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小説『ムーミン谷の夏まつり』あらすじと感想。夏至の劇で一つになる

2019年5月25日

『ムーミン谷の夏まつり』はトーベ・ヤンソンの小説「ムーミン」シリーズの5作目。

劇場に移り住み、はなればなれになったムーミン一家が、夏まつりの劇でひとつになる。

北欧の夏至の魅力もいっぱい。

この記事で紹介する本

この記事のポイント

  • 小説『ムーミン谷の夏まつり』のあらすじと見どころ
  • 北欧の夏至のついて

『ムーミン谷の夏まつり』とは?

『ムーミン谷の夏まつり』(原題”Farlig midsommar”)は、フィンランドの女流作家・画家のトーベ・ヤンソンにより、1954年に刊行された。

1945~1970年に刊行された小説「ムーミン」シリーズ全9作のうちの5作目

劇場にまつわるこの物語は、かつての恋人で舞台監督のヴィヴィカ・バンドレルの影響を受けている。

日本では1965年、矢崎源九郎訳、赤星亮衛挿絵で『ムーミン谷はおおさわぎ』と題し偕成社より刊行された。

1968年下村隆一訳で『ムーミン台の夏まつり』として講談社より刊行。

参考:「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」図録、『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』トゥーラ・カルヤライネン著、セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社、2014年、Wikipedia

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登場人物

  • ムーミントロール:今作の主人公。ムーミン一家の好奇心旺盛な優しい男の子。
  • ムーミンパパ:ムーミントロールの父親。夢見がちでロマンチスト。
  • ムーミンママ:ムーミントロールの母親。賑やかなムーミン一家を支える。常に黒いハンドバッグを携帯している。
  • スノークのおじょうさん:ムーミンと姿形は似ているが異なる種族の生き物。ムーミントロールのガールフレンド。
  • スナフキン:ムーミントロールの親友。自由と孤独、音楽を愛する旅人。
  • ミムラねえさん:ミムラ兄弟姉妹の長女。しっかり者でさばさばした性格。
  • ちびのミイ:ミムラねえさんの妹。裁縫箱にもぐりこめるほど小さい。
  • ニョロニョロ:小さいお化け。身体に電気を帯びており、不用意に近づくと感電する。

初登場

  • ホムサ:洪水から逃れて劇場に移り住む。思慮深い少年。
  • ミーサ:洪水から逃れて劇場に移り住む。自分に自信がなくひがみっぽい少女。
  • エンマ:女の劇場ねずみ。意地悪だが劇への情熱はすごい。フィリフヨンクという舞台監督の夫がいた。
  • 公園番のヘムレン:公園の管理をするヘムル。スナフキンの敵。
  • ろうや番のヘムル:ムーミンたちを無実の罪でろうやに入れる。
  • 小さなヘムル:小さな娘のヘムル。ろうや番のかわりにムーミンたちを見張るが親切で逃がす。
  • フィリフヨンカ:几帳面できれい好きの女性の生き物。スノークのおじょうさんと仲良くなる。

参考:Wikipedia

 

あらすじ

平和な6月のムーミン谷を、突然おそった大洪水。

流れてきた劇場に移り住むことになったムーミン一家は、すっかり劇団員気分!

いっぽう、水に流されたミイとぐうぜん出会ったスナフキン

木の上に取り残されてしまったムーミントロールとスノークのおじょうさん

バラバラになった仲間たちは、ついに劇場で再会!

夏まつりが、いよいよ始まります!!

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2013年

 

ももちん

このあとは詳しいあらすじ。(ネタバレあり) 感想から読みたいならこちら(後ろへとびます)→→本を読んだ感想

第1章 木の皮の船と火をふく山と

6月のムーミン屋敷にはムーミン一家とスノークのおじょうさん、ミムラねえさん、ミイがいる。

ムーミンママは毎年のように木の皮の船をムーミンに作ってあげる。

夜に火山が噴火し洪水がおき、ムーミンたちは2階に逃げる。

 

第2章 朝ごはんをさがしにもぐる

朝が来るとムーミン屋敷の1階は水に浸かっていた。

ムーミンたちは2階の床に穴を開けて下を眺めたり、1階にたまった水にもぐり食材調達したりして楽しむ。

楽しそうな様子にひかれた少年ホムサと少女ミーサがムーミン屋敷を訪ねる。

 

