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絵本『猫は生きている』感想。衝撃の結末に戦争を考えさせられる。

2018年4月30日

出典:早乙女勝元(著)田島征三(絵)『猫は生きている』1973年、理論社

1973年に出版された『猫は生きている』っていう戦争の絵本。

幼少期に読んでトラウマになっている人もいる衝撃的な内容。

大人になってから読むと、また深く考えさせられる。

この記事で紹介する本

この記事でわかること

  • 絵本『猫は生きている』の内容と感想
  • 映画『猫は生きている』
  • お話の元となった実話

絵本『猫は生きている』とは?

『猫は生きている』は、 1973(昭和48)年、理論社より出版された絵本。

 

早乙女 勝元(著)

早乙女 勝元(さおとめ・かつもと)は、日本の作家・児童文学作家。

東京の働く姿を描いた作品が多く、また反戦・平和をライフテーマとする。

1932(昭和7)年、東京都足立区出身。

1945(昭和20)年3月9日、東京大空襲を体験する。

下町の中小企業労働者として働きながら文学を志し、作家生活に入る。

1952年に「下町の故郷」で直木賞候補。

2002年に東京都江東区にオープンした東京大空襲・戦災資料センター館長就任。

参考:Wikipedia

代表作(原作)

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田島 征三(絵)

田島 征三(たしま・せいぞう)は日本の絵本作家、画家。

1940(昭和15)年、大阪府堺市生まれ。

幼少期に米軍機の機銃掃射で危ない目にあう。高知県に疎開直後、堺が空襲にあい、「友人はひとり残らず焼け死んだ」と記している。

1969(昭和44)年、『ちからたろう』で第2回世界絵本原画展「金のりんご賞」受賞。

1992年、エッセイ集『絵の中のぼくの村』を出版。1996年に『絵の中のぼくの村』が映画化され、ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞。

参考:Wikipedia

主な作品(絵)

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題材となった東京大空襲について

鎮火後の街の風景。石川光陽(1904-1989)が1945年3月10日頃撮影。[Public domain]

『猫は生きている』は、1945年3月9日深夜(3月10日未明)の東京大空襲を題材に描かれた。

著者の早乙女勝元自身、少年期に実際に体験した東京大空襲。

第二次世界大戦末期(1944年(昭和19年)11月24日以降)、日本はアメリカ軍により、東京に対する焼夷弾を用いた大規模な攻撃を受けた。

その106回の空襲のうち、1945年3月10日の空襲(下町空襲)だけで死者数が10万人以上、被災者は100万人を超えたと言われている。

一般的に「東京大空襲」というと、この1945年3月10日の空襲のことを指すよ。

 

あらすじ

戦時中、昌男の家の縁の下に一匹の猫が住みつき、「稲妻」と名付ける。

昌男は妹の光代と一緒にえさをやっていた。

そうこうしているうちに、ちいさなかわいい子猫がたくさん生まれる。

三月九日、北風のはげしい夜、空襲が始まり、稲妻たちは昌男たちと一緒に一面の火の中を逃げる。

おかあさんや妹とはぐれ、ひとりになった正男は猫たちを守ろうとする。

 

絵本『猫は生きている』との出逢い

出典:早乙女勝元(著)田島征三(絵)『猫は生きている』1973年、理論社

ももちんが絵本『猫は生きている』を読んだのは、つい数年前のこと。

実家に帰って、両親の書斎の本棚を眺めていた時に、たまたま見つけたのがこの絵本。

うちは両親とも小学校の教師だったので、教材として、子どもが読む本、特に戦争についての本はたくさんあった。

戦争についての学びをなぜしなきゃいけないのか?

子どものころはよくわからなかったし、楽しいファンタジーの本のほうが好きだった。

そういうわけで、『猫は生きている』という本があることすら、知らなかったんだ。

見つけたときは、すでに相当年季が入っていたその絵本。

ももちんは猫を飼っていることもあって、タイトルに吸い寄せられるように、その絵本を手に取りました。

 

絵本『猫は生きている』感想

絵本では、東京大空襲の様子を人間と猫の視点から描いている。

平和な日常が、一晩で目をおおいたくなるような悲劇となってしまうお話は、かなり衝撃的。

この絵本、子どものときに読んでたらトラウマになってたと思う。。

それだけ、戦争の真実の姿を描いているんだと思う。

 

『猫は生きている』ポイント

 

