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小説『ムーミン谷の彗星』あらすじと感想。地球危機が不気味な異色作

2019年4月7日

『ムーミン谷の彗星』はフィンランドの作家トーベ・ヤンソンのファンタジー小説。

ムーミンたちがスナフキンやスノークのおじょうさんたちと出会い、冒険する物語。

今回は、『ムーミン谷の彗星』を紹介するよ。

この記事で紹介する本

こんな方におすすめ

  • 小説『ムーミン谷の彗星』のあらすじと見どころを知りたい
  • ムーミンはアニメやキャラクターしか知らない。本に興味がある。

『ムーミン谷の彗星』とは?

『ムーミン谷の彗星』(原題”Kometen kommer”)は、フィンランドの女流作家・画家のトーベ・ヤンソンにより、1946年に刊行された。

1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうちのひとつ。

発表順としては『小さなトロールと大きな洪水』(1945年)に続く2作目となるが、『小さなトロールと大きな洪水』は1990年まで日本で刊行されていなかった。

そのため、現在でも講談社刊「ムーミン全集」の第一冊目はこの『ムーミン谷の彗星』である。

1956年と1968年にトーベ・ヤンソン自身により原稿を書き改められた。

現在一般的なのは、1968年改訂版。

日本では、1968年、下村隆一訳により講談社より刊行された。

参考:Wikipedia

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下村隆一(訳)

スウェーデン文学研究者、翻訳家。

1928年大阪市生まれ。

東京大学経済学部を病気のため中退、北欧児童文学の翻訳家として活躍。

1969年没。

参考:Wikipedia

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登場人物

  • ムーミントロール:今作の主人公。ムーミン一家の好奇心旺盛な優しい男の子。
  • ムーミンパパ:ムーミントロールの父親。夢見がちでロマンチスト。
  • ムーミンママ:ムーミントロールの母親。賑やかなムーミン一家を支える。常に黒いハンドバッグを携帯している。
  • スニフ:小さなカンガルーのような外見の生き物。臆病で、宝石などキラキラ光る物が大好き。
  • スナフキン:ムーミントロールの親友。自由と孤独、音楽を愛する旅人。
  • スノーク:ムーミンと姿形は似ているが異なる種族の生き物のお兄さん。仕切りたがり屋。
  • スノークのおじょうさん:スノークの妹。ムーミントロールのガールフレンド。
  • ジャコウネズミ:哲学書を好み、悲観的な性格。
  • ヘムレンさん:切手収集家で、スカートのような服を着ている。おとなしいが趣味に没頭すると周りが見えなくなる。

参考:Wikipedia

 

あらすじ

長い尾をひいた彗星が地球にむかってくるというのでムーミン谷は大さわぎ。

ムーミントロールは仲よしのスニフと遠くの天文台に彗星を調べに出発し、スナフキンやスノークのおじょうさんと友達になるが、やがて火の玉のような彗星が・・・

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

 