第3章 ばけものやしきに住みつく

ムーミン屋敷の前に大きな建物が流れてきて、ムーミンたちはそこに移り住むことにする。

建物は不思議なつくりをしていて、大きな客間やたくさんの偽物の物が置いてある部屋などがあり、皆困惑する。

物陰から不気味な笑い声が聞こえてくるが、姿は見えない。

 

第4章 みえっぱりということ、そして木の上でねるのは、きけんであること

建物に移り住んで何日か経過。

容姿がコンプレックスのミーサはスノークのおじょうさんに悪口を言ってしまうが、仲直りする。

建物の以前からの住人・エンマが姿を見せ、建物が「劇場」であることを教え悪態をつく。

劇場が森に流れ着いた夜、ムーミントロールとスノークのおじょうさんが木の上で寝ているとエンマが木と劇場をつなぐつなをほどき、劇場が流されてしまう。

 

第5章 劇場で口ぶえをふくと、どうなるか

夏至の夏まつりのイブの日。目を覚ましたムーミントロールとスノークのおじょうさんは、自分たちが森に取り残されたことに気づく。

ムーミントロールがスノークのおじょうさんをはげましながら森の中を歩いていると、一軒の明かりのついている家を見つける。

一方ムーミンママが息子を心配するなか劇場が浅瀬にのりあげ、衝撃でミイが水に落ちてしまう。

 

第6章 公園番へのかたきうち

ミイが裁縫箱でねむっているうちに沼地に流れ着き、裁縫箱を偶然釣りあげたスナフキンと一緒に行動する。

スナフキンは夏まつりのイブにしかできないいたずらを公園番のヘムルにしかけ撃退する。

公園番が設置した「〜べからず」の看板を引っこ抜いてしまうと、公園にいた24人の子どもたちがスナフキンのあとについてくる。

 

第7章 夏まつりのイブのこと

ムーミントロールとスノークのおじょうさんが見つけた家の住人はフィリフヨンカだった。

フィリフヨンカは夏まつりのイブのディナーにおじとおばを招待していたが現れず、かわりにムーミントロールとスノークのおじょうさんがお客になり、夜は楽しく過ぎていく。

3人が焚き火や占いをしていると、おまわりさんのヘムルにつかまってしまう

 

第8章 どういうふうに劇をつくるか

夏まつりの朝。劇場ではムーミンママがエンマから亡き夫フィリフヨンクや義理のめい(フィリフヨンカ)の話を聞く。

ムーミンママは夏まつりの劇をして人を集め、ムーミントロールたちに知らせることを思いつく。

ムーミンパパが脚本、ミムラねえさんやミーサが役者をやることになり、芝居好きのエンマも全面的に協力する。

 

第9章 ふしあわせなパパ

スナフキンは24人の子どもたちの食糧をどうするか頭を悩ませる中森を歩いていると、空っぽの家を見つける。

その家はおまわりにつかまったフィリフヨンカの家だった。

スナフキンは子どもたちに家に残されていた食料を食べさせストーブに火をつけ、しばしあたたまる。

 

第10章 劇の練習

ムーミンパパ脚本の劇『ライオンの花よめたち』は初日興行を翌日にひかえ、いくらかのお客さまをよんで仕上げの練習に入っていた。

てんやわんや失敗もしながら練習が進むが、お客さまも一度も劇を見たことがないので盛り上がる。

 

第11章 ろうや番をだます

ムーミントロールたちがつかまっているろうや番ヘムルのもとに『ライオンの花よめたち』のチラシが届く。

ろうや番ヘムルは劇を見に行くことにし、いとこの小さなヘムルに留守番をたのむ。

親切な小さなヘムルはムーミントロールたちが悪いことをしていないとわかると、ろうやに入れずに一緒に劇場に向かう。

 

第12章 ゆめのような初日興行

劇のチラシはフィリフヨンカの家にいたスナフキンたちにも届き、スナフキン一行は劇場へ向かう。

ミイがお芝居の最中に舞台に乱入したのをきっかけに、スナフキンとミイはムーミンパパ・ママ・ミムラねえさんと再会する。

そこへムーミントロールたちが現れムーミンママも大喜び。

ムーミントロールとスナフキンはろうや番ヘムルにつかまりそうになるがボートで逃げきり、再会を喜ぶ

 

