか憂いを帯びた幼い子供や動物の絵で人気を得る。

作品は海外でも評価が高い。

参考:Wikipedia

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「おおきなポケット」

『おおきなポケット』1998年7月号

『くまとやまねこ』が初めに掲載されたのは、福音館書店の月刊誌「おおきなポケット」1998年7月号。

このときは、酒井駒子の絵ではなく、ささめやゆきの挿絵で掲載された。

「おおきなポケット」では、小学校低学年向けの絵本や読み物を掲載していて、子どものみならず、大人にもファンは多かったみたい。

人気があり、単行本化されている作品も多い。

1992年に創刊され、2011年に休刊。

参考:Wikipedia

 

内容紹介

一言あらすじ

ある日、くまの仲良しだったことりが死んでしまった

くまは、悲しくて、悲しくて、家の中に閉じこもってしまう。

ある日、窓を開けてみると、とてもいいお天気で、くまは、みちびかれるように散歩に出かけた。

その先で出会ったのは、みなれないやまねこ

やまねことの心の交流が、大切な存在を失った悲しみに、やさしくしみこむ

 

絵本『くまとやまねこ』を読んだきっかけ

『よるくま クリスマスのまえのよる』酒井駒子、白泉社、2000年

ももちんは、先に酒井駒子の絵本『よるくま』『よるくま クリスマスのまえのよる』を読んだことがあった。

特に『よるくま クリスマスのまえのよる』はとても心に響く絵本だったので、レビュー記事も書いたんだよね。

その後、図書館に別の用事で行ったときに、たまたま見つけたのが『くまとやまねこ』。

さっそく読んでみると、大切な存在を亡くした悲しみと、それを受け入れていくプロセスが、丁寧に描かれていた。

さらっと目を通しただけで、うるっときてしまった。

この絵本のレビューを書きたい、と思ったので、そのまま借りてきました。

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絵本『くまとやまねこ』を読んだ感想

『くまとやまねこ』湯本香樹実(文)酒井駒子(絵)河出書房新社、2008年

絵本をひらいたとたん、「うわ、どうしよう」ってなった。

その理由は、「ある朝、くまはないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです。」という書き出し。

大切な誰かを亡くしたところからのスタート。

正直、悲しい物語は苦手なのだが・・・と思った。

だけど、シンプルながら力のある書き出しと、美しいモノクロの絵にひき込まれ、気づけば物語にひき込まれていた。

 

『くまとやまねこ』ポイント

 

大切な存在を亡くした悲しみ

はじめ、くまは、小さな木の箱をつくる。

丁寧にきれいに作ったその箱に花びらをしきつめ、死んだことりをそっと入れた

くまは、ことりが死んでしまい、この悲しい心をどう扱ったらいいのかわからない。

思い出されるのは、昨日の朝のことりとの何気ない会話。

時間を戻せたなら・・・後悔と悲しみが押しよせる

 

森の動物たちの言葉

くまは、いつもことりと一緒にいたくて、ちいさな箱を持ち歩いていた。

森の動物たちにお願いされ、箱の中身を見せるくま。

森の動物たちは、どんな反応をしたと思う?

みんな困った顔をして、「つらいだろうけど、わすれなくちゃ」って言うんだ。

もちろんみんな、くまへの思いやりからこの言葉をかけたんだよね。

早くくまに元気になってほしい。

ことりはもう戻ってこないんだから、前を向いてほしい。

友だちに対してそう思うのは、自然なことだと思う。

だけど、身近で大切な存在を亡くした経験がある人なら、くまの気持ちはいたいほどわかるはず。

ことりが戻らないのは百も承知。

前を向いたほうがいいのもわかってる。

わかってるけど、悲しい心は、そう簡単にコントロールできないんだ。

 

「時間」だけが癒してくれる

そのうちくまは、自分の家にこもって、鍵をかけてしまう

何日も、昼も夜もない部屋の中で、じっと座り続ける。

 

くまの自分への愛

くまが自分からとじこもったこと、あなたはどう感じる?