ももちん
時系列のあらすじ。

  • 8月1日

    ムーミントロールとスニフが近所に洞くつを見つける。

    じゃこうねずみがムーミン屋敷を訪ねる。一晩中雨が降りつづける。


  • 8月2日

    雨がやみ、ムーミントロールとスニフは宇宙を調べに天文台へ向かうことにする。

    旅の途中でスナフキンと出会い、一緒に旅を続ける。スニフは大とかげに襲われるが助かる。

    3人はいかだで急流を流され昆虫好きのヘムルに助けられる。

    ムーミントロールはスナフキンからスノークとスノークのおじょうさんの話を聞く。


  • 8月3日

    3人は大わしに襲われるが助かる。

    ムーミントロールはスノークのおじょうさんの足輪を拾う。

    天文台で数日後に彗星が地球に衝突することを知り、ムーミン谷へ帰ることにする。


  • 8月4日

    道中でスノークのおじょうさんが食虫植物のアンゴスツーラに襲われているのを見つけ、ムーミントロールが助ける。

    スノークとスノークのおじょうさんも合流し、5人でムーミン谷へ向かう。


  • 8月5日

    途中で野外ダンス場の看板を見つけ、みんなで踊りあかす。

    ムーミントロールたちは水のなくなってしまった海底を竹馬で進む。

    難破船でムーミントロールが大だこに襲われたところをスノークのおじょうさんが助ける。


  • 8月6日

    ムーミン谷が近づく。切手を集めるヘムルと出会い一緒に向かう。

    竜巻に襲われるがヘムルの服を気球がわりにして助かる。


  • 8月7日

    ムーミン谷へ到着し、一同は洞くつへ避難する。彗星は通り過ぎる


  • 8月8日

    ムーミン谷に平和が訪れ、海に水が戻ってくる。


 

『ムーミン谷の彗星』感想

『ムーミン谷の彗星(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ももちんは初めに『ムーミン谷の彗星』を読んで、正直「ムーミンってなんとなくシュールで不気味な感じだな。イメージと違うな。」って思った。

それでも続編を読み続けていくことで、徐々に『ムーミン谷の彗星』の魅力をわかっていったという感じ。

「ムーミン」シリーズは、1冊ごとに作風が違うんだよね。

今作『ムーミン谷の彗星』では、彗星が地球に衝突するという大規模な危険と冒険。

次作以降は生死をかけた大冒険というより、日常に溶け込む魔法やおもしろみみたいなものが強く感じられる。

そして『ムーミン谷の冬』『ムーミンパパ海へいく』では暗い心情描写も多くあり、より大人に響く内容だと思った。

ももちん
「ムーミン」は1冊ごとに作風が違う。シリーズ通して読むのがおすすめ!

『ムーミン谷の彗星』ポイント

 

キャラクターをいちいち説明しない

「ムーミン」シリーズを読み始めて戸惑うのが、登場するキャラクターの説明が一切ないこと。

そもそも「ムーミントロール」ってどんな生き物なのかわかんないんだよね(笑)

その上、スニフ、ムムリク、ヘムル、スノーク、スクルットなど、初めて聞く生き物の名前が目白押し。

挿絵のキャラクターを頼りに、何となくイメージしながら読み進めていく。

次作以降も新登場のキャラクターはたくさんいるんだけど、明らかに人間でも動物でもない不思議な存在。

初めは疑問がわくんだけど、読んでいくうちに「そういう生き物なのね」とそのまんま受け入れて読んでいく。

ムーミンのキャラクターをチェックする!(ムーミン公式サイトへ)

 

『ムーミン谷の彗星』特有の不穏な空気

『ムーミン谷の彗星』では、彗星接近という自分たちの力ではどうしようもない生命の危機の不安感が、物語の初めから終盤まで漂っている。

仲間たちとの出会いや友情は見ていてほっこりする場面もあるんだけど、それも「彗星接近」という重苦しさの中でのこと。

そして最後まで不安だった彗星の危機は直撃せずに通り過ぎ、あっけなく終了してしまう。

言ってしまえばムーミンたちが助かったのは、原因を調べに行ったからでも何でもなく「運が良かった」というだけ。

なんだか、冒険や友情は起こったけど最後助かったのはそれ関係なかったよね、っていうところがたまらなくシュールだと思った。

 

おそいくる危険の数々

ムーミンたちは彗星のことを調べに天文台に向かい、旅のなかでさまざまな危険にあう。

『ムーミン谷の彗星』の危険の例

  • 大とかげにおそわれる
  • 底なし穴に流れ落ちる寸前でヘムルに助けられる
  • わしにおそわれる
  • 崖からころげ落ちそうになる
  • スノークのおじょうさんが食虫植物につかまる
  • ムーミントロールが大だこにおそわれる
  • たつまきに巻き込まれ吹き飛ばされる