第13章 罰とほうび

追手をまいたムーミントロールとスナフキンはムーミンパパ・ママ・ミムラねえさん・ミイ・小さなヘムルを連れてムーミン屋敷に戻ることにする。

ホムサとミーサ、子どもたちの何人かはエンマとともに劇場に残り、フィリフヨンカは他の子どもたちを連れて家に帰る。

ムーミントロールたちが戻るとろうや番ヘムルが屋敷の前で待ちかまえていたが、小さなヘムルの親切でつかまらずにすむ。

小さなヘムルはろうや番ヘムルとともにもとの家に戻る。

 

『ムーミン谷の夏まつり』感想

『ムーミン谷の夏まつり(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

今作では「夏まつり」(夏至のあたり)の特別な数日間が、予期せぬハプニングの中で展開していく。

ももちん
ざっくり次のような流れ。

  • ムーミン屋敷の場面

    洪水に見舞われてムーミン屋敷の1階が浸水。ホムサ・ミーサ登場。


  • 劇場の場面

    みんなで劇場に移り住む。それぞれの人間性があらわに。劇場ネズミ・エンマ登場。


  • 森の中の場面

    ムーミントロールとスノークのおじょうさんが劇場からはぐれ、フィリフヨンカと出会う。


  • 公園の場面

    ミイが劇場からはぐれ、スナフキンと出会う。24人の子どもたち登場。


  • 最後の場面

    それぞれの場所にいたみんなが劇場にあつまり再会。

それぞれが別々の場所でしている体験がからみ合いラストにまとまっていくストーリーが見事で、物語そのものが一つの舞台みたいなんだよね。

 

『ムーミン谷の夏まつり』ポイント

 

ムーミン屋敷の場面:平和な感じ

6月のムーミン屋敷にはムーミン一家とスノークのおじょうさん、ミムラねえさん、ミイがいる。

はじめに描かれる平和な感じが、その後にやってくるめくるめく展開をひきたてている。

変わらない優しさでみんなを包み込んでいるのは、やっぱりムーミンママ。

ムーミントロールのために木の皮の船を作ってあげてプレゼントする場面は、ムーミントロールとの絆を優しく表している。

洪水でムーミン屋敷が浸水しても、落ち込んだままでいないですぐに切り替え、天井から水の中の台所をながめておもしろがる。

家を誰よりも愛しているムーミンママが、視点を変えて居場所への執着までさらっと流してしまう軽やかさが素敵。

 

ミムラねえさん

今作では一家にミムラねえさんとミイが加わったことで、辛口スパイス感がでてきてる(笑)

前作で初めて登場した「ミムラのむすめ」ことミムラねえさん。

前作ではほらふきで幼いところも多かったけど、今作ではミイをしっかりしつけるお姉さんに成長している。

その一方で、自信満々の筋のとおった物の言い方は変わらず周りを納得させるものがある。

すぐに隠れてしまうミイを大声で呼び出すのはムーミンパパが逆効果だというけど、ミムラねえさんの返しがすごい。

わたしは、じぶんの気がすむように、どなってるだけよ。

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ミイを見つけるためでなく、自分のためにやっているということをよくわかっているんだね。

 

気にしないミイ

前作『ムーミンパパの思い出』で生まれたちびのミイ。

今作ではすっかりムーミン一家の一員で、しょっぱなからエンジン全開!

裁縫かごの中に隠れられるほど小さな体から吐き出される爆弾のようなセリフの数々に、思わず吹き出してしまう。

洪水の後ムーミン屋敷を訪ねてきたホムサとミーサに放つ一言もおもしろい。

「ミーサです」

と、ミーサがいいました。

「ホムサです」

と、ホムサがいいました。

ばかみたい!