平和と地獄の対比

はじめに、東京大空襲の前の昌男たちと稲妻たちの日々が、丁寧に描かれているのが印象的。

物語は、昭和20年初めの冬から始まる。

昌男は、おかあさんと妹の光代と赤ん坊のチイ子と、東京の下町に暮らす男の子。

毎日空襲警報が鳴って、配給の食料も少なくなっている。

不安な日々を過ごしながらも、笑顔がみられる場面。

縁の下に住みついた猫の稲妻をかわいがる昌男。

おかあさんは、人間さまで手いっぱいで猫どころじゃないと言うけれど、ねだると煮干しをほんの少しくれる、優しい人なんだ。

こうして、昌男は光代と一緒に、稲妻にえさをあげていた。

やがて、稲妻は子猫をたくさん産む。

たくましく生きる稲妻親子に、昌男たちも元気をもらう。

空襲がきたら守ってあげようと思う昌男も優しい。

そんな中、東京大空襲の日がやってくる。

あっという間に火に飲み込まれていく街と、目の前でどんどん死んでいく人たち。

逃げたり考えたりする間もない。

さっきまでの平和は、瞬間でかき消えてしまった。

そのギャップに、息をのむしかない。

 

人間のドラマ

東京を空襲しているB-29爆撃機(1945年のものであるが詳細な日時不明)[public domain]

空襲の中で逃げまどう、おかあさんと昌男、光代、チイ子。

おかあさんの視点と昌男の視点から、激動する気持ちが描かれている。

 

おかあさんの愛

物語全体を通して、いたいほど感じるのは、おかあさんの子どもたちへの愛情。

戦火の中、子どもたちをつれて逃げるのに、どれほど必死だったことだろう。

でも、そんな必死の努力もむなしく、焼夷弾が光代の背中に命中してしまう。

悲しむまもなく、昌男ともはぐれ、せめて背中に背負ったチイ子だけでも助けようとするおかあさん。

死んだ光代をその場にのこして立ち去るしかなかったときの気持ちは、どれほどつらかっただろう。

おかあさん自身も、光代に当たった焼夷弾を直につかんだことで、右手を火傷してしまう。

でも、そんなことは問題ではないんだ。

光代は死んでしまい、昌男とははぐれてしまった。

チイ子の命を、なんとしても守らなければ

しかし、その想いも空しく、火に囲まれて逃げ場を失ったおかあさんは、最期の力をふりしぼって、かたい地面を夢中でほる。

そうしてできた小さな穴に、チイ子と、くっついてきた子猫一匹を入れて、自分のからだをふたにする。

自分の身を犠牲にして、わが子を守ろうとして死んでいくおかあさんに、言葉が出ない。

 

昌男の愛

昌男は、戦火で逃げまどう中、おかあさんたちとはぐれてしまうんだよね。

はぐれたお母さんが恋しくて、昌男は思わず炎の中へ歩きかける

そんなとき、稲妻が昌男のズボンのはしを引っ張ってひきとめるんだ。

稲妻にひきとめられた昌男は、猫たちと一緒にがんばって逃げるんだ。

ようやく川を見つけてとびこむ昌男と猫たち。

昌男は子猫たちを抱きかかえ、守るんだ。

必死に丸太のいかだにつかまるけど、水の上は火の粉の嵐。

いかだもばらばらになって、丸太一本になってしまった。

昌男がいよいよ力尽きようというとき、橋からたれ下がってる縄を見つける。

その縄をつかんで、猫たちをのぼらせたあと、昌男は力尽きて流されていくんだ。

こうして、優しいとか、たくましいとか、関係なく、戦火は容赦なく人々をのみ込んでいく。

なんて悲しいんだろう。

主人公すらも死んでしまう物語なんて、そうそうあるもんじゃない。

 

猫・稲妻のドラマ

物語では、稲妻と子猫たちのドラマも、しっかり描かれている。

稲妻のたくましい母猫っぷりには、昌男のおかあさんと共通する愛を感じる。

実際、おかあさんは、稲妻に一目置いていたんだよね。

おかあさんが、チイ子を守りながら死んでいくときも、稲妻が子猫たちを守っていた場面が頭をよぎる。

稲妻は、子猫たちを急きたてて、なんとかみんなで生きようとする

最期に昌男がつかまってくれた縄にとびうつって、猫たちは、全員生き残ることができたんだ。

でも、気がかりは、おかあさんと一緒にはぐれてしまった一匹の子猫のこと。

朝になって探していると、うつぶせになった人間の死体の下から、その子猫が生きて出てくるんだ。

その死体はもちろん、チイ子と子猫を守ろうとして死んでいったおかあさん。

残念なことに、チイ子も死んでしまっていた。

家がなくなって心配する子猫たちに、稲妻は「あたしら、どうせ、もともと家なんかなかったんだよ。」と言ってはげます。

焼けのこりの家をめざして猫たちは歩いて行く姿に、力強い生命力を感じる。

ふつうでは人間よりも軽く見られている猫たちのいのちが、結果的には生かされることになった。

この結末にどう反応していいかわからないけど、深く心をえぐられるものがある。

 