「何が起こったか」が目まぐるしく展開されていくのが特徴で、ほかのシリーズ作品ほど心情描写は描かれていないんだよね。

落ち着いて登場人物の心の変化を味わいたいなら、ここでめげずに続編以降も読んでいくことをおすすめするよ。

 

ムーミントロール

ムーミントロールは言わずと知れた物語の主人公。

今作でもムーミントロールのやさしさ、勇敢さを見ることができる。

 

スノークのおじょうさんへ見せる男らしさ

今作で心に残るのが、ムーミントロールとスノークのおじょうさんの出会いと恋心

出会いがドラマチックで、スノークのおじょうさんが食虫植物におそわれているところをムーミントロールが助けるんだよね。

それからはスノークのおじょうさんを守ろうと頑張るところが男らしい。

「こわいわ。手をつかまえてて・・・」

と、スノークのおじょうさんは、悲鳴をあげました。

ムーミントロールが、彼女の手をしっかりつかみました。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

物語全体を通して、スノークのおじょうさんの女の子らしさとムーミントロールの男らしさがとっても印象的だった。

 

垣間見えるシャープさ

そんな中でも、ムーミントロールを大だこから助けたスノークのおじょうさんにドキッとする一言をいうんだよね。

「あれは、もののはずみよ。でも、あんたを大だこから、毎日でも助けてあげたいわ

「いやだよ、そんなの。きみは、欲が深すぎるよ。おいでよ。ここからでよう」

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

好きな人に欲の深さを指摘するって、ムーミントロールの中に潜むシャープさが見えて男らしく感じた。

あと「わしのようすを気にしてくれるものはだれもいないのか」と不満をもらすジャコウネズミにいう一言も鋭い。

ありません。ぼくたち、ほかにいっぱい考えることがあるんです。だから、あんたのことを考えるのなんか、ぜんぜんよけいなことだと思うんです

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

スパっと切るセリフが爽快。

『ムーミン谷の彗星』ではまだまだ子どものムーミントロールも、続編以降悩みや秘密ができて葛藤しながら成長していく様子が興味深い。

 

おなじみキャラとの出会い

物語では、ムーミントロールとスニフが今後も続く重要キャラとの出会いを果たしていく。

それぞれが全く違う個性だけど、ありのままでいられる仲間たち。

 

スニフ

スニフは『小さなトロールと大きな洪水』から登場するムーミントロールの幼なじみ。

優しく勇敢なムーミントロールに対して、スニフは臆病で欲張りなところが目立つ

旅の途中でげろも吐くし、倒れるし、なかなかやらかしてる(笑)

 

自分のものにしたがる

スニフはなんでも「自分のもの」にしたがる性格。

「ぼくが」見つけたどうくつ、「ぼくの」こねこ、なんでも「ぼくの」にこだわるんだよね。

旅の途中で物を捨てるときもぐずぐずしているところが、物を持つことをきらうスナフキンとの対比がはっきりしていておもしろい。

『ムーミンパパの思い出』ではスニフの父ロッドユールが登場し、スニフの所有癖が父譲りであることがわかる。

 

ママの愛情を求める

心に残ったのが、ママがつくったデコレーションケーキにムーミントロールの名前しかなく、すねた場面。

あんな古ぼけたケーキなんか、くそくらえ。あんなもの、ムーミントロールにやっただけで、ぼくにくれたんじゃないもの。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

両親がいないスニフが、自分を一番に思ってくれる存在を強く求めていることがわかる。

ムーミンママが自分の子のムーミントロールを一番に思うのは当然なんだけど、それをすごく反省するムーミンママのやさしさにも心動かされる。

 

スナフキン

物語の序盤にムーミントロールとスニフが出会うのは、ムーミンシリーズの中でも人気キャラのスナフキン。

一人で旅してキャンプするのが好きだけど人嫌いなわけでもなく、友人たちとも過ごす時間も楽しんでいる。

 