ちびのミイが、つぶやきました。

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ふつうに自己紹介してるだけなのに「ばかみたい!」って(笑)

遠慮なく辛らつな言葉を放つミイだけど、その言葉は不思議と人を傷つけることがないんだよね。

ミイにはまったく嘘がなく悪意もないということが、みんなどこかでわかっているからなのかもしれないね。

 

劇場の場面:あらわになる人間性

ムーミントロールたちはたまたま流れてきたおかしな建物に引っ越すんだけど、実はこの建物は「劇場」だった。

ここで新たな共同生活が始まり、それぞれの個性があらわれてくる。

 

受け入れようとするムーミンママ

ムーミンママは引っ越してすぐにお茶のしたくを始める。

慣れない家をながめたときのムーミンママのひとりごとにはっとする。

ここには、わけのわからないことが、いっぱいあるわ。だけど、ほんとうは、なんでもじぶんのなれているとおりにあるんだと思うほうが、おかしいのじゃないかしら?

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

違う環境に行ったとき、今まで慣れ親しんでいたことが「当たり前」じゃなかったことに気づくんだよね。

今の日常がほんとうは当たり前じゃなく、自分が「当たり前」と考えているだけなんだということ、いつでも忘れないようにしたい。

 

わけわからなさを楽しむミムラねえさん

ミムラねえさんが食べ物を探して見つけたのは、がらくたが所せましと並んでいる部屋。

その部屋にあるのは、石こう細工のジャムの瓶や木でできたりんごなど、そっくりな偽物ばかり

もともと意味のないウソをつくのがすきなミムラねえさんは、この偽物ばかりの道具部屋を気にいるんだよね。

これってけっこうすごいことだよね。

偽物である理由をわかっていたら納得できるけど、ももちんなら「意味わかんねえ!本物の食べ物がほしいのに!」ってむかつくと思う。

 

思慮深いホムサ

今作で初登場するホムサは、真面目で正直な性格で無口な少年。

ひとつひとつの物事にいつも「なぜなんだろう?」と問いかけているんだよね。

そんなホムサは偽物ばかりの道具部屋で気が重くなる。

じぶんのしょうじきな心をきずつけられて、ホムサは、これはいったいどういうわけなのだろうかと、考えこみました。

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

なんの意味もない偽物を見て、朗らかになるミムラねえさんとゆううつになるホムサが対照的。

 

常に疑問を持つ

ホムサは意味がわからないものを知りたくなる性格なので、ときどき周りが習慣でやっていることにもつっこみをいれるんだよね。

ムーミン屋敷でも明らかにお世辞を言うミーサにたいして、「ほんとに、そう思うの?」と聞く。

おかしな建物の中でも、深いことは気にせず軽いノリで過ごすムーミン一家たちにも疑問を持つ。

ムーミン一家は、意味がわからなくても目の前で起こるそのままを味わっちゃうから、ホムサにとって不思議だったんだよね。

わけを知って納得したいホムサは、どこか人間ぽさを感じる

 

ミーサの異常なコンプレックス

今作でホムサと一緒に登場するのが、ひがみ屋で泣き虫の女の子ミーサ。

ミーサはコンプレックスのかたまりで自分に自信がないところが、ある意味とっても親近感がわくキャラクター

おかしな家に引っ越した仲間の中では、ミムラねえさんとスノークのおじょうさん、ミーサが年頃の女の子。

スノークのおじょうさんもミムラねえさんも、突き抜けて自分を肯定しているキャラクター。

そんな二人から髪型をアドバイスされたとたんミーサは逆上し、スノークのおじょうさんが裸であることが恥ずかしいと非難する。

自分の外見に心底満足している二人からアドバイスされたミーサは、劣等感が刺激されたんだよね。

ももちん
そんな劣等感を制御できずにぶちまけてしまったことで、さらに自己嫌悪って強くなるよね・・・

 

スノークのおじょうさんとミーサ

ミーサからぶちまけられて、痛いところをつかれたのがスノークのおじょうさん。

洋服を着ていない自分を恥ずかしいと思い始めるんだよね。

自信満々に見えたスノークのおじょうさんも悲しくなることがあることを知って、ミーサは少し明るさを取り戻す。

それにしても、ミーサの攻撃を根に持つことなく自分から仲直りしようとするスノークのおじょうさん、とっても優しくて女の子らしい。

スノークのおじょうさんは、このあと登場するフィリフヨンカや小さなヘムルともいち早く心を通わせる。

女の子同士の友情をみれるのも今作の見どころの一つ。

 