戦争が示す命の軽さ

この物語では、登場する人間たちが全員死んでしまい、猫たちは全部生き残るっていう、衝撃的な結末なんだよね。

しかも、人間たちはみんないい人というところが、戦争の無慈悲さをついている

ほかの物語にあるような、いい人は報われて、悪い人は罰を受けるような、わかりやすい世界じゃないってこと。

そんなの関係なく、いのちはいとも簡単になくなっていく。

その異常さを伝えているのがこの物語なんだよね。

 

感想おさらい

 

関連トピック

絵本『猫は生きている』について調べてわかったことを紹介。

 

物語の元になった記録「美しい顔」

絵本『猫は生きている』の中で、ももちんが一番心に残ったのは、おかあさんが固い地面を掘って、赤ちゃんと子猫を隠し、自分がふたになって守ろうとする場面

この場面こそが、実話をもとにしたものであることを知って驚いた。

著者の早乙女勝元は『猫は生きている』のあとがきで、「須田卓雄氏の記録そのほかを参考にさせていただいた」と書いている。

この須田卓雄氏の記録「美しい顔」は、朝日新聞の「東京被爆記」(1970(昭和45)年7月25日)として掲載された。

朝日新聞縮刷版で調べたところ、1970年7月25日の朝刊と、同年12月29日の朝刊に同じ文章の記載があった。

当時19歳の学徒兵だった須田氏は、東京大空襲から数日後、死体の片づけに従事していた。

その時に見つけた一つの遺体についての記録から、母親のわが子への強い愛を感じることができる。

ひどい火傷を負いながらも、息もできない煙にまかれながらも、苦痛の表情は見られなかった。

これは、いったいなぜだろう。

美しい顔であった。

人間の愛を表現する顔であったのか。

出典:朝日新聞縮刷版、朝日新聞社 1974年7月分

ももちんはこの文章を読んで、絵本そのものよりも心にぐっとくるものがあったよ。

文章は、朝日新聞縮刷版のほかに、『映画で平和を考える』(上田精一、草の根出版会、2000年)で読むことができるよ。

 

 中韓の人々の反発

『ぼくのこえがきこえますか (日・中・韓 平和絵本)』田島征三作、童心社、2012年

『猫は生きている』で絵を担当した田島征三は、戦争をテーマにした絵本を、もう一冊描いているよ。

2012年に日中韓で出版された、『ぼくのこえがきこえますか』(童心社)っていう絵本。

中国と韓国の作家と一緒に絵本をつくっている間に、いろいろなことに気づかされた、と記しているよ。

『猫は生きている』は、戦争で日本が受けた被害を描いたもの。

これに対する、中国や韓国の人たちの反発は大きかったみたい。

なぜなら、「日本人は中国大陸や朝鮮半島でもっとひどいことをしたではないか。被害者意識まる出しだよ」と非難されることもあったらしい。

(参考:『この本読んで!2015年夏号』2015年、出版文化産業振興財団)

こういう厳しいやりとりの中で、『ぼくのこえがきこえますか』が生まれた。

単に反戦の絵本を描くだけでなく、芸術作品としてすぐれた絵本をつくろうとしたんだって。

ももちんは、『猫は生きている』を読んで、戦争の悲惨さは感じたけれど、日本が被害者とか、どっちが悪いとか、そんなことは思わなかったけどな。

国の間の関係って難しいんだね。

 

 

まとめ

『猫は生きている』みどころまとめ。

 

正直子どもに伝えるにはトラウマになりかねないと思う。

ももちんは、大人になって読んで、深く感じるものがあったよ。

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この絵本を原作にした人形劇映画『猫は生きている』については、次の記事をどうぞ。

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参考文献

  • 『映画で平和を考える』上田精一、草の根出版会、2000年
  • 『この本読んで!2015年夏号』出版文化産業振興財団、2015年

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

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