「孤独」を理解する

孤独をちっともいとわないスナフキンは、ほかの人が一人でいることもよく理解する。

さあ、いこう。あの人は、一人でいたがっているんだから

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

こんな言葉をすんなり言うスマートなスナフキンにムーミントロールは憧れるんだよね。

また、接近する彗星から逃げる人たちを見てムーミントロールが「彗星はさびしいだろうなあ」というと、スナフキンはいう。

うん、そうだよ。人間も、みんなにこわがられるようになると、あんなに、ひとりぼっちになってしまうのさ

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

恐怖によって人を従えることはできても、それは孤独でしかない。

『ムーミン谷の彗星』が発表されたのは1946年、第二次世界大戦が終わった翌年。

戦争でヤンソンが感じた生々しい想いが、このスナフキンの一言に込められているように感じた。

 

物を持つことをきらう

穏やかでこだわりのないスナフキンは一見好き嫌いとかもなさそうなんだけど、「物を持つ」ということに関してだけは拒否反応を示す

谷底にあるガーネットをひろい損ねたスニフに、スナフキンが放つセリフは次のとおり。

なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

スナフキン、かっこいい・・・!

他にも「人間は、ものに執着せぬようにしなきゃな。」とか、「持ち物をふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね」とかのセリフが出てくる。

「物にこだわらない」を通り越して、「物を持つことを拒否する」スナフキンのこだわり。

物を持つことで、かえって不自由になることがよくわかってるんだね。

 

スノークのおじょうさん

天文台からムーミン谷へ帰る途中、ムーミントロールが出会うのがスノークのおじょうさん。

きれいにとかした前髪と足首に光る金色のアンクレットがポイント。

 

マイペース

彗星が地球に接近する危機の中で、いたってマイペースなスノークのおじょうさん

ムーミントロールがスノークのおじょうさんを食虫植物から助けるんだけど、逆にムーミントロールが危なくなるんだよね。

そのとき、スノークのおじょうさんが投げた石がムーミントロールにあたってしまう。

あらっ、たいへん。わたし、あの人をころしてしまったわ

と、おじょうさんは、悲鳴をあげました。

女の子って、そんなものさ

と、スニフはいいました。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

この必死な感じが一切伝わらないやりとりに笑ってしまった。

そして、自分にとって何が大事かをよくわかっているんだよね。

スノークのおじょうさんがムーミントロールにダンスを教えているときに、兄のスノークが水を差すんだけど、きっちり言い返す。

わたしたちは、ダンスのお話をはじめたのよ。そしたら、にいさんがきゅうに、彗星のことをいいだしたんだわ。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ほんと、彗星がダンスより重要って、だれも決めてない。自由にそれぞれが不安に思ってるだけなんだよね。

不安な空気をものともせず深刻さをいっさい感じさせないスノークのおじょうさんは、いるとほっとする存在。

 

女子力が高い

スノークのおじょうさんの見習うべきはその女子力の高さ。

ムーミンママも通じるものがあるんだけど、ムーミントロールをすごくたてるんだよね。

自分を食虫植物から助け出してくれたムーミントロールにメダルをかけてあげたとき、ムーミントロールもうれしそう。

スノークのおじょうさんは自分への自信もすごいある

自分がかわいいことがわかってる。

生きるか死ぬかの旅の途中でもおしゃれや身だしなみは大切にするし、宝石やきれいなものも大好き。

この状況でも女の子らしさを持ち続けるスノークのおじょうさん、ももちんも見習いたい!って思った。

 

スノーク

スノークは、スノークのおじょうさんのお兄さん。

仕切りたがりで、会議とか話し合いを持ち出すのが大好き。

彗星が衝突するときにどうしたらいいか、書きとめておくためのノートを買うところがスノークらしい。

先のことを把握しておきたい性格はとても人間っぽいなあと思った。

スノークは次作『たのしいムーミン一家』で持ち前の理屈っぽさを発揮する。

 