だいぶ嫌なキャラのエンマ

ムーミン一家がそれぞれのやり方で新しい生活になじみ始めたころ「エンマ」がようやく姿をあらわす。

エンマはもともとこの劇場に住んでいた年取った女のねずみ。

エンマはみんなの前に姿を現したとたん、ムーミン一家をバカにし怒りまるだしで攻撃する。

劇場と芝居に身も心も捧げてきたエンマは、ムーミン一家が「劇場」について何も知らないことに怒りをつのらせていたんだよね。

その夜ムーミントロールとスノークのおじょうさんが木の上で眠っている間に、エンマはこっそり劇場と木をつないでいた綱をほどき、劇場は流されていく。

このエンマの行動にはいたずらを超えた悪意を感じ、「人間ぽい怖さ」に通じるものがある

 

夏まつりの劇で一致団結

共同生活しながらもバラバラだった皆の気持ちが一つになったのが、「夏まつりの劇」。

劇をやるというアイデアは、ムーミンママが「はぐれてしまったムーミントロールが劇場を見つけられるように」と思いつくんだよね。

ムーミンママはムーミントロールのことを誰よりも心配していたけど、誰のせいにもしなかった。

それだけじゃなく、ムーミントロールと再び会えるように行動を起こすところがすごい。

 

ミーサとミムラねえさん

劇をやることになってがぜんやる気になったのが、ひがみ屋で自分に自信がない性格のミーサ。

自分とまったく別の人間になれることに憧れを感じたんだよね。

「死ぬ役をやりたい」というミーサに「殺す役をやりたい」というミムラねえさんもおもしろい(笑)

二人とも、心の中でやってみたいこと(だけど現実では難しいこと)を思いっきりできるという、お芝居の醍醐味をわかってる。

ももちん
劇の練習を通してミーサははじめて拍手をもらう喜びを知り、後にお芝居を続けることを決める。

 

それはそうとミムラねえさん、ちょいちょいミーサに辛口。

もし、わたしが世界でいちばんすてきなミーサだったら、すっかりようすがかわるんだけど・・・」(中略)

そうね。だけど、あんたはそうじゃないんだから

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

はっきりいうけど悪意を感じないところが、ミムラねえさんのサバサバした性格をあらわしている。

 

エンマの変化

初め性格が悪くて怖かったエンマは、劇の練習が始まるとどんどん変わっていく

そもそもエンマの怒りは、自分がすべてを捧げてきた「お芝居」をムーミン一家が全く知らないということへの怒りだった。

ひとたび劇をやることになればそれはエンマの腕の見せどころ、ときには根気強くやさしく指導しみんなを導いていく。

仕上げの練習でもカオス状態だった役者たちにも、ひとり落ち着いてアドバイスをするエンマ。

でも、口の悪さは変わらない(笑)

もうこうなりゃ、くそおちつきに、おちつくことさ。そしたら、ひとりでに、うまくいくわい。

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

「くそおちつきにおちつく」っていう言葉、初めて聞いた(笑)

翻訳の下村龍一氏の言葉のセンス、すごいなー。

 

森の中の場面:恋人たちとフィリフヨンカ

一方、エンマの悪意により取り残されてしまったムーミントロールとスノークのおじょうさんは、森をさまよう。

おびえて泣くスノークのおじょうさんを元気づけリードして進んでいくムーミントロール、男らしく成長したなって思う。

わたし、あんたにさらわれたってことにしておくわ

スノークのおじょうさんが、小さい声でいいました。

うん、それがいい。きみは、おそろしくわめいたけれど、ぼく、とうとう、きみをさらってきたのさ

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

森の二人ぼっちの状況でもユーモアを失わない二人のやりとりにほっこりする。

 

フィリフヨンカの目覚め

この夜ムーミントロールとスノークのおじょうさんが出会うのは、女性のねずみのようなキャラクターのフィリフヨンカ。

フィリフヨンカは夏まつりのお祝いの準備をしっかり整えたのに、招待したお客がこなくて一人ぼっちでしょげかえっている。

自分がそうしたいかよりも「義務」を優先して行動してしまう性格だから、呼びたくもない親戚を招待していたんだよね。

そこをたずねたムーミントロールとスノークのおじょうさんは、一緒に過ごしたい人と夏まつりを過ごす楽しさを伝える。

義務感から解放され、焚き火を楽しみ、うたったりおどったりしてはっちゃけるフィリフヨンカの姿にスカッとした。

 