ももちんは、自分への愛だと思ったんだよね。

たとえば人間社会では、たいていは悲しいことがあっても、人と関わる機会がすぐにやってくる。

生活のために仕事も家事もしなくちゃいけないし、周りに心配かけたくないから、元気なふりをしたりもする。

そのうち悲しみは薄れていくけど、心の奥底には、まだ感じていない悲しみが残っている。

くまが自分から一人を選んだことは、周りから見たら、不健康なことかもしれない。

でも、くまにしてみたら、そのときの自分の望みを叶えることでもあったんだ。

だって、忘れたくないんだもん。

まだまだ、ことりのことを思って、悲しんでいたいんだもん。

「ひとり」という安心安全な環境で、どんなに深い悲しみも、じっくりと味わうという選択。

これ、一見マイナスのように見えて、とても大事なプロセスなんだよね。

 

心の変化

忘れなくていいよ。

悲しみを持っていていいよ。

前に進まなくていいよ。

ことりを忘れられない自分、変われない自分にOKを出し、とじこもったくま。

何日もたったある日のこと、くまは窓を開けて、いいお天気に感動をおぼえるんだ。

草のにおい、白い雲のぽっかりうかんだ空・・・

前は当たり前だったかもしれないその光景が、今のくまにはキラキラして見える。

とじこもったばかりのくまには、外に出たいと思うようになるなんて、想像もできなかっただろう。

だけど、時間は、ゆっくりだけど確実に、悲しみを癒すんだよね。

くまは、何の期待もせずに、ただ悲しみに身をゆだねてとじこもった。

この「身をゆだねる」ということが、時間の癒しの力を最大限に引き出した、ともいえる。

 

やまねことの出会い

久しぶりに散歩に出かけたくまは、昼寝をしているやまねこに出会う。

やまねこの横にあった箱の中身がみたくなったくまは、おそるおそる話しかける。

やまねこは、くまの持っている小さな箱の中身を見せてくれたらぼくも見せる、と言う。

くまはちょっと迷ったけど、見せてあげるんだ。

 

やまねこの反応

くまは、きっと怖かったと思う。

また、「わすれなくちゃ」なんて言われたらどうしよう?って。

だけど、やまねこから出てきた言葉は違った。

やまねこは、くまの寂しさによりそってくれたんだ。

おどろいているくまに、やまねこは、自分の箱の中身を見せる。

箱から出てきたのは、バイオリン。

「きみとことりのために、一曲えんそうさせてくれよ」

 

ことりの死を受け入れたくま

やまねこが奏でる音楽は、くまの心に優しくしみこんでいった。

くまは、音楽をききながら、いつのまにか、ことりとのいろんなことを思い出していった。

楽しかった思い出、けんかしたこと、仲直りしたこと・・・

ひとつひとつ、鮮やかに思い出したんだ。

このときのくまの心は、悲しみや後悔はなかったと思う。

自覚はしていなくても、くまはこのとき、ことりの死をすでに受け入れていたんだよね。

くまはことりを埋めて、やまねことともにお墓をつくった。

「ぼく、もうめそめそしないよ」というくまの言葉。

強がりではなく、ことりが心の中に住み続けることをさとったくまの、力強い言葉。

 

新しい世界へ

ことりを埋めて、お墓をつくったくま。

演奏旅を続けるやまねこに、いっしょにおいでよ、と誘われる。

やまねこがくまに差し出したタンバリンは、使い古されて汚れていたけど、とてもいい音がした。

このときくまは、「やまねこにも、ずっといっしょだった友だちがいたのかもしれない」と感じた。

だけど、それを聞くかわりに、くまは答える。「ぼく、れんしゅうするよ」

 

喜びも悲しみもまるごと受け入れる

やまねこはきっと、くまと同じ体験をしていたんだろうと思う。

だから、お互いわかっていた。

誰かを大切に思えば思うほど、お別れの悲しみも深いこと。

だけど、だからと言って、また誰かを愛することを怖がらない。

喜びも悲しみもまるごと受け入れて進んでいく姿に、胸がじんわり熱くなる。

 

完ぺきなコラボに鳥肌

湯本香樹実の文と、酒井駒子の絵。

それぞれがとても力強く、文だけでも、絵だけでも泣けるのに、その二つがかけ合わさっている。

『くまとやまねこ』は、それぞれの魅力を最大限にひきだしあって完成された、芸術ともいえる絵本。

 