一癖あるわき役たち

『ムーミン谷の彗星』では、ほかにも一癖あるキャラクターが登場する。

  • ヘムル(ヘムレンさん):収集癖が特徴の生き物。なぜかスカートをはいている
  • ジャコウネズミ:悲観的な哲学者。彗星で死ぬことを常にぐちぐち言っている
  • ニョロニョロ:謎の存在。群れでうじゃうじゃ生息するが、利益も害もない。不気味

ヘムルやジャコウネズミは、ムーミン一家の友人ではあるんだけど、決して一緒にいて心地いい感じではないんだよね。

そんなくせ者たちもムーミン一家とふつうに共に過ごし、一家の誰も「なんであの人がいるの?」なんて言わない。

家族と友人という境界線がなく、どの個性も同じように受け入れられているところがすごい。

ニョロニョロはムーミントロールたちにとっても謎の生物。たまに集団で現れては通り過ぎていく、めっちゃシュールな存在。

ヘムル、ジャコウネズミ、ニョロニョロは、次作以降も登場し、活躍する。

 

ムーミンママの愛

『ムーミン谷の彗星』では、ムーミンママのあふれるほどの家族への愛情とおおらかさを感じることができる。

家族以外の訪問者もいつでもウェルカムで、分け隔てなく世話をするムーミンママはももちんのあこがれのお母さん。

 

ムーミンパパへの愛

ももちんがムーミンシリーズを読んでて素敵だなと思ったのは、ママはパパをめっちゃたてるんだよね。

お互いの思いやりが前面に出てて、見ていてあたたかくなる

リンゴ酒のびんを割ってしまったムーミンパパにムーミンママがかけた一言が素敵。

そんなの、われたほうがよろしいわ。とってもきたないおはちでしたもの。いすの上へあがれば、らくにおろせますの。

引用元:『ムーミン谷の彗星』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

失敗を責めないどころか、そっちの方が良かったってまるごと肯定してしまう。

さらには一緒にリンゴ酒を飲むことにする。

こんなママの優しさが一家にいつも明るさをもたらすんだよね。

 

息子への信頼

ムーミンママが素敵だなって思うところは、息子のムーミントロールへの「信頼」は見せても、「心配」はほとんど見せないところ。

彗星が接近してきたとき、尻込みするムーミントロールに天文台に行くように伝えるのはだれでもないムーミンママ。

ふつうのお母さんなら危ないときには家にいさせると思う。

もちろんムーミンママも心の中では心配してたし、その証拠にムーミントロールが帰ってきたときはめっちゃ喜んでた。

だけど息子にとって大切なことをなにより一番に考えて、それを実行するんだよね。

また、彗星が迫りムーミントロールがスニフを探しにいくと言ったときも、ムーミンママは行かせる。

ムーミンママは、ムーミントロールの勇敢さ・好奇心を心から応援し、信頼しているんだよね。

 

ムーミンパパ

ムーミンパパは、一家の大黒柱で家族を愛しやさしくて広い心の持ち主。

いつも理想や冒険を夢見て、平穏な今の生活に退屈を感じているところが男性っぽい。

ムーミンパパが主役をはるのは、『ムーミンパパの思い出』と『ムーミンパパ海へいく』。

『ムーミンパパの思い出』では、ムーミンパパの少年時代の冒険、親友たちとの出会い、ムーミンママとの出会いなど、ふんだんに描かれている。

『ムーミンパパ海へいく』では、ムーミンパパが家族を連れて灯台のある孤島へ旅に出る様子が描かれる。

 