公園の場面:パパ役に奮闘するスナフキン

このときスナフキンはなにをしていたかっていうと、ムーミン谷が洪水にあったことも知らずにのんびりキャンプをしていた。

スナフキンが釣りをしていると、劇場から落ちたミイが入っている裁縫かごをひっかける

ももちん

前作『ムーミンパパの思い出』でわかったけど、スナフキンとミイは異父兄弟。

しかもミイのほうが年上(笑)

この不思議な姉弟が出会い一緒に行動することになる。

 

ミイとスナフキンのかけあい

子ども扱いしてくるスナフキンをミイはバカにし、真逆のことをやってのけるのがおもしろい。

スナフキンが「ミルクしか飲まないんだろ?」というと、ミイはコーヒーを飲む

スナフキンが「おどろいた子だなあ」というと、「おどろいた子はあんたのほうよ。」と言い返す

だけどすぐ眠くなってスナフキンのポケットの中にもぐりこむ姿が愛らしい。

そんなミイにスナフキンがかける言葉も素敵。

たいせつなのは、じぶんのしたいことを、じぶんで知ってるってことだよ

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

さらっと深い言葉をいうスナフキン、かっこいい。

 

公園番へのいたずら

いつも穏やかなスナフキンだけど、たったひとり大嫌いな人が公園番のヘムル。

公園番のヘムルは、自分が管理する公園になにかを「禁止」する立て札をたくさん立てているんだよね。

ももちん
「たばこをすうべからず」「草の上へすわるべからず」などなど。

スナフキンは、この「なにかを禁止されること」が大嫌い

だから、一年にたった一日夏まつりのイブにしかできない「ニョロニョロの種を公園にまく」といういたずらをしかける。

種から生えたばかりのニョロニョロに囲まれた公園番のヘムルは退散した。

ももちん
ニョロニョロは夏まつりのイブに種をまくと生まれるんだね。びっくり!

 

森の子どもたち

嫌な公園番がいなくなり、姿をあらわしたのは小さな森の子どもたち。

森の子どもたちはスナフキンを「じぶんたちをたすけにきてくれたいい人」と思い込み、スナフキンがどんなにはなれようとしてもついてきてしまう。

意外だったのが、スナフキンのお父さんらしさ。

森の子どもたちを放っとくのかなと思ったら、子どもたちの食べ物やケガの心配を初めからしているんだよね。

スナフキンが一人を好むのは、誰かと一緒だと気を遣ってしまう自分の性格をわかっているからなのかもしれないね。

 

それぞれの場面が再び一つに

ここまで別々の場所で展開していた物語は、夏まつりの劇で一つになる。

劇の最中にミイが乱入するところから始まる再会の連鎖が素敵。

舞台でライオンがミムラねえさんを追いかけるお芝居を見てミイは叫ぶ。

あたいのねえさんを、たすけて! ライオンを、ぶちころして!

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ミイは「劇」というものがどんなものかわかってなくて、劇をみて、そのまんま本当のことだとかんちがいしちゃうんだよね。

ミイが舞台に上がりライオンにかみついたところで、ちんぷんかんぷんな劇は崩壊し、それぞれがありのままの姿にもどっていく

ももちん

ミムラねえさんは帰ってきたミイの鼻にキスをする。

スナフキンは森の子どもたちと一緒に舞台に上がる。

ムーミンママは、みんなのためにコーヒーをいれる。

劇がいつのまにか本当のことになり、お客さんも舞台上に上がり、コーヒーを楽しむ・・・

よくわからない作り物の劇よりも、「日常」のほうがよっぽどおもしろいし、くつろげるんだよね。

 

小さなヘムル

物語の終盤で静かな存在感を放っている小さなヘムルは、焚き火をして捕まってしまうムーミントロールたちをろうやから出して劇場に向かう手助けをするキャラクター。

おとなしく小さなヘムルは一見弱々しいけれど、自分を信頼できる心の強さを感じる。

最後の場面でも、スナフキンが罪を償うための罰を何も言わずに肩代わりしてあげる。

小さなヘムルは誰かのために親切にすることに喜びを感じる、尊い精神の持ち主だったんだよね。

だれかにとっては絶対にやりたくないことが、別の誰かにとってはやりたいこともあるんだと教えてもらった。

 