音楽が聞こえてきそうな文

湯本香樹実の文は、子どもが読めるようなシンプルな言葉から、情景がありありと伝わってくる

特別な装飾語は使われていないのに、静かに感動を引き起こす。

やまねこのバイオリン演奏の場面は、本当に音楽が聞こえてくるみたいで、読む人の心までしみてくる。

あと、くまがことりをうめる場面は心に残った。

その場所がくまとことりにとって、どれだけ大切な場所なのか。

文章からその場所が、ささやかだけど、とても美しいことが想像できた。

 

なぜか鳥肌がたつ絵

そして、酒井駒子の絵は、さすがだな、と鳥肌が立った。

全体的には、くまの悲しみが伝わってくるような、モノトーンの絵。

後半、くまの心がちょっとぴかっとしたとき、その心の動きに応じるように、ピンクが使われている。

そう、控えめに使われているピンクは、くまの心の希望をあらわしているんだよね。

そして、物語に入り込んで読み進めると、ここぞというタイミングで登場する、見開きの美しい絵

くまがやまねこのバイオリンを聞きながら、ことりを思い出したところの場面が圧巻。

余白もたっぷりとって、読む人の心が物語にちょうど良いペースになるように計算されている。

 

感想おさらい

 

関連トピック

絵本『くまとやまねこ』について、見つけた著者インタビューや書評を紹介するよ。

 

湯本香樹実インタビュー

楽天ブックスの公式サイトでは、『くまとやまねこ』で文を手がけた湯本香樹実のインタビューを読むことができる。

湯本香樹実がこの絵本の中で伝えたかったことや、心がけたこと、酒井駒子との仕事についても語られている。

冒頭の、死と時間、再生についてのところがおもしろかった。

湯本香樹実さん著者インタビュー/楽天ブックス公式サイト

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著名人の書評

角田光代(女流作家)

河出書房新社公式サイトでは、『文藝 2008年 夏季号』に掲載された、作家の角田光代による『くまとやまねこ』書評を読むことができる。

この書評、読むだけで泣ける

ご自身もインコを飼っていて、亡くしたときの悲しみをつづっている。

「かなしみの深さは、人の死によって受けるものとほとんど変わらない」本当にその通りだと思う。

絵本そのものを読む前に、ぜひ読んでおきたい文章。

角田光代さんによる書評紹介/河出書房新社公式サイト

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書評サイト”ALL REVIEWS”

書評サイト”ALL REVIEWS”では、朝日新聞に掲載された『くまとやまねこ』記事を読むことができる。

内容は短めで淡泊な感じ。

河出書房新社の担当編集者の言葉や、読者の傾向など、『くまとやまねこ』にまつわる情報がわかる。

ライター瀧井 朝世による書評/ALL REVIEWS

 

2021年開催!「みみをすますように 酒井駒子展」

酒井駒子展タペストリー

今作で絵を手がけた酒井駒子さんの初の本格的個展が、2021年4月から東京・立川にあるPLAY!MUSEUMで開催中。

絵本や書籍25冊の原画200点を展示している。

絵本『くまとやまねこ』の原画も見ることができるよ。

 

酒井駒子展ポイント

  • 20冊を超す絵本から200点を超す原画を展示
  • 特製の額やケースに収められた原画
  • 酒井駒子が制作を行う八ヶ岳の景色や音、小さなおもちゃやオブジェのアクセント
  • 展覧会オリジナルグッズ

 

「みみをすますように 酒井駒子」展公式サイト

 

ももちん
見に行ってきたので感想を書いたよ。
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「みみをすますように 酒井駒子展」2022感想。絵本25冊の原画を堪能

東京・立川で開催中の「みみをすますように 酒井駒子展」に行ってきた。 『よるくま』など、酒井駒子さんの絵本が好きな人にはたまらない展示。 展示に行く前に絵本を読んでから行くと、味わいが深まるよ。 この ...

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まとめ

絵本『くまとやまねこ』みどころまとめ。

 

愛する存在を失った悲しみにそっとしみこみ、寄りそってくれるような絵本だよ。

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

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