ヤンソンの絵の魅力

ももちんが持っていた「ムーミン」のイメージって、なんとなく柔らかくて白くてほのぼのした感じだったんだよね。

だけど小説のムーミンシリーズのイラストは、ちょっとダークで「かわいい!」っていう感じではなかった。

背景が真っ黒だったり、キャラクターの表情もリアルだったり。

それに初めは違和感を感じていたんだけど、それこそがトーベ・ヤンソンの絵の持ち味。

奇妙なものは奇妙だし、自然の脅威は恐ろしく感じるし、何となく落ち込んだ気分のときは空気だって重たくなる。

ファンタジー小説だからと言って、決して明るさやほのぼのを描きたかったわけではない。

トーベ・ヤンソンが『ムーミン谷の彗星』を発表したのは1946年、第二次世界大戦が終わった直後

ソ連に敗戦したフィンランドにおいて、重苦しい雰囲気と生命の危機というテーマは、当時の人びとにとってはリアルだったんだよね。

シリーズ初期の『小さなトロールと大きな洪水』『ムーミン谷の彗星』に感じられる不穏な感じは、むしろ描かれて自然なものなんだ、と感じた。

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『ムーミン谷の彗星』と戦争

『ムーミン谷の彗星』で地球の脅威として描かれる彗星は、1945年に広島と長崎に投下された原子爆弾を思い起こさせる。

広島と長崎に原爆が投下されたとき、トーベはちょうど『ムーミン谷の彗星』を執筆していた。スイッチひとつで多くの人生が完全なまでに破壊されてしまうという事実を、トーベは物語に取り込んだ。絶対的な破壊の脅威は、児童書のテーマとしては異例だった。

引用元:『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ・カルヤライネン著、セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社、2014年

「ムーミン」シリーズの前から風刺雑誌『ガルム』で戦争を批判する挿絵を描きつづけてきたヤンソンにとって、原爆投下のニュースは大きなショックだったのではないかな。

物語を、原爆をモチーフとして書かれているということを頭に入れて読んでみると、刻々と変わっていく地球の情景のリアルさに息をのむ。

そんななかでムーミンたちのやりとりを読むとほっとする。

特に彗星が過ぎ去ってしまとき、ムーミンママの子守歌でみんなが寝しずまっていく様子には、過酷な状況の中に母の愛の強さを感じる。

 

ピクニックしたくなる

「ムーミン」シリーズを読んでいると、ピクニックやキャンプに行きたくなるのはももちんだけではないと思う。

海や森など自然の描き方がいきいきとしていて、ムーミンたちも自然の中でのびのびと過ごしているんだよね。

ときには危険な目にも合うし、心地よさだけではないところも全部ひっくるめて自然の魅力として描かれている。

 

美味しそうな料理たち

「ムーミン」シリーズでは、料理がたくさん登場するのもわくわくする見どころの一つ。

『ムーミン谷の彗星』で登場する料理たちは次のとおり。

  • バスケットにつめこんだサンドイッチ、キャンデー、りんご、ソーセージ、ジュース
  • りんご酒
  • パンケーキ
  • 一にぎりの豆を入れたジュース・スープ
  • レモン水
  • 乾パン
  • デコレーションケーキ
  • しょうがビスケット
  • チーズ

ムーミンママがつくる料理はどれも美味しそうだし、冒険でムーミンたちが用意するキャンプ飯もワイルドで素敵。

ムーミンママのレシピ紹介本

 

コーヒーが大好き

「ムーミン」シリーズを読んでいてほっこりしたのが、みんなやっぱりコーヒーが好きなのね!っていうこと。

コーヒー大好きなムーミントロールがコーヒーを落として落ち込んだり、ピクニックには必ずコーヒーを持って行ったりする。

これは、スウェーデンの児童文学『長くつ下のピッピ』を読んでいても思ったこと。

子ども向けの物語でも「コーヒー」が登場するのは北欧の特徴で、それだけ人々の生活にコーヒーが根づいているということなんだよね。

ちなみに、フィンランドの一人当たりのコーヒー消費量は世界一位。

職場でも1日に3回の「コーヒーブレイク」が定められているのが一般的というのが素敵。

ももちんが数年前フィンランドにいったときもコーヒーを愛する文化はとても強く感じた。

寒い国でのコーヒータイム、想像しただけでほっこりします。

さらに詳しく

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感想おさらい

 