それぞれのやりたいこと

小さなヘムルのおかげでおまわりヘムルからも解放され、ムーミン一家一行はムーミン谷にたどり着く。

ミーサは悲劇専門の女優として、ホムサは舞台監督として、森の子どもたちの何人かは役者として、エンマとともに劇場に残る。

フィリフヨンカは残った森の子どもたちを引き取り、我が家へ帰っていった。

それぞれが自分の好きなものをよく知って、そのとおりにしていれば、自然とおさまるところにおさまるようになっているんだね。

 

感想おさらい

 

『ムーミン谷の夏まつり』関連情報

小説『ムーミン谷の夏まつり』を読むうえで参考になる情報を紹介するよ。

 

北欧の夏至

『ムーミン谷の夏まつり』の「夏まつり」ってどんなものか知ってる?

日本に住んでいるももちんははじめ「夏まつり」でお盆の頃のおまつりをイメージしたけど、違った。

北欧の「夏まつり」とは、夏至の頃にもよおされる「夏至祭」のことなんだよね。

北欧では毎年夏至のあたりの数日間が祝日になり、国をあげて夏の訪れをお祝いする。

フィンランドの夏至祭の特徴は次のとおり。

フィンランドの夏至祭

  • 夏至祭の日を「ユハンヌス」と呼ぶ。
  • この時期に婚約、結婚する人が多い。
  • 湖のそばでkokko(コッコ)と呼ばれるたき火を燃やす。
  • 夏至祭の前夜(イブ)につむ薬草が神聖視され、占いやおまじないに使われる。
  • 女性が7種類または9種類の花を摘んだり、枕の下に置いたりすると、恋がかなえられる
  • 酔っ払った人が溺れる事故が多い。

参考:Wikipedia

 

今作では、夏至にちなんで次のようなことが起こる。

今作の「夏至」にちなんだ描写

  • ムーミントロールとスノークのおじょうさんは、小さい動物が夏まつりのイブのたき火をしているのに出会う
  • フィリフヨンカは、夏祭りのお祝いの準備でドアに花輪をかける
  • フィリフヨンカとムーミントロールたちは、夏祭りのたき火をし歌い踊る
  • スノークのおじょうさんの占い
  • ニョロニョロは一年に一度夏祭りのイブに種をまくと土から生えてくる

 

今作以外でも、「ムーミン」シリーズでも、次のような夏至にちなんだエピソードがある。

  • ニョロニョロは年に一回、夏至の日に会合(『たのしいムーミン一家』)
  • おばけが、夏至の夜だけは心おきなくおどかしたがる(『ムーミンパパの思い出』)
  • ミイが誕生したのは夏至のころ(『ムーミンパパの思い出』)

ムーミンシリーズにはいろいろな夏至の言い伝えが盛り込まれていて、夏が短い北欧に住む人にとって「夏まつり(夏至祭)」がどれだけ特別なものかが感じられる。

 

トーベとビビカ

文庫版の下村隆一氏によるあとがきに、興味深いことが書いてあった。

この本の扉には、「ビビカにささぐ」と書いてあります。(中略)ビビカ=バンドレルさんといって、舞台監督で劇場も経営している女の人の名まえなのです。ヤンソンさんととても仲がよいそうです。

引用元:『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

ヴィヴィカ・バンドレルは、トーベ・ヤンソンのかつての恋人だった人。

トーベ・ヤンソンのパートナーとしては、トゥーリッキ・ピエティラが有名だけど、そのずっと前に恋人関係にあったのが、ヴィヴィカ・バンドレルなんだよね。

ムーミンシリーズの『たのしいムーミン一家』に登場するトフスラン・ビフスランも、トーベとヴィヴィカがモデルになっている。

ムーミンの物語は、トーベ・ヤンソンの脚本により二度舞台化されている。

  • 舞台『ムーミントロールと彗星』(1949年):子ども向けのクリスマス劇。脚本はトーベ・ヤンソン、監督はヴィヴィカ・バンドレル。
  • 舞台『舞台袖のムーミントロール』(1958年):脚本はトーベ・ヤンソン、監督はヴィヴィカ・バンドレル。

どちらも監督をつとめたのはヴィヴィカ・バンドレル。

恋人関係を解消した後も、良い友人・仕事仲間として交流があったんだね。

参考:『Pen』2015年2月15日号

『たのしいムーミン一家』感想

小説『たのしいムーミン一家』あらすじと感想。人気を決定づけた名作

『たのしいムーミン一家』はトーベ・ヤンソンの小説「ムーミン」シリーズの3作目。 ムーミンシリーズで日本で一番読まれているのはこの「たのしいムーミン一家」。 ほのぼのした中にもたくさんの冒険があって味わ ...

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『ムーミン谷の夏まつり』が読める本の形

今回ももちんが読んだのは、講談社文庫の『ムーミン谷の夏まつり』。

『ムーミン谷の夏まつり』は、講談社文庫以外にも、童話全集や児童文庫で刊行されている。

 

ソフトカバーの新版

『ムーミン全集[新版]4 ムーミン谷の夏まつり』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2019年

2019年3月に講談社より新しく刊行されているのが、ソフトカバーの『ムーミン全集[新版]』

講談社1990年刊のハードカバー『ムーミン童話全集』を改訂したもの。

翻訳を現代的な表現・言い回しに整え、読みやすくし、クリアなさし絵に全点差し替えられている。

ソフトカバーなので持ち歩きやすい。

これから「ムーミン」シリーズを買って読もうと思っているなら、最新版のこちらがおすすめ。

電子書籍版あり。

新版はココがおすすめ

  • 翻訳が現代的な表現、言い回しに整えられているので読みやすい
  • クリアなさし絵に全点差し替え
  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • ソフトカバーなので持ち歩きやすい
  • 電子書籍で読める

 

講談社文庫

『ムーミン谷の夏まつり(講談社文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2011年

講談社文庫の「ムーミン」シリーズは、1978年に初めて刊行された。

2011年に新装版が刊行。

写真では2011年刊行時の表紙だが、2019年3月現在、フィンランド最新刊と共通のカバーデザインに改められている。

文庫版だけど挿絵が豊富で、ふりがなも少なく読みやすい。

大人が手軽にムーミンを読みたいなら、講談社文庫がおすすめ。

電子書籍版あり。

文庫はココがおすすめ

  • ふりがな少なめで大人が読みやすい
  • 値段がお手頃で気軽に読める
  • 電子書籍で読める

 

青い鳥文庫

『ムーミン谷の夏まつり(新装版) (講談社青い鳥文庫)』トーベ・ヤンソン作、下村隆一訳、講談社、2013年

講談社青い鳥文庫は、1980年に創刊された児童文庫。

「ムーミン」シリーズは2014、2015年に新装版が刊行された。

児童文庫だけど、字は小さく漢字も多い。ふりがなもふられているが難易度は文庫版とそんなに変わらない

児童文庫はココがおすすめ

  • 文庫よりサイズが大きめで読みやすい
  • ふりがな付き
  • 児童文庫にしては文字が小さいので、子どもが読むなら童話全集か新版の方がおすすめ

 

『劇場版ムーミン パペット・アニメーション 〜ムーミン谷の夏まつり〜』

引用元:Moomin and Midsummer Madness/YouTube ムービー

『ムーミン谷の夏まつり』は、パペットアニメーションの映画にもなっている。

1979年、トーベ・ヤンソン監修のもとポーランドで制作されたのは、パペットアニメーション(全78話)のムーミン。

パペットアニメーションとは、人形やぬいぐるみを被写体とし、コマ撮りで制作されたアニメーションのこと。

劇場版用に再編集され2008年に公開されたのが、『劇場版ムーミン パペット・アニメーション 〜ムーミン谷の夏まつり〜』

ナレーションを小泉今日子がつとめた。

 

まとめ

小説『ムーミン谷の夏まつり』見どころまとめ。

『ムーミン谷の夏まつり』感想

劇場に移り住み、はなればなれになったムーミン一家が、夏まつりの劇でひとつになる。

ミイやミムラねえさんなど、ムーミン一家以外のキャラクターの活躍もみどころだよ。

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ムーミンの記事

 

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  • この記事を書いた人

ももちん

夫と猫たちと山梨在住。海外の児童文学・絵本好き。 紙書籍派だけど、電子書籍も使い中。 今日はどんな本読もうかな。

-書評(小説・児童文学), 『ムーミン』シリーズ
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