『ムーミン谷の彗星』が読める本の形

今回ももちんが読んだのは、講談社文庫の『ムーミン谷の彗星』。

『ムーミン谷の彗星』は、文庫版、ハードカバー、児童文庫、電子書籍で刊行されているよ。

 

ソフトカバーの新版

『ムーミン全集[新版]4 ムーミン谷の彗星』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2019年

2019年3月に講談社より新しく刊行されたのが、ソフトカバーの『ムーミン全集[新版]』

講談社1990年刊のハードカバー『ムーミン童話全集』を改訂したもの。

翻訳を現代的な表現・言い回しに整え、読みやすくし、クリアなさし絵に全点差し替えられている。

ソフトカバーなので持ち歩きやすい。

これから「ムーミン」シリーズを買って読もうと思っているなら、最新版のこちらがおすすめ。

電子書籍版あり。

新版はココがおすすめ

  • 翻訳が現代的な表現、言い回しに整えられているので読みやすい
  • クリアなさし絵に全点差し替え
  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • ソフトカバーなので持ち歩きやすい
  • 電子書籍で読める

 

講談社文庫

『ムーミン谷の彗星(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

講談社文庫の「ムーミン」シリーズは、1978年に初めて刊行された。

2011年に新装版が刊行。

写真では2011年刊行時の表紙だが、2019年3月現在、フィンランド最新刊と共通のカバーデザインに改められている。

文庫版だけど挿絵が豊富で、ふりがなも少なく読みやすい。

大人が手軽にムーミンを読みたいなら、講談社文庫がおすすめ。

電子書籍版あり。

文庫はココがおすすめ

  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • 値段がお手頃で気軽に読める
  • 電子書籍で読める

 

青い鳥文庫

『ムーミン谷の彗星(新装版) (講談社青い鳥文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2014年

講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。

「ムーミン」シリーズは2014、2015年に新装版が刊行された。

児童文庫だけど、字は小さく漢字も多い。ふりがなもふられているが、難易度は文庫版とそんなに変わらない

児童文庫はココがおすすめ

  • 文庫よりサイズが大きめで読みやすい
  • ふりがな付き
  • 児童文庫にしては文字が小さいので、子どもが読むなら童話全集か新版の方がおすすめ

 

映画やアニメ『ムーミン谷の彗星』

『ムーミン谷の彗星』は、アニメでも制作されている。

絶版のものも、DVDレンタルなどで楽しむことができるので、探してみよう。

 

アニメ『楽しいムーミン一家 ムーミン谷の彗星』

『楽しいムーミン一家 ムーミン谷の彗星』は、1990-1992年にかけてテレビ東京で放送されたテレビアニメ『楽しいムーミン一家』の劇場版。

小説『ムーミン谷の彗星』に不気味でなじめない印象を持ったけど、これは絵本や映像で見たら面白そうだな、と思った。

彗星接近という地球の危機に加え冒険が満載だし、干からびた海もビジュアルのインパクトすごそう。

事実、アニメ映画版の『ムーミン谷の彗星』が傑作!と言っているツイートも多く見かけた。

参考:Wikipedia

『楽しいムーミン一家』公式サイト

 

『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』

引用元: 『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペットアニメーション 』予告編/TSUTAYA ANIME CHANNEL

1979年、トーベ・ヤンソン監修のもとポーランドで制作されたのは、パペットアニメーション(全78話)のムーミン。

パペットアニメーションとは、人形やぬいぐるみを被写体とし、コマ撮りで制作されたアニメーションのこと。

劇場版用に再編集され2010年に公開されたのが、『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』

主題歌をビョークがうたい、デンマークの代表的な俳優マッツ・ミケルセンが声優をつとめたことでも話題となった。

劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション公式サイト

 

まとめ

小説『ムーミン谷の彗星』みどころまとめ。

『ムーミン谷の彗星』感想

 

ムーミンたちがスナフキンやスノークのおじょうさんたちと出会い、冒険する物語。

ムーミンシリーズで最初に読むことをおすすめするよ。

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ムーミンの記事

 